1 伝説が始まる前の話
「私達の伝説はまだ序章です!」
このセリフを、1度は聞いたことがあるだろう。どこからでもなく広まった、有名なセリフである。
皆様はこの言葉を言った人物を知っているだろうか。
知る人ぞ知る、とある姉妹のセリフである。
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「稜華、本気?」
「うん……」
藤色のロング髪をハーフアップにした姉・飛華の問いかけに妹・稜華は短く応じる。
飛華の風貌は活発そうな、運動ができる少女、だろうか。
朝日に照らされ、内巻きの髪は白く反射する。
「……とりあえず、今日だけ……。明日からは、今日を見て、考える……」
稜華の目はとろんとしていて、まだ半分寝ているようだ。
実際、つい先ほどまで寝ていたのだから、まぁ、しょうがない……だろう。
しかし、稜華は多分、学園に行きたくないと思っているだろう。
だが、授業に出てくれる?とお願いされている稜華にノーという選択肢はなかった。
飛華はそのことを知らない。だから自発的に学園に行ってくれるようになった、と内心、喜んでいた。
これで、姉妹でアオハルできる!と。
「そっか。あ、じゃあ、私が髪を結おうか?」
「……いい」
この場合のいいは遠慮するほうのいいである。
飛華は稜華の言葉の意図を読み取り、出しかけていた手を引っ込めた。
稜華は藤紫のスーパーロングと呼ばれる長さの髪を軽く梳かすだけに終わった。
しかし、寝ぐせを取り切れず、少しだけウェーブしている。
壁には、真新しい制服がかかっていた。
群青色のブラザーと、同じ青系統のチェックのスカート。胸元には、校章が縫い付けられていた。
飛華と稜華は同じ部屋で生活している。
入り口から見て、右側が飛華のスペース。左側が稜華のスペースだ。
飛華のスペースは赤を基調とした、可愛い文房具や人形などにあふれている。
一方、稜華のスペースは必要最低限のモノが置かれているだけ。しかし、とある一角の本棚には資料がこれでもかというほど詰め込まれていた。その内容は、飛華であっても見たことはないし、多分、見ても理解できないのだろう。
制服に着替えた稜華に、同じ制服を着た飛華はニコリと笑う。
「じゃ、いこっか。みんなも、下で待っているんじゃない?」
「……うん」
稜華は基本的に部屋に引きこもっていたため、会話らしい会話をするのは飛華しかいない。
そもそも、会話の技術が高くないため、話が続かない。必要最低限の言葉だけで終わってしまう。
飛華もそのことは十分わかっていたため、特に何も言わない。
飛華以外と会話らしい会話をしたのは、何年前だろう。
正直、本人さえ、分からない。
飛華に背中を押され、稜華は部屋から、出た。
冷たく、少しすっきりするような空気が稜華の鼻に届く。
「わ~、稜華だ~!」
「久しぶりじゃん」
「嬉しい……」
「飛華ちゃんの言ったこと、見事に当たったねー」
4つの声が、重なる。
部屋の外には、四人の姉妹が待っていた。
2人は楝色の髪をしていて、もう2人は稜華と同じ、藤紫の髪をしている。
楝色の髪をした2人は雰囲気が似通っている。どちらも博識そうだ。
しかし、藤紫色の髪をした2人は、似ているようで似ていない。顔や体格は似ているが、雰囲気というか、身にまとう空気が違うのだ。
一人は、明るく、しかしのんびりとしている。強いて言えば、太陽や大樹のような子だ。
もう一人は、思わず甘やかしてあげたくなるような、可愛い子。
4人が、稜華を取り囲んでいる。そこに、飛華も加わる。
しかし、あまり圧迫しすぎて、稜華の不安とならないように。
5人とも、そのあたりの距離感は今までの生活の中でつかんでいる。
6姉妹の中で一番繊細というか……臆病?な稜華だけど、もっと一緒に過ごしたい。そう考え、ミリ単位の距離をつかんでいた。
実際、今もその距離を守っている。
そのため、稜華が不安や恐怖を覚えることはない。
「皆、稜華のこと、待っていたのよ」
私達がいるから。
だから、なにも、恐れなくていいんだよ……と。
**
これはとある6姉妹の物語である。
この6姉妹は魔法のあるこの世界で、後に最強最恐と謳われることになる。
彼女たちの呑気な日常。改変された歴史。時々羽目を外す姉妹。秘密を持つ姉妹。
後世の者は、彼女たちを、こう呼んだ。
──鬼才の持ち主。謎に満ちた6姉妹。
しかし、彼女達の記録はあまり多くはない。知名度の割には、少ない方だ。さらに、現存している9割以上の記録は魔法学園時代のものである。
そのため、彼女達の卒業後は死亡説、国外追放説、そして隠居説。これらが主な定説となっている。
彼女達は皆、とても優秀であり、何かしらにずば抜けていたという。その才能は、他者を追い付かせない、そんな、ものすごいものだったのだろう。
姉妹の中でも五女・稜華は特にミステリアスだ。
ある日突然現れ、ある日突然消えた。の、かもしれない。
彼女のことは謎に包まれている。
なぜなら、彼女に関して、記録がほとんどないからだ。
ただ、一つだけ分かっていることがある。
それは極度の引きこもりだったということ。
ウジウジと部屋に籠りたい、寝ていたい、本を読んでいたい……そんな少女だったのかもしれない。
何故か、この情報がハッキリと明言されているのだ。
姉妹のアオハルに巻き込まれ、誰にも言えない葛藤を持っていたのかもしれない。
そんな彼女が、どのような日常を送るのか。
そんな6姉妹の、どこか謎めいているかもしれない、ドタバタ?な日常。
まぁ、これは言いすぎかもしれないが、そんな感じの物語。
これは、
──どこか不思議な世界の、六姉妹の物語──
で、ある。
彼女たちの活躍を、ご覧あれ──
初投稿です。よろしくお願いします。
タイトルに「まだ序章です」とあるのに章タイトルは第1章となる、不思議な矛盾が起きていますが気にしないでください。
今回は3人称でしたが、次回からは稜華の1人称になる予定です。