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第二話 そんなん払えませんやん

知らない天井だ。アシュクは目を開けて、周りを見渡す。ボロボロの天井、風通しのいい壁、扉と言うには穴が空きすぎている板。アシュクは木のベッドに寝かされている。肩甲骨が痛い。

「あら、起きたのね。」

木のベッドの隣には椅子が置かれていて、女性が一人座っている。

美しい女性だ。

ブロンドの髪は光をこぼし、メガネの下の碧い瞳は超然的な雰囲気をまとっている。

「綺麗だ。」

アシュクは思わず呟いた。

「ありがとうございます。元気そうで何より。」

まるで、薄暗い汚い廃屋にあらわれた天使だ。

ただ、その目は汚物を見るようにアシュクを見ている。

「倒れていたところを、拾ってくれたのか?」

「ええ。治療もしてあげたわ。」

「治療?」

アシュクはベッドから起き上がる。確かに硬いベッドの上に寝ていたことによる身体の痛みはあるが、膝小僧の傷も疲労感もない。

「まさか、治癒魔法?」

「まあ、そうね。」

「ありがとう。助かった。」

アシュクは神に感謝した。怠惰に生きてはきたが人の道を外れたことはない。それなりに真面目に日々を過ごしていた。今回追われる羽目になったのだって家族に会いに行こうと思っただけなのだ。だが、悪いことばかりでもないのだ。生きていればいいこともある。行き倒れていたところを、良い人に助けてもらえた。それもまた、神の思し召しだ。

「お金。」

「は?」

「1億ペル。」

「いちおく!無理だ、払えない。」

1億ペルは大金だ。王都で大きい一軒家を買うことができる。

「は?」

その時の恐怖をアシュクは一生忘れないだろう。アシュクは美人の天使の背後に劣化のごとく怒る鬼を見た。

「まままま、待ってくれ。本当に一文無しなんだ。財布どころか帰る家もない。その上お尋ね者になっちまった。治癒魔法を使ってまで助けてもらったのはありがたいが、無いものは無いんだ。すまない。他に困っていることはないか?何でもする。」

「何でもするなら。今すぐ金を出しなさい。」

天使が殺す勢いでアシュクに迫る。アシュクは神を恨んだ。

ああ、神は死んだのだ。もう俺を助けるものはなにもない。

「メテル落ち着いてよ、無いものは仕方ないじゃないか。」

口を挟んだのは、先刻の幼女だった。

「ネル様!起きておいでだったのですね。」

メテルは背後の鬼を即座に消して、猫なで声で幼女に言う。

「うん。話は聞いてたよ。」

アシュクはとっさにこの状況を理解する。ネル様と呼ばれる幼女はおそらくこちらの味方だ。そして、ネル様さえどうにかできればメテルは言うことを聞くだろう、と。

「お願いします!本当に一文無しなんです!何でもします!許してください!」

そして、アシュクは幼女に土下座した。

「なんなら靴もなめます!」

泣きながら、幼女に懇願した。

「え、えっと。まずお名前を。」

「アシュクです!どうかお金だけは許してください。」

一文無しとは、弱者だ。商家に生まれたアシュクはそのことを誰より深くわかっていた。頭下げれば借金がなくなるなら、いくらでも頭を下げる。それが商人だと、アシュクは信じている。

「わかりました。許します。」

「ありがとうございます。」

「ネル様!」

メテルがネルを咎める。アシュクは口を挟むな!メテル!と思ったが大人なので口には出さない。

「いいの、メテル。治癒魔法したのはわたしでしょ。」

「ネル様がよろしいのなら・・・」

メテルは不服そうに後ろに下がる。

「ありがとうございます。」

「その代わり、これからわたしの言うことに5回だけ「はい」と言ってくれますか?」

「はい!」

「契約を結びます。」

「はい!」

アシュクがネルの言葉に応じた瞬間、廃屋に風が吹いた。アシュクとネルの周りがぼんやりと緑に光る。

「あなたはわたしに1億の借金がありますね?」

「はい!」

「それを返せませんね?」

「はい!」

緑はどんどんと深みを増し、一つの魔法陣を作っていく。

「わたしを主として主従契約を結びますね?」

「はい!・・・え?」

「やったあ!契約完了!」

その言葉とともに緑の魔法陣は弾け。それと同じ模様がアシュクの首筋に浮かび上がる。

アシュクは呆然と頭を上げ、首筋を撫でる。

「ネル様!こんなブ男役に立ちません!」

この言葉に、アシュクの堪忍袋の緒が切れた。

「さっきから聞いてれば好き放題言いやがって!このアマ!だれがブ男じゃ。」

アシュクはもう我慢ならないと、メテルに襲いかかる。

「アシュク!止まれ!」

ネルが一言言うと、アシュクの首筋の魔法陣が緑に光る。アシュクは凍りついたように指先一つ動かせない。

「ふぁんふぁふぉれふぁ。」

「メテルだめだよ。そんな言葉遣い。」

「すみません。気をつけます。」

「ふぁふぁふぁっふぁふぁ。」

「あ、ごめん。アシュク動いていいよ。」

またもや首筋の魔法陣が緑に光り、急に慣性を取り戻したアシュクはそのままつんのめり頭から床に着地する。

「いっっってええええええ。なんだこれええええ。」

「あははは。アシュク面白い!」

「おいテナとか言ったな!どういうことだ!もとにmd

「止まれ!」

「ふぇふぁふふぁふぇ。」

止まれと言われた途端に、アシュクは言葉も話せなくなる。顔を真っ赤にさせて意味のわからないことを叫んでいるアシュクを見て、ネルとメテルは大爆笑だ。

「いふぃ、いふぃふぁふぇふぃふぁい。」

アシュクは必死に何かを訴える。

「なになに?」

「ふぃふぃふぁ!」

「何言ってるのかわかんない。動けアシュク!」

「殺す気か!息ができないんじゃ!」

それだけいうと、アシュクはまさに息も絶え絶えで床に倒れ込む。

「これからよろしくね、アシュク。」

邪気など一切感じられない幼女の声がアシュクは今日イチで怖かった。

やっと出てきた

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