21 決着
大きく、魔剣を振りかぶる。
……これで、終わり、だ。
「甘いんだよっ!」
え……。
「これくらいで勝ったと思うな!」
バッと振り向いた先生の手には魔剣が握られていた。
なんで……。
魔剣は、その名の通り、魔法の剣だ。
意志を持ち、自身で使い手を選ぶ、強い剣。大体はダンジョンのかなり奥とかにあると聞く。
ダンジョンは大体10階層ぐらいしか攻略できないので、魔剣を取りに行けるのは、非常に稀だ。
だからこそ、私は魔剣を魔法で作り出した。
「魔法で魔剣を作ることぐらい、簡単なんだよ」
そう言われ、先生は魔剣を振り下ろした。
私は、ギリギリのところ、防御する。
そして、魔剣を先生の方へ、思いっきり投げた。
「マージア・エスプロジオーネ!」
魔法爆発。
魔法で作られた魔剣は、爆発する。
先生は、爆風のど真ん中にいた。
私も、爆風に巻き込まれる。
……陽華のカウントも聞こえない。
この爆風に、巻き込まれちゃったかな?
盾、消滅しちゃっていたし。
そして、カラン、カランと、授業終了を知らせる鐘がなる。
私は、そのまま地面に倒れ込んで、意識が沈んでいった。
**
「……さん?」
誰かが、私を呼んでいる。
「……華さん、起きてください」
「……ミア……まじゅつしを……どうおもい、ますか……?」
それより、もう少し、寝させてください……。
だって、私、頑張ったんですよ?
魔法制限のある中、一生懸命考えて。
魔法を、想像させて。
「……ミア、ほめて……ほめて、ください……」
「私はミアさんではありませんが、稜華さんは頑張ったと思いますよ。……先輩を相手に」
え?
「……先生?」
「はい。ヘリコニアです。私のことが分かりますか?」
「は、はいっ!」
私は飛び起きる。
目の前には、研究者先生がいた。
……寝言、言ってなかったかな?
大丈夫だろうか。
ここは……実技場っぽい。
雪景色だったの実技場は元の実技場に戻っていた。
「大丈夫ですか?せ……トランクイリタ先生の初回授業、かなり拮抗していた様ですが」
確かに、辺りはかなりひどいことになっている。
壁や床は傷つき、あちこちが煤汚れている。
……私が、魔法を爆発させたからだ。
でも、Aランク魔法を使った後よりはマシな状態だから、Bランク魔法だったのだろう、きっと。
だったら、魔法制限にも引っかかっていないはずだ。
「……大丈夫、です。勝敗は?」
「私は見ていないので知りませんよ。2限目の授業が始まったのに、1年桜組がいないだの、先輩の授業なのに先輩がいないだの、苦情がきたからです。全く、何で私は使い走りにならないといけないんでしょうね」
「……先輩、とは?」
研究者先生が口に出している先輩、とは誰のこと、なのだろう。
「……そこにいる、トランクイリタ・オンブラのことですよ」
なるほど。
先輩・後輩の関係だったのか。
「……彼は、私の先輩だったんです。1度、助けられたのですよ、彼に。私が学園を退学させられそうになった時、今まではずっと、無関心、という感じだったのに、あの時は、動いてくださったんです。……当時の王子に、掛け合って下さって」
なるほど。
つまり、研究者先生の恩人ってことか。
「今、思えば、かなり無理をしていたのでしょうね。……貴女は、もう知っているのではないですか?あの人に、裏表があることを」
要するに、あの丁寧な口調とめちゃくちゃ崩れた口調の時、ということだろう。
「それから、貴族に少しだけ、睨まれる様になってしまいました。きっと、裏で動いていたことがバレてしまったのでしょう。まだ、2年生だったのに。私が、彼に迷惑をかけてしまった」
「……迷惑なんかじゃ、なかったかもしれませんよ?」
だって。
「今まで、無関心だったんですよね?それなのに動いたということは、我慢の限界とか、見過ごせない、と思ったんじゃないんですか?」
「そう……なのでしょうか」
「実際は、本人じゃないとわかりませんけど。何かしら、吹っ切れたんじゃないんですか?」
人の心は、よく分からない。
時々、理解不能の動きをすることがある。
「恋、じゃないですか~?」
「陽華?」
いつの間に。
少し前までは寝ていたと思っていたのに。
しかも、魔力もそこをついていただろうし。
「それまでに、トランクイリタ先生の心を動かすことがあったんじゃないですか~?恋とか~。すごくキュンキュンしちゃいます~。貴族が優遇される中、理不尽に屈していた2人が秘密の逢瀬を重ね、いつしかそれは恋に変わっていた……すごくいいです~」
「ちょ、陽華……」
「え?何か間違ってた~?あ、先生は元貴族でしたか~?」
陽華、妄想を膨らませすぎ、と言いおうとしたけど。
研究者先生は、何かを考え込んでいた。
「……私は元貴族ではありませんよ」
「なら、良かったです~。話の整合性が取れます~」
「陽華、そうじゃなくて、その小説みたいな話は……」
「稜華さん、構いませんよ」
「え?」
研究者先生の顔は、少しだけ、赤かった気がする。
少しだけ、私達から目を逸らした。
「あながち、間違っていないかもしれません」
そ、それはそれでどういうことだ……?
「プシッタコルム!弟子を起こしたならさっさとこっちを手伝え!」
トランクイリタ先生が、研究者先生に大声で呼びかける。
「先輩!無茶言わないでください!私は、ただ、弟子が正常か、確かめていただけです!こうなったのは、先輩のせいですからね!私の研究時間と素材、あと、アイデア!返してください!」
「知るかっ!」
研究者先生の口調が、少しだけ、幼くなった気がした。
いつもの、落ち着いた口調じゃなくて、親しい人に言うような、そんな口調に。
「なら、私は手伝いません!」
「あー、分かった。希少素材を」
「いくつですか?」
食いつく様に研究者先生が問う。
「1つだ」
「ダメです」
「2つ」
研究者先生は無言を貫く。
その間、トランクイリタ先生はどんどん数を上げていく。
「……10。これが限界だ」
「しょうがないですね。希少素材10個で」
「なら、さっさとこっちに来い」
「分かりました」
研究者先生は立ち上がると、白衣の裾を少し払った。
そして、私たちに振り返る。
「2人とも、ありがとうございます。……私では、思いもよらないことを教えて頂いて」
そ、そうですか。
「……先輩に名前で呼べとは言いましたが……何年前のことで、何年後に、そう呼び始めたんですか」
そう、ぼそっと呟いた。
研究者先生の耳は、少し、いやかなり赤かった。
そのまま、トランクイリタ先生の方に行く。
「……陽華」
これからどうしよう?
そう問う前に、陽華が声にならない悲鳴をあげる。
「ねぇ、稜華、これって、恋愛フラグだよね~!?」
小声ながら、陽華が興奮していることがわかる。
私にはその恋愛フラグとやらが全く分からないんだが。
「うんうん、陽華ちゃんのいう通りだよ。これ、すごく萌える!」
「夢華もそう思う~!?やっぱ、そうだよね~!?」
いつの間にか起きていた夢華も陽華のテンションになっている。
いつもなら、話がちゃんとわかるのに、なぜか分からないという謎の事態になっている。
「あり得そうだよね!お前とか、コイツとか言われたのにイラついて、名前で呼べって言ったのに、苗字呼びだった。だけど、実際、心の中では名前呼びだったっていう!」
「夢華、なんていうことを妄想するの~!?そんな、そんなことが現実で~」
「現実で起きているよ、陽華ちゃん!」
……全く話がわからん。
どこに萌える要素があるんだか。
「無自覚を拗らせちゃったのかな~。無自覚のままでいたけど、ある日突然気がついてしまい、目を合わせることもできなくなるっていう~」
「それもいいけど、自覚した後、アタックするのもいいよ!」
「「稜華ちゃんはどう思う!?」
……ゴメン、私には何一つわからなかった。
ただ、2人は先輩・後輩ということだよね?
「陽華ちゃん、稜華ちゃんは分かっていないみたい」
「そんな~。こんな萌える話がこんな近くにあるのに~」
「あ、もしかして稜華ちゃんも無自覚タイプ!?」
「あり得る~!稜華ちゃんに恋しちゃった子は大変そう~」
恋。恋?
「……恋って、何?」
「その人に会うと、心臓がめちゃくちゃバクバク言って」
「だけど、一緒にいたいって思うんだよ~」
は??
「稜華ちゃんはそう感じたことはないの?」
「え……でも、人と話すときはいつも緊張して、恥ずかしくなって、心臓はバクバク言っているけど。あ、あとは飛華と風華、美華、陽華、夢華とは一緒にいたいって思うよ?でも、恋っていうのは、両方が起こらないといけないんでしょ?その場合、両方の条件が満たされることはないけど……」
「そういう計算とか、理論的なことじゃないの~。感覚で、感じるんだよ~」
……なるほど?
「陽華ちゃん、稜華ちゃんは分かっていないよ?」
「そんな~。でも、いつかあるんじゃないかな~?ドキドキして、ずっと一緒にいたいという人に会う時が~!」
「もう、陽華ちゃんったら~。そんな恥ずかしいことを言わないでよ~」
「夢華が恥ずかしがってどうするの~?」
「どうしよう~?」
……ゴメン、ホントに私、分かんない。
勝負の決着、過去との決着……などなど。
ヘリコニアが最初に起こしたのはトランクイリタ。次に稜華です。
ヘリコニアは実技場の惨状に絶句しました。だって、人がたくさん倒れていたから。ビックリです。
いつか、稜華が恋をわかる様になればいいですね〜。ただ、自分の気持ちに自信を持てないだけのです。




