47 怪談話はお好き?
「この近くに、幽霊が出るっていう噂があるらしいから、そこに行くよ」
……はい?
「無事に帰って来れて、幽霊がいないことを証明できたら、報酬が出るから」
…………はい?
「無事に帰って来れたらって……」
「あ、うん、そうなの。今まで、何人もの人が行ったけど、帰って来てないんだって」
それ、ガチ目にヤバいやつでは?
「大丈夫だよ!私達姉妹は最高最強だから!」
いやいやいや!
そういう問題じゃないでしょ!
「帰ってきてないっていうのが問題だよ。万が一、私達に何かがあったら……」
「きっと、幽霊さんに歓待されて、帰ってこれなかっただけだから!」
いや、それもそれで問題では?
というか、帰ってきていない人は今、どうなっているわけ?
まさか、『ウラシマタロウ』みたいに、1日が100年とか、言わないよね?
もしくは、『へんぜるとぐれーてる』みたいに、食べるだけ食べさせられて、幽霊に食べられるとかないよね?
もしそうだったらめっちゃ怖いんですけど。
「大丈夫!所詮、噂だから!」
「いや、そういう話があるから噂になるんでしょ」
火のないところに煙は立たぬ、だよ。
幽霊が出るって誰かが言ったから、そういう噂が出たんだよ。
つまり、幽霊は居る!
会ってみたいなぁ。
幽霊さん、どんな感じなんだろう?
「そんなワクワクとした表情で言われても。……飛華ちゃんとかは特に怖がっているから、そんな幽霊います理論、かまさないでよね?あくまで余興!いい?」
「……納得できませ〜ん」
「納得するの!」
おおぅ。
夢華の圧が素晴らしく恐ろしい……。
「返事は?」
「……はい」
「よろしい」
ホント、イエスかはいか、ってやつだよ。
だけど、返事をしたからには守らないといけないんだよねぇ。
「……あれ?夢華は幽霊、怖くないの?」
昔は夢華も幽霊とかお化け、怪談話を怖がっていたはずだ。
というか、私以外の姉妹全員、そうだった。
怪談話でめっちゃ泣いていた。
特に山の中で研究所に迷い込んだ話とか。
「怖いも何も、いないんだもん」
すっごいドライに言いますね〜。
「私、幽霊とかお化け、見たことないから。信じない。幽霊とかは、いないの」
そういう理論でしたか。
見てないから信じない。
だけど、そういった後、すぐに幽霊とかに出会ってしまうんですよね〜。
「私達も成長しているの。いつまでも稜華ちゃんの怪談話に惑わされるわけないじゃない」
いや、あれはよくある話、なんですけどね。
1番怖がっていたのは飛華だ。
そう、飛華なのだ。
大体、自分の力でというか魔法と物理でどうにかなるけど、それが通じないのが怖いらしい。
お化けって、全部、透き通っちゃうからね。
つまり、攻撃が効かないのだ。
飛華はそれが1番怖い、と言う理由で。1番、怪談話が苦手だ。
風華と美華、は普通に怪談話が怖い、みたいだ。
あと、飛華がものすご~く怖がっているから、ね。
陽華も飛華と同じく、自分の盾をすり抜けちゃうから、らしい。だけど、飛華ほど重症じゃない。
うん、飛華も陽華も、自分の力に自信があるからこそ、なんだろうね。
夢華はすご〜く怖がりで、怪談話をしたら泣き出して飛華と抱き合っていた。飛華の次に怪談話が苦手だ。
まぁ、姉妹はそんな感じなんだけど、何故か、というか……私は別に怖いとは思わないんだよね。
だから、この夢華の変化がすごく驚きなわけで。
「とにかく、怖くないの!」
はいはい。
わかりましたよ。
みんなは怖くないんだね。
「じゃあ、私はフォローも何もしないからね」
「ウソですすみませんフォローをお願いします」
あ、そうなの。
「って、やっぱり怖いんじゃん」
「そ、それはっ!ち、違うの!昔みたいに怖いわけじゃなくて、それは……そう!人並みに怖いのっ!」
結局怖いんじゃん。
**
「ねぇ、本当に行くの?」
飛華がやめない?ねぇ、やめようよ、という視線を送ってきている。
……飛華は未だに怪談話、というか、怪談が苦手なんだね。
身体の半分ぐらいはコテージの方に向いていて、腰がひけている。
「大丈夫だよ、飛華ちゃん。幽霊、いないから」
「夢華まで!?いつからそんなに強くなったの!?」
「むしろ飛華ちゃんが変わらなすぎなの。大丈夫だよ。飛華ちゃん、パワーアップしているから、きっと、多少は効くよ!多分!」
「多少とか、多分とかホント嫌なんだけど!?」
飛華がここまで取り乱すのを見るの、久しぶりだなぁ。
ていうか、まだ出発もしていないのにこの状態って、この後ものすごいことになるのでは?
「飛華はむやみやたらに魔法を放たないでよ?」
「風華の言う通りにしないと、山火事が起きちゃうから」
あ〜、確かに。
飛華、無意識に放つ魔法って、火系の魔法なんだよね。
無意識じゃなくても、火系を魔法を使うことが多いけど。
とにかく、飛華=火、だ。
それはもう確実確定。
「ねぇ、陽華もそう思うよね?」
「ん〜、ちょっと怖いけど楽しみ〜」
「陽華!?」
陽華も成長しましたね。
怪談を怖がらなくなるなんて。
「大丈夫だよ、飛華。いざとなったら向こうを脅せばいいんだから」
そう言うと、みんなに引かれました。
え?
なんで?
……フォローしたつもりだったんですけど。
さて、気を取り直して出発。
そう、気を取り直して!
みんな、手の上に火、つまり灯りを乗せて、周囲を警戒しながら歩いている。まだ着いてもないのに。
鬱蒼とした森の中だけど、ちゃんと道らしきものはある。
「この先には、祠があったんだって。昔はよく人が行って、お手入れとかしていたみたいだけど、最近は全然人も行かないみたいで」
あるあるですね〜。
「で、肝試しのスポットになっちゃったみたいなの。だけど……肝試しに行った人が帰って来ないみたいで、怪談話に拍車をかけちゃったわけ。このままじゃ、周囲の観光地にも影響が出ちゃうから、早く解決するためにこうやって報酬付きにしているみたい」
ヘぇ〜。
そう言うことでしたか。
だけど、それで人が帰って来なければもっと問題になるのでは?
「夢華、怪談話、詳しいね」
「うん。昔は怖がっていたのに」
「だって、この話、コテージの管理人さんに聞いたから」
鋭い視線を向ける双子に自信満々で答える。
飛華はこの裏切り者〜という目で見ている。
まぁ、飛華から見たらそうなるか。
「大丈夫!……きっと」
だから、それが不安なんですって。
不安しかない言葉だよ、ホント。
「その祠はどのあたりにあるの〜?」
「ん〜、結構進んだところ、としか言われなかったなぁ」
でも、本当にどう言うことだろう。
今まで、たくさんの人が祠に向かったのに、誰も帰って来なかっただなんて。
夢華が言っていたように、歓待されているのか。はたまた、食べるだけ食べさせられて食われているのか。
いや、他にも可能性はあるかもしれない。
本当に、幽霊がいた場合と、いない場合がある。
いた場合は……まぁ、どうにかしよう。
問題は、いない場合だ。
その場合、なぜ人は帰って来ないのか、が問題だ。
幽霊がいないのであれば、十中八九、人の手によるものだろう。
客寄せ目的か、私利私欲によるものなのか。
はたまた……いや、これはないだろう。
そんなことが、あるわけない。
こんな、外部の人間がたくさんくる場の近くに、そんなことがあるだろうか。
昔は人がよく来ていたみたいだし、その可能性も低い。
「ねぇ、なんか、幽霊の声がする……!」
「ただ、風邪で葉っぱが揺れているだけだよ」
「あそこ!怪しげに光る鬼火が……」
「獣の目!」
飛華の恐怖心からくる幻影&幻聴に律儀に答える夢華。
……だけど、ちょっと声が震えてない?
やっぱり、怖いのでは。
「……獣の目?」
それ、問題では?
「は、走るよっ!」
え。
嘘、待って。
私、魔法がないとみんなについていけないんだけど。
だけど、みんな、我先にと奥に進んでしまう。
「……あはは」
グルルゥウ、と鳴き声をあげ、一歩、また一歩と確実に近づいてくる獣。
……やだ。
こんなところで死にたくないんですけど。
「っ、情報強化!」
私の体力と運動神経と筋力!
震える足を必死に前に出し、遠くに見える姉妹の背中を追いかける。
すごく、必死だ。
だって、怖いし、死にたくないし。
怪談話より怖いし。
100メートルほど走った頃。
何かに通り抜けた感覚があった。
すぐ目の前には、祠がある。
……となると、結界だろうか。
背後にはもう、獣の気配はなかった。
「怪談話はお好き?」
怖がりが多いのに怪談話を選ぶだなんて……




