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影の雑草観察記②

 〝影〟としてではなく一人の人間としてヨツバを観察するカゲヨシ。

 ひょんな事から戦闘行為にまで縺れ込んでしまうものの、その内心を知る事となる。


 カゲヨシからはヨツバはどう見えたのか?


 その後カゲヨシは何を知り、何を思う。


 九尾(くび)の壱、幻始山。その麓に広がる森の中、淡い木漏れ月に照らされながら枝の上に座る一人の男を見ていた。



 心煌 四ツ葉

 改め ヨツバ



 何とも妙な言い回しになるが、観察し甲斐がある。確立された既存の訓練方法とは別の、独自の力元素(エナジー)習得訓練で、この短時間でメキメキと腕を上げている。監視任務など、大抵は動きの無い相手をいつまでも観察し続ける暇な時間が多くなる物だが、今回の観察は暇をしない。独自の訓練は好調で、成長速度は目を見張る物がある。側から見ているだけでも新しい発見があったり興味深い事をしていたり、見飽きる事がない。


 日が昇り始めようとしているのか、山の稜線が薄く色付き始めている。

 此処へ辿り着いたのは数時間前の事。随分と山や森を歩き慣れていると感じた。あんな革靴でよくもまあ手に図鑑を持ち、足元も碌に確認もせず歩ける物だと感心する。

 リュウジ殿との会話の中にあった山小屋だろう場所に着き、手荷物を置いた後、また少し進み見つけた一際大きな樹。足元を確認する様な素振りの後、スルスルと樹を登り始めたのを見た時には舌を巻いた。

 あの格好のまま準備もせずに山に向かうと聞こえて来た時には山を甘く見ていると思ったものだが、良く解った。

 山や森の中は確かに、力元素(エナジー)の習得訓練には確かに適している環境だ。

 それをあの短時間で調べた中で汲み取ったのだろう。


 しっかりと理解し、考えている。


 山を舐めてかかっているのではなく、自分の力量と相談した上で、現時点で最善だろう方向を見定め、迷いなく進んでいる。


 理知的で理論立った考えを持つ。


 しかし時に、まるで獣の様な勘を頼りに我武者羅に駆け抜けようとする。



 急いている。 いや、焦っている?



 何も功を焦る必要は無い筈だろう。良いペースで訓練は進んでいる。それどころか早過ぎる位だ。それだというのにまだ先を目指して急いている様に見える。




 生き急いでいる。




 そんな印象すら受ける。

 何を急いている? 何がそうさせている?


 ………解らない。無駄な接触を控える為に直接聞く事も出来ん。そもそもそんな事をいきなり聞く程の仲でも無いしそんな状況でも無い。



 考えていると動きがあった。


 潮の満ち引きの様に漲っては収まり、繰り返していた力元素(エナジー)の動きが安定する。


 やはり普段の状態だと体表に纏っている様には見えない。間違いなく圧縮(コンプレッション)の影響だ。体内に圧縮し、貯めている。

 力元素(エナジー)を凝縮・圧縮するなどという事は考えた事もない。体内に溜めたものを放出する、もしくは周囲にある物を利用するのが普通の使い方だ。


 ヨツバを観察していて理解できたのは、圧縮した結果、利用効率が高まっているという事。得たばかりの鍛錬の足りない力量であれ程の純度の身体強化(ライズ)知覚強化(センス)は発動出来ないだろう。


 特筆すべきはその圧縮力。無意識下でもチラリとも体表に漏れ出ないという事実が、その圧縮力を物語っている。



 薄明かりの中枝の上に立ち上がり、目を閉じて集中している。



 ポツリと、呟く様な口の動きが見えた。



 知覚強化(センス)を発動し、周囲の力元素(エナジー)の動きを見る。すると不可解な現象が起きた。


 周囲一帯の力元素(エナジー)が、風に靡かれたかの様にフワリとヨツバを中心に引き込まれたのだ。


 瞬く合間に起きた現象に、怖気が走る。背筋が凍る。



 何だ? 何をした!? この悪寒は何だ!?

 目は閉ざされている! それなのに何故見られている様な感覚に陥る!? そもそも位置は悟られていない筈! それどころか俺が居る事にも気が付いてはいない筈だ!


 頭を過ぎる記憶。リュウジと四ツ葉が話し終えた直後。リュウジに接触を図ろうと近場に降り立ったその時に、



 ヨツバが此方を振り返った。



 まるでフィスタ助教とエマ殿に気取られた時の様な衝撃が走った。まさか1日の内に2度も隠密(シークエイション)発動状態で気取られるとは想像だに出来なかった。




 直感(イントゥイション)




 っ……………! 居る事がバレていたと言う事かっ!


 しかしそれでも解せない! こうも見られている様な感覚に陥るのは何故だ? 位置を把握されていると確信出来る程の強烈な意志が飛んでくる。


 隠密(シークエイション)で視覚阻害だけでなく、認知に必要な五感は封じている筈だ。匂いはおろか音さえ遮断している。何故…………


 ふと、今目の当たりにした不可解な現象と脳裏の思考が結び付く。



 五感………力元素(エナジー)の収束………まさか………



 ゆらりと、ヨツバの体内に渦巻く力元素(エナジー)が目に集まる。薄らと開いた目は僅かに輝きを放つ。

 力元素(エナジー)の発光現象。知識としては知っている。だがそうそう目にする事の無い現象。自然界の力元素(エナジー)の溜まり易い場所に長年かけて溜まった力元素(エナジー)が、更に年月を経て凝縮されて密度を増すと発光する。その輝きは知覚強化(センス)を使わなくても見える。


 それを 人力でやってのけた。確かに、教員達や一部の手練れが魔導を放つ際や身体強化(ライズ)を纏った時、薄ぼんやりと色が見える時はある。しかし一体どれ程圧縮した力元素(エナジー)が目に集まっていればこんな輝きを放つ事になるのか。





 暗がりの中妖しく光る瞳が



 白い曳光を携えて



 真っ直ぐに此方を見据えた。







 気が付いた時には既に地面から跳び退き、樹の上を走っていた。


 遁走。潜入任務中に上手の者に見つかり、その場を離脱する事などままある事。そんな時でもこんなに取り乱し自分を見失う様な無様は晒した事はなかった。


 激しく動揺して若干足を滑らせる。

 観察している側は此方ではなかったのか? まるで獣に獲物として見られたかの様な寒気を感じ、思わず離脱行動を取ってしまった。

 実力はまだまだ此方の方が上だという認識がある。その格下の相手を一瞬とは言え恐れた。恐怖に支配された離脱行動は遁走では無く唯の逃走。


 ギリリ…………


 噛み締めた奥歯の振動が耳にまで届く。



 不甲斐なさ情けなさ悔しさ。それらを噛み締める音の中に、後方やや上から別の音が耳に入って来た。



「あっ間違えたぁぁぁぁ!!」



 少し明るみ始めた森のまだ青黒い空に間の抜けた叫び声が木霊する。


 反響する言葉の意味と聞こえて来た方角に疑問を持ち振り返ると、レヴナントオウルと共に、しかし優雅さに欠ける体勢で空を舞うヨツバの姿が残月光に照らされて浮かび上がっていた。




 …………あぁ……理解した。

 わかる、わかるぞ。程度はどうあれ初めて身体強化(ライズ)を使ったらああなる。誰もが通る道だ。


 なんて事はない。この数時間目を見張る様な速度で成長を見せるこの男に少なからず畏怖を覚え、焦燥まで感じていた。確かに成長速度は人並外れている、その上何を考えているのか見えない事から異常人物の様に感じていたが、はっきり言って無様とまで言える叫び声と空を舞う姿にどことなく安堵の気持ちが湧き上がる。

 そう。なんて事はない。ヨツバもまた普通の人間だと理解できた。成長が早かろうと成長の過程がおかしかろうと、今こうして人と同じ道を辿っている。



「へぶぇぇっ!!」



 間抜けな声を聞くと強く噛み締めていた苦味がスッと消えていった。


 ………変な奴だ。


 訓練を始めてからは時折ゾッと背筋が凍る程の存在感や威圧感を放つこの男だが、かと思えばこうして醜態を晒す。どうにも決まらない様は、親近感を湧かせるというか………やはりそんなに悪い人間には見えない。


 ともあれ、この様子だと追ってくるだろう。少々面倒だ、撒こう。

 噂話でもされているのか、鼻がむず痒い。クシャミを堪えながら走り出した。





 ・

 ・

 ・





 あれからどれくらい経ったか、遁走を開始してから休まず森の中を駆け抜けている。が、一向に距離が離れない。


 本当に驚かされる。どうやら身体強化(ライズ)の調整は順調らしい。最初の失態以降目立った失敗を見せずにしっかりと付いて来る。


 此方は位置を正確に補足しているが、あの男はどうやって特定しているのか………やはり触覚………それしか考えられん。圧倒的な力元素(エナジー)の圧縮力に物を言わせて周囲一帯の力元素(エナジー)の一部を収束。それを肌で感じ取っている。

 そんな方法は見た事も聞いた事もない。まさか触覚で力元素(エナジー)を感じ取るなど考えた事もない。それならば隠密(シークエイション)も機能しないのが頷ける。触覚での感知に対する隠蔽など考えた事もないのだから。一体どうやったらそんなものまで隠蔽出来る。そもそも何故そんな事が出来る? 何かの文献に書いていたのか? それとも自分で考えたのか?


 牽制で投擲する小石や枝は今は急所を的確に狙わないと大した効果も得られなくなって来ている。

 対応速度も尋常じゃあない。


 小川を越える前に河原で投擲用の小石を拾いまた樹上に戻る。


 チラリと振り返ると丁度ヨツバが木々の隙間から見えた。

 服は所々擦り切れほつれている。新品の革靴は泥に塗れ使い込んだかの様にシワが目立つ。速度は一向に衰えない。



 どういうつもりなんだ………



 追いかけて来る理由は、まぁ解らないでもない。自分を監視する人間が居る事に気が付けば気にもなる。

 だがここまでボロボロになってまで普通は追い掛けるか? 少しずつだが距離は離れている。普通の神経ならば諦めないか?


 顔色を伺う。どれくらい疲弊しているか、それを確かめる為のその行為を



 後々まで激しく後悔する事になる。









          笑った









 追えども追い縋る事能わず。

 一睡もせずに疲弊して。

 枝や蔦に絡まれ身体は擦り傷だらけ。

 時折足を引き摺るのは靴擦れだろうか。

 一晩丸々休まずに力元素(エナジー)を消費しきっては回復させる強行軍で疲労はピークに達しているだろうに。


 この状況で何を笑うのか。


 背中を汗が伝う。肌が粟立つ。


 表情に比例する様に力元素(エナジー)が沸沸と湧き上がっている様子が見える。



 「っ………!! しまった!!」



 不味い! 強化付与(アペンド)! 使ってしまった!

 10分の1程度の力しか無いとは言え、未熟な身体強化(ライズ)しか纏っていない人間に放つ強さでは無い! 当たり所によっては欠損までありうる!


 木の影に隠れる様に横っ飛びでの回避。良かった躱した。おまけに僥倖。その方向はトラップがある。

 一本目のワイヤーは流石に気が付くか。二本目………! それも気が付くのか……!だが詰めが甘い。その跳び方は失策だ。


 落下地点を狙って強化付与(アペンド)した石礫を投擲。急所にさえ入らなければ暫くは悶絶し動けない程度の打撲は与えられるだろう。

 一度解き放ってしまった分、枷が外れたというのもある。


 …………念には念を だな。トラップを二重目までは看破した男だ。ワイヤーを巻いた石を変則軌道で放っておく。


 案の定と言うべきか、ただの落下とはいかなかった。咄嗟の空中姿勢の制御や迫り来る礫の雨を避ける動作はまるで獣の様だ。よくあんな機動を行える。身体を動かし慣れている証拠だろう。


 ワイヤーを緩め、引き絞り、最後に放った石の軌道を操る。

 いい手応え。表層を身体強化(ライズ)で覆ってはいるが臓器までカバーはしていまい。衝撃で多少なりダメージが入る筈だ。


 畳み掛ける様に礫を飛ばす。ここまで来たら多少の怪我は負ってもらう。でなければどこまでも付いて来てしまいそうだ。強化付与(アペンド)で石の硬さと推進力の強化を。


 !? 避ける気配がない!?

 いや、それどころか身体強化(ライズ)まで弱まっていく! 何をしている!? 怪我では済まないぞ!




 流麗な所作で、まるで今まで何度もこなして来たかの様に。

 往なすように手の甲を飛来する石に添えて軌道を逸らした。

 強化付与(アペンド)された石の推進力は回転にも影響を及ぼしヨツバの手の甲の薄皮を削り飛ばす。

 それでも、やってのけた。後の二個もその手を使って弾かれた。





 この対応力は何だ…………


 この成長速度は何なんだ…………


 


 纏う力元素(エナジー)は時折醸し出す雰囲気と同じく野生的。あの変則的な身体強化(ライズ)は古文書で読んだ事がある。名称は覚えていないが身体強化(ライズ)の技術の発展に伴い廃れていったスタイルだ。

 あんな古い文献に触れてはいない筈。つまりは自分で生み出した技術と言う事だ。




 戦慄する。


 ただの興味本位での観察だった。

 しかしそれは軽率な行動だったのかもしれない。

 意図しなかったとは言え、俺がコイツを刺激した。



 先程見せた怖気の走る笑顔を思い出す。





 俺は…………もしかしたら…………






 起 こ し て は い け な い 獣 を 目 覚 め さ せ て し ま っ た の か も 知 れ な い







 ズッ…………………




 力元素(エナジー)を漲らせる。


 ───檻の鍵を開けたのは俺だ。止めなければならない。


 闘気に変換して放散する。


 ───この獣をこのまま檻の外に出してはいけない。


 通路の様に開けた3つの内、左右の2つをワイヤーで塞ぐ。


 ───思い通りにさせて助長させてはいけない。




 今、此処で止める!



 調子付かせてしまったら最後だ。止めどなく増長し他の編入者のように人格が捻じ曲がり、厄介な者となる未来が見える。

 いいや、ポテンシャルや成長速度から見てそこらの編入者など比較にならない程の脅威になる。


 ここで一度挫折を味わって貰う!



 ヨツバが樹の門の前に到達した。解り易く張られた左右のトラップ地帯を一瞥し、立ち止まる。


 闘気を全開で放出。


 お前ならこの意味がわかるだろう?これ以上来るのならば、容赦はしない。



 暫し苦い顔をして足を止めていたヨツバは、観念したのか振り返り一歩後退していく。



 そうだ。それで良い。目覚めてしまった獣よ。悪いがそのまま檻の中へと戻れ。お前にはまだ少し、外の世界は早い。

 焦る必要は無いだろう。急ぐ理由も無いだろう。己の野生を封じる術を得て満を持してから外へ出ろ。傲慢や野心と上手く付き合う準備が出来るまでの我慢だ。

 お前まで他の編入者の様に増長させ、歪ませる訳にはいかない。いや、そうなって欲しくはない。


 闘気を収め、大人しく戻っていくヨツバの後ろ姿を そっと見送る 筈だった。




 振り返り此方へ向けて走り出す


 身体強化(ライズ)も纏わず


 瞳には恐れが浮かぶ




 ───っ! 何故だ!


 無数の苦無を放る。ここまで警告しても尚向かって来るのなら容赦はしない。牽制では済まない領域にお前は踏み込んだのだ。



 それなのに、何故………!



 加速。一陣目の苦無の群れは後方で音を立てる。



 無謀、蛮勇…………そう一言で切り捨てるには些か異なる顔付きだ。 恐れ、怖れ。 先に有るのは崖。そう知っているのに止まらない、止まりたいとでも言うかの様に引き攣った顔。それでも及び腰には決してならない。


 二陣目の苦無群をも巧みに躱して見せる。尚加速する。



 止まれ!! そう意思を込めての三陣目。流石にそこまで強くは投げていない。しかし相対速度を考えれば皮膚を裂き、肉に食い込むには十分な強さだ。

 にも関わらず。ヨツバの脚が僅かに発光する。オーラを纏う様に薄らと光る層が体表に纏わり付く。


 局所強化(ブースト)!?

 否! 全力局所強化(フルブースト)!!


 馬鹿な! まだ加速する気か!? それどころか脚の強化以外捨てるのか!


 


 止せ!!

 行き止まりだ

 もう充分だろう!

 踏み止まれ!!

 まだ間に合う!

 意味のない無茶はここで





 「ぅるっっっっせぇぇぇえええええ!!!」





 思考を吹き飛ばすかの如き一喝。


 ビリビリと空気を震わす程の声量で轟かせた咆哮は、誰に対しての物だったのか………その気迫に圧され、暫し体が硬直する。



 憑物でも落ちたかの様に、先程まで見せていた怯えが霧散している。

 激烈なまでの決意に満ちた顔付き。目には揺らぎ無い灯が滾る。



 これは……突破されるっ………!


 何なんだ? 何がこの男をこうまでさせる?



 苦無の嵐とヨツバが衝突するが勢いは衰えない。キッチリと急所は守っている。そのままの勢いで有毒のシバオオイタビの密集地帯を引き千切りながら突き抜け、広場へと転がり出て来た。




 ………本気で止めるつもりだった。それを 突破された。


 本人としても何か大きな意味があったのだろう、拳を握り締め天に向けて再度雄叫びを上げる。



 ………気持ちは汲んでやりたい………しかし悪いが隙だらけだ。

 顳顬直撃コースで拳大の石を放る。

 ワイヤーで操られ弧を描くそれは、しかし避けられてしまった。


 結局だ。こうして対峙する事になった。直接相見えるつもりなど毛頭なかったのだが、仕方あるまい。ここは素直に称賛しよう。

 おそらくは本体でも結果は変わらなかっただろう。だがここからは違う。この先どう出るつもりなのかはまだ解らないが、もし向かってくる様なら早期に決着を付けるべきだ。本体の十分の一もない今の力でそれが叶えば良いが……………

 いずれにせよどう動いて来るかだ。話し合いで済ませるのであれば素直に応じよう。少し聞いてみたい事もある。


 思案していると左肩に食い込んだ苦無を引き抜き、跳躍して向かって来た。前置きも、前兆も無しに。


 …………っ!


 余りにも突然の行動に対して反応が遅れた。何よりもその顔が判断を鈍らせる。


 跳び込んで来た本人が戸惑っている。


 ………勢いか。 障碍を越えた喜びで若干の興奮状態と見た。


 戸惑ったのも束の間。直ぐに切り替えて表情が硬くなる。見慣れないモーションで苦無が放られた。妙な回転が掛かっているものの、しっかりと切っ先が此方を向いて飛翔する。不意を突かれた為、迎撃で腕を振り切ってしまった。そこを突いての脚撃。


 戦い慣れている……? 意表を突くのが妙に上手い。


 降り立とうとしている枝を強化付与(アペンド)した〝夜哭(ヨナキ)〟で根本から切り捨てるが、これまた上手く対応される。


 戦い慣れていると言うよりも対応力の問題かもしれない。

 状況判断力がズバ抜けているように感じる。



 突拍子もない事をしでかす割にやはり冷静に考える一面も持っていると言う事だ。いやむしろ()()()()()()()()()()()()()



 歩法の心得もなく支えを失った枝を足蹴に樹にすがり、そこから尚も跳び掛かってくる気概とセンスには舌を巻く。

 交差する際に苦無の切っ先を斬り飛ばしたが、思いの外動揺は伝わって来ない所を見るに強化付与(アペンド)の事はしっかり読み込んでいたのだろう。


 着地からの動作は淀みない。明らかに地の利を理解しての行動だ。やはりセンスが良い。



 が、残念だったな。神影流には空対地の歩法も存在する。



 蹴り上げる威力を殺しながらヨツバの脚に着地。





 神影流 〝虚踏(ことう)




 本来足場としては使えない様な物を足場として踏み締め跳躍する。 熟達すれば宙に舞う木の葉すら足場とする事も出来る。これ程の威力の蹴りであれば体重を支える軸にする事など造作もない。


 狙うのは左腕に刺さったままの苦無。抜いておくべきだったな。

 惚けた顔を尻目に右脚を振り抜く。肉を貫き骨にまで到達する感触が爪先から伝わって来た。


 荒療治だが痛みで頭を冷やして貰おう。興奮が収まれば大人しくもなろう。




 が、 この男は止まらない。それを念頭に置いておくべきだった。




 吹き出す血飛沫を気にする素振りも無く、深々と苦無が刺さり込んだ左腕を地面に叩き付け身体を支え直した。


 ……………!! まだ動く!


 踏み台にした右脚を弾く様にして薙がれる足払いを空中へと避ける。




 神影流 〝影楼(かげろう)



 一から十までの回転で威力を調整する遠心力を乗せた攻撃。若しくは遠心力で威力を往なす防御技。


 二回転分を存分に載せる。本格的な戦闘ならかかと落としでも見舞わせたい所だが、胸元を踏み付け押さえ込む程度におさめる。



 「おへぇっ!!」



 ……………本当に…………この男は………どこまでが本気なのか……まさか全部ふざけてるのか?


 やはり他の編入者達の様にゲームの世界にでも入り込んだ気分でいるのだろうか。だとしたら遊びも大概にして欲しいものだ。巫山戯ているのならやり過ぎだ。踏み込んで良い領域を明らかにはみ出している。



 「お前は深淵を覗き込み過ぎた」



 警告しておこう。これ以上は興味本位で深入りしていい領分では無い。だと言うのに



 「厨二病の患者様でお間違いありませんか? 生憎ですが当院では現在その病の治療は行われていません。 患者同士の傷の舐め合いによるカウンセリングは行われていますが如何致しますか?」



 …………………?

 わけの解らない話が返って来た。


 何だ? ちゅう……ちゅうに? 病気? 聞いた事の無い言葉だ。地球産の言語だろうか。 気のせいか? 小馬鹿にされた様な気がする。チュウニ病………後で調べてみよう。


 まあそれよりも、だ。



 「貴様は何を焦っている。何故そうまで生き急ぐ」



 何を思ってここまで出来るのだ。何がお前をそうさせる。その原動力は何なんだ。



 「何故そこまで必死になれる。何処へ向かっている。貴様の目標は何なんだ」


 「リュウジと話してんのは見てたか? 話は?」


 「聞いていた」


 「じゃあもう俺から言うことはねぇぞ」



 それだけしか言わずに口を噤む。話は終わったと言わんばかりの態度だ。


 リュウジとの話。つまりはミスリの事か。ヨツバが離れた後にリュウジと接触した。その時のリュウジの言葉が思い起こされる。




 『なんじゃお前さんか。居ったんかい………監視か?』


 『………任務では無い』


 『なんじゃそら?…………あぁ〜〜………ははーん? なるほどのぅ。まぁ気持ちは解らんでもないな』


 『どういう……いや、それよりも。アンタから見てどう思う』


 『ミスリ嬢ちゃんの事か? ま、少なくとも何とかしようっちゅう努力はしてくれると思う。俺は知らん!関係ない! ちゅう風に考える男とは違うじゃろうな』


 『いや………その事じゃ………まぁいい。それについては本人は渋い顔をしていた様だが?』


 『曖昧な返答だった理由か? 嫌やったらハッキリ断るじゃろ。つまりはそういう事じゃ。 変にどもったんは今の実力で暴れ回る編入者共の相手なんか出来んっちゅう事をしっかり自覚しとるから。無責任に『任せとき!』なんて言えへんかったんじゃろ。そういった所からも責任感があるっちゅうんが見える。そんな責任感ある男がこのまま黙っちゅう筈もない。じゃけん、たぶんこれから多少の無茶してでも特訓なりするんじゃろうなぁ………わしは忙しゅうて見ておれんけんど、無茶して怪我でもせんよう安全確保してくれる人居らんかなぁ〜。んん〜?』


 『相変わらず面倒見のいい事だ』


 『うん?』


 『………はぁ、アンタの頼みじゃなきゃ断ってる』


 『おう!あんがとさん♪』




 そう。たったそれだけ。知り合ったとすら言えない程度の相手の事を 人から頼まれた。ただそれだけだ。そんな理由で………追って来た理由はもう察しが付いている。実戦訓練でもしているつもりだったのだろう。だとしても………



 「…………誰が為に………ここまで出来る物なのか」



 質問ではない。ただひたすらに感心する。


 新品の筈がほつれ、ボロボロに破れた制服。

 既にシワが寄って傷だらけになった革靴。

 青黒く滲む痣。

 血の滴る傷。

 毒蔦で打ちひしがれた頰は紫色に爛れ、刺さった苦無は赤く染まっている。


 ………こんなになってまで………



 「聞こえが良過ぎるな。結局は己が為だよ」



 馬鹿を言う。何が己が為か。



 「あの話のどこに貴様自身の為になる事がある」


 「あるさ。折れるんだよ」


 「………………………」



 折れる。何が………愚問か。リュウジの見立てはいつも正しい。



 「誰かに必要とされて、そこで逃げたら。 力及ばず、応えられなかったら。 心が、決意が、今までの自分自身が、折れるんだ。 だから力一杯進むんだ。絶対に折れない様に。 焦ってる訳じゃない、急いでるだけだ。 生き急いでる訳じゃない、全速力で進んでるだけだ。 誰が為じゃあない。 己が為だ」


 「………………………フッ」



 己が為? よく言う。


 情けは人の為ならず。


 確かにそんな言葉はある。よく言ったものだと思う。この言葉には二通りの解釈の仕方がある。

 情けをかけ、手助けしてしまうと本人の成長に繋がらない。その人の為にならないというのが一つ。

 もう一つは、情けをかけるのはその人が可哀想という自分の負の感情を払拭する為の行為であり、つまりは己の心を守る為の行為なのだという解釈。


 今回の場合は後者という訳だ。


 情けに限らず親切や優しさもまた、それを行う人間のいったい何割が心からの優しさによって行動しているのだろうか。

 体裁・忖度・妥協・見栄。根底がそういった物に塗れた優しさや親切など、誰しもがそれと気付かずに行なっている。


 この男の言うには、例に漏れず己の罪悪感から逃れる為だと。


 全くもって笑える話だ。


 それと気付いていながらそれをひた隠す人間がどれ程居るだろうか。それをこの男は………此方の肯定を逆に否定して己の為だと言い切って見せたのだ。



 照れ隠しにしか聞こえん。全く笑えてくる。



 ひょっとすると、本当に己が為なのかもしれない。しかし仮にそうだとしてもだ。そもそも何故、お前は罪悪感を覚えると言うのか。

 所詮は他人事と捨て置けばいいだけだろう。その程度の事だろう。そこに罪悪感を覚え、見捨てれば心が折れるとまで言うのは






 お前の心が優しいからだよ






 他人を思い遣り、助ける為に己を鍛え、こうしてボロ布の如き姿になるまで頑張れる。その心を 人は〝優しさ〟と呼ぶのだ。お前は 優しい。お前の行動は心からの親切だ。

 お前が何と言い繕おうが、お前の行為は〝誰が為〟だろう。


 戦いは終わりだ。観察ももう必要ない。重篤な部分だけでも手当てをしてやるか。


 左腕に深々と刺さり込んだ苦無を引き抜き回復薬をかける。それと頰。突破の際に有毒のシバオオイタビが当たったのだろう。紫色に爛れている。

 …………よくこの程度で済んでいるな。〝毒耐性(レジスト・ポイズン)〟か? シバオオイタビの毒は猛毒。一応毒抜きはしておいてやろう。引き抜いた苦無を投げて頰に傷を付ける。爛れた頰から毒の成分の混じった血がドロリと零れ落ちた。これで問題ないだろう。



 戻るか。

 ヨツバの顔はどことなく晴れやか。複雑な感情は滲み出ているが、極端に悔しがるなどもない。気負いもない。

 敗北を正しく受け止めた者の顔。おそらく、これから急成長する。ともすれば大きな脅威に変わるだろうが、 この男なら大丈夫だと思える。


 ミスリにもしっかり伝えよう。知識は蓄えるだけでなく活用する物。それを正しく実行できるミスリが選ぶ書籍ならばヨツバの成長を飛躍的に高める相乗効果も期待できる。ミスリのやる気を上げるのもミスリ自身の為にもなるだろう。ヨツバなら任せても良いと思えた。それだけでも今回観察をした成果と言える。




 ・

 ・

 ・




 ミスリへの報告を終えて部屋へ戻ろうとするとレイヴンが居た。どうやら帰りを待っていたようだ。



 「イチカ ヨツバの観察、その観察結果を知りたい。報告書としてでもいい。情報を共有してくれ」


 「……? 任務か?」


 「…………………………」


 「そうか、後で報告書にまとめておく」


 「……先に簡単な所見を。口頭でいい、聞いておきたい」


 「……忙ぎなのか?」


 「いいや、随分と機嫌が良さそうに見える」


 「そうだな……編入者を見る目が少し変わった とだけ言っておこう」


 「…………………………」



 怪訝な顔をして考え込んでいる様子だ。まぁ、これだけじゃ解らんだろう。



 「………報告書を待つ」



 最後に一言残して消えた。


 レイヴンは時折こうして情報の共有を求めてくる事がある。仕事熱心なのは好感が持てる。

 そういえばレイヴンから編入者についての話を聞いた事がある。多くの編入者は過去を話したがらない。その理由が気になったから聞いてみたのだ。


 曰く、地球からの編入者は大抵が引き篭もり等の社会不適合者だった者達だろうとの事。日頃から漫画・ゲーム・小説などの空想の世界に浸り、地球としては超常的な世界に対する想像力が豊富で、彼等にとっての謂わば〝異世界〟の有り様を受け入れるにあたっての抵抗が少ない者が、編入者として選ばれやすいのではないかとレイヴンは考察していた。

 他者から蔑まれながら生きて来た者達。また、そういった者が別の世界へ行き、力を得て目の覚めるような活躍をして蔑んできた者達を見返したり仕返ししたり好き放題したりと、そういう物語が地球では多数存在すると言う。

 それに感化され、そんなシチュエーションに憧れた者達が編入者としてこの世界に来たらどうなるのか………

 その答えが〝選ばれし勇者様〟達と言う訳だ。他者に蔑まれ溜め込んだフラストレーションを爆発させられそうな環境を与えるとそうなるのも当然なのかもしれない。

 

 彼らは総じて力元素(エナジー)の扱いに長けている。日頃の想像の世界から得た知識や育んだ想像力が力元素(エナジー)の制御に一役買っているのだろう。

 また、時折レイヴンの様に戦闘センスを持った者も入って来る。




 その中でも、ヨツバは異質に感じる。




 力元素(エナジー)の扱いに長けているのは確かだが、使い方が群を抜いて独創的だ。

 戦闘センスもそう。センスはある方だが、戦闘中に学び取り成長する速度が尋常じゃない。戦闘中に見せた変則機動や咄嗟の行動は確かに体を動かし慣れている者のそれだった。だが精細さに欠ける動作は決して戦い慣れているというわけではない。あれは戦闘中に咄嗟に取った思い付きの動作。身体強化(ライズ)の使い方も途中途中に微調整していた。

 あの短期間で一体どれ程の成長を見せたのか。


 おそらくは保有した技能(スキル)の影響が大きい。


 圧縮(コンプレッション)による力元素(エナジー)の圧縮率は正に圧巻。その圧縮率が織りなす力元素(エナジー)の利用効率も然り。脅威的ですらある。

 だが、だからこそそこにばかり目が行ってしまっていた。


 ヨツバの本質はもう一つある。


 精神補助的な技能(スキル)の為あまり気に掛けていなかった。



 直感(イントゥイション)適応(アダプテーション)



 この2つが揃う事で生み出される相乗効果が、ヨツバの成長速度を支えている。無意識に使われるこの2つが他を圧倒する適応力と成長速度を生み出している。

 いや、無意識なのか………それすらも直感(イントゥイション)でどうするのがベストなのか感じ取っているのかもしれない。ともすれば相乗効果どころではない、これから二次関数的に実力を伸ばしていくだろう。



 「クク…………」



 笑いが漏れる。普段ならばこの様な事態を驚異に思いつつも脅威として捉えて警戒する。


 それがどうだ。思わず笑ってしまう程に心が躍っている。




 俺は、ヨツバに期待をしているのだ。




 俺の立場は〝影〟。闇から世界を監視し、異物をいの一番に警戒しなければいけない。

 俺は、〝影〟失格なのかもしれない。


 しかしそれでも考えてしまう。未来を期待してしまう。

 あいつは、光となる。木漏れ日の様に柔らかく包み込む様な光ではないかもしれない。人によっては眩し過ぎて疎まれる事もあるかもしれない。

 それでもあいつが影る事は無いだろう。あの輝きは決意の炎。迸る決意の火元はあいつの優しい心。

 その光は人を救う。ミスリだけではない。この先必ず世界を照らす希望の光となる。


 期待しよう。


 光が強ければ影もまた色濃く浮き出るのだ。

 俺は〝影〟。影濃くば光また輝かん。

 存分に輝いて貰おう。

 そして俺もまた、光に付き従わせて貰う。








 「…………成る程。ご苦労だった、我が闇よ」


 「なんて事はない。良い経験ができた。その経験もまたお前の物だ、我が影よ」



 質量を持った分身体が力元素(エナジー)を霧散させながら消えていく。記憶は全て受け取った。

 分身体がミスリと話し、レイヴンとも会話している間にヨツバが帰って来たのが窓から見えていた。目立つ傷は既に癒えかけており、身体強化(ライズ)の応用の治癒力強化(ヒール)を利用している事が伺えた。やはり応用力もある。






 応用か…………思えばこの忍装束、応用性が無いのではないだろうか。足りないと思っていたのは応用性のある機能。だが具体案が無い。どうすれば良いのだろうか………




 ふと窓の外を覗けば1人の男が寮から出て来るところだった。


 ………………! ヨツバ!

 先程帰ってきたばかりだろうに。もう動き出すのか。少し休息を挟まなくて大丈夫なのか?


 ………っっ‼︎‼︎ な………⁉︎ あ、あの装備は何だ!? いや! あの服装自体が何だ!? 初めて見る!





 すっ、素晴らしい‼︎‼︎‼︎‼︎





 これだ! 正にこれだ!!

 俺が求めていた物が今目の前にある!!


 何という機能美!!

 そして何というデザイン性!!


 素晴らしい‼︎‼︎


 ………? 何だ? 何か忘れている……あぁチュウニ病とやらを調べようと思ってたんだ。

 ………? 何故今思い出すんだ? まぁいい。今はあの服装と装備品だ。


 地球産の物なのか?

 だとすれば服飾屋に依頼して作成して貰おう!


 先日知り合った商人に伝手がないだろうか。



 寝ている場合ではない!


 あの商人に相談した後、図書室に向かおう。

 どうにもチュウニ病?とやらが引っかかる。何故だろうあの服装と何か関係があるのか?











 この日の記憶を 俺は一生忘れないだろう。


 何せ少し調べ物をしただけでこれまでの生涯とその中での発言を激しく後悔する事になったのだ。

 光だの闇だの影だのと随分と口から出ていた気がするが全て忘れてしまいたい。同時にもう一つ学んだばかりの黒歴史という言葉と共に記憶の彼方に封印したい。


 今日という日の記憶を 一生忘れない。




 色々と新しい世界への扉が開いた日なのだから。




 「……という訳だ」


 「そうでしたか!カゲヨシさん、わざわざありがとうございます」


 「気にする事はない。書籍の推薦の方は頼んだ。それとミスリ殿、もう一つ」


 「はい、何でしょうか?」


 「調べようかとも思ったんだが、ミスリ殿ならば知っているかもしれんと思ってな。それならば聞いた方が速い」


 「はい……?」


 「チュウニ病というのをご存知ないか?」


 「…………!?」


 「……ミスリ殿?」


 「あっ! はい!! ………えー…っと……それは、どうしても知らなければ……ならないんです…か……?」


 「……? いいや、どうしてもという訳ではないんだが……少々気になってな。何かあるのか?」


 「……いいえ。あの………知ってはいるんですが……これはご自身で調べた方が、その………精神的ダメージがですね、少なく済むんじゃないかなぁ………なんてですね……思うんですよね…………」


 「……? まぁミスリ殿がそう言うのであれば」


 「えと、一応これに……うーん……まぁ…う〜〜〜ん………」


 「何を悩んでいるのかは知らないがこの本に載っているのか?」


 「あっ!」


 「ふむ、『Earthにおけるスラング解説集』。やはり地球産の言語か。だが、スラング? 病名ではなく俗語だったのか。済まないミスリ殿、暫し場所をお借りする」


 「え、えぇ………。ごゆっくり…………あぁ……………神よ……彼に光の導を………」




 「あっカゲヨシさん」


 ビクッ!


 「っ……! しっ、調べ終わったんですか?」


 「うっ、うむ! あ、いゃ……うん。いゃ……ああ。し、調べ終わった!」


 「…………」


 「…………っ」


 「あ、あのっ!」


 「……! どうした? あっいや、あの……ど、どうかしたのかい?」


 「っっ………!? ………! いえ! えと………き、気に病まないで下さいね!?」


 「う……!」


 「大丈夫ですから! 私は格好良いと思ってますから!」


 「う…ぐ…」


 「誰かにイタいとか言われたのかも知れませんが気にする事なんてありませんよ!?男の子は誰もが通る道と聞きますし!」


 「ぐ…おぉ……」


 「カゲヨシさんは〝影〟! 影の住人と仰ってたじゃありませんか! だから大丈夫! 似合ってますから!」


 「ガハァッ」


 「吐血!? カゲヨシさん!気をしっかり!!」


 「……カゲヨシはんに服飾品の事でなんぼか聞きたい事出て来よってからに会いに来たんやけど………何やこれ。何しとんねんミスリはん」


 「あぁ!シモンさん!!お世話になってます!」


 「まいど! いやいや、せやなくて。どないしたんこれ」


 「実はカクカクシカジカマルマルウマウマでして!」


 「マルマルウマウマは初めて聞くわ! して、何や。ミスリはんが止め刺してこないな事なっとんか。ウケるwwww」


 「笑い事じゃありませんよ! カゲヨシさんのアイデンティティの危機ですよ!?」


 「そないな事言うたってなぁ…誰しもが通る道やん? そんなんで血反吐まで吐きよってからに……男はその業を背負って生きてかなアカンねん」


 「えっ! ……え、シモンさんも……?」


 「せやで?魔眼とか突然開眼せぇへんかなぁ〜とか」


 「ゴフッ」


 「カゲヨシさん!?」


 「左腕にサラシ巻いとったらいつの間にか知らんうちに封印されとった悪魔とか暴れ出したりせぇへんかなぁ〜とか」


 「ゴハァッ!」


 「カゲヨシさあああぁん!!」


 「何やねん精神弱過ぎひん?……メンタルスライムやん。厨二病如きで……〝影〟の名が泣くで」


 「か……はぁ……」


 バタン……


 「カゲヨシさあああああぁぁぁん!!!!」

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