29 コンバティメント・イニーツィオ
「……珍しいな。君が来るとは」
王の居室のバルコニーに降り立つと、そんな声が聞こえる。
足早に室内に入れば、ステッラ・ポラーレ国王である、ステッラ・ポラーレ・リゲル・コメットがいた。
俺は闇夜に溶け込むような真っ黒のフードをとった。
「報告があるからに決まっているだろう?」
皮肉げな笑顔を浮かべて見せる。
ここに来るのは……半年ぶりか。
「今年も波乱は起きそうか?」
「ああ」
起きそう以前に起きているんだがな。
コイツのことはよく分からない。
威厳のある話し方をしたと思ったら、優しげな話し方をする。そういうヤツだ。
裏表、というより、2面化、という言葉の方が適切だと思うほどだ。
「まず、最初はどうでもいいからさっさと巻くぞ」
「分かった」
「紫月姉妹の妹が入学してきた。3つ子で、かなり魔法能力が高い。ああ、生徒会に所属している、紫月飛華、風華、美華の妹だ」
「待て。それだけでもかなり重要なんだが?」
「ここで止めていたら俺が朝までに帰れなくなる。いいな?絶対に止めるな」
いちいち止めていたら、朝方になり、城をうまく脱出できる可能性が低くなる。
「次。紫月姉妹に関連することだ。俺の授業の新入生をぶっ潰そうの回。あれは、引き分けに終わった」
「はぁ?どういうことだ?」
「紫月姉妹が粘りやがって、授業終了と同時に俺もアイツらもノックダウン。だから、引き分けだ」
「……へぇ。スゲェな」
その時、少しだけ、昔の口調に戻った。
学生時代、聞きなれた、その口調に。
「で、本題なんだが」
「これまでで十分なんだが?」
「俺もそう思いたい」
こんなことがバンバン起こってたまるか。
なんで紫月姉妹の周りにはこんな厄介ごとが来るのか、ぜひとも知りたい。
「その紫月姉妹の命が狙われている。元貴族に、だ」
「……それはそれは。物騒なことを最近のヤツは考えるんだな」
俺からしてもたまったもんじゃない。
「ヘリコニア……だったかな?君に懐いていた。あの子の時より酷いね」
「アイツは退学だったからな。紫月姉妹に比べればマシなほうだ。……まぁ、実力はプシッタコルムより、紫月姉の方が高い。妬まれやすいっていえばそれまでだが」
「100年に1度の天才を上回る……か。面白そう。……で?どうした?」
コイツは面白いというように口角を上げる。
「プシッタコルムに呼び出されて計画の手助けをした。偉そうに意見を言うだけだが」
「……お前らしい。どのようにするのだ?」
「大々的には手を加えない。だが、ジワジワと相手を苦しめ、恐怖に落とすやり方だ」
「それは君が提案を?」
「なにを。紫月姉妹の5女、紫月稜華の案だ」
「……そんなことを言うとは、かなりの案か?」
「当り前だ」
聞いたとき、恐怖に鳥肌が立った。
モノを飛ばすとは、なんとも残酷なことを考える。
真面目に今日気が飛んできて、刺さったら一発でお終いだ。
「……と、これまでは重要なことを掻い摘んで話したが、実際はもう少し小さい規模だが、様々なことを起こしていやがる」
「例えば?」
コイツ、正気か?
わざわざ自分から首を突っ込んできやがった。
「……そうだな。聞いた話だが、3つ子のうち、2人は希少属性もちだ」
唖然としているが、聞きたいと言ったのはそっちだ。
見なかったことにして続けることにした。
「基礎魔法力検査はよりによってこの属性検査で元貴族の教師に言いがかりをつけられたらしく、姉3人を呼び出されたらしい」
聞いてもよくわからないのが実際だ。
「その後は迷惑をかけないようにと、プシッタコルムの研究室で検査を受けた」
よくプシッタコルムが研究室に置いたよな。
紫月飛華が1枚噛んでいるとはいえ、何を取引材料にしたのだか。
「元貴族に口答えして、反感を買った」
「Bランク魔法以下しか使えないという魔法制限をかけたのに引き分けに持ち込みやがった」
「テストと聞いても、平然としやがる」
「ああ、もちろん、殺害と聞かされてもな」
「……ちょっと待て。まだ、入学して1ヵ月ほどだよな?」
「当り前だ。何を言っている?」
「規模が大きすぎてヤバい」
「まだまだ続くんだが」
「もう聞きたくない。言わなくていい」
……しょうがない。
まぁ、愚痴にもなったし、良しとするか。
「何はともあれ、俺が紫月姉妹の中で警戒しているのは5女の紫月稜華だ」
本当に、コイツは分からない。
姉妹ら全員魔法能力が高いのは分かる。
だが、それ以外は普通の学生だ。
紫月稜華以外。
「コイツは、とにかくよく分からん。ただ、かなり冷えた考えの持ち主だ。命を狙われていると聞いても平然としている。Dランク魔法を凶器に変えた」
どうして、アイツだけ、一歩、違うのだろうか。
「歴史の教師は、教科書自体を疑っているようだ、と言っていた。魔法式についても、感覚ではなく、理論で攻めている。そこから見るに、かなりの知識量だ。魔法式の周りが真っ黒になるほど計算しつくしている」
例えるならば、アイツだけ、暗闇に足を突っ込んでいるようだ。
「あとは魔法でモノを動かせ、尚且つ魔法と言うことを悟らせない自信がある」
もしかして、コイツは。
「闇世界の、住人かもしれない」
「異常なほど感情が薄く、冷酷だからか?」
「それもあるが、思考、魔法の使い方。それが、尋常じゃない」
俺もあっちの世界のことは把握しきれていない。
だから、今、誰が向こうにいて、誰がこっちにいるのかが分からない。
「とにかく、分からないことだらけっていうことか。……紫月姉妹は、本当に不思議だ」
何故なら。
「親のことが分からない。親族もわからない。辛うじて支援者がいるようだが、その支援者の素性もわからない。どこに住んでいるのかも不明だった。彼女たちの幼少期を知る人物はいない。もちろん、出生を知る人もいない。魔法能力について、他者を追いつかせないほど、ずば抜けている……」
分かっているのは、貴族ではない、と言うことだ。
「何もかも、分からないね。……トランクイリタ・オンブラには、引き続き魔法学園王都校への潜入任務を命ずる。それに付け加え、紫月姉妹のことも探れ」
「御意」
即座に膝をつき、頭垂れた。
……上位者に恭順を示すポーズ、だ。
「また、何かあったら報告。来てくれるね?」
「はい」
「というか、もっと来てほしい。……俺も、ヒマだしな」
「必要以上に来るか。じゃあな、元うつけ王子殿」
「そんなことは言わないでほしいんだが。……じゃあ」
「「コンバティメント・イニーツィオ」」
合言葉のようにその言葉を言う。
フードをかぶり、バルコニーから城壁に飛び移った。
……久しぶりに、闇世界でも探りに行くか。
それが紫月姉妹につながるかもしれない。
ホント、アイツは何者なんだよ。
闇世界の住人っぽいが、闇世界の住人にしては歪すぎる。
あれだけ魔法能力が高ければ闇に手を染めなくても生きていけるはずだからだ。
紫月姉妹……本当に、何者なんだ?
闇世界、と言っても本当にそういう世界や区域があるわけじゃない。
住人達も平和な世界に溶け込んでいる。
だが、裏の顔があり、それが問題、と言うわけだ。
暗殺をしたりする、という。
ただ、住人たちの溜まり場となっているところがある。
その店も一見、普通だが、実際は真っ黒だ。
だが、一般人も入れるため、情報収集にはもってこいだった。
その酒屋に入ると、中はどんちゃん騒ぎだった。
……学生よりうるさいな。
カウンター席に座り、オーナーに一杯の酒を頼む。
いかにも、ただふらりと寄っただけに見えるように。溶け込むように。
そうしながらも、耳をすませば、色々な情報が聞こえてくる。
仕事の進み具合、愚痴、喧嘩、新入り……。
どれも下らないが、もう闇の世界に入れない俺にとっては重要だった。
……10年以内に新入りは2人だけ。
それも10年前と7年前だ。
いくら何でも、無理があるだろう。
そうなると、紫月姉妹は闇世界の住人ではない……?
じゃあ、アイツらは、一体何者なんだ……?
紫月稜華は、どこであんなに冷えた考えをするようになった……?
国王とトランクイリタの密談。
王様の口調が安定しません……。
急に断定口調になったり優し気になったりしてます……。




