夏の逃避行動
30分チャレンジ小説です!5分程度で読めるので読んでいただけたら幸いです。
「ああ、クソなんでだよ」
夏の日差しが鬱陶しいぐらい照りつける自室、その勉強机の上で僕は思わず怒りを漏らした。
椅子から体を一度起こし、煮えるような怒りと、それに呼応するかのように熱くなった体温を下げるため、俺は1階の冷蔵庫にあるアイスクリームのもとへ向かっていった。
夏休みの宿題。
おそらく全学生が忌み嫌うその避けられない怪物と俺はペンという剣を右手に、消しゴムという盾を左手に、先ほどまで戦っていた。
嫌なことを後回しにしない性分の俺は、夏休みの初日からこの怪物と戦闘を繰り広げているわけだが、別に俺が腹が立っているのはこの怪物に対してではない。
その生みの親である教員達である。
彼らはいつも「夏休みを楽しんで」と送り出すわりには、全く嬉しくもない怪物付きハッピーセットと共に夏休みの世界に送り出す。
毎年のことながら人の所業とは到底思えない。
こみあげる、怒りの感情とジトリとこめかみを流れる汗の不快感に耐えながら、僕はそっと冷凍庫の扉を開けた。
開け放たれた心地よい冷気と光り輝くアイスクリーム達、自分もその中に加わろうと冷凍庫の中に今にも身を投じたくなるが、その早る気持ちも抑え、じっくりとその中を見渡したあと一つの棒付きアイスを手に取った。
封を破りその輝きを口の中にいっぱいに頬張る。口に放たれたその冷たさは体温だけでなく、温まっていた思考も冷静に、そして幸せなものに塗り替えていく。
冷静に考えて今の俺の行動は休憩という建前に隠れた逃避行動ではあるが、今はもう、幸せという脳内の薬物が、それを正義だと確定したため今は罪悪感のかけらもない。
「まぁ、コツコツと終わらせていけばいいさ」
棒付きアイスの先端に書かれた、アタリの文字に心をさらに弾ませ、感情のバフと夏の暑さへのバフを纏った俺は、また、怪物の元へとかけていった。
みなさんが一度は経験したことがあるであろうあるあるを30分チャレンジで書いてみました。
楽しんでいただけましたら幸いです。