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5 基礎魔法力検査、の前に。

「稜華、やっぱ、髪、結おうよ」


飛華が髪を結いながら問いかけてくる。

彼女も私も、既に制服を着ていた。

飛華は何故か、私に髪を結ばせたいみたいだ。


「目に髪が掛かっていると目が悪くなっちゃうし……」


確かにそうだけど。

既に目は悪い方だし、見えなければ魔法でどうにかすれば問題ない。


「私は、このままでいい」

「じゃあ、私とおそろいのハーフアップにするのは?」


グラングラン心が揺れる。

悪魔の誘惑だよ、それ。

黒〜い私と白〜い私がその狭間でどっちに行こうか悩んでいる、気がする。


「……今は、いい」

「じゃあ、いつか、ね」


うん、いつか、気が向いたら。

私、なんとか断ったよ。グラングラン揺れていて、かなり怪しかったけど。

飛華は相変わらずハーフアップだ。

ハーフアップって、難しいと思うのに、飛華は難なくやっている。

やっぱり、女子力かなぁ。いや、経験か。それに、毎日やっていれば髪に癖がつくから、やりやすくなるだろうし。


「じゃ、行こっか」


荷物を持って部屋を出るとそこには、姉妹が待っていた。

……ここは、家じゃないのに。

寮に入ったから、今までみたいに部屋が隣接している訳ではない。隣って言ったら隣だけど、寮の部屋はそこそこ広い。即ち、部屋との部屋の距離があるというわけだ。


「稜華、おはよ」

「飛華もおはよ〜」

「おはよ、みんな」


飛華がみんなに挨拶する。何一つ変わらない、日常、のはずだ。きっと。普通は、こんな感じなのだろう。

私には分からないけど。

姉妹揃って、中央校舎に向かう。

だけど。

女子寮のホールに出た時。大勢が、駆け寄ってくる。

……何事?


「飛華先輩、おはようございます!」

「飛華先輩、握手して下さい!」

「抜け駆けは良くないわよっ!あの、サインください」


真新しい制服を着ているからきっと、私たちと一緒の1年生なのだろう。

それにしては飛華と馴れ馴れしい気がするけど。


「出遅れたわ!飛華先輩、もう1年に取り囲まれ始めてる!」

「ウソッ!今年の1年生、かなりの情報通なの!?」


今日は、昨日とは違った。原因の1つは飛華と風華と美華、それから陽華と夢華といたからだろうか。

それとも、人が大勢いるからだろうか。


「双子ちゃん!握手して~!」

「え?この子たちが噂の3つ子ちゃん!?カワイイ~!」


飛華たちをお姉様扱い&妹扱いしている人から囲まれました。

人が、近づいてくる。ジリジリと、少しずつ。

視界が狭まり、圧迫感が出た。上級生は背が高いから、余計に。


「三つ子ちゃん、お名前は?」


怖い。怖い。

人が迫ってきている。

あと、2メートル、1メートル。

少しずつ、しかし着実に近づいてきた。


「……っ、転移っ!」


思わず、魔法を発動してしまう。

あたりを見渡した感じ、図書室っぽい。転移魔法は適性魔法じゃないから、無詠唱や短縮詠唱では発動できない。だから、無意識に想像した場所に飛んでしまったみたいだ。

でも、よかった。変なところに飛ばないで。まだマシな方だ。

……ちゃんと、使いこなせるようにならないと。

転移魔法はある意味、私の生命線に近いと言って過言ではないし。

とにかく、図書室にいるのは私達姉妹だけ。

それだけでかなり安心した。もう、姉妹以外誰もいない。

誰も、私を、私たちを取り囲まない。


「ゴメンね。思いっきり忘れてた」

「むしろ、昨日が静かすぎたし。いや、春休み明けで気が緩んでいた、かなぁ、美華?」

「風華、昨日は様子見って私、言ったよ?」


怖かった。人が、多数の人が、怖かった。どんどん、迫ってきていた。

脳裏に、とある場面が浮かび上がる。



響く声。絶叫。悲鳴。目の前は真っ暗で、『私』の息は上がっていた。呼吸が、ゼィゼィと言っていた。背後からの足音と、叫び声。それと、何を命令する声。

必死に、暗い中を、走り逃げていた。今まで通ってきた道は、仲間が、たくさんいた。たくさん、相手の手に落ちた。『私』は自分の身を守ることで精一杯で、助けられなかった。


『貴女だけは、貴女だけは絶対に逃げて!逃げ切って!その後に……いえ、早く行って!』


『私』を逃がしてくれる理由は分かっていた。理解はできた。だけど、感情面では理解できず、そのまま立ち尽くしていた。だけど、箱を押し付けられた後、背中を勢いよく押された時には、走り出していた。

狙われた『私』の代わりに、囮となってくれた。

何かが斬られ、刺された音が聞こえたけど。走って、走って、走り続けて。

だって、振り返ったら想像したくもない光景が広がっているって、分かっていたから。

ふと、立ち止まった時には、あたりは静かになっていた。

『私』は、魔法、を発動して、その先は、覚えていない。というか、分からない。



「稜華は~、人見知りで上がり症なのに~」

「稜華ちゃん、守ってあげられなくて、ゴメンね」


ハッと我に帰った時には、口々に謝られていた。別に、そんなものを求めているわけじゃないのに。

私はただ、『記憶』と、重なり合って、混乱してしまっただけだ。多分。


「……ゴメン、混乱しちゃって……転移魔法、使っちゃって……」


目が、熱い。視界が、滲んでくる。

ああ、私は泣いているんだ、と自覚した。


「泣いていいんだよ、稜華ちゃん」


夢華のその一言で。

何かが切れたように涙があふれた。


「……ゴメン、ゴメンなさい……。わた、私のせいで……み、皆に……め、迷惑ばっかりかけちゃって……挙句の果てに……ま、まも、守ってもらうばっかりで……」


まだ、脳には『あの光景』が強烈に残っている。

あれは、恐怖、だ。何かを恐れ、逃げた先の、地獄絵図、なのだろう。

なんで、こんなに、人が来るの。飛華の妹だからって。三つ子だからって。






「ご、ごめん……私の泣き言につき合わせちゃって……」


泣くだけ、泣いて。その後、頭が冷える。

恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

この歳にもなって、こんなに泣くなんて。


「時々泣かないと。ね、風華。ほら、癒してあげなよ。目元が赤くて痛そうじゃん」

「そ。美華の言う通り、感情発散は大事だよ。それに、言われなくても癒すつもりだし。……治癒」


風華のおかげで、目元の重たさがなくなる。

顔を上げると、太陽の光が目に届き、眩しく感じられた。


「……ありがと」


いつも、私はみんなに守られて、助けられてばかりだ。

ずっと、ずっと。今までも、今も。だから、これ以上、負担をかけるわけには、いかない。


「稜華ちゃんが大丈夫そうなら、そろそろ行く?始業時間になっちゃうし」


時計を見ると、ギリギリの時間だ。

まぁ、私、かなり泣いちゃったし。仕方ないっちゃ、仕方ない。


「普通に行っても間に合わなそう~」


そりゃそうだ。

でも、この世界には、魔法がある。だから。


「私が転移魔法を使うから……」

「でも、それじゃあ、稜華の負担が大きくなっちゃうし……」

「なら稜華ちゃん。私が補助するよ」

「夢華、貴女も今日検査があるでしょうが。私が支援すればいいんじゃん?」

「うん、それでいいね。3人とも、よろしく」


転移魔法。

今更だけど、それは魔法発動者が望む場所へ行かせてくれる、夢のような魔法だ。

飛華を、3年花組へ。風華と美華を、2年雪組へ。陽華と夢華、私を1年桜組へ。


「……、……に、転移」


魔法が発動し、私は1年桜組の前にいた。

教室に入り、席に着くと、すぐに始業を告げる鐘が鳴る。

担任のナントカ先生が入ってきた。

ヤバい、私、名前覚えてないな。まぁ、週末を挟んじゃったし、しょうがないよね。名前、覚えにくかった気がするし。

教室をぐるりと見まわして、頷く。欠席者がいないことの確認かな。

そして、前に何かの順番を張り出す。


「今日から基礎魔法力検査なので、実技場に移動するように。あと、この順番は基礎魔法力検査で並ぶ順番なので、覚えておくように」


そう、告げると教室を出ていった。

まぁ、『ニッポン』の『ショウガクセイ』じゃないし、当然か。

私は、二番。ちなみに一番は陽華で、三番は夢華だ。

ぞろぞろと人が移動しだすから、私も移動する。


「稜華ちゃん、稜華ちゃん。基礎魔法力検査って、何をするんだっけ?」


飛華たちは目が笑っていなかった気がする。

私、時々思うんだよね。1番怖いのって、表情と言葉が真逆の時って。

その時の飛華はまさにその状態だった。表情と言葉が真逆だった。


「……たしか、メチャクチャ暇って……言っていた気がする」

「あと、つまらない、とも言っていたような~」


陽華も補足してくれる。

ホント、基礎魔法力検査のことを聞くと、笑っていたのに笑っていなかったんだよね。目が。

メチャクチャ怒っていた感じだったし。

つまらない、基礎過ぎ、意味わかんない、とか……。

先入観がひどすぎるけど、まぁ、気にしないことにしよう。


でも、風華も似たようなことを言っていたし、かなりひどいんだろうな。

相手に対してあまり厳しいことを言わない風華が言うんだから、相当なのかもしれない。

ちなみに、飛華は何に対しても率直に言って、美華は厳しい意見を言うことが多い。

実技場には、人があふれかえっている。

学年もクラスもおそらくごちゃごちゃで、あちこちからしゃべり声があふれている。


「知ってるか?紫月姉妹。6姉妹らしくて、全員この学園にいるんだとさ」

「それ、スゴくね?俺、ギリギリ滑り込んだ感じなのにさ~」

「というか、6人ってそーとーの大家族だよな」

「紫月飛華の下に双子と3つ子がいるんだとさ」

「マジヤバ。というか、どんな姉妹だよ。入学式で遠目で見た紫月飛華は美人っぽかったけど」


誰かの会話。文脈からして1年生らしいけど。


「稜華、落ち着いて~」


マジ、許さない。

私の、じゃない、私達の飛華を年下ごときが呼び捨てするなんて……。

身の程を弁えろ、だ。


「陽華ちゃん、私、風華ちゃんと美華ちゃんを連れてくるっ!」

「ねぇ、なにするの?」


私は陽華に羽交い締めにされている。

これじゃ、飛華を呼び捨てにした奴のところに行けない。

許さん。マジで許さん。絶対許さん。


「落ち着いて~。お願い~!一生のお願い~!」


ちゃんと冷静になっているよ。

それに、こんなことで一生のお願いを使っちゃダメでしょう?

そう言うものはもっと深刻な場面で使わないと。


「今にも殴り掛かんという表情をしてるの~。それのどこが落ち着いてるのよ~!」


そんなことないじゃない。失礼な。

というか、最近、陽華って、物事を率直に言うよね。飛華に似てきたかも。


「もう……こうなったら……」

「風華ちゃん、こっちっ!」

「ちょ、風華、私が加速魔法をかけてあげようって言ってるの!」

「美華、そんなことはいいの!あの子が爆発したら大変なことになるしっ!」


遠くから聞こえる、夢華と、言い争う美華と風華の声。

それにしても、なんで双子を呼びに行ったんだろうね?






「飛華に、嫌われるよっ!」







稜華には、骨の髄にまで塗り込まれた?トラウマがあるのです。


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誤字報告をいただきました。ありがとうございます。

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