26 話が、あるんです。
あの後、すぐに授業が始まってしまったが、授業が終わった後に声を掛けられた。
話があるらしく、放課後、カフェに誘われた。
学園の敷地内には中央校舎の他に研究棟と実技塔があるのは知っている。
あと、少し離れたところに寮塔があることと、食堂があることも。
だけど、話によると、そのほかにカフェ、ギャラリーがあるらしい。
放課後、街へは門限さえ守れば自由に行けるから、必要最低限のモノだけ、ということみたいだ。
カフェで待ち合わせ、ということになっていたので、私達はカフェに向かう。
カフェはシックな感じで、とてもオシャレだ。
勉強をする人、お茶をする人、談笑をする人……様々だ。
「陽華さん、稜華さん、夢華さん!」
津城さんが小さく手を振りながら駆けて来る。
「お待たせしてしまい、すみません」
「別にそんなに待っていないから大丈夫だよ~」
津城さんが座り、落ち着いたところで、夢華が口を開いた。
ちなみに今の席は4人席で、私の左に夢華、その向かいに陽華、そして私の正面に津城さん、だ。
「で、話って何~?」
うん、陽華が聞くのが正解だ。
夢華が聞くと、きびきびしている分、どうしても喧嘩腰に聞こえてしまう。
「あの、お友達になってくださいの答え……もらっていないです」
あー、確かに。
だけど、私自身、納得しきれていないんだよね。
「それより、なんで、あのタイミングで声をかけてきたかって言うところだよ?あの空気が悪い中、友達になってくれはおかしい。稜華ちゃんが魔法で黙らせたのは分かるはず。空気も、読めるはず。そうだよね、学4の津城さん?」
あ、学4なんだ。おめでとうございます。
……そう、私達は異端であり、歪だから。
本来は、学年1位のはず。
「えっと、その……」
私は、さり気なく視線を合わせるようにし、彼女の【情報】を見る。
津城つむぎ。12歳。
属性は、風。適性魔法はつむぎ。元貴族。
魔力の質はそこそこ高め。魔力貯蓄量も、魔法力も多い。
魔法能力が高いと言えるだろう。
努力型の人間で、努力することによって現在の能力に至っている。
ただ、性格に難あり。
オドオドしていて、優柔不断。権力者の言いなりになりやすいタイプだ。
「ゴメン、ちょっと抜けるね。津城さんは来てくれる?」
半ば無理やり、席を立たせ、カフェを出た。
そこから少し歩き、人気のない校舎裏で立ち止まる。
逃げ場がないことを確認し、問う。
「さしずめ、誰かに命令された……かな?」
結論はこの可能性が1番高いだろう。
内容が内容なので、小声で言う。
「脅されて……何を命令されたのかな?口が利けないようにする、魔法能力を失わせる、心に傷を残す、成績を下げる、退学。……それとも、殺す?」
最後の単語で、ビクっと反応する。
ビンゴ、だ。
「そっか。なるほどね。相手を油断させるには友達になって、仲良くなるのが手っ取り早いもんね。そして、油断したところを、って言うヤツか。でも、安心して。私は、私達は、そう簡単に殺されないから」
彼女の目が、恐怖で染まった。
なぜ、そんなことを言える、と言うように。
「私、昔から狙われているから。慣れているから。安心して」
「……貴族、じゃないですよね?」
「そうだよ?」
貴族じゃないけど、ね。
『私』が、覚えているのだ。狙われて、逃げて、隠れて、息をひそめて。見つかったら、逃げて、隠れて。それを、繰り返している。
「じゃあ、何なんですか?」
「……何だと思う?」
このことは、誰にも言うつもりはない。
これ以上、追及するなと言うように、圧をかけるよう、意識する。
「まぁ、貴女が私を何だと思おうが、構わないんだけど」
ゆっくりと、問いかける。
「君の裏にいる人間は、だれ?」
ヒュ、と息をのんだのが分かった。
「君の性格からして、1人でその計画を立てるのは無理だ。実行力もない。それに、さっきの質問で異様に反応しているところがあった。なんだと思う?」
ねぇ、貴女からは、にじみ出ているんだよ?
「脅されたって言うところと、命令。それから、退学」
後は、殺す、か。
どちらにせよ、不穏なワードでしかない。
「ああ、あともう1つ思いついた。君みたいな優等生が、テストの2週間前に遊び歩くわけない」
彼女の眼には、涙が浮かんでいた。
「私に言っちゃえば?そうすれば、あとは私が始末する。自分でやったことの後片付けは自分でやらないとね。そうじゃないの?」
というか、さっさと言ってもらわないと、こっちが困るんだよね。
「ねぇ、早く行ってくれる?じゃないと、私、無理矢理言わさせないといけないんだよね」
一体、何を取られたのだろうか。
家族、大事なもの、友達……自身の命?
いや、弱みかもしれない。
「あと、5秒ね。5、4」
まだ、言う気配がない。
「3、2」
一体、何を狙われたのか。
そんなにも、言えないほど重要なのか。
「1」
……最後まで、言おうとしなかったか。
「じゃあ、ちょっとゴメンね」
私はそう言うと、彼女の【情報】をより深く見る。
最近の、恐怖の【情報】を。
……って、私が出てきたんだけど。
そんなに怖かったかなぁ。
もう少し前の【情報】を、見る。
「……つむぎ、が、使えるんですか……?」
自身の【情報】が深く見られていることに気づいたのだろう。
そう、問いかけてくる。
「そんな魔法は使っていないから。貴女だけの唯一無二の魔法は、使えない」
……【情報】を見る時の抵抗がない。つまり、彼女の意思に反して従わされているってことか。
その状態で私の質問に答えられなかったということは契約魔法の類でも結ばされているんだろうか。
その場合、口にできない、と言う魔法なのかもしれない。
「……家格はどれくらいだったの?」
「下から数えたほうが早かったです。飛鳥井……様は、私の家の上司の上司の上司ぐらいの家格でした」
これは無理矢理従わせられている感じだな。
……見つけた。
「でも、私、稜華さんたちと、お友達になりたいというのは、本当です」
「そっか」
【情報】を見た感じだと、家族と自分の命を取られて、人質にされた、と言うところだろうか。
命令の内容は、私達紫月姉妹を始末すること。
このことについて、他言した場合は契約魔法に違反したということになってしまうから、言うに言えない。だから、態度で訴えてきたのだろうか。
成績のことと言い、口答えしたことといい、根に持っていたみたいだ。
「……ゴメンね。私のせいで損な役回りをさせちゃって。そのうえ、厳しく問い詰めちゃって」
「いい……いいんです。そういう立場ですから」
彼女の笑顔には、諦めの色が濃かった。
期待しても、帰ってこない。だから、何も期待しない。
そんな感じだ。
「……貴女は、どうしたい?私達を殺したい?」
「それとも、支配下から逃れたい?」
彼女の目に、何かが浮かぶ。
希望、絶望、懇願……よくわからない、感情だ。
「……はい。私は、元貴族の支配下から、逃れたいです」
迷いは、ないようだった。
「そう。なら、私はそのために力を尽くす」
「でも」
「大丈夫。貴女は何も心配しなくていい。ちょっと計画を立てたいから、場所を移すけど、いい?」
「大丈夫ですが……?」
なら、いい。
「……、研究室に、転移」
彼女もつれて、研究室に転移した。
「……稜華さん?何か用ですか?」
「少し、この子を置いておいてくれませんか?」
「別に構いませんが、理由は?」
「元貴族に脅されています。内容は、私達の始末です」
先生は一瞬、目を見開いて。
「……分かりました。陽華さんと、夢華さんを迎えに行くのでしょう?」
「はい」
「なら、早く行ってきてください」
私は、転移魔法を発動し、カフェへ向かった。
「貴女は、私を救ってくれたオンブラのようですね」
そう、呟かれた言葉を背に。
陽華と夢華を連れて、再び研究室に転移する。
研究者先生と津城さんは何か、話しているようだった。
「ああ、来ましたね。……大丈夫ですよ。稜華さんなら、心配いりません」
「……はい」
何を話していたのだろうか。
だけど、きっとそれは私のツッコむところではないのだろう。
「じゃあ、ちょっとこっちの部屋にみんな、着てくれる?」
そこは、私の研究室だ。
研究者先生の研究室の中にもいくつかの部屋があって、そのうちの1つが研究室に入った私に与えられている。
「陽華、夢華」
全員が座ったことを確認し、今までの経緯を説明する。
「そう……。そっか。そうだよね。ゴメンね、2人とも。私、結構喧嘩をそれが原因かも」
「そんなわけないじゃない~!アイツから突っかかってきただけだよ~!」
夢華だけでなく、陽華も私も、心当たりがないわけじゃない。
だからこそ。
「反省より先に、対策をしないと。相手の、一歩先にいて、裏をかかないといけない」
こんな不穏な流れにするつもりはなかったはずなんですけど……。
最初のタイトルは『普通』の放課後……のはずだったんですけどね。




