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30 急転

あのあと、津城さんとは毎日情報交換をしている。

他の人には喧嘩別れ、というイメージを残し、協力関係ということを悟らせないよう、気を付けた。

毎日の情報交換から、明確な情報をつかみたいけど、今はテスト期間。

彼女も、元貴族もテスト勉強に忙しいみたいだ。

そのため、ろくに計画が進んでいないのだろう。

私も向こう側が仕掛けてこない限り、何もできないから今のところヒマだ。

だって、私から仕掛けちゃうと、正当防衛にならないし。

テスト範囲については全て覚えられているから、後はこれをキープして備えるだけだ。


……と言っても、今日なんだけど。テスト。

そうなると、テスト中、もしくはテスト後に仕掛けられる可能性が高い。

最悪なのはテスト中だ。

向こうが成績を捨てに来ていたら、私達の妨害をするかもしれないし。

だけど、その可能性は低めかな。


「それでは、始め!」


一時限目は国語だ。

テストの順番は国語、数学、外国語、社会、魔法学となっている。

ところどころ難しい問題はあったりするけど、基本的に全部解ける。難しい問題も順序立てて考えれば問題ない。魔法式と同じだ。

それを、お昼休憩を挟み、5回繰り返す。

魔法学のテストが終わったときには皆は疲れ切っていた。

そして、皆の空気が緩む。


どこが難しかったとか、自信があるとか、そういう会話が多い。

私はもちろん、全問解けた。

だけど、1番怖いのは問題の意味の取り間違えなんだよね。

それが凄く落としやすいから、何度も見直しをした。


「テスト終了後は気が緩みやすいです。週明けからは通常の授業ですから、気を緩め過ぎないように。くれぐれも、問題だけは起こさないようにしてくださいね」


研究者先生の話が終わり、解散になる。

というか、問題だけは起こさないようにって……警告、なのかなぁ。

私達に手を出そうとしている人たちに対しての。

だけど、私自身、早めに向こうの罠にかかっておきたいんだよね。

正当防衛にならないっていうのもあるけど……なにより、気が休まない。

いつ、危険が来るのかわからず、ずっと警戒している状態なのだ。疲れて当然だと思う。


だから、このタイミングは、好機、なのだ。


「ッ……」


予想通り、だ。

食事に毒を盛っている。

テスト期間はずっと食堂で、同じ時刻に同じメニューを、食べていた。

相手方もそのことは把握済みだろう。

小声で、2人に言う。

2人も、既に食べ始めている。

食事を開始して5分。おそらく、遅効性の毒。

飛華と双子に余計な心配をかけないため、巻き込まないために食事は別にとっている。もし、毒に当たったとしても風華が無事ならどうにかなるだろう。


「陽華と……夢華も、気を付けて。できるなら……薬物分解をして、できるだけ……リスクを、減らして」


向こうの目的は私達姉妹の始末。

ターゲットは姉妹だ。だから、2人の食事にも毒が盛られている可能性が非常に高い。

かといって、私が食べ終わって、毒がないことを確認するまで、2人が食べないと不審だ。

本当なら、私1人だけでよかったけど、どうしても巻き込むことになってしまう。


……テスト終了後の気が緩んだ時を狙ったか。

油断していれば、その分、毒の巡りに気づきにくくなる。

つまり、手遅れとなる可能性が高い。

だから、今日なのだろう。

テストが終わった日の、夕食なのだろう。

呼吸が、かなり荒い。

だけど、動けないほどじゃない。私は。

案の定、2人にも毒が盛られていたらしく、2人は既に意識が朦朧としている。

……このままじゃ、危ない。


「……部屋に、戻ろう。片づけは全部私がやっておく」


食器を浄化し、毒が残っていないことを確認すると、返却し、転移魔法で2人を部屋に送り届けた。

ベッドに寝かせた2人の肩は大きく上下している。汗もかいていて、毒がかなり辛そうだ。


「……情報分解」


毒と言う情報を、分解する。

おそらく、これで後遺症の心配はないはずだ。

どうしても心配ならあとで風華に見てもらえばいい。


「……体力、回復。安眠効果」


私も、回復魔法が使えないわけじゃない。

2人を休ませるため、とにかく回復魔法をかけまくる。

……これで、大丈夫かな。


慣れていない回復魔法を使ったこと、毒の影響を受けている所に魔法を使ったことで魔力が大きく削られている。

ポケットから魔力回復の錠剤を取り出すと、口に含む。

これで、半分ぐらいの魔力が回復した。

……全回復って書いてあるのになぁ。


だけど、そうのんびりしていられない。私の役割は相手を混乱させることだから。恐怖に突き落とすことだから。早いうちに行動しないと、週明けに間に合わない。


「……寮の部屋に転移」


部屋に戻ると、出来るだけ黒い服を着る。

闇夜に紛れないと、いけないから。

できるだけ目撃されないようにしないといけないから。

元貴族くんの家は既に把握している。王都の、中心部にあった。

というか、有名な貴族らしく、すぐに情報が出てきた。


「……転移」


私は屋敷の中に入る。もちろん、姿は消してある。

他人から全く認識されていない。だから、窓が開いているところから入り、堂々と歩いているわけだ。

この魔法は私が作ったけど、お偉いさんたちに報告していない。だから、魔法で姿を消しているなど、考えつかないだろう。

だって、ほかに姿を消す魔法なんてないのだから。


ちなみに元貴族くんは今日、帰宅している。

アリバイ、と言うことなのだろう。

魔法学園にいなかった。だから、手出しはできないはずだ。

……実際は、部下に命じているんだけどね。


厨房から少々ナイフとフォークを拝借して、魔法で動かす。

そっとそっと。人がいなさそうなところを通って。

今の時間帯は夕食と考えられる。

つまり、食堂的なところにいるはず。


厨房に行くまでと食堂に行く途中で、魔法をたくさん、それはそれは、た~くさん仕掛けてきた。

かなりの時間を掛けて。

すべて、簡単な魔法だ。

Dランク魔法で、子供が遊んだりするときに使う魔法。

モノが浮いたり、言葉を発したりする、不思議な魔法。

だけど、浮くものはナイフとフォークだし、発する言葉は文字をテキトーに組み合わせて、意味不明の言葉だ。


あと、ナイフとフォークは激しく動くように設定したから、恐怖以外の何物でもないだろう。

それが同時に作動すれば大混乱になること、間違いなし。

流星群のことがあったから、魔法の多重展開について研究していてよかった。かなり役に立っている。


だから、いま展開されている魔法は……15000個だ。

混乱していればDランク魔法だって気づかれないだろうし、そもそも魔法と認識されないはずだ。

食堂に滑り込むと、最終チェックを行う。

問題がないことを確認して、魔力を準備している魔法の一部に叩きつける。

こんな騒ぎの後は警備が厳しくなるだろう。

そうなったら、屋敷に入るのは難しい。だけど、私は継続的にダメージを与えたい。

だから、少しずつ、少しずつ魔法を起動させる。


「……マージア・イニーツィオ」


後は危険だし、屋敷から出ていよ。

ご飯、すごく量があったなぁ。豪華だったなぁ。

というか、税金と言う給料をもらっていないのに、こんな豪華な食事ができるなんて、大した経済力だね。


屋根に上がると、屋根の下の騒ぎがよく聞こえる。

それにしても、料理人さんや執事さん、メイドさんには悪いことしたなぁ。

こんな恐怖現象に巻き込んじゃうって。

でも、それだけご主人様が悪いことをしたっていうことか。

紫月姉妹は怒らせるな、だよね。

まだまだ魔法は残っているから、明日にでも爆発させよう。

そうすれば、混乱その2、だ。

同じ時間帯は怪しまれちゃうし、お昼ぐらいにしようかな。

フフッ。


週明けが楽しみ。

あとは、呪われているかもしれないという噂を流せば完璧だ。











「よぉ、紫月稜華」


見つかった!?

逃げないと。ヤバいヤバい。



「逃げるな。俺だ、トランクイリタ・オンブラ」



振り返ると、そこにはトランクイリタ先生がいた。

……なんだ。トランクイリタ先生じゃん。

それにしても、なんでこんなところに。


「首尾はどうだ?」

「……まぁ、いい感じじゃないですか?まだまだ仕掛けてありますから、時間をかけて、すべて消化します」


何しに来たかと思ったら、状況確認ですか。

それはそれは……ヒマ人ですね。


「そうか。……毒を受けたらしいが、大丈夫なのか?」

「……私は。陽華と夢華は部屋で寝かせてあります」


ホント、何を聞きたいんだろう。

向こうは、こっちの出方を見ている。

どうしようか、と悩んでいるようにも見えた。


「……なにが、言いたいんですか?」

「なにが、か。なら、率直に聞こう」


あ、これはツッコまないほうがよかったかもしれない。

だけど、何か言いたそうなのに言わないのって、なんかイライラするっていうか……メンドクサイ、んだよね。





















「紫月稜華。お前は、何者だ?」

反撃開始。

そして……

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