32 頑張ったね
「……そう。頑張ったんだね」
否定するわけでもなく、そっと、受け止めてくれる。
私自身も、抱きしめてくれる。
「……飛華……」
「大丈夫よ!安心して!私はぶっ潰したから!」
ヤバい、飛華の目がグルグル回っている。
狂っちゃってきている!
「……で?結局、大丈夫だったの?」
「……うん。後は小出しにしていくだけだから……」
「危険になったら言ってね?私も、力になれると思うから」
「……飛華が行ったら過剰戦力だよ……」
飛華の魔法を侮ったら終わりだ。
火力が半端ないんだもん。
だんだん、瞼が落ちてくる。
「……頑張ったね、稜華。おやすみ」
「……ねぇ、魔術師をどう思う……?」
その言葉を最後に私の意識は暗転した。
**
「風華、大丈夫そう?」
「……多分。でも、この子、もしかしたら毒の分解、していないんじゃない?」
「……分からない」
遠くで、話し声が聞こえる。
声からして、飛華と風華だろうか。
「2人とも、いるの……?」
「あれ?稜華、起きているんじゃない?」
目を開けると、2人の顔が度アップで映る。
少し離れたところに、美華もいるようだ。
「稜華、貴女、毒は分解したの?」
毒。
分解。
「陽華と夢華にはしたけど……?」
「自分にしたのかっっていうこと!」
自分に……?
「……覚えて、ないです」
「ねぇ、風華。この様子じゃ、多分、分解していないよ」
「美華。そう考えると、かなり危険じゃない?」
「昨日、動けていたこと自体が凄いわね」
なんか、凄い言われよう……。
「どちらにせよ、稜華は凄く衰弱している状態。陽華と夢華のほうがまだマシなぐらい」
私的には全然大丈夫だったけど。
それに、私は耐性が多少はあるし……。
「いい?今の稜華がどうなっているか教えてあげる」
え?
そんなにひどい状態なのかなぁ。
「まず、根本的なところだね。毒を受けて、体力の消費が激しい。疲れやすいでしょ?」
……言われてみれば。
「次。魔力がほとんど残ってない。私達の魔力はかなりあるんだから、それが底をつくなんて、かなりの状況。毒を受けていて魔力消費の効率が悪くなったとしか考えられない」
……それは自覚があります。
「あと、魔力貯蔵器官が傷んでいる。魔力を急に、たくさん、使った後に無理矢理回復させたから。……研究者が使う、魔力回復の、飲んだでしょ?」
……飲みました。
「つまり、今の稜華の身体はボロボロなの。なのに、無理矢理、もっと使おうとしている。……大切にしてあげなきゃダメだよ。作り直せるわけじゃないんだから」
私自身、壊れても作り直せると思ってました。
すみません。
「私が回復魔法をかけておくけど、無理したら、ダメだからね?」
「……」
「返事は?」
「……はい」
無理しなきゃいいんでしょ?
だったら、無理しない範囲で頑張ればいいだけのことだ。
「で?今、展開している魔法は何個なの?稜華」
「多分、1000個ぐらいかと……」
飛華の問いに答えるとビックリされた。
「1000個!?それでも魔法を使ったほうなの!?」
「最初、展開したのは1500個です……あ、でもDランク魔法だから……」
これくらい、大したことはないよね。
「ホント、稜華は無理しすぎ。私達を頼ってくれてもいいんだよ?まぁ、美華は頼りにならないかもしれないけど」
「サラっと失礼なことを言って、稜華の私に対するイメージを変えないでよね、風華」
……双子のやり取りには、安心する。
「当然、美華は支援、してくれるんでしょ?」
「当り前でしょ。何をいまさらなことを言っているの、風華」
「知ってた。……行くよ」
「うん」
「回復魔法、発動。……ヒール」
「……魔法支援」
私は薄い黄色の光に包まれる。
その光はしばらくして、収まった。それと同時に、体の重さがなくなったのを感じる。
「これで、大丈夫はず。稜華、どう?」
「……大丈夫、だと思う」
「くれぐれも無理しないこと!いい?お姉ちゃんも、ちゃんと稜華のこと、見ててよね!」
「分かっているわよ。ね、稜華」
「……はい」
風華のしつこいともいえる念押しと、飛華の笑顔。
……うん、怒らせたら大変なことになるね。
「じゃあ、私達は陽華と夢華の方にも行くから」
「風華、私も行くの~?」
「妹でしょ?それに、私の魔法支援をしてもらわないと、困るんだけど」
「しょうがないなぁ。どうしてもっていうから、ついていってあげるよ。寂しがり屋の風華ちゃん」
「はぁ?そんこと、一言も言ってないんだけど!」
2人は騒がしく部屋を出た。
元気だなぁ。
「稜華は最低でも今日いっぱいは安静にして。明日は無理しない程度に。明後日からはちゃんと自分でコントロールできるなら、いつもに戻っていいけど……」
「おとなしくしてます」
じゃないと、どんどん安静期間が長くなっていきそうだもん。
「ねぇ、飛華」
「ん~、何?」
ベッドの上で読書している飛華に声をかける。
「ヒマだから、研究資料、取ってきてくれない?」
「ダメ~。だって、そうしたらすぐ研究、始めちゃうでしょ?」
飛華にも、私がそうやって見えるんだ……。ちょっとショックかもしれない。
「じゃあ、紙とペンが欲しいんだけど」
「魔法式の計算、始めちゃうでしょ?」
……むぅ。
「じゃあ、論文」
「ダメ。理由は研究資料と同じ」
え~。
「……本」
「稜華、研究に関する本しか読まないわよね?」
それは否定できない。でも、ヒマ過ぎるのは事実だ。
「小説でいいから」
「……なら、いいわよ」
やった。
飛華は本棚から本を取り出すと私のいるベッドまでくる。
「ありがと」
「お姉ちゃんって、呼んでほしいなぁ」
……風華に呼ばれてたじゃん。
「考えてみたら、稜華にお姉ちゃんって呼ばれた記憶、全然ないのよね」
そうですか。
「それより、本を貸してほしいんだけど」
「お姉ちゃんって呼んでくれたら」
本は飛華が持っていて、私では届かない。
魔法を使っちゃえばいいんだろうけど、魔法を使ったら怒られるだろうし。
「……姉さん」
「しょうがないなぁ、稜華ちゃんは照れ屋さんで。はい、約束の本だよ」
なんとなく、餌付けされた犬みたい……私。
渡された本は……小説だ。
間違っても論文ではない。
残念過ぎる。
飛華なら、論文を渡してくれるかもって期待していたんだけど。
「稜華って、全然小説とか読まないじゃない?たまには、思いっきりジャンルを変えてみるのもいいと思うの」
パラパラッと見た感じ、内容はファンタジーみたいだ。
魔法がない世界の、話みたいだ。
……まるで、『チキュウ』みたい。
私は、本を読み始めた。
**
翌日以降は安静令も説かれ、だいぶ暇ではなくなった。
飛華には休みという言葉はないのかって言われたけど。
私にもちゃんと休みという言葉ぐらい、あるに決まっているよ。
元貴族くんの屋敷では1時間~2時間ほどの間隔で数個の魔法が発動し続けている。
おかげで、残りは600個ほどだ。
ちょっと情報を見てみても、元貴族くんの家は最近騒がしいだの、物が飛んでくるだの、色々な噂が駆け巡っている。
つまり、そろそろ噂の流し時だ。
情報系魔法は私の適性魔法。
出所不明の噂を流すのは簡単だ。
「情報流出」
元貴族である、飛鳥井さんの家は、呪われているらしい。なんでも、その息子が同級生に毒を盛ったらしい……。
いくつもいくつも、色々なところにバラまく。
あとは、時間が経つのを待つだけだ。
週明け、登校してきた元貴族くんの顔色はかなり悪かった。
物が飛んできて、安心して眠れず、おかしな噂があるからだろう。
心身ともに疲弊しているはずだ。
「テストを返却します。学年の順位は、廊下に掲示してありますので、興味のある人はみてください」
1時限目は全学年全クラス、テスト返却。
週末だけで採点を終わらせて、成績まで出すなんてすごいよね。
ヘリコニア先生に名前を呼ばれ、答案を取りに行く。
全て100点満点のテストだ。
私が難しいかな、と思ったのは国語と外国語。
この2つはどうにもならない。
私の結果はこうだ。
国語 98点
数学 100点
社会 100点
外国語 97点
魔法学 100点
総合 495点
まぁまぁ、だとは思う。
やっぱり国語と外国語は落としていたか、と思った。
国語は文法が難しいし、外国語はそもそも苦手だし。
「学年1位!紫月姉妹!495点!」
あ、ここでも同点だったか。
やっぱり、陽華と夢華を抜くのって、難しいね。
いつも同点になっちゃう。
「学年4位!津城つむぎ!489点!」
津城さん、やっぱり成績いいね。
かなり頑張ったのだろう。この混乱の中。
「学年5位!」
というか、なんで読みあげるんだろうね。不思議だ。
その後、元貴族くんは私達に逆恨みする余裕など、なくなりましたとさ。
だって、恐怖の館と化した自宅と、呪われたっていう噂が飛び交っているもんね。
というわけで、はい。
授業編、完結です!
次回からは新章、夏休み編になります。
今後も、6姉妹をよろしくお願いします。
ねーろれむた




