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16 流星群

勝たないと。




勝たないと、皆が悲しむ。




陽華が、夢華が、悲しむから。




私は、勝つ魔法を出さないと、放たないと、いけないから。











「流星群……ッ!」











……これで、大丈夫かな。

それ以上、立っていることができなくなり、バタリ、と地面に倒れてしまう。

仰向けに。

青い空は、徐々に赤みを帯びて、暗くなって。


辺りが、夜に包まれる。


視界いっぱいに、夜空が広がる。


無数の星が美しく輝いた。


キラキラと、綺麗に。


無数の星が、星座を造っている。


この魔法は本来、その場の景色を変えるのに用いられる魔法だ。


例えば、夜空が好きな人が。


例えば、星が好きな人が。


例えば、ロマンチックな景色にしたいときに。


そんな時に、使う魔法だ。

攻撃性など、ないに等しい。


……あたりの温度が、変化する。

先生の、魔法だ。

急に寒くなったり、熱くなったり。



「今日は、流星群が見えるでしょう。そして……」


そして。


「トランクイリタ先生を、攻撃するでしょう……」



天気を予報しているみたい。

星は、輝いている。


「わぁ……」

「すごい……」


陽華と夢華も、見惚れてる。

……一応今、勝負の最中だからね?

私はポケットから魔力を回復させる錠剤を取り出し、口に入れる。

これも一応、研究者として持っておくべきアイテムの1つだ。

研究室に入ったときに研究者先生に貰った。

実験を連続でやり過ぎて魔力が足りなくなった時のための応急処置。


ただ、子供の服用はあまり進められていない。

耐性ができてしまって、将来的に効かなくなるのを防ぐためだ。

まぁ、私はこれだけじゃ完全に回復なんてできないけどね。

こういうところは魔力貯蓄量が多いと不利だ。

魔力が回復したのを確認し、立ち上がる。

……さて。


「私の魔法を、ご堪能ください。……マージア・イニーツィオ」


その言葉と共に、星はより一層強く輝く。

そして、たくさんの星が、雨のように降り注ぐ。


……トランクイリタ先生に、向かって。


1つ1つは無力な星だ。たくさんの魔法でできた、たくさんの星。

ただ、宇宙に浮いているだけの星。

だけど、星の数だけ、魔法がある。

星の数だけ、魔法を発動した。

それを、自由自在に動かせたら?

昔、そんな洒落たことを考えた人がいるのだろう。



私は、その魔法を使っただけだ。

たかが、Dランク魔法。

日常レベルの魔法だ。

威力など、ないに等しい。

むしろ、観賞用と言っていいだろう。

だけど、自由に動かせたら。


「ものすごい力になりますよね」


先生が自分に向かってきていると感じた時にはもう手遅れだ。

軌道を変えることも、流星群を消すことも難しい。

私達の勝ちは、ほぼ確定、だ。


「……チッ……。ヤバいな……」


めっちゃ丁寧に話していた先生が言葉遣いを崩しましたね。

相当動揺してイラついているのでしょう。


「……魔法解除」


温度が、元に戻る。

寒すぎず、暑すぎず、だ。

流石にこれだけの魔法を消すのに、他の魔法を維持するのは難しいだろう。


「陽華と夢華は引き続き、防御をお願い」


私は、流星群の方に、多く魔力を割かないといけないから。

どうしても、防御は緩くなってしまう。


「りょーかい〜!」

「無理しすぎないでね」

「分かってる」


それだけ答えると、魔法に集中する。

今、私が展開している流星群の魔法は、1万個。

1つ1つに使う魔力はかなり少ないし、私のほぼ全ての魔力をつぎ込んだら、これくらいだろう。

さっき、魔力を少しだけ回復させたし、魔力をこめることぐらい、大丈夫だろう。

そう考えている間にもどんどん魔法解除を進められている。


「情報強化」


魔法という【情報】を、魔法で強化する。

さて、純粋な魔力勝負。

果たして、勝つのはどっちかな?

授業終了まで、あと5分──。






**






「クソが……」


めちゃくちゃ面倒な事をしやがって。

普通に使えば観賞用にしかならない魔法をこんな攻撃魔法に転じさせるとか、尋常じゃない。

……いや、尋常じゃなくて、当然か。

何せ、()()紫月姉妹だ。

今、3年の紫月飛華が入学してきた時でさえ、かなり騒ぎになった。

あの時まだ、貴族という階級がなくなって間もなかったから、かなり混乱が起きた。


あの年はまだ、実力が伴わない元貴族がたくさんいた。

元貴族に文句をつけられても決闘でボコボコに叩き潰して黙らせた。

むしろ、見ているこっちの方がヒヤヒヤしたほどだ。本人はケロッとしていたが。

あいつは、1万年に1度の鬼才。

そうとでも、考えたことがある。

それくらい、紫月飛華はすごいヤツだ。



同僚のヘリコニアも在学時、Dクラスながら、100年に1度の天才と知られていたが、紫月飛華は絶対にそれ以上だ。

まぁ、あの時とは、時代も環境も違うんだが。

在学当時、ヘリコニアは貴族に妬まれ、かなり酷い嫌がらせだの、なんだのされていた。

あの時の学園は、間違いなく腐っていた。

学園には貴族とその取り巻きばかり。

どんなに魔法能力が高くても、貴族でなければ、よくてDクラス、魔法学校に行くヤツも、少なくなかった。



そんなヘリコニアとの出会いは、2年生の時。

風の噂では知っていた。

まぁ、その風の噂というのも半信半疑ぐらいがちょうどいいぐらいの精度だった。

王子に刃向かった貴族が処分されただの、王子が貴族でない奴を優遇しているとか、そんな感じだった。どちらにせよ、身分が高い奴の話が多かった。

そんな中、貴族でないヘリコニアの話は、異色を放っていた。

ヘリコニアのことは、話から推測するに、天才なんだな、とも思ったし、努力しているんだな、とも思ったし、それが自分の身を滅ぼすんだろうな、と思った。

貴族ばかりの場で実力を示し、反感を買っていることも知っていた。だけど、何も俺はしなかった。


何かしたって、無駄だって、わかっていた。


どうせ、テストでも100点を取ったって、50点の貴族のせいで最下位になることもある。

酷い時は、カンニングを疑われて0点にされたこともあった。

カンニングしたのは、そっちじゃねぇの──そう思ったこともある。

だけど、それに懲りて、1年生の夏ぐらいからは表面上だけ、貴族どもに従っているように見せた。

だけど、ヘリコニアは実力を隠したりしなかった。だから、ヘリコニアへの嫌がらせはエスカレートしていたらしい。


そんな中、アイツの味方になってくれる教師は、1人しかいなかった。

深緋の髪に深緑の瞳をしていた、教師だった。

その教師は変人と呼ばれているほどの研究好きで、授業をしにこないこともしばしばあった。そのたび、俺は使い走りにされ、呼びに行った。

そこで、ヘリコニアに初めて会った。



韓紅の髪は傷んでいたし、目の下にはクマもできていた。

……まぁ、これは今とあまり変わらないな。

だけど、黄橙の瞳は、キラキラと光っていた。

俺にとって、あの変人教師は変人教師だったけど、ヘリコニアにとっては大きな存在だったのだろう。

研究という、逃げ場と楽しみを与えたから。

変人教師に授業だと伝えると、研究のキリがつくまで待てと言われた。

その時、ヘリコニアは研究助手の役目が終わったみたいで、暇をしていた。

そして、聞かれる。


「先輩、馬鹿に馬鹿にされて、使い走りにされて、悔しくないんですか?」


ヘリコニアから見れば、俺の行動は不思議で仕方なかったのだろう。

だけど。


「悔しい悔しくないの前に、現実が来る」


それは、ずっと思ってきたことだった。

現実は、どんな夢も、覚ましてくれていた。






現実は、何よりも残酷だった。






「悔しいと言えば、悔しいのだろう。だけど、俺達ができることなどない。ただ、世間の波に乗らないと、死ぬ。それだけだ」


俺から見れば、ヘリコニアの方が不思議だった。

なんで、自分の実力を示そうとするのか、と。

なんで、そんなに平気でいられるのか、と。

今思えば、研究があったからだろう。

生憎、俺に楽しみなどなかった。


ただ、魔法能力が高かったから、魔法学園に入った。ただ、それだけ。

なりたいモノも、憧れていたモノもなかった。

ただ、目の前のことが無機質に、黒白の状態で通り過ぎていた。

教師になったのも、この変人教師に推薦されたからだ。


「先輩は現実主義者なんですね〜」


アイツは、どこまでも呑気だった。

その後も、変人教師を呼びに行く度に一言二言、会話した。

アイツの世界は、色とりどりだった。……辛いことが多かったのに、だ。

俺は、それが少しだけ羨ましかった。

ヘリコニアと話す時間は、楽しかった。

その時間は、かなり有意義、だったのかもしれない。

どうやっても上がらない成績と、聞くだけ無駄な授業。

それらが、潰れたのだから。


変人教師を連れて帰らないと授業は進まない。だけど、変人教師の研究にカタがつくのは大体、授業終わりだった。

俺は授業を聞いていなくても、教科書を読めば大体のことがわかったし。

だから、別に苦労なんてしていない。

俺はその時間、教室になんて戻らず、研究室にいた。

クラスの元貴族は授業内容が分からず、成績を落とす。

それはそれで、いい気味だったし、ささやかな、日頃の仕返しだった。

俺が変人教師の研究室にいる時、ヘリコニアも研究室にいた。

……今考えると、アイツ、かなり問題だな。

だけど、それもそれでまた良くて。

変人教師の授業の時間を、俺は楽しみにしていた。

ひたすら無機質で黒白だった世界が、少しだけ色鮮やかになっていく。


白くしか発光しない流星群が、少しだけ、金色が混じるようだった。


そんな日々が過ぎて、半年ほど過ぎた日。

まだまだ、寒さが厳しい、冬休み直前だった。

俺の主面あるじつらをしてるヤツから、命令が降りた。











ヘリコニアを魔法学園から退学させろ、と──。

後半は不穏な流れですが……

流星群は自分の目で見てみたいですよね。現代日本だとなかなか難しいですが……

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