25 テスト勉強、しないでもらえます?
「テスト勉強、しないでもらえます?」
……は?
いやいや、テスト勉強をしないと赤点とっちゃうでしょ。
さすがにノー勉はありえない。
「そこ。あなた達に、言っているのですよ」
トランクイリタ先生がさしたのは、廊下側の列の、後ろのほう。
カツカツと、先生が近づいていく。
「授業中にテスト勉強とは、ナメられたものですね」
顔を上げた数人が、ヒイィっと息をのむ。
先生は多分、ものすご~く怒っているんだろう。
恐怖、なのだろう。
「別に、あなた達が何点をとろうと、構いませんが」
一歩。
「あなた達が、授業内容が分からなくても、別に構いませんが」
また一歩。
「だいたい、授業を聞いていないヤツが赤点を取るんですよね」
生徒は、怯えた表情をしている。
「赤点を取られたら、補習をしないといけないわけだ」
顔が、蒼ざめている。
「教師の仕事を増やすな」
低く、ドスの利いた声。
……何これ。
恐怖しかないんだけど。
教室は水を打ったように静かだ。
「馬鹿はおとなしく授業を聞いてろ。予習なんてするな」
なんか、まともなこと言っている。
確かに予習より復習のほうが大切だし。
「分かったな?」
クルリと踵を返し、教団に戻ると優し気な笑顔を浮かべた。
怖い。怖すぎ。
さっきまでメチャクチャ怒ってたのに、いきなり笑顔を浮かべる?
表情操作が凄すぎる。
どうやって切り替えたんだろう?
すごく気になる。
「では、授業を続けます」
そのまま、その時間は過ぎていった……。
授業が終わり、先生がいなくなると一気に騒がしくなる。
「アイツ、何様のつもりだよ!」
また君か、元貴族くん。
余りにもうるさいから、名前は憶えていないけど顔は覚えた。
「何様って、教師様でしょ」
「ちょ、夢華、爆弾に火をつけないの~!」
小声で答えた夢華を陽華が窘める。
爆弾に火をつける、か。
面白い例え方。
これは、火に『がそりん』を注ぐのと同じかな。
「誰だよ、教師様って答えたヤツ!」
「私だけど?」
「っ夢華~!」
ここで馬鹿正直に答える?
はっきりとものを言う夢華らしいけど。
「だって、事実じゃん。教師様以外に、何の答えがあるの?」
うわぁ。
ド正論。
元貴族くんも黙っちゃっているよ。
「アイツは、元貴族ですらないのに!貴族の俺らになんやかんや口出ししてきて!」
「貴族はなくなったよ~」
陽華も応戦するんですか、そうですか。
「だから何なんだっ!俺らが先祖代々築き上げてきたコネと血筋、財産と名誉はまだあるっ!」
コネと血筋……。
笑えるわ。
何よりも先にコネが出てくるとは。
ウケる。
教室のあちこちから、少しだけ笑い声が聞こえる。
「ばっ、馬鹿にするなっ!」
「名誉とかより先にコネが出てきた時点で、かなりおちているよね~」
「そもそも、血筋も財産も、名誉も自力でどうにかできない?稜華ちゃんもそう思うよね?」
なんで私に振るの―!?
確かに私は自力で財産と名誉をどうにかすることぐらいできますけど!
「コネはいらないよね~」
「だって今、実力主義だし」
「……ふざけるな!」
血筋は……頑張ればどうにかなるかなぁ。
過去を捏造して、偽の身分を名乗ったり、後はものすごい偉業をすれば、いいかもしれない。
それこそ、勇者だったり聖女だったりするよね。
「おい!紫月稜華!どうにかならないだろう!そう言え!」
「……いえ、どうにかなります。まず、財産と名誉ですが……これは、自力で何とかなります。財産については研究原案とか、素材を売りまくればなんとかなりますし、名誉は何か、世を騒がせる大発見をすればいいだけです。コネは……2人がいらないと言ったので、おいておきます」
コネが必要になったら、何かプレゼントすればいいんだよ。
それを賄賂っていうけど。
「血筋はどうにもならないだろう!」
「大陸や国に起きた大災害を収めれば、崇められ、高貴な血筋、と言われますね。例えば、勇者とか聖女とかの家系のような立ち位置でしょうか」
よく、子供の絵本にある話だ。
勇者様は聖女様と協力してなんかすごい魔物を倒しましたー、そのお家はすごく血筋がいいということになりましたー、みたいな?
「馬鹿にするなっ!」
「馬鹿にしていないけどね~」
「その言い方がいけないのかもしれないよ、陽華ちゃん」
2人とも、その言い方が喧嘩を買っているっていうんだよ。
見ているこっちがヒヤヒヤするんだもん。
「その言い方が馬鹿にしているんだっ!」
更にヒートアップしてきたよ。
そろそろ、口、閉じさせようかな。
魔法を発動し、口を閉じさせる。
陽華と夢華も私が魔法を発動させたのが分かったらしく、それ以上何も言わない。
……うん、これが平和。
「紫月!飛鳥井様に何をやった!」
……あれ?
口、閉じさせたはずなのに。
声のほうを見ると……知らない人だ。
というか、元貴族くんって、飛鳥井っていうんだ。初めて知った。
多分、クラスの人なんだろう。言い方からして、元貴族かな?元貴族くんその2としておこう。
「その、真ん中の寝ぐせ女!」
寝ぐせ女……。
その言い方はちょっとショック……だな。
「稜華、寝ぐせ、直したの~?」
「ちゃんと梳いたけど……」
「稜華ちゃんの髪は少しウェーブしているから……じゃないかな?」
「なるほど~」
それで納得しちゃうんだ。
私的には嬉しいけど。
寝ぐせ女より、とっても、とっても嬉しいけど。
「稜華、寝ぐせ女で根に持っているの~?」
「そんなわけないじゃない?何を言っているの、陽華さん?」
「稜華ちゃん、目が笑っていない。あと、稜華ちゃんが怒っている時って、さん付けで呼ぶよね」
陽華さん、夢華さん?
なんのことでしょうか?
「さっさと言え!何をした!寝ぐせ研究者女!」
うわぁ。
引くわぁ。
他人にそんな酷いことを言うなんて。
さっきより酷くなっているよ。
別に私、寝食を忘れるほど研究に没頭しているわけじゃないんだけど。
たまに夜通しやったり、たまにご飯を忘れたりするけど、それだけだもん。
でも、ここで魔法発動したっていいかなぁ。
優等生ちゃんのほうを見ると、黙々と教科書を読んでいる。
だけど、元貴族くんその2が喚くたびに少しだけ眉を寄せ、迷惑そうな顔をしている。
……ここは、余計に荒立てないほうが良いね。
「……マージア・イニーツィオ」
小声で、魔法を発動させる。
これで、大丈夫。
もう、静かだ。
優等生ちゃんも、安心したように教科書を読んでいる。
良かった。
というか、優等生ちゃんの名前、なんだっけ?
忘れちゃったなぁ。
ここは2人に聞いてみるか。
「ねぇ、優等生ちゃんの名前って、何?」
「津城つむぎさん、だよ~」
「……稜華ちゃん、ちゃんと覚えたほうが良いよ?」
……ごめんなさい。
ホントに、人の名前を覚えるの、苦手なんです。
真面目に覚えようとしているんだけど、あだ名?というか、イメージだけが入ってきちゃうんです。
「……あの」
声を掛けられて振り返ると、そこには例の優等生ちゃん。……じゃなくて、津城さん。
「その、えっと……」
「ゆっくり、落ち着いてからでいいよ~」
「深呼吸、深呼吸~」
「あ、はい……」
陽華も夢華も手馴れているな。
やっぱり、私が記憶関連で迷惑かけまくっているからかな?
「その、お友達に……なってほしいんです」
……え?
「私、3つ子ちゃんのこと、すごいと思うんです。堂々としていて、自分の意見をはっきり言って、たくさん、色々なことを知っていて、実力もあって……」
いやいや、そんな人じゃないです、私。
主に陽華と夢華のことだよね?
私より、センスもあるし、堂々としているし……。
「私の、憧れなんです。私も、3つ子ちゃんみたいに、なりたいな、って思って……」
「……3つ子って、呼ばない?」
「……ちゃんと、私達を判別できる~?」
2人が問う。
これって、結構重要だよね。私達にとって。
「あ、はい。お姉さんっぽい、前髪を編み込みにしたのが陽華さんで」
……あってる。
「研究者っぽくて、1番髪が長いのが稜華さん」
私は研究者っぽいんだ……。
「妹みたいに、可愛がってあげたくなっちゃう、サイドテールの子が、夢華さん、です」
……全員判別が、出来ている。
2番目、だ。
研究者先生の次に、私達を判別してくれた。
いきなりテスト勉強するなはビビりますよね。
実際は内職をするなということだったという……
でも、内職ほど捗るものはないんですよ。しちゃいけないんですけど……。




