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39 全力はダメに決まっているでしょ!

「……戦闘(コンバティメント・)開始(イニーツィオ)


私はその声と同時に思いっきり双子と陽華に向かって水をかけた。


「ちょ、ストップ!スト〜ップッ!!」






飛華の声が響き渡る。

どうしたんだろう?


「それはダメでしょ、それは!」

「そうだよ。飛華ちゃんのいう通りだよ。全力はダメに決まっているでしょ!」

「……別にそんな意図があったわけでもないんだけど」


姉妹は一斉に信じられないという顔をした。

流石、だね。息ぴったりだ。


「あのね〜、稜華〜」


はい、なんでしょうか。


「戦闘開始っていうのは、これから全力で行きますよっていう合図なの。ね、美華」

「そ。風華の言う通り、ね。こればっかりは」


へぇ。

そうだったんだ。知りませんでした。

いやぁ、無知って怖いですね。

……はい、言い逃れです。

すいませんでした。


「私的には、全力は困るけど、本気はいいと思うのよ」


な、なんと。

飛華からそんな言葉が出てくるなんて。


「明日、雪が降るかも……」

「私をなんだと思っているの!?」


真顔で言った夢華に飛華が突っかかる。

まぁ、夢華の言っていることも理解できるから、何も言わないんだけど。


「……コホン。と言うわけで。……隙ありっ!」


バッシャーンと豪快に海水がかかった。

そう、海水なんだよ。今まで水って言ってきたけど。

当然ながら、しょっぱい。それはもう、とんでもなく。

ちょっとだけ口の中に入ったけど、口の中がヒリヒリというか、カサカサする。

……うう、海水がマズイよ……。


「わっ、飛華ちゃん、不意打ちはひどいよっ!」


夢華も巻き添えになったみたいだ。

となると、姉妹全員がこのよく分からない海水ぶっかけ勝負に挑んでいるわけだ。

そのうち、双子は協力している。となると、当然、双子が有利になるだろう。

別に、何かを賭けているわけでもないし、協力も悪くないかもしれない。


「飛華ッ!」

「飛華ちゃん!」


……チッ。

夢華も同じことを考えていたか。

そうなると、どうなるか。

飛華は、どっちを選ぶのか。

……私を、選んで欲しいな。

おそらく、飛華も私達の意図に気づいているはずだ。


「分かった!」


攻撃の手を止めず、飛華が答える。











「2人とも、一緒に、だね!」


……そう来たか。

私だけが選ばれなかったことの落胆と、拒絶されなかった安堵が広がる。


「風華〜美華〜!3対2対1は辛いよね〜!私、そっちに入る〜!」

「了解!」

「ありがと!」


陽華は向こう側についたか。

さて、こうしてチーム戦が始まる。

飛華、夢華、私。

風華、美華、陽華。


果たして、勝つのはどっちだ!?


いや、私ですけどね。

私が負けるわけない。いや、負けないようにどうにかする。

うん、それだけだ。


「もう少し、ルールを詰めよっか」


飛華が少し焦り気味にいう。


「まず、Aランクは当然として、Bランクもなしでしょ?あと、Cランクは……どう思う?美華」

「風華の言う通り、かもね。だけど、Cランク下位ぐらいならいいかもしれないけど。」


確かにこんな公共の場で危険な魔法をバンバン放つのはよくないだろう。

だけど、Cランク下位以下となると、かなり使える魔法に制限が出てくる。

飛華の攻撃力はかなり抑えられてしまうだろう。


「あと、他の人の迷惑になることは禁止〜」

「1度に展開できる魔法の数は、10個まで!いい?稜華ちゃん」

「ええっ!?なんで!?」


私達、仲間だよね!?仲間っていう括りだよね!?

飛華の攻撃力を抑える中、展開魔法の個数を制限すると悲惨なことになる……。


「ダメだよ。だって、稜華ちゃん、流星群の魔法、1万個展開したじゃん。あれは凶器だよ。だから」


残念、だなぁ。

もっと展開できるようになったのに。

ちなみに元貴族くんの家にもまだ、魔法が残っているよ?

順番に、ゆっくり爆発させて行っているけど……残りはあと100個をきっているから、間隔はかなり広げているのが現状だ。


「他、ルールに付け加えたいことはある?」


……私からは特にないかな。

あまり縛りを強くしちゃうと、勝算が下がっちゃうし。

最低限のことは姉妹が言ってくれたし。


「じゃあ、ルールを確認するよ?」


はーい。


「使える魔法はCランク下位以下の魔法。1度に展開していい魔法は、10個まで。他人の迷惑にならないこと。……大丈夫?」


私はコクコクと頷いた。

姉妹もそれぞれの方法で了解を伝えている。


「それじゃあ……戦闘開始!」


その掛け声で、穏やかに揺れていた海面が狂う。

なぜが渦巻き状になっていたりして。その余波で今まで足がついていたほどの深さではなくなった。砂が動いたのだろう。足がつけないほどの深さだ。


「……情報浮遊」


うん、これで大丈夫のはず。海に浮いているから、足がつかなくなっても問題ない。

……さて、と。私は攻撃でもするか。

水を使った玩具……何か、面白そうなのはないかなぁ。

情報魔法を使って、異世界の玩具を探ってみる。

『ミズデッポウ』か。面白そう。


「……情報創造」


私の手には『ミズデッポウ』もどきが現れた。

フフッ。どうなるかな。

海水を容器の中に入れ、的を定めた。


「……発射」


引き金を引くと、勢いよく海水が飛び出して双子に当たる。


「わっ!」

「これ、ナニ!?」


えっと、水を乱射する装置?かなぁ。

私、手加減とかするつもりないから。

全力、いや、本気で行かせてもらおう!


ひたすらひたすら、海水をぶちまけていく。

まぁ、元々濡れているからさらに濡れるだけだけどね。

だけど、やっぱり少しすると攻略法を見つけ出されてしまったみたいだ。

……もう1段階、新しい策を考えるか。


他に何があるだろう?

というより、これ以外にこれといったものがないのが現状だ。

あまりにも知名度が低いのか、用途がないのか、印象が薄いのか。

むしろ、海じゃなくて、水に関係すればなんでもいいかもしれない。

そう、海だけに条件を絞っているからダメなんだ。

水っていう広い範囲に対象を広げて検索をかけないと。


「……『すぷりんくらー』……」

「稜華?」


よし、これならいける。

面白そうだし。

しかもこれ、天気魔法の応用になる。

天気魔法はDランク魔法だ。当然、今回も使える。

天気魔法は天気を自在に変えられる魔法。

しかし、通常ではせいぜい半径5メートルほどしか変わらない。

だけど、今回に限っては好都合だ。


「……天気魔法」


雨よ〜、風華、美華、陽華の頭上に降れ〜。

1度に展開できる魔法は10個。

それぞれに当てても、3個だから、当然、ルールに違反しない。

うん、いいね。


雨は3人の頭上でどしゃ降りだ。

灰色の小さい雲が多量の雨を降らせている場面はなかなかシュール。


「これで大丈夫、かなぁ。飛華ちゃん、稜華ちゃん」

「そうね。私達の勝ち、ね」


……それは、どうかな。

おそらく、私が仕掛けたら2人は共闘する。

でも、3人を無力化したとはいえ、2対1は少しキツいものがある。

ここで、勝負を仕掛けていいだろうか。

勝算は、高いだろうか。

勝てる、だろうか。

……いや、勝ちに行く。

私は覚悟を決め、魔法詠唱を始めた。


「……天気魔法」


2人の頭上には他の3人と同じように、雨雲が浮いている。


「えっ!?」

「稜華ちゃん!?」


……いつの時代も、どんな世界でも、正攻法で勝てるとは限らない。

時に、裏切りも起きているのだ。


それにしても、3対3じゃなくて、2対2対2の方がよかったかなぁ。

その方が潰しやすかったかも。

だけど、成り行きにより、3対3になってしまった。

こうなったからには、仕方がないだろう。


「……情報創造」


『ミズデッポウ』を再び手に持ち、標的を決めて発射する。

引き金を引くごとに、海水が飛び出し、2人にあたった。

私の心情的にはあまり飛華を攻撃したくないんだけど、勝ちたいんだよね。

今は勝利に天秤が傾いた、だよ。


「……逆流」


今、渦巻き状になっている波を逆回転させた。


「いつ、稜華、ストップ!」


……え?

まだまだなのに。

一応、渦潮と雨は止めた。


「勝ちたいと思ったのは分かった!ね、美華」

「うんうん。だから、一旦落ち着こっか!」


……そうですか。

別に、こんな騙し討ちのような勝ち方、あまり好きじゃないんですけど。

ならなんでやった?って話だけど。

若さ故の過ちとでも思ってください。……ハイ、すみません、言い訳です。


「……なんか、疲れたね」


そうですね。夢華のいう通りです。

暴れすぎました。反省しています。


「……戻る?」

「「「「「うん……」」」」」

姉妹を本気にさせてはいけない……更に言うと、全力にさせてはいけない……。

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