13 授業初日
「ヤバい。マジでヤバいです」
「ヤバいどころじゃないでしょう、稜華さん。早くしないと朝ごはんが食べれませんよ?あ、栄養だけは取れるやつと空腹が満たされるやつ、食べますか?」
「食べます。ください。恵んでください」
「わかりました。では、今日の午後、時間をください」
「了解です」
私は差し出された2種類クッキーを口に放り込んだ。
口の中に、苦味とパサパサ感が広がる。これが栄養補給の方だ。
後から空腹は満たされる、ねっとりとした重い味が広がる。
この2つは大体の研究者が常備している。だって、便利なんだもん。
私は学園に来てまで研究をするとは考えてもいなかったから持ってきていなかった。
あとで家から取ってこないとだ。
出席確認まで、あと5分……。
ギリギリ間に合う、かな。
こんなことになった理由は至ってシンプル、だ。
寝過ごした。
週末は、というか、先週は研究室にずっといて、徹夜とか、泊まり込みも珍しくはなかった。
明日から授業ですか。めんどくさいですね、という先生らしからぬ発言によって、日付感覚と曜日感覚が消えていた私はヤバい、と焦った。
あと少しで、詳細くんの魔法式ができるところだったから。
頑張って頑張って。夜明けと同時に完成した。
その時、既に2徹だったんだよね。
そのままグーっと寝た。
そう、寝てしまった。
寝落ちしながら改良案、設計、魔法式までできたから詳細くんを再現したいなー、でも、素材がないから無理かなぁ、でも作りたい。なんでこんな凄いものをあそこまで老朽化させたんだか。私には理解ができない……などなど考え。
朝、授業で使う器具を取りにきた研究者先生に発見され。叩き起こされ。現在に至る。
「稜華さん、しっかり制服は着てきてくださいね」
「分かってます」
実験とかで制服が汚れたら嫌だから、私服の上に白衣を着ていたんだよね。
別に、授業の時に制服を着ていればいいから。それ以外の時は私服でもいいと言われた。
制服、高いし。
だから、1度、寮の部屋に戻って着替えないといけない。
「あと、しっかりお風呂に入ってくださいね?何日間、入っていないんですか?」
「覚えてません。だけど、そんな時間ないんですけど」
この際、魔法で済ませよう。
情報洗浄の魔法を自分にかければ、問題ない。
「あと、忘れ物がないように……」
「やることを積み上げないでくださいよっ!」
あと3分しかないのに。
危機的すぎる。
「大丈夫です。私は間に合いました。5回に1回の確率で」
「ほとんど間に合ってないじゃないですかっ」
まじめに焦っている。あと3分だ。
研究室内が片付けられたことを確認して、白衣を椅子にかける。
「私は何がなんでも間に合います。間に合わせます。……寮の部屋に転移」
そう、私には転移魔法があるから、どうにかなるはずだ。
壁にかかったハンガーから制服をとり、着る。
服を畳む時間はないから、とりあえずタンスの中の放り込んでおいた。
というか、忘れ物ってないよね。
この世界は謎なところが最新鋭で、教科書類はデジタルだったりする。
魔法でデータを内蔵させて……という、謎な技術だ。うん、後で作ろう。仕組みが不思議すぎる。
名前は『たぶれっと』もどき、通称、デジタルくん、だ。
やっぱ、この世界、ネーミングセンスない。
「……教室に転移」
よし、間に合う。
私は教室の扉をガラッと開けると、席に座る。
うん、セーフ。私は間に合った。
「おはよう、稜華ちゃん」
後ろにいた夢華が話しかけてくる。
……会うの、3日ぶりかも。
「よく間に合ったね〜」
「かなりギリギリだよ。転移魔法がなければ危なかった」
ホント、転移魔法には感謝、だよ。
転移魔法を考えてた人にも。
それにしても色々な視線が向けられている、と感じる。
「興味、奇異、好奇、警戒、探りを入れる、品定め……こんな感じかな。陽華ちゃん、稜華ちゃん」
「そうだね〜」
あんまり大声で言うことではないけどね。
実際、そのような視線を投げかけられているのは事実だ。
かなり無遠慮で、お世辞にもいい心地が良いとは言えない。
まぁ、心当たりはある。
紫月姉妹。希少属性。基礎魔法力検査に出なかった。朝、ギリギリで駆け込んでくる。
こんなところだろう。
そこへ、鐘が鳴り、研究者先生が入ってくる。
時計を見ても出席確認の時間だ。
「遅刻・欠席者はいませんね」
教室を見渡し、そう告げる。
私、間に合いましたもんね。
「さて、今日から本格的に授業が始まります。先週までお遊び半分の基礎魔法力検査をしていましたが、今日からは違います。くれぐれも舐めないように」
マジか。お遊び半分って言っちゃうのか。
教室内もざわついている。
だけど、次第に静かになる。……研究者先生の、刺すような冷たい視線によって。
睨まれたら凍ってしまいそうな、絶対零度の視線だ。
「基礎魔法力検査の順位が出ましたので、廊下に掲示してあります。それぞれ100点満点、総合300点満点です。魔力、魔法力、魔力貯蓄量、総合だけですが。これからの努力次第で皆さんの成績は上がったり、下がったりすると思います」
まぁ、属性と適性魔法はそれぞれ違うから、点数のつけようがないもんね。
「油断だけは、しないように。来年、別のクラスに行く生徒が出ないように祈ります」
なんか、すごく先生っぽい。
カッコいい。研究者先生もこんなことができたんだ……。
「ちなみに学年1位はこのクラスにいますよ」
それだけ言うと教室を出ていった。
教室は一気に騒がしくなる。
その大半が研究者先生への文句だ。
偉そうだ、とか、ただの教師分際のくせに、とか。
だけど、1位って誰だよ、と言う声も多い。
憤慨と、興奮、期待。
それが入り混じったような感じだ。
まぁ、そんなわけで基礎魔法力検査期間も無事に?終わり、今日から授業が始まる。
基礎魔法力検査期間、私たちは研究者先生の研究室でひたすら研究のお手伝いとその辺の器具をイジらせてもらったり、資料を読んでただけなんだけどね。でも、かなり有意義だったと思う。
少なくとも、つまらなそうな顔合わせとやらをやるよりは。
後半、陽華と夢華はあきかけていたけど。
ところで学1は誰だったんだろうね。
あ、学1は学年1位の略称ね。
「学年1位、3人だぞ!」
……は?
それって、同点っていうこと?
「しかも4位とは大きく差があるっ!」
あ、3人が1位だからか。
世の中には凄い人がいるんだね。
この分じゃ、私はちょっと無理かなぁ。
「魔力、魔法力、魔力貯蓄量のトップもその3人で総なめ!」
え?
その人たち、ヤバくない?
ものすごい人がいるよ。
「名前順で呼びま~す!総合、同点1位、298点っ!」
あ、そうしないと何の順番かって言われちゃうもんね。
それにしても298点って凄いね。
「紫月稜華、紫月夢華、紫月陽華っ!」
……はい?
「4位との差は48点!圧倒的強者ですっ」
「続いて、魔力分野1位っ!100点満点、紫月陽華、次いで99点、紫月稜華、紫月夢華っ!」
「魔法力分野1位、100点満点、紫月稜華、続いて99点、紫月夢華、紫月陽華っ!」
「魔力貯蓄量分野、1位!満点、紫月夢華、2位、99点、紫月稜華、紫月陽華!」
「紫月姉妹で、トップ3を総なめですっ!」
え~っと……これは……どういうこと、なのかなぁ?
聞いていた情報によると私は平均らしいんだけど……。
そこへ、1人の先生?が入ってくる。
「そろそろ授業が始まります。さっさと席についてください」
「何の授業ですか~?」
誰かが聞く。
教科は国語、社会の歴史・地理、数学、外国語、魔法学が主要教科で副教科として音楽、体育がある。
『ニッポン』の学校と、あまり変わらないよね。『リカ』がないこと以外。
3年生になると国語の現代文・古典、社会の政治経済・世界史、数学、外国語、魔法学が主要教科となって、音楽、体育が副教科となる。
『ニッポン』の『コウコウ』に似ているよね。
「……それくらい、自分で把握してください。魔法学ですよ。魔法が使えると調子に乗り、事故を起こすのを防ぐためです」
うわぁ、メッチャ現実的だわ。
魔法学園はエリート集団。
調子に乗ってしまうと危険ですからね。




