48 祠
「怪談話はお好き?」
……え?
間違いなく、背後から聞こえてきた。……私の後ろには誰もいないのに。
「……稜華、何か言った?」
「むしろ、言ったって言ってくれない?」
双子はギコギコと首を動かし、私に振り返る。
その顔は信じられないと信じたくないという気持ちを表していた。
まるで、幼い頃の逆戻りしたような感じだ。
「……ごめん。何も、言っていない」
その次の瞬間、全員の顔が恐怖に染まった。
あはは。
そうなりますよね。
特に飛華は重症だ。
「や、やっぱ……帰ろうよ……ねぇ、帰ろ?」
「ダメ〜。ここで帰ったら、怪談話が増幅するだけだよ〜」
確かに。
このまま呪われるとか、ありそうだよね。
「……行こう」
私は一歩、祠に向かって踏み出す。
正直、祠の中がどうなっているのか、分からない。
ただの小さなお社か、何かが巣食っているのか、それともダンジョンがあるのか。
だけど、絶対、何もしないよりは、何かした方がいいはずだ。
私は祠の扉に手をかけ、そっと開いた。
「……特に何にもなくない?美華」
「そうだね、風華。変化、ないっぽいよ」
双子が呑気に会話しているけど。
……違う。
変化は、ある。
「みんな、周囲に警戒してっ!」
ものすごい速さで魔法式……いや、違う。魔法陣? が展開されている。
祠を中心に。私達の立っている地面に。
地中に刻まれていた魔法陣が祠の扉を開けたことで作動したようだ。
……魔法式じゃないから、なんの魔法陣か、分からない。
魔法式と魔法陣の違い。それは簡単である。
魔法式は数学的なもの。
魔法陣は数学を利用した美術的なものだ。
現在では魔法式がメジャーだが、かつて、魔法陣がメジャーな時代だったこともある。また、魔術師が使っていたという。では、魔術陣ではないか、と思いだろう。
だが、確証がなく、あくまでも説である、ということ。
魔法師でも頑張ればギリギリ使える、つまり昔、魔法力が桁違いだった人が使っていたんじゃないか、という説もあり、一般的に魔法陣と呼ばれている。
ただ、どちらも100年どころか、何千年も前のことだ。現在では魔法陣はほぼ失われ、現存している魔法陣は数えるほど。それも、国機密になっていて、一般人の閲覧が不可。
存在が明らかになっているだけ。ただ、それだけだ。
そのほか、特徴と効果などが少しだけ、ほんの少しだけ語り継がれているだけだ。解読や展開の方法も不明。
だから、私は魔法陣を読めない。読み取れない。何が起こるのか、分からない。
フワッとした浮遊感の後、ひんやりとした空気が肌に伝わった。
「……転移、したの?」
飛華の声が空間に木霊する。
そこは、全く見覚えのない空間だ。
入口はない。
ただ、床には魔法陣が刻まれていた。……転移の魔法陣、なのかな?
よし、転移の魔法陣(仮)としよう。
目の前には、謎の石碑があった。
……うん、これは。
「ダンジョン……ってこと?」
「え?でも、学園のとはかなり違うよ?」
とにかく、行動しないと何も始まらない。
石碑には、きっと何かが刻まれているはずだ。
だって、そうじゃないと存在意義がないんだもの。
「これ、魔法陣〜?」
「みたいだね。稜華ちゃん、解読は?」
「できない」
「だよね〜」
私だって万能なわけじゃないんだし。
石碑には、先ほど見たおそらく転移と思われる魔法陣よりも複雑な魔法陣刻まれていた。
魔法陣の他には、何も書いていない。
全く、分からない。
「どうしよう〜?帰れないの〜?」
「多分、帰れないことはない」
だって、すぐ後ろに魔法陣があるもん。
それを使えば帰るのはできるはず。
「というか……あちこちに骨が転がっているよ……」
まぁ、そうですね。
きっとこの骨は帰って来なかった人たちだね。
「そんなに気になるならお手てでも合わせとけば?」
「稜華ちゃん、そんな雑に言わないの」
……はい、すみません。
とにかく、私のやることは魔法陣の解読ですね。
「みんな暇だろうからいい感じに魔法を放ったり歌ったりしとけば?」
私、沈黙っていうのも嫌なんだよね。
さて、まずは先ほどの魔法陣と後ろにある魔法陣、石碑の魔法陣の分析をしますか。
多分、最初の魔法陣と後ろの魔法陣は対になるものだ。
つまり、何かしらの共通点があるはず。
魔法陣という【情報】を再現し、見比べる。
……この魔法陣、魔力の使用量が、半端ない。
ちらり、と骸骨たちに目を向ける。目立った外傷はない。
「となると、魔力が尽きて……回復が追いつかないうちに、餓死かな……」
魔力を尽きるまで使って……しかも、魔力が底をついた状態だと、エネルギーを消費しやすい。つまり、お腹が空くのだ。
だから、魔力が尽きて餓死、というのも決して珍しくはないのだ。
とにかく、私達がこの魔法陣を使用して帰る、というのは非効率であり、よくないだろう。
しかもここは1室にいるって感じで、石碑の向こうに扉があるけど、それだけだ。
「……できるだけみんなは、魔法、というか魔力を使わないようにしていてくれる?」
「なんで?」
「風華に同意」
「多分、そこの骸骨さんたちは餓死が死因だから。……分かるよね?」
「了解〜」
「できるだけ使わないようにするね」
「稜華がそう言うんだったら。ね、美華」
「……風華が同意するなら」
姉妹が次々と同意を示してくれる。
……ん?飛華は?
飛華の返事がないことに気づく。
「やっぱり、来なければよかったのよ……なんで骸骨さんたちと一緒にいないといけないの?」
あ〜、うん、これはしょうがない。放っておこう。
その方がいいだろう。飛華のためにも、私達のためにも。
そう、私のやるべきことは魔法陣の解読だ。
……全くできる気がしないんだけど。
だけど、そういうことを思っているからできないんだよね。うん、私は知っている。
そう、魔法陣は魔術師時代に使われていたと言われている。つまり、古語が分かればいいわけですよ!……きっと。
転移の魔法陣は、ほとんど同じだね。
ただ、中心から少し離れたところだけが微妙に違う。
「というか稜華ちゃん」
……なんですか?
今、忙しいんですけど。
「その文字、【情報】として読み取っちゃえばいいんじゃない?」
……あ。
確かに。確かに、そうかもしれない。
夢華のいう通り、【情報】として読み取れば……。うん、1発だね。
「……そうですね」
じゃあ、遠慮なく、ですね。ハイ。
「……情報解読」
我ながら、こんな『ちーと』的な能力を使う日が来るとは。
いやはや、思ってもいませんでしたねぇ。
というわけで、はい。
無事、解読できました。転移の魔法陣。
やはり、対となる魔法陣と繋ぐものですね。しかも、かなり使用魔力量が多い。
魔法ではあり得ないぐらいの魔力を使う。
したがって、骸骨さんたちは魔法陣をそのまま使って帰ろうとしたけど、魔力が足りなくて、餓死、というのが濃厚な線でしょう。
「稜華、本題はこっちの石碑に書いてある魔法陣〜」
わかってます。
ちゃんと解読、しますよ。
というか、今私がしていることって、歴史をひっくり返すようなこと、だよね。
今まで誰も解読できなかった魔法陣をこんなに酷い方法で解読しちゃって、いいのかなぁ。
「情報解読」
……うん、わかりました。
解錠の魔法陣です。
目の前の扉はおそらく、向こう側から鍵がかかっている。
しかも、かなり頑丈なんだろうね。だから、この解錠の魔法陣で鍵を開ける、と。
はい、問題解決です。
「……というか、どうやって魔法陣を利用すればいいの?」
私、その方法を知らないんだけど。
だから、どうするかが分かってもそれを実行することができない……。
「なんか、小説っぽく、魔法陣を書いて、魔力を流して、詠唱すればいいんじゃない?」
なるほど。
夢華、サンキューです。
それでは。
「……情報複製」
これで、石碑の魔法陣が空中に描かれた。
魔法陣は空中で虹色に発色した。
……綺麗。
なぜ。
何故なのだろう。
こんなにも美しいものが失われてしまうなんて。
本当に、あの時、魔術師はなぜ狩られてしまったのか。
……本当に、魔術師は悪者なの?
それとも、何か、別の理由があったのか。
私は、それが知りたい。
魔法陣は本当に魔術師が使っていたのか。
どのように使っていたのか。
知りたい。知りたい知りたい。
全てを。
魔術師の、真実を知りたい。
私はそっと、その魔法陣に触れた。
すると、魔力が魔法陣に向かって流れた。
……綺麗、だ。
「……マージア・イニーツィオ」
お読みくださり、ありがとうございました。




