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空曇り染め行くは白銅色

 暗躍



 「……ともあれ労いを。良くやってくれた。実行メンバーにも伝えてくれ」



 学園の敷地内、その一角。

 寂れて打ち捨てられた古屋に、少数の人間が集まっていた。



 「安定した越界にはあの禁書が必要だった。これで事は大きく進展する。また、禁書の内容から副産物も産まれた。幹部メンバーには後々配るつもりだ。使い所を選ぶ物だが………まぁ持っていて損はないだろう。悪魔族の召集の方はどうだ、順調か?」



 リーダー格の男が話を進める。


 聞かれた者は、古ぼけて薄汚れたロングローブのフードの下から、特徴的な2本の捩れた角が付いた骸の仮面に覆われたその顔をリーダー格の男へと向けて、小さく首肯する。



 「ならいい。よし、『灰ノ慈悲計画』の話はこれくらいで良いだろう。ところで、だ。色々と話が聞こえてきているんだが。クイッカー」



 クイッカーと呼ばれた男が居心地が悪そうに身じろぎする。



 「数名のメンバーが食堂で諍いを起こしたと聞いている。それとレジストの件。大まかな事は聞いているが、詳しく説明してくれないか」


 「………そうは言ってもなぁ、俺だって出来る限りの事はしてるんだぜ!?」


 「クイッカー、別にそれの責をお前に求めているわけではない。同じ編入者として彼らがどう考えているのか位は解るだろう。そしてそれが少し行き過ぎていると言う事実もだ。それはここに居る皆も承知の上だ。抑えようにも抑え切れないお前の憤りくらい察してはいる」


 「…………あぁ、済まねぇ。言い訳がましかったな」


 「構わない。気持ちは理解している。続けてくれ」


 「ああ。レジストの件は俺も聞いただけだ。後で呼び出して本人に確認を取る。どこまで聞いてる?」


 「そうだな……脈の無い相手の尻を追いかけ回して周囲を不快にしていると」



 集まった者達がクスクスと笑い出す。



 「ま、そう言う事だ。俺の見立てでは自意識過剰に自信過剰のあいつの事だ、手籠にでもするつもりなんだろうな。彼女の器量や家柄が魅力的に映ったんだろう。だが、あまりにも危険過ぎる」


 「ああ。そう思うな。彼女の学園内での立場を考えると接近し過ぎるのは良くない。最悪この計画に支障を来たす様ならば ─── 構わん、お前の判断で始末をつけろ」



 集った者達が各々祈りの所作をして言葉を紡ぐ



 「「「 せめて灰と帰して寵みを齎せ 」」」


 「………まぁ、俺の部下だ。なるべくそうならん様にキツく言っておく」


 「ああ、お前に任せる。食堂の件はどうだ?」


 「それについては本人達から既に聞いた。どうやらレジストだと思ってちょっかいを掛けたら別人だったらしくてな。相手が情け無い奴で虐めたくなって………やり過ぎてイズシさんに目をつけられたと言うのが事の顛末らしい」



 リーダーとクイッカーが同時に溜息を吐く。



 「情け無いのはどちらなのか解らせてやれ」


 「もう解らせた」



 流石〝瞬敏〟仕事が早い と、他の者達が口々に賞賛する。当の本人は何やら苦い顔をしているが、それは置いて報告をする。



 「だが、その虐めていたという相手の容姿が気になる。先日報告に上がって来た編入生の容姿と酷似している。調べて貰ってもいいか」



 古屋の端、一際影の濃い場にて佇む黒ずくめの男に話を振る。



 「承知した。今からすぐに飛ばす」


 「お、すぐ動いてくれんのか。悪いな」


 「〝クイッカー〟の頼みだからな」


 「……………俺のせいかよ。急がなくて良いから頼むわ。…………なぁ、禁書に時間曳行の方法とか無かったのか? 編入したての冠名の時の俺を殴りに行きてぇんだけど。何でこんな名前にしたかな…………」


 「フフ。それはそうとその新編入者って言うのは確か………」


 「今はヨツバと名乗っている」



 黒ずくめの男が先に答えを言う。



 「他の編入者とは少々毛色が違う。元の名は心煌 四ツ葉だ。そこからも解るだろう?」



 リーダー格の男は暫し考え込む。


 編入者も例外なく学園に入る段階で改名を行う。この世界で生きていくならば漂流者(ドリフター)ですら同じ事。

 この世に生を受けた時に貰った名もまた力を持つ。故に普通はそのままの名前にするものなのだが………

 一体いつ、誰が始めたかは知らないが、編入者は通例として神からのギフトを授けられた時に発現した技能(スキル)から名付けを行う。



 それは、一種の抵抗だ。



 異界に夢を馳せ、これから訪れるであろう心躍る人生の煌びやかさに目が眩み、今までの自分の人生を卑下し………

 一度人生をリセットして新たな名と共に誉れ高く旅立ちたい。


 そんな希望から、自らの過去と向き合う事への細やかな抵抗。



 「監視は継続中か?」


 「無論。だが………少々邪魔が入っている。いつも通りには行かなそうだ」



 この男にしては珍しく、情報収集に難儀している様だ。



 「無理にとは言わない。ただ、出来る限り努力してくれ。此方からも機会を見て接触を試みる」


 「手ぇ貸してくれっと思うか?」


 「解らない。ただ、編入者は巻き込みやすいからな。身に覚えはあるだろ? 話してみてからだが、誘ってはみるさ」



 この場に居る編入者の者達は悉く苦笑いを浮かべる。身に覚えがあるらしい。



 「そろそろ解散しよう。休暇も今日で終わりだ。また忙しくなるぞ。校舎内での不要不急な接触は」


 「なるべく控えろ、だろ? わかってるさ」



 そう言い残し、クイッカーと呼ばれる男はいの一番に()()()()()



 「………そういう事だ。皆も通信を切れ。また会おう」



 一人、また一人と。

 音も気配もなく。

 掠れたブラウン管テレビの電源を落とした様に。

 数人居た筈のこの古屋から人が居なくなる。



 「……………? どうした?」



 薄汚れたロングローブを纏い、捻れた角の生えた髑髏の仮面の者が最後まで残っていた。



 「……………偶には直接会えば良い。こんな場所で、尚且つ通信とは。用心深いにも程がある」



 「通信越しですら面も外さず声まで変えるお前程ではないだろう? 計画が始まれば嫌でも毎日顔を合わす事になる。別に構わないだろう」


 「……………ヨツバと言う編入者」


 「? どうかしたか?」


 「灰とするならば我に言え」


 「………………何故だ」


 「悪魔族の勘だ。贄に良さそうでな」



 最後に不吉な言葉を残し、仮面の者もまた消え去って行った。


 残されたリーダー格の男は実体。ポツンと一つだけ置かれた朽ちかけた椅子に深く腰をかけ、暫し思慮に耽る。


 計画の準備は順調だ。相も変わらず編入者関連で問題は起こるものの、それもまた想定の内でしかない。



 「ヨツバ…………か」



 事を起こすのは自分達だ。


 それだというのに





 何かが起こり始めている

 そんな気がする





 無視し得ない予感を胸に

 どこを見るでもなく


 男はじっと虚空を睨め付け続けていた。



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