23 学生の天敵?そんなもの、決まっているじゃないですか
「さて、2週間後にテストが迫っていますが」
授業にも慣れ、1ヶ月が経とうとした時。
「せ、先生……っ!そんなこと、聞いていません……」
クラスの誰かが、オドオドとした声を上げる。
声のほうを見ると、優等生な女の子だ。少しだけ、不安げな顔をしている。
授業も真面目に受けていて、放課後もよく勉強をしている姿を見る。
研究者先生はそちらを一瞥するだけに終わった。
「それはそうでしょう。言っていませんでしたから」
……それはそれどうなんですか?
いきなり決まったのか、決まっていたのに言っていなかったのか。
どっちだろう?
「テストの時期は言わないようになったのですよ。生徒の向上心と緊張感が常にあるために。……王の方針です。文句は、王城へどうぞ。でも、よかったですね。1年生は初めてということもあり、2週間前の告知でしたから」
これでよかったと言われるなら、1週間前の告知とか、下手したら当日の告知もあり得るということか。
「では、頑張ってくださいね」
研究者先生が毒々しい笑顔を浮かべる。
教室からはどよめきが広がる。
「待てっ!」
「……何ですか?」
いかにもめんどくさそうに研究者先生が返す。
「あと1ヵ月、遅くしろ!」
言い方からして元貴族だろうか。
命令口調で、自分が言ったら通ることを確信している様だ。
「貴方に、それを決める権利はあるのですか?」
「ああ、ある!」
自信満々、というように、言った。
「それとも、話を聞いていなかったのですか?」
鋭く、刺すような視線だった。
「国王の、御命令です。……貴方は、この国の王より、偉いのですか?」
完璧な正論だ。
全ての最終的な決定権は、国王が持っている。
「……だが!俺が、俺の親が言えばっ!」
「貴族は、なくなりました」
その言葉は、発言は、貴族という、長く根付いてきた階級を深く表していた。
……そして、いきなりなくなった、その混乱と不条理さを。
「これ以上、わめいても意味がありませんよ?……時間の無駄です。それくらい、分かりますよね?」
これ以上の無駄なやり取りは許さないという、無言の圧力。
教室内からも、チラホラ、迷惑そうな視線が集まる。
「他人の時間を無駄にしているということ。自覚を持ってください。今の貴方は、ただの一国民です」
研究者先生はそう言うと、教室を出ていった。
無言が、教室に訪れる。
誰も、何も、言わないし、動かない。
ただ、呼吸する音が聞こえるだけだ。
……みんな、よくこんな沈黙に耐えられるよね。
私、席をはずそうかなぁ。
そう考えて、腰を浮かべかけた時。
ガタッと、立つ音が響く。
「お前らもおもうよなっ!?」
さっきの、生徒だ。
「こんなの、おかしい!いきなりテストだぁ?ふざけんな!」
いきなりも何も、2週間あるけど。
今までの授業内容からしても、かなり簡単だと思うんだけどな。
1番難関そうな魔法学も、基礎的なことばかりだし。
「なんでだよっ!なんで、いきなり貴族がなくなったんだよ!」
なんでって、王様がなくしたからでしょ。
周りからは、冷えた視線が集まる。
コイツ、何言ってんだ?馬鹿じゃねぇの?──そんな視線。
「馬鹿はっ……!」
私はそれ以上聞く気になれず、魔法を発動した。
……簡単で、古くからある魔法だ。
特定の相手の声が聞こえないようにする魔法。
周りがうるさい時に使う魔法として知られている。
また……都合が悪い時に、使う魔法としても。
これで、ひとまずは静かになるでしょ。
そのまま、沈黙が続いた。
しばらくして、数学の先生が入ってくる。
異様なほどの静けさに、少しビビったみたいだ。
だけど、いつも通り、授業は始まり、そして終わった。
**
「……それでは、ほかに伝達事項はありませんか?」
帰りのHRも終わりに差し掛かり、もうすぐで放課後だ~と思った矢先。
「待てっ!」
またかよ。
乱入好きだな、おい。
生憎、帰りのHRの時間なので、抜け出すこともできない。
私の放課後を返して。時間を返してほしい。
「……なんですか?」
研究者先生もウンザリとした様子で返す。
疲れ切っているね。
「テストのことを伝えましたよね、範囲表も配りましたよね?なにか、よくない点でも?」
「ああ!これを見ろっ!」
「その前にその口調、どうにかしたほうが良いのではありませんか?トランクイリタ先生辺りに使うと、ブチギレしますよ」
「知るかっ!」
反省の色と言う奴がないね。
それに、確かに先生の言う通りだ。ここまで雑な口調で、よく怒らないと思う。相当沸点が高いのか、諦めているのか。
「とにかく、これを見ろ!現在の、テストに『イギ』があるやつの署名だ!」
「テストに意義があって当然でしょう」
「そっちの『イギ』じゃねぇ!」
私には風華と美華のやり取りにしか見えないね。
あの2人よりバチバチしているけど。
「80人分だ!学年の過半数だぞ!」
「そうですか」
ペラペラと紙を流し見する先生。
何やら考え込んでいる。
「これだけいれば十分だろう!テストを中止しろ!」
あ、もしかしてコネとかでは難しそうだから、正攻法で行こうとしたのかなぁ。
そう考えると、すごいね。
テストがよほど嫌いなのかなぁ。
「そう言われましても。もう、テスト制作に入ってしまっているのですよ?作り直すこっちの身にもなってください。たかが80人のために、テストを作り直すのですか?」
うわぁ。
メチャクチャ現実的。
「テスト、作るのは大変なんですよ。一体、私が何時間の研究時間を削っていると思っているのですか?」
言っちゃったよ。
今まで、教室で研究なんて、一言も言ってこなかった。
研究者先生という名の由来が分からなくなるほどに。
「素材も無駄にすることになってしまうんです。その辛さ、分かっています?」
いや、私、冷凍保存の方法、教えましたよね?
あ、でもここで言ったらよくないのか。
テストを延期させない口実だもんね。
「だからと言って、学生の天敵を……」
「学生の天敵?そんなもの、決まっているじゃないですか。テストでなければ、何なんですか?」
質問の意図とかみ合っていないような……?
「80では足りないでしょうね。まぁ、そこまで正攻法で中止させようと努力したのは認めましょう」
あ、努力は認めてくれるんだ。
優しい。
「ですが、既に決まったことです。生徒には告知していませんでしたが、春休み中にはすでにテストの予定がたっていたのですよ」
それを告知せずにいつテストがあるか、緊張させるという……。
かなり悪魔だ。
王様はすごいことを考えるね。
「朝も言いましたが、無駄なことはやめてもらえます?テストは学生が避けようとしても通る道です。逃げたところで、何にもなりませんよ。……大丈夫です。2週間ありますから。2週間あれば、国語、数学、社会、外国語、魔法学など、簡単ですよ」
確かに、その5教科しかないし。
今、思ったけど、魔法学って、『チキュウ』の『リカ』に近いのかもしれない。
なら、『リカ』がないことに納得だ。
「ねぇ、いつ帰れるかなぁ」
「分からない~。でも、先生が論破するのを待つしか、ないんじゃない?」
確かに。
「というか、よくこんなこと思いつくよね~」
「うんうん。テストって、延ばせば延ばすだけだけヤバいことにならない?」
私は共通学校にも行っていなかったのでよく分かりませんが。
でも、先延ばししたら、余計にテスト範囲が増えて、大変になるだけだね、確かに。
この世界に『わーく』なんていう、便利な道具はないからひたすら教科書を読みまくって、過去問を解きまくるしか、方法がないのだ。
「うるっせぇ、紫月姉妹!」
うわ、怒鳴られた。
私、何も言っていないのに。
陽華と夢華の会話を聞いていただけなのに。
「八つ当たりはやめてほしいです~」
「そうそう。あがいても意味ないから、さっさと覚悟を決めちゃったほうが良いよ?」
「この時間をテスト勉強に使えるしね~。ね、津城つむぎちゃん~?」
「ほぁっ!は、はいっ!」
ちょっとびっくりしたような、そんな声が響く。
……あの子だ。優等生の子。
津城つむぎさんっていうんだ。
初めて知った。
「見習ったほうが良いんじゃないんですか?だって、今、勉強してましたよ?」
へぇ。
努力家なんだ。
だけど、少し困ったような、焦ったような表情をしている。
「えっと、その……すみません」
「……別にかまいませんよ。くだらないやり取りでしたからね。時間の有効活用と言うヤツです」
よかったですね~。
時間の有効活用と認められて。
「あ、ありがとうございます……!」
パッと顔は明るくなり、席に着いた。
「というわけで、今日はこのあたりでいいですか?じゃ、さよなら」
先生はそう告げた。
学生の天敵、テスト。
テストは辛いですよね……
だけど、逃げられないんです……
学生の余命宣告……。




