表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/150

41 涙

ぼんやりと滲んだ視界が広がる。

高い天井は、木の色をしていた。

あまり頭が回らない中、ゆっくりと上体を起こした。


そっとベッドから降り、コテージから出る。

デッキの手すりに寄りかかると、眼下に広がる砂浜と海を眺める。

数時間は寝てしまったみたいだ。夕日が、水平線に沈みかけている。

その光を反射した海は赤かった。

赤だけではない。オレンジ。すこしだけ、紫がかっても見える。

それは少しだけ綺麗で、悲しくて、怖くて。

……なんで、こんなに寂しいんだろうね。

私が分からない、『私』の感情。

……赤は、嫌いだ。

怖いから。


「……ミア……」


なんとなく、感傷的な気分になってしまう。

きっと、こんなことは言うべきではないのに。

こんなことは、知らないほうが、知っていないほうが、いいのに。

自分の中でも、気づかないほうが良いのに。

ずっと、気にしていないで、暮らせればいいのに。

……なんで、こんなことを知っちゃって、気にしちゃうんだろうね。

忘れたいけど、忘れられない。

そんな記憶だ。


「……稜華ちゃん?」


振り返ると、やはり夢華がいた。

私をちゃん付で呼ぶのは夢華だけだ。

どこかに行ってきた後らしく、紙袋を抱えている。

オシャレな麦わら帽子をとると、紙袋と共に入り口近くに会ったベンチに置いた。


「……どうしたの?」


夢華は、私の唯一の妹だ。

多分、飛華と同じくらい一緒にいる。

そんな夢華は飛華と同じく、よく私のことを見ているみたいだ。

少しの迷いとかでも見抜いてしまう。

だから、少しだけ、油断はできない。

私とて、他の人まで巻き込んで負担を負わせる気はない。

それくらいなら、私だけいい。


「……稜華ちゃんはいっつもそうだな、って思って」


……何のことだろう。


「いつも、1人で全てどうにかしようとしている。頼ってって言っても、いつかって言われる。私だって、知っているよ?稜華ちゃんはそれができるほどの知識と技術があるって」


夢華は海を眺めたままだ。

その横顔からは、何を考えているのかがよくわからない。


「だけど、私はね、もう少し、頼ってほしいなって思う。今まで、何回も言ってきたと思うけど、稜華ちゃんは変わらなかった。私が、力不足だったのかもしれない」


確かに、まだまだこの秘密は大きすぎる。

下手に知って、悩んでほしくない。


「でも、このままだと、稜華ちゃんが潰れちゃいそうだよ」


私は、潰れない。

潰れかけたって、立ち上がらないと、いけないから。


「私に、私達にその少しでも、背負わせてほしいよ。もっと、頼ってほしいよ……」

「……魔術師を、どう思う?」


言ってしまってから、後悔する。

何を口走っているのだ、と。


「え?」

「ゴメン、忘れて」


踵を向け、その場から逃げようとする。


「……嫌、だよ」


嫌とか、感情の問題じゃない。

きっと、そういうものだ。

これは、もう、変えられないものだから。

事実なのだから。


「折角稜華ちゃんが言ってくれたのに。少しだけ、私達を頼ろうとしてくれたのに。……逆戻りなんて、嫌だよ」


服の裾を小さく摘ままれる。

振り返ると、夢華の顔に、雫が垂れる。


「私だって、もっと稜華ちゃんのことを知りたいし、役に立ちたいっ」


それから、ボロボロと大きな涙が落ちる。


「……ゴメン」

「謝ってほしいわけじゃないのに……っ!」

「ゴメンね」


そっと夢華の涙をぬぐう。

だけど、次から次へと、涙はあふれてた。


「稜華ちゃんは私のお姉ちゃんなのに、私は稜華ちゃんのことを全然知らないッ」

「……うん」

「稜華ちゃんは、私のお姉ちゃんで、私達姉妹の5女で、凄くて、有能で、天才的でっ!……秘密主義なことしか知らないっ!」

「……うん」


秘密主義ってところにはちょっと異議を唱えたいけどね。


「なんで、稜華ちゃんはそんなに秘密を隠し通そうとするの!?」

「……秘密は、秘密だから秘密っていうんだよ」


秘密を言ってしまったら、もう秘密じゃないから。


「私はっ……!」

「……ゴメンね」


今の私には、謝ることしかできないから。

謝る以外のことができないから。


「ゴメンね」


今は、これしか言えないの。

夢華が、姉妹が、皆が気付くまで。

私には、1つの回答しか用意されていないから。





**





「……ゴメンね、稜華ちゃん。見苦しいところを見せちゃって」

「大丈夫だよ。……落ち着いた?」

「……うん」


私は夢華が泣きやむまでひたすら背中トントンを続けて。

夢華が泣きやんだころにはすっかり夕日は沈んでいた。


「……戻る?」

「……ヤダ」


え?


「もうちょっと……もうちょっとだけ、2人でいたい」


フイっとそっぽを向いた夢華の顔は少しだけ赤かった。

……可愛い。


「……いいよ。どうするの?」

「……少しだけ、浜辺に行こう」


魔法で明かりを出し、夢華に言われるまま、手を引かれるまま、浜辺に出る。

夜の風は少し冷たいし、数メートル先は薄暗い。

ただ、波の音が響くだけだ。


「……稜華ちゃんは、なんでそんなに、秘密を持っているの?」

「……みんなが知らなくていいこと、だからかな」


やはり、根本的なところはここに尽きるのだろう。

どんなことがあっても、結局はここに行き着く。

みんなが知らなくていいことだから秘密にするし、隠し通す。


「……私達は、思っているほど子供じゃないんだよ」


まぁ、子供って言うほど子供じゃないしね。


「世界には、たくさんのことに溢れていると思う。その中にはきっと、目を背けたくなったり、知りたくないことも、たくさんあるかもしれない」


1つ1つ、言葉を選びながら夢華は話す。


「だけど、ずっと知らないままじゃ、良くないんだよ。だって、成長するもん。限らせた世界から、広い世界に行くから。……無知が、1番怖いよ」


無知が、1番怖い。

それは、私も同じだ。

だから、魔法でたくさんの情報を集める。……怖い時だって、知りたくない時だって、うまくいかない時だってある。


「だから、知らなきゃいけないと思う。どんなことも。だから、知りたい」


夢華の言っていることは分かる。

当然だ。だけど。


「私の持っている秘密は、知らなくても生きていけるから」


だから、言わない。


「だけどっ!」


身を乗り出す夢華を押しとどめ、告げる。


「世の中には知らなくていいこともあるから」


だから、知らなくていいんだよ。

これ以上、貴女に負担はかけられない。


「分かった?」

「……うん」


夢華は不満を隠しきれないようだった。

だけど、表面上は納得する。


「……じゃあ、さ」

「ん?」


少し声のトーンも表情も明るくなる。

どうしたのだろうか。


「稜華ちゃんの好きな食べ物って何?」


おおぅ。

方向性が180度変わったな。


「……特にないけど」


基本的になんでも食べれる。それに、特にこれが好き、と言うものはない。

海鮮以外なら。

そう、海鮮以外ならなんでも。


「ん〜、じゃあ、好きな季節!」

「……冬、かな」


暑くないし。気温が劇的に変わることもないし。

寒いけど、それは暖を取れば問題ない。


「なんか、すごく合理的な理由の気がする……」


そんなことはないですよ〜。

気のせいです、気のせい。


「えっと、次は好きな色は?」

「……黒、かな」


何も見えない真っ暗なところがいい。そこに魔法式を光らせるとすごく綺麗なんだよね。


「好きなデザート」

「エクレア」


「好きな曜日」

「土曜日」


「好きな言葉」

「……すぐには思いつかないんだけど」


「好きな本」

「全・魔法式図解」


「好きな服」

「白衣」


「好きな数字」

「1」


「1人称は?」

「……私、だけど?」


「え〜っと……好きな……教科!」

「魔法学」


「特に何が好き?」

「魔法研究学と魔法式」


「好きな図形!」

「……すごく綺麗な等分になっている図形、かな」


「好きな飲み物」

「……紅茶」


「山派?海派?」

「……どっちもヤダ」


「川と湖はどっち?」

「……湖、かな」


なんなんだろ、この質問……。

だんだんテキトーさが出てくるし。

よくこんなに質問が思いつくなぁ……。

好きな理由、それは魔法に関係するから。by稜華

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ