19 コイツらは、鬼才だ。
結局、あの後、ヘリコニアが退学することはなかった。
王子がどう手を回したのかは知らないが、いつの間にか事態は鎮火していた。それくらい、見事な手腕だった。
当然、その後、俺は闇世界を追放された。
家族という名の存在からは絶縁され、闇世界のことを話さないよう、契約魔法を結ばされた。
その契約魔法は、ずっと俺の身に染み付いている。
少しでも口に出そうとしたりすると、契約魔法は俺を苦しめる。
その魔法には、闇世界を露出させないという、強い意志があるようだった。
卒業間近、俺を教師へ推薦した変人教師。翌年にはヘリコニアを教師へと推薦した。
嫌われ者で下っ端のあの教師が、なぜ2年連続で生徒を教師へと推薦できたのかが不思議だ。
Dクラスで、成績を改竄されていた俺たちを。
ヘリコニアが卒業した後は教師をやめて、王城の魔法師になった。
魔法師の中で最も権力が大きく、変人教師の師匠が就いていた筆頭魔法師に続く、第二位魔法師に。
そして、あの王子が卒業して5年後。
俺が教師になって、4年目のことだ。
王が、突然死去した。
表向きは病死となっているが、実際はアイツと変人教師、それとその師匠が一枚噛んでいることはたやすく想像できた。何せ、変人教師も王城にいたことだし。
暗殺か、それとも毒殺か。それは、分からなかった。
どれだけ調べようとしても調べられず、情報も出てこなかった。
そして間も無くして、あの王子は王位を継ぐ。即位と同じタイミングで、変人教師の師匠は筆頭魔法師の座を降りた。
その後は当然のように変人教師が筆頭魔法師となった。
その3年後、つまり今から4年前に貴族制度は廃止。
俺は正直なところ、もっと混乱が起こると思っていたが、それほどでもなかった。
多分、アイツが裏で根回しをしていたのだろう。
貴族以外の対応は速やかだった。
貴族の専属だった商店は速やかに契約を切るところが多数だった。
商人とは、利と利で結ばれるもの。当然だろう。
混乱がひと段落した時。アイツはこっそりと来た。
ただの、教師でしかない俺のところに。
ただの、平凡な一国民の元に。
そして、命令口調で言った。
ただ、学生時代より、幾分かは口が良くなっていた。
約束通り、君を側近に向か入れる──、と。
まさか、律儀に守るとは、思わなかった。
ただの、冗談だと思っていた。
学生時代の、ちょっとした気の迷いだと。そう、思っていた。
君は、ヘリコニアと同じく、100年に1度の天才だ──。
そう、言った。
ただの、闇世界の住人であった俺に。
その世界にすら追放され、何も持っていない、ただのトランクイリタ・オンブラに。
ヘリコニア達のような、才能を持っていない、ただの凡人に。
あの王子も今ではなんだかんだ言って立派な王様をやっている。
一応、俺も側近だが、公にはただの一教師でしかない。ただ、学園の治安を守るという役目を課されている。と言っても、新入生のプライドをへし折ることぐらいしか、やることはないが。
何とか、毎年の新入生プライドはへし折ってきた。もちろん、紫月姉妹も含め。
もちろん、魔法制限は3つ子と同じ様に付けさせてもらった。
じゃないと、やる意味がなくなる。
話は逸れたが、マジで紫月姉妹はヤバい。
今、考えればヘリコニアや変人教師はまだマシな方だ。
だが、コイツら紫月姉妹は違う。
なんでこんな化け物級のやつがこんなにいるんだよ、と言いたい。
紫月飛華だけでも、ヤバいと思った。
これ以上、ビビることはないだろうな、とも思った。
が。
どういうことだ!?
なんで、翌年に同レベルのやつが2人も入学してくる!?
その翌年は3人だと!?
しかも6人は姉妹?
ふざけんなって、叫びたい。
真面目に努力している奴らを、平然と、涼しい顔で超えていく。プライドを、へし折っていく。
コイツらは、鬼才だ。
鬼才の、持ち主だ。
きっと、俺みたいな凡人が挑むべき相手ではないのだろう。
立っている場所が、違うのだろう。
元々の素質が、高いのだろう。
魔法制限があるからこそ、対等に渡り合えているように見える。
だが、魔法制限がなければ、俺はすぐに負けているのだろう。
だけど。
時々、そんな壁なんて、無くなってしまえって思う。
「お前ら、纏めてプライドへし折ってやる!」
それが、アイツからの指令だから。
新入生のプライドをへし折るのが、俺の仕事だから。
だけど、それ以上に。
負けたくない。
その気持ちが、強かった。
**
「お前ら、纏めてプライドへし折ってやる!」
おおぅ。
怖っ。
というか、もう既に3分の2の魔法が解除されてたりして、無となっている。
まだまだ魔力はあるから大丈夫だけど。
「負けたくないです〜!」
「私たちは、勝ちたいからっ!」
「「稜華ちゃん、頑張って!」
結局、人任せか〜い!
別に……別に、大丈夫ですけど。
「稜華ちゃん、安心して!私の魔力の8割を稜華ちゃんの補助に回すからっ!」
「私も、盾の維持、頑張る〜」
2人とも、ありがとうございます。
私も精一杯頑張ります。
えっと、1万×3分の2は……3000ぐらい?
やばい、かなり魔法が消されちゃっている。
「情報強化」
強化魔法、かけたっけ?
まぁ、強化したところに強化したところで、より強化になるだけだし、いいよね。
とりあえず、1番最後になるやつを残った魔力を全部使う勢いで強化して、強化して、強化しまくろう。
うん、そうしよう。
夢華の補助のおかげで魔法を使っても魔力負担がかなり少ない。
その分、陽華には大変な思いをさせちゃっているけど。
「稜華は攻撃魔法に集中しちゃっていいよ〜!」
では、お言葉に甘えて。
同じ魔法が続くと、どうしても効率的に解除されるようになってしまう。
そういう時、どうすればいいか。
そんなの、簡単だ。
変化球を入れればいい。
さて、何を突っ込もうか。
流星群の魔法だから……月とかが、綺麗かなぁ。
よし、決めた。
「月よ〜!ででこいっ!」
ボン、と魔法によって月が現れる。
月って、星の1つだよね。
隕石みたいに、突っ込んできたら、結構慌てるかもしれない。
ちなみにこれもDランク魔法だ。
景色を変えるだけの魔法。
「情報操作」
魔法を魔法で操作する。
流星群よりは強力だし、結構、解除するのにも時間がいるかもしれない。
その間に、別の魔法を放てば。
何とかなるはずだ。
残りの流星群は、5分の1。
授業終了まであと2分──。
「稜華ちゃん、先生の魔法解除のスピード、上がっていない?」
「うん。かなりやっているから、コツとか法則とかが分っちゃっているんだと思う。変化球を入れないと、危ないかな」
3分間で5分の4を解除された。
残りは、2000個、のはずだ。
となると、1分間に1000の魔法を解除する速さ以上で解除されていくだろう。
3分間で8000の魔法を解除された。1分間に、1000以上のスピードだ。
つまり、全ての流星群は解除されてしまうと考えていいだろう。
「夢華〜、攻撃魔法を稜華の魔法に付与できる〜?」
「ん〜、できないことはないと思うけど。威力は飛華ちゃんに劣るからね?どんな魔法がいい?」
星が落ちてくる時、『ジュウリョク』によって、燃えている。
「まずは、氷系で。その次に、色んな魔法をたくさん付与してもらえると助かる」
「りょ〜かい!」
真逆の魔法を付与すれば、結構行けるかもしれない。
だって、流星群って、ものすごく燃えているじゃない?
だから、魔法を解除する時、絶対に流星群を冷やしてから解除していると思うんだよね。
その方が効率、いいから。
冷やす時は、氷系の魔法を使っていると思う。だから、氷系の魔法を付与してもらえれば、二重がけとなって、解除に時間がかかるはずだ。
「魔法付与!」
夢華の詠唱が響き、そして流星群に魔法が付与される。
残っている流星群はあと600個。
たかが600個。
だけど、私が本気で強化して、夢華が魔法付与した、精鋭の600個。
授業終了まで、あと1分──。
鬼才・天才・秀才の区別はなかなか難しいですが、本作の定義は
鬼才→6姉妹
天才→超凄い
秀才→努力型
みたいな感じにしておきます。




