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誰かにとっての英雄



 「……………ここ………か?」



 ブライトネス国 学園都市S.R.C.の広大な敷地から少し外れた森の中。

 フィスタ先生から預かった、場所を示す地図通りに来たつもりだが、そこは地図に描かれた通りに完全に森の中だった。



 「もうちょい先か」



 小高い木の天辺まで登り、周囲の地形と地図を再度確認して辺りを見渡す。密集した木々が生い茂る森の中、ポッカリと小さな空き地があるのが見えた。多分あそこだ。


 身体強化(ライズ)を纏ったまま木から飛び降りて空き地へと向かう。



 「……………だ〜れも居ねえでやんの」



 自嘲気味に呟いて地図にもう一度目を落とす。



 ─── 汝 強さを求めるものよ ───


 「っ!?」


 ─── 見せてみよ 己が実力(ちから)の一端を ───


 「っっ!! っく!」


 ベキィ!!



 足元を狙って飛んで来た矢を踏み付けて折る。



 ─── おお? やるね〜〜じゃあこんなのはどうだ? ───


 「っうぉああ!」



 触覚感知(センシング)で感知したのは多方向から飛んで来る無数の魔導。


 強化付与(アペンド)した想牙(ソウガ)で風の刃を弾き、火弾を避け、石飛礫を切り裂き、水の光線を往なす。



 ─── おお?っはっはっは。いやぁお見事。中々だな ───



 広場に木霊する声。触覚感知(センシング)には引っかからない。どこからだ………

 視線を巡らせると木々の間から一人の大柄な男が現れた。警戒する此方をよそに、無遠慮に歩み寄って来る。


 身の丈程もある大剣を背に担いで、冒険者風の装いで髪の色に合った少し煤けた白銀色のローブを羽織っている。人好きする好青年と言った風貌だ。ハッキリ言ってイケメン。ちょっとジェラシー。



 「まだ編入したてだろう? その割にはよく動く。期待を持てるな」


 「………………初めまして。フィスタ先生からご紹介預かりましたヨツバです。随分と手荒い挨拶ですが貴方が師匠で?」


 「あ〜……いい、いい。懇切御丁寧なのは好感が持てるがそういうのは求めちゃいない。俺はジーク、仲間からはそう呼ばれてる。気軽にジークと呼び捨てにしてくれて構わない。宜しくな。俺も編入者だ。君の様に地球からではないけどな。どうだった?歓迎の方は」



 『そう呼ばれてる』?



 「……………本名も教えて貰えないと」


 「あー…………悪かったよ。そう警戒しないでくれないか。別に技術を教える上で名前など必要ないだろう?」



 そんなに手荒かったかなぁ………と、気まずそうに後ろ髪を掻きむしる姿に少し緊張を緩める。


 歓迎の方はまぁ趣があって良かったけども。

 なんかこう…………秘密の洞窟とかに迷い込んだ先で精霊に語りかけられて認められて力を授けられる的なワクワク感があった。



 「…………歓迎の方は趣が有りましたね。後の方はキャラ崩れてましたけど。最初の内は厳かな感じがちょっとグッと来ました。秘密の洞窟とかに迷い込んだ先で精霊に語りかけられて認められて力を授けられる的なワクワク感がありましたよ」


 「おっ? そうだろうそうだろう? そういう冒険的なのは編入者の君なら好むかと思ってね。わざわざ変声魔導まで使って凝ってみた甲斐があるって物だな。しかしそうか詰めが甘かったか。要改善だな!」



 はっ!? 思った事そのまま出ちゃった!!

 恥ずかしいっ!! この歳になってまだそういうファンタジーでファンシーなのに憧れてるってバレちゃう!!



 「ふふっ。聞いていた通り編入者ではある様だが少し変わってるな。今までのヤツ等はこういう事をすると内心喜んでても表に出さなかったぞ? 素直なのは素晴らしいな。お礼に俺も正直に行こうか」



 手を翳した先に簡易的なテーブルと向かい合う様に椅子が現れる。


 ……………収納(ストレイジ)か? なんの気無しにやってっけどかなり精度が高い高等技術使ってるのでは?



 「楽にしてくれ。これからの事を話そう」


 「これから?」


 「ああ、主に君と俺との関係性を明確に決めていこうか。と言っても既に教える側としては決定事項ではあるんだが、そこについて説明しよう」


 気楽に座り込みながら話を続けるジークと名乗る男。割と気さくな印象だ。もっと堅苦しいのを想像してた分有難くはある。

 此方も座るのを確認するや否や、説明が始まった。



 「先ず、君の意向は理解したし出来る限り意を汲むつもりだ。主に歩法だったな? 教えていく上でそのやり方は此方に従って貰うぞ。歩法を学ぶと言っても覚えるだけじゃダメだ。実践にて使えるところまで昇華させる。要は慣らす。実践形式で戦闘訓練も取り入れていく腹積りだ。それは良いか?」


 「願ってもないですね」



 好都合だ。戦闘経験もどんどん積み上げておきたい。



 「あとはその敬語だ。止めてくれ。体面上師弟関係を結ぶとしているがそんな堅苦しい物は此方としては望んではいない。気軽に話せる先輩後輩程度の仲で接してくれないか?」



 ………………え?



 「それは…………どういう?」


 「うーんと、な。別に将来教職員を目指しているという訳でも無いんだ。弟子とかそんなもの欲しいと思ってない。正直言って面倒だ」



 ええ…………? じゃあ何で…………



 「先日越界任務に行った先の世界でな、仲良くなった少年に教えを請われたんだ。『勇者様の様に戦う力が欲しい』ってな。だが年端も行かないその少年に教えるには正直不安があった。〝人に技術を教える〟という経験が無かったからな。中途半端に教えて強くなったと勘違いさせてしまったらかえって危ない目に遭わせてしまう。そう考えると教える事は出来なかったよ」



 ……………うん、一点を除いてまともな事を言っている。態度は軽いが変な人では無いな。



 「今後同じ事が起こらないとも限らない。その時に快く引き受ける事が出来る様に、〝人に何かを教える〟という事の経験を積んでおきたいんだ。自分本位な話だというのは重々承知している。が、君もまた誰かに従事したいという話ではないだろう?〝歩法〟について誰かから学びたい。互いにメリットはあると思わないか?」



 「…………そういう事なら是非協力しましょう」


 「ああ。だからこそ〝互いに協力〟という関係で良いんじゃないかと思うんだ。師弟というよりは仲の良い友人位の対応にしてくれないか?」



 何気にさっきより距離詰めて来てるんですが。まぁそれは良いとしても



 「()()()については何も思わないんで?」


 「………あぁ………それか」



 少し苦笑いを含めて視線を逸らすジーク。思うところはあるようで。



 「君も編入者だろう? ()()()()をどう思う?」




 ………………………自分の事  か。


 そう言われてみれば、『ああは成りたく無い』とか、他の編入者に対しては色々考えてたけど自分自身をどう見てるかってのはあんまり考えてなかったかもしれない。

 他の編入者みたいに自意識過剰な勘違いをして偉ぶる人間には成りたく無い。そういう考え方しかしてなかった。



 「誰が何と言おうと、何と揶揄しようと。平々凡々とした普通の人間だよ俺は。勇者とか英雄とか。憧れる気持ちが無いかと言われればそれは違う。人並みにそういった物には憧れてる。勿論努力は惜しまない。けどそれは英雄になる為の努力では無い」


 「……………ああ。解るよ」



 真剣な、それでいて少し微笑んだ顔での肯定。



 「俺も同じさ。何もかも救える物語で脚光を浴びる英雄を目指している訳では無い。勘違いして見ているだけで恥ずかしくなる奴等と同じに成りたくは無いし成るつもりも無い。でもなヨツバ、俺達が任務で行く先々の世界では、救ってくれる英雄を求めてるんだ」



 いたく真面目に、ふざけた雰囲気など皆無で。



 「だから俺は決めた。勇者に成る。勘違いじゃなく自負を持って。全てを救うなんて言わないが、それでも〝誰かの英雄〟に成ろうってな。過剰な自信ではなく、見合った実力を付けて真っ当な自負を持って。だから今では割と〝勇者様〟に対しては肯定的だ。揶揄われているのなら、それを否定するのではなく事実にしてやればいい」



 ああ………………………成る程確かに。


 俺はその〝勇者様〟を払拭しようとしている。

 ジークはそれとは別の道、その言葉を肯定してその高みまで自分を登らせてみせる と。嘲笑の対象になっているなら、本物に成ってやればいいって事か。



 「元を辿ればなんて事はない、ただの承認欲求なのかも知れない」



 嗚呼……………その言葉は、その気持ちは。よく解る。



 「でもな、〝世界のヒーロー〟と〝誰かのヒーロー〟は違うと思うんだ。俺は〝誰かにとっての英雄〟に成りたい、成ってみせる」



 そう言い切るその態度は、その姿勢には気負いが無く。威風堂々としていて。

 俺に少しのシンパシーと僅かな憧れを抱かせた。



 「それになヨツバ。いくら自分を否定しても、救えた世界の仲良くなった連中は皆俺を〝英雄〟と、そう呼んでくれた。単なる称賛ではなく、共に苦難を乗り越えた仲間として心からそう呼んでくれた」



 それは諭すように。



 「彼等の言葉まで否定するというのは………それは少し違うと思わないか?」



 責任。


 そうだ、責任が伴っているかどうかなんだ。


 自分が、勇者であるとかそうではないとか。


 そんな問答にはなんの意味も無い。





 人から観てどう写るのか





 そう思われて、そう言われて、自分がどう受け止めるのか。






 例えば意図せず誰かを救って。その誰かが俺を〝英雄〟と呼んだのなら。

 そこには既に責任が伴っている。


 『そいつが勝手にそう呼んだ。俺には関係ない』。そう言ってしまえば確かにその通りではある。

 しかしそれでは余りにも情が無さ過ぎる。

 自分が行った行動に対する責任が欠如している。

 その人にとっての〝ヒーロー〟に成ったのなら、それからは英雄然とした態度を求められるのだ。





 「…………俺も」


 「………………うん?」


 「俺も、〝誰かにとっての英雄〟に成りたい。いや、成る。それを目指す」


 「……………仲良くやって行けそうだ」




 差し出された右手。それを戸惑いもなく握り返す。




 此処に 奇妙な師弟関係が結ばれた。



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