プロローグ 戦えないもんは戦えない
カンカンカン
街のあちこちで、甲高い音を立てて鐘が鳴っている。非常事態の合図だ。
鎧を着た兵士たちが、徒党を組んで王都中を駆け巡る。
「いたぞ!こっちだ!」
兵士の一人が声を上げる。目の前には兵士、後ろは高い塀。
「くそ、くそ、くそ。」
アシュク=テナーは迫りくる鎧の兵士たちに悪態を吐く。
アシュクは右手の狭い路地に入る。それまでの石造りの道とは違い、雑草がぼうぼうと生えている。両脇の建物は、高いが土作りでボロボロになっており、いつ倒れてきてもおかしくない。鎧では入れない道に逃げたことで、兵士たちがまごつく。
アシュクはしばらく細い道を選んで右に左にと曲がると、後ろを振り返った。そして、どうやらとりあえず追手をまいたらしいことを確認する。
一息ついて止まると、どっと汗が吹き出てきた。ばくんばくんと動悸がするのがわかる。
足から力が抜けて、その場にへたれこむ。
「やった、、、逃げ切った、、、。」
息も絶え絶えに、アシュクはそうつぶやいた。
まだ、遠くで鐘は鳴っている。
「残念だけど。」
「おま、、、え、、、。」
「君に恨みはないが、罪には罰を、だ。おとなしく捕まってほしい。」
「アスレイ、、、。」
アスレイと呼ばれた青年は凛と立ち、へたり込むアシュクに向かう。
「僕の名を?どこかでお目にかかったかな?」
「王都中の人間が知ってるさ。聖騎士アスレイ=バーグ。王都の守護者」
そう言いながら、アシュクは立ち上がる。足に力が入らず、壁を杖になんとか立っている。
「僕はそれほどたいした人間じゃない。君を救えなかったのだから。」
アスレイは一歩アシュクの方へ歩を進める。
「さあ、投降してくれ。悪いようにはしない。」
「まさかいい奴だったとはな、『ジャック』!!」
呪文とともに、地面に魔法陣が描かれる。黒と赤で構成されたみるからに禍々しい魔法陣は回転しながら増殖し、縦に積み重なる。やがて人間一人がすっぽり入るほどの赤黒い円柱となった。円柱は更に回転を増し、黒い飛沫をあげて弾ける。すると中から、人間の骸骨が一体現れた。頭蓋骨はひび割れ、目の奥は吸い込まれるように何もない、肋骨には腐りきった肉がついている。手足はすすで汚れ、全体から先程の魔法陣と同じ赤黒いオーラを放っている。
「呼んだな、アシュク。」
地獄から響くような声で、アシュクの名を呼ぶ。まさに地獄の使者アンデットの風貌だった。
「ジャック倒せるか?アスレイを。」
「まあ、やってみよう。」
骸骨ジャックは、コキコキと首を鳴らしながら言う。
人間と骸骨でありながら、アシュクとジャックには絆があるようにさえ見えた。
「武器はあるか?」
「いや、走っている途中で落としたらしい。」
「そうか、まあいい。」
そう言うとジャックは、左手を前に半身の状態でアスレイに向かう。
「来い、アスレイ=バーグ。」
「アンデットと話すのは初めてだ。名前は?」
「ジャック。ただのジャックだ。」
「では、僕もただのアスレイだ。」
「油断大敵、いくぞ。」
剣を鞘にしたまま、正面向きに立っているアスレイにジャックが踊りかかかる。アスレイはあっけにとられ、ジャックの拳がアスレイの顔面に当たるかと思われたその時、アスレイは半歩引き瞬速で剣を引き抜く。銀の剣閃が走る。青く輝く剣が振り抜かれた先には、両断されたジャックが光の粒となり消えようとしていた。
「俺は、蘇る。何度でもな。」
そうジャックが言ったとたん、まばゆい光が路地を包んだ。
「しま、、、。」
アスレイは、あまりの眩しさに目を覆う。
アスレイの視界が回復したとき、そこにはなんの人影もなかった。
はじまります。
頑張って続けていきたいなあ。




