4 授業準備
私は実技場を出たらサクッと転移。
日常的に転移魔法をつかっているので、お手の物だ。
荷物を持って、図書室に転移。
情報系魔法で校内の状況を把握。
ある程度人がいなくなったら、転移。
うん、転移魔法、最高!
教室に入ったのは大体最後だから席も埋まっている。
必然的に、席の場所も絞られているから、席を探すのも簡単だ。
誰がどこに座る、というのが決まっている、『ニッポン』の『ショウガッコウ』仕様だ。
窓際後ろから二番目。
最高だね。
窓の外には綺麗に舗装された道とお店や住宅が広がっている。
ちなみに、この学校の男女比は約1対1。つまり、クラスの男女比の偏りはほぼない。
そこへ、先生が入ってきた。入学式の前に会った、黒縁眼鏡の先生だ。
すると、ざわざわしていた教室がしん……とする。
「1年桜組担任、魔法研究学担等のヘリコニア・プシッタコルムです1年生では魔法研究学はあまりやりませんが、よろしくお願いします」
パチパチパチ……という拍手。
そのあと、学校生活についてやら、教科書配布だので、終わった。
さようならのあいさつの後は、一気に、にぎやかになる。
……切り替え、すごいなぁ。
さて、私はドロンしますか……。
「3年の飛華先輩、知ってる?」
ピク。
「知ってる!代表の言葉、言っていた先輩でしょ!」
私は浮き上がらせていた腰を下ろし、本を開いた。
「学園内最強らしいよ。〈真紅の月光〉って呼ばれているらしくて……」
確かに、飛華は目にもとまらぬ速さ、いわば光速で辺りを真っ赤にする。
その2つ名を考えた人、センスあるよね。きっと。
「その飛華先輩なんだけど。双子の妹が2年にいるって知っている?」
というか、なんで、飛華を名前で呼んでいるのかなぁ?
馴れ馴れしいです。身の程をわきまえてほしい。
「もちろん!〈夢の中の癒し手〉の風華先輩と、〈全ての右腕〉の美華先輩でしょ!」
「そうそう!その、紫月姉妹に、3つ子の妹がいるんだって……」
……もう、飛華が出てくることはなさそうだね。
今度こそ、ドロンと……。
「稜華~、帰ろ~!」
「稜華ちゃん、お昼はどうする?」
荷物をまとめ終えたらしい、陽華と夢華が来る。
二人共、席は近いほう、だと思う。いや、かなり近いか。1つ前と1つ後ろだし。
「そういえば、うちのクラスって、紫月さん、いるよね」
ギク。
確かに私は紫月ですが~。
「う、うん。帰る。帰る。ちょっと待って……」
荷物の忘れ物がないことを確認すると、私は席を立った。
バレないかな。バレないといいな。
「稜華ちゃん、びくびくしちゃダメだよ。余計に怪しくなっちゃう」
立ち上がった時、さりげなく夢華が囁く。
うん、夢華の言う通りだ。カバンを抱え、教室から出る。
「サクサク、早く帰りたい。怖い……あと、お昼は夢華の手料理がいい」
廊下は既に人であふれている。
校舎を出ると、だいぶ安心できた。
「……ねぇ、転移魔法、使ってもいい?」
正直言って、歩いて帰るの、めんどくさい。
というか、普通は歩いて帰る距離じゃない。
「ダメ~、運動不足になっちゃう~。」
「そうそう!稜華ちゃんも運動しないと!というか、私達も運動しないと……」
……二人に説得された。
でも、歩く距離ではないことは確かだ。
だって、メチャクチャ遠いんだもん。
王都校が国の中心部にあるとすれば、私達の家は王都の南東のほうにある大山脈のあたりだ。
国立魔法学園には寮があるけど、飛華も風華も美華も今まで使ってなかったんだよね。
そう考えると、今まで毎日登校していた飛華も双子もすごい。
でも、私達が入学したから今年から寮に入るって。気を使ってんのかなぁ。
だけど、確実に寮に入ったほうが楽だ。
寮に入る申請は入学するときにしてあるから、次の登校日までに引っ越しすれば、問題ない。
次の登校日は週明け。寮に入る生徒はこの週末中に引っ越しをしないといけないから、忙しいだろう。
私達は転移魔法を使えば問題ないけど。
**
そして寮への引っ越しが終わった。
寮の部屋は2人で相部屋。
私は飛華とだ。家の部屋も飛華と一緒だったし、気持ち的にもラクだ。
気を張らなくて済むし、飛華は私のことを分かってくれているから。
ちなみに風華と美華、陽華と夢華も同室だ。
週明けには本格的な授業が始まる……わけではない。
基礎魔法適性検査、というものに1週間ほど時間を費やすらしい。
いや、実質、1週間の半分すぎぐらいで終わるらしい。残りは何するかって言うと、顔合わせとか、そういう交流会もどきと聞いた。
1年生の基礎魔法力検査が終わるまで2年生以上も授業がないから、双子が喜んでいた。
私、引きこもりだったから、共通学校にも行っていなかったんだよね。
共通学校は、魔法学園または魔法学校などに行くまでに通う学校だ。
12歳から通う学校は魔法力が高い順に魔法学園、魔法学校、普通学校、となる。
魔法学園は魔法力がメチャクチャ高い生徒、魔法学校はそこそこの魔法力がある人、普通学校は少しだけ日常で魔法が使えるかな、という生徒が通う。
魔法学園は主要5大都市にあり、魔法学校は各都市に1つずつ。普通学校は各都市に複数ある。
私は本来なら、学園に来るつもりはなかった。
魔法について、少し興味があったのと、姉妹にメチャクチャ説得されたからだ。
まぁ、それ以外の理由もあるけど。
飛華からは一緒にダンジョン攻略したいと言われ。
風華からは楽しい姉妹ライフを過ごしたいと言われ。
美華からは楽しい学園ライフを過ごしたいと言われ。
陽華からは私を自慢したいと言われ。
夢華からは学園に行かないと手料理を作らないと言われ。
……いや、陽華は絶対関係ないからね?自慢されたくないし。
自慢されたら目立っちゃうし。
私が目指すのは平穏。そう、平穏を目指す。
あと、夢華も。手料理につられたわけじゃないから。
確かに夢華の手料理は虜になるけど。
だけど、それを言い始めたら終わりか。
飛華とダンジョン攻略する予定はないし、楽しい姉妹ライフも学園ライフも、するつもりはない……と思う。
飛華は戦闘狂ではありません。ただ、たまには息抜きをしたいと思うだけです(いつもは全力を出せないだけ。だって、色々なものを破壊しちゃうかもしれないので)