46 センコウハナビ
「……私は、私達は、線香花火です」
先ほどまでより、少しだけしっかりした口調で稜華がいう。
彼女の瞳は、ひたすら無機質だった。しかし、心の中は、複雑だ。
私は、私たちは何者なのか。
人間だけど人間じゃない。
歪で、矛盾にまみれた存在。
それが、彼女の自分に、自分達に対する評価だった。
少し離れた場所に置かれている線香花火を手に取ると、そっと火をつけた。
火薬に火がつき、パチパチと音を立て、燃える。
美しく。しかし、地味に。
「……線香花火って、すごく綺麗で、不思議ですよね。……でも、最後は必ず儚く散るんです」
まるでその時が分かっていたように。
稜華がそう言った時、火玉が落ちた。
沈黙のその場に、波の音がやけに強く響く。
「……まるで、あの時の『私』達のようで、そして、私達姉妹のようです」
あの時って、なんだ。
そう、トランクイリタが問う前に。稜華は火という【情報】を消し去った。
何も言わず。
魔法詠唱もせず、パチン、と指を鳴らすだけで、火は消え、あたりは漆黒に包まれた。
普通、詠唱がないと魔法発動は難しい。できないわけではないが、時間や魔力の使用量が半端ない。
それを酔っている状態でこなしたのは、果たして。
ずっと前から魔法式を構築していたのか。
はたまた、彼女の実力なのだろうか。
それは、分からない。
稜華は暗さを紛らわすように、手の上に火を乗せる。
もちろん、魔法で出現させたものなので、火傷はしない。
再び、詠唱もせずに。
あまりにもナチュラルな動作だった。
ああ、きっと。
これは、彼女の実力だ。紛れもない。やはり、彼女は天才を超えている。彼女は、彼女達は鬼才の持ち主だ。
「……私達は、センコウハナビ、なんです」
稜華はそれだけ言うと、踵を返し、コテージに戻って行った。
彼女の瞳は、ずっと、何も写していなかった。
**
「あ、稜華ちゃん、起きた?」
ぼんやりとした視界の先には、藤紫の髪が映る。
口調からして、夢華だろう。
ズキズキと痛む頭を押さえ、上体を起こす。
「稜華ちゃん、コーヒーで酔ったんだよ?大丈夫なの?」
コーヒー……。
私、コーヒーで酔ったの!?
……恥ずかしい。
流石にコーヒーで酔うって言うのはこの世界でも『チキュウ』でも聞いたことがなかったし。
というか、コーヒーに耐性つけちゃったら、眠気覚ましにならないし。
まぁ、そう言う訳からコーヒー耐性はつけてなかった。
完全に落とし穴……。
悲しい現実だね。
「どのあたりまで覚えているの?」
「え?陽華が酔い始めたぐらいまで……」
「やっぱり、かなりの量を飲んだんだ。……今日はね、花火をやった日の次の日。今は昼だよ」
……かなり寝ていたんですね。
お恥ずかしい限りです。
「で、悪いけど、今日、何をやるのか、決めちゃったの。……いいかな?」
「別に大丈夫だよ。私はお昼まで悠長に寝ていたわけだし……」
「じゃあ、言うね。えっとね、お昼までは自由行動。みんな、海に行ったり街に行ったり、あとは昼花火をしてたりするよ。で、夜は肝試しっていうことになったから」
昼花火……。
それってどういうことなのか?
暗闇の中に光るからこそ綺麗だと思うんだけど。
「稜華ちゃんが花火を大量に複製しちゃったから、消費しないと大変なんだよ。万一、爆発しちゃったら大変だもん」
確かに。
おっしゃる通りです。
「でも、私が花火を消せば良くない?【情報】として」
「あ……」
思いっきり忘れていたみたいだね。
私も忘れかけていたけどさ。
「で、でも、そんなに稜華ちゃんばっかり魔法を使って、魔力を負担が多くなっちゃうよ……」
確かに、魔法はとエネルギーと集中力などを使う。当然、使用魔力が多いほど、よりエネルギーとかを使う。だから、進んで魔法を使うことはないのだ。
だけど私、日常的に魔法を使っているから……ある意味、魔法を使うのに慣れちゃったんだよね。
「問題ない。だから、大丈夫」
「……ほんと、稜華ちゃんはいつもそうやって1人で抱え込んじゃう」
泣いていそうな、そんな声で、言われる。
「私は、魔法を使うことに慣れているから」
というか、魔法を使わないとかなり日常生活が制限されちゃうんですよね〜。
あはははは。
「……昨日と同じ場所で飛華ちゃんと陽華ちゃんが昼花してる……。ゴメンね、お願いしていい?」
「大丈夫だから」
昼花って……昼花火か。略しますね〜。
軽く身支度をすると、コテージを出て昨日の砂浜に向かった。……転移魔法で。
だって、外、暑いんだもん。
砂浜って、結構日光を反射している気がしない?するよね?
「あれ〜?稜華だ〜」
砂浜では飛華と陽華がせっせと花火を処理していた。
ひたすら火をつけて、消えたら水に突っ込むという作業を。
まだまだ花火は山積みになっていて、あと700本以上はあるだろう。
「夢華に、昼花……えっと、花火の処理しているって聞いたから手伝いに来た……」
2人とも集中力が切れたら海に行ってきたのだろう。
水着の上にパーカーを羽織っている。
「え!?ホントっ!?稜華、手伝ってくれるの!?」
目をランランと輝かせ、飛華が言う。
……相当飽きたみたいだね……。
「ん……まぁ」
実際は魔法で消すけど、ね。
「ここにあるのは全部処理しちゃっていいの?」
「どうする〜?飛華〜」
「100本ぐらいは取っといた方がいいかもね」
「分かった。じゃあ、その100本を避けておいてくれない?」
飛華と陽華は花火を仕分けた。
……うん、どっさりあるね。
「じゃあ、処理するから」
さて。
魔法の出番でしてよ。
「……情報分解」
花火は跡形もなく消えました。
はい、これにて昼花、花火処理は終了で〜す。
「ねぇ、稜華」
「何?飛華」
「こんなにたくさん作ったのに、全部消しちゃうんだったら、もっと少ない量を複製すればよかったんじゃない?」
「いや、だけど、数の単位が1000単位とかで……」
「大規模にしていくのもいいと思うけど、小規模の魔法も考えた方がいいと思うよ」
……そうですね。
夏休み中にでも考えてみます。
アドバイス、ありがとうございました。
「夏休み明けには生徒会選任祭もあるしね〜」
ヘぇ〜。
そうなんですか。
「じゃあ、考えてみるね」
転移でコテージに帰り、ノートを開いた。
というか、今は大規模で魔法の多重展開をしているから、それを小規模にすればいいかな。
大規模のところを数指定にすればいいはずだ。
だけど、そうすると使用魔力が多くなっちゃうんだよね。特に、少ない魔法を展開するときは。
魔法式が変わらないけど、魔法展開の量が変わるから。
逆に言うと、さらに大規模に魔法を展開する時は消費魔力が少なくなる。……はずだ。
まぁ、それほど魔法を展開することなんてないだろうけど。
「稜華ちゃん?帰ってたの?」
振り返ると、奥の部屋から夢華が出てきていた。
「あ、うん。だけど、その……飛華と陽華に、小規模の多重展開の魔法式を作った方がいいって言われて……」
「そっか。確かに、2人から見ればそうなるかもね」
飛華ちゃんと陽華ちゃん、攻守専門だから、と夢華がいう。
確かに、こう考えてみると、姉妹の中で前衛的なのは飛華と陽華だけだ。
強いていえば私も入らなくはないけど……。
私が得意とするのは情報の収集・分析だ。
情報分解とかの魔法は情報を扱う上での副産物、と言うべきだろうか。
ちなみに双子は後方支援、夢華は……全体のフォロー役、かな。
風華は回復、美華は支援だしね。後方支援で間違い無いだろう。
夢華はなんというか……小回りが効くから、色々なところに引っ張りダコ、って感じかな。
うん、私達姉妹はそんな感じ。
「飛華ちゃんと陽華ちゃんはイケイケどんどんだもんね。私は、稜華ちゃんみたいに、のんびりでもいいと思うんだけど」
え?私って、のんびりってイメージなの?
そうなの?
マジか。
「いや、稜華ちゃんがのんびり……ちょっと違うか」
人の気分を上げたところで落とすなー!
「あ、とにかく、今夜の肝試しのことなんだけど」
……はい。
なんですか?
「この近くに、幽霊が出るっていう噂があるらしいから、そこに行くよ」
怪談は聞くのはいいが、体験するのは怖いです……




