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3 入学式

「おやぁ?稜華ちゃんは悩んでいるのかな?」

「っ!」


目の前に、夢華が現れた。

暗くて、広くて、人がいない図書室に、夢華の声が響いた。


「ホント、稜華ちゃんは1人で考えすぎ。もう少し私とか姉さん達を頼りなよ。稜華ちゃんは、ぜ~んぶ我慢しなきゃいけないなんて決まり、ないんだからね」


夢華は転移魔法でここまで来たらしく、少し息が乱れている。

補助魔法を得意とする夢華は苦手魔法がない代わり、これと言って特化した魔法がない。

だから、何の魔法でも使える。

よく言えば万能。悪く言えば貧乏器用、だ。


「稜華ちゃんは、稜華ちゃんが好きなように生きていいんだよ?自信を持ちなよ。稜華ちゃんは、すごいんだから」


夢華はそれだけ言うと、遅れちゃう、稜華ちゃんも急いだほうがいいよー、と転移していった。

たしかに、時間は危機的だ。

あと5分しかなかったのに、夢華と話していたから、本当にあと数分だ。

しょうがない。

そう思い、私は転移魔法を使うことにした。


「……、……へ、転移」


教室の近くに転移する。そのあとは歩いて。

教室へ入ると、そこそこの人いる。

私はできるだけ後ろで端の席に座る。

ちなみに現在、自分の所属するクラスは知らない。入学式でクラス分けが発表されるから、それまでは1年生の教室に適当に入る、というものだ。

教室のでは、話し声や笑い声が溢れている。

きっと、顔見知りなのだろう。

彼ら彼女らの学園生活はきっと、楽しくなるに違いない。


目を閉じ、学校へ意識を広げた。

3年生の教室には飛華が、2年生の教室には風華と美華がいる。どの教室も人数比はあまり変わらない。これは、まぁ、普通だろう。しっかりクラス分けがされているんだろうし。

1年生の教室は人数比がそこそこある。

陽華と夢華は同じ教室にいて、一番人数が多い。定員だ。

その教室に近いほど人数はほぼ満パン状態になっているみたいだ。

飛華の妹は3つ子、という情報もそこそこ出回っているが、陽華と夢華しかいないため、あまり話題になっていなかったみたいだ。

……まぁ、別にいいだろう。


入学式が始まるので、実技場に集まるよう、指示される。

実技場は実技塔にあって、魔法実技が行われる場所だ。学校の中で1番広い場所ともなっている。そのため全員が集まることができる。

学校で一番広いし、式典や集会でも使われるらしい。

入学式はそこで行われるみたいだった。

並んで行くわけではないようで、バラバラと実技塔に向かっている。

……というか、それはちょっと迷子になる人が出てくるのでは?

特に、方向音痴の……陽華とか、夢華とか。

まぁ、私は研究棟の方から実技塔へ歩いて行っているので、逆方向に来てもすれ違うはず。

そして予想通り、人並みに逆らって歩いてくる、2つの影。

……皆、目的地は同じなんだから、同じ方向に行けばいいのに。跳ね返り娘か。


「あ、稜華ちゃん!」

「やっぱり~、皆と同じ方向に行けばよかったんじゃない~」


そうだね。

今日は陽華が夢華に引っ張られたパターンか。

前は夢華が陽華に引っ張られていた気がする。

どちらにせよ、2人とも方向感覚が壊滅的だ。


「やっぱり~、稜華がいないと迷子になるわ~」

「ホント、陽華ちゃんのせいで何回迷子になったことだか」


この2人、相変わらずだ。

でもそっか。意見が割れたらどっちかに合わせないといけないんだよね。

確率は2分の1。間違いばかり引くのは運がないのか。


「いい加減にしたほうがいいよ……。目立つし、遅れる」


私としては別に転移魔法を使ってもいいんだけど。

どうせ、実技場近くは人があふれているだろうから、転移すると身動きが取れなくなる可能性がある。

だから、歩いていくしかない。


「じゃ、行こ。真反対の方向でいいんでしょ?」

「いざ、実技場へ~。レッツ・ゴー!」


右手を陽華に、左手を夢華に引っ張られ、実技場方向に向かう。

わざわざ引き返すのはめんどくさいと思ったりしないのかな。いや、これが日常茶飯事だから普通なのか。全然普通じゃないんだけど。

というか、歩くというより、走っているんだけど!


「と~ちゃく!」


おかげで遅刻せずには着いた。それでも、1番最後みたいだ。

目の前には、100人ほどの新入生。

2列ほどに並んでいて、少しだけ、話し声が聞こえる。


「お静かに。式はもうすぐ始まります。一列に並んでください」


黒縁眼鏡をかけた先生に言われる。

韓紅の髪を低い位置でお団子にしている。薄暗い中、黄橙の目がキラリと光った。


「ほら、稜華ちゃんは私の前」

「1番後ろって1番目立ちそうだし~。夢華が勝手に目立っていてね~」


私は2人の間に並ばされる。


「大丈夫。稜華には、私達がいるから~」

「大丈夫。稜華ちゃんには、姉だけじゃなくて、妹もいるから」

「新入生、入場!」


その掛け声から少し経ち、列が進んだ。

実技場に入ると、眩しくて目がチカチカしてしまう。

在校生の席の脇を通り、保護者席の脇を通る。

手を振っている人もいた。きっと、保護者を見つけたのだろう。

私たちの保護者は来ている筈ないので、そのまま特によそ見せず進んだ。

夢華まで、席に着くと、入学式が進む。

『ニッポン』と変わらない、ありふれた入学式だ。

国歌斉唱、校長先生の話、新入生代表による宣誓……。

似たようなことを繰り返していて、徐々に眠くなる。

めんどくさいとしか言いようがない。


「続いて、生徒会長の言葉。生徒会長、三年花組、紫月飛華さん」


飛華!?

ステージの上には、内巻きの髪をハーフアップにした飛華がいる。


「皆さん、こんにちは。ご入学、おめでとうございます。そして初めまして。ステッラ・ポラーレ王国国立魔法学園王都校へようこそ!」


一礼し、飛華が話し始める。

うん、さすが私の……いや、私達の飛華。なんでも完璧だ。


「私は生徒会長の紫月飛華です。宜しくお願い致します。さて、この魔法学園に入学した皆さんはきっと、実力者なのでしょう。私も、新たな後輩が入学してきてくれ、とても嬉しいです。同じレベルの魔法力を持つ者が集まり、切磋琢磨する場は、きっと皆さんに大きな経験と知識、勘を授けてくれるかもしれません。しかし、ただ聞いているだけ、見ているだけでは対して自分の糧にはなりません。自身の努力と、センス。それが、大きなカギとなると、私は考えています。この魔法学園では王都校全体だけでなく、国内5つの魔法学園で合同開催する行事もあります。その1つ1つが皆さんに大きな影響を与えてくれるでしょう」


この優しそうでふんわりとした今を見る限り、攻撃魔法を使いこなすとは見えない。

しかも話している内容もかなり勉強になる。周りを見ていても、目をキラキラとさせ、希望に満ち溢れている様子が見える。


「この学園での生活を、楽しんでください。楽しんで、自分のものにしてみてください。私達を、追い越すほどの実力をつけてみてください。私達は、新入生の皆さんを応援しています。……生徒会長、3年花組、紫月飛華」


飛華が話し終えると、新入生氏名読み上げ。一クラスは40人ほどだ。

私は、というより、私達は1年桜組だ。

ここは『ニッポン』の大部分にあたる、数字やアルファベットでクラスを表すのではなく、『ヨジジュクゴ』のような言葉からクラス名をとるらしい。

クラス分けも、実力が上のほうの人同士で同じクラス、中くらいの人同士で同じクラス……といったように、出来るだけ実力が近くなるようにされているみたいだ。

1年生は桜梅桃李、だ。

ちなみに、2年生は雪月風花、3年生は花鳥風月。

そして、ようやく入学式が終わる。この後は、入学式前にいた教室に戻って、荷物を持ってから、所属クラスの教室に移動した。

入学式、終了。

陽華と夢華はかなりの方向音痴です。かつて習ったはずの方角が分かりません。


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1話〜3話の誤字報告をいただきました。ありがとうございます。

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