表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/93

⑧ 4/17 泥酔菜花の本音

「松山勝美みたいに、輝く女性になりたーい。でも、結婚もしたぁーい」

「うわっ、なんだいきなり」

「結婚よ、結婚。……って、いま、何時?」

「ん? もうすぐ十二時だな。急がないと終電に間に合わないぞ。タクシー、呼ぶか?」

「タクシィーィィ? そんなの必要なぁーい。縁結びの神様が、ちゃちゃいっと神通力で送ってくれるんでしょう~」

「あのなぁ……。ま、いいか。そこで大人しく待ってろ。タクシー、呼んでやるから」


 ふっと目の前から、縁結びの神様が離れていく。もともと丸い菜花の目がいっそう見開かれて、あっという間にうるんだ。


「いかないで!」


 顔じゅうをくしゃくしゃにして泣きながら、縁結びの神様にすがりつく。両手の指をかぎのように強張らせて。


「お願い。ひとりにしないで……ください」


 弱々しくて、ほとんど聞き取れない声をこぼしたのに、縁結びの神様は強張った菜花の指をやさしくほどいて、肩を引き寄せた。


「わかった。どこにもいかないから、落ち着いて」


 双眸を真っ赤に染めた菜花は、目を閉じる。縁結びの神様はとても温かい。守られているような安心感に満たされると、心が楽になった。

 しばらくするとまた眠気に襲われたので、菜花はカッと目を開く。


「明日、わたしの誕生日なんです」

「それは、おめでとう」

「めでたくない! 三十路ですよ。とうとう三十路。しかも明日は仏滅ーッ」

「三十でもいいじゃないか。俺は三十二だ」

「よくない」


 まだ残っていた涙をぐいっとぬぐい、すわった目で縁結びの神様をにらみつけた。

 

「ねえ、男は三十まで童貞だと魔法使いになるんでしょう。女は、三十路まで処女を守ったら、なにになるのよ」

「おい、ちょっと待て。なんてことを言い出すんだ。んなもん、知るか」

「あなた、縁結びの神様でしょう! ちゃんと答えなさいよ」

「無茶を言うな」

「はあ? 聞こえませんよ。はっきりと丁寧に教えて、く、だ、さ、い」

「ええぇ……。そうだなぁ……、なんだろ。……男が魔法使いなら、女は魔女とか」


 菜花はぶはっと腹を抱えて笑い出した。


「ばっかねえ、女は恋をした瞬間から魔女なのよ。知ってる? 好きな男の子に振り向いてもらうためにおまじないしたり、毎日の星占いを気にしたり、もう立派な魔女なのよ。残念でした。はっずれー」

「…………」


 縁結びの神様は黙っているが、ムカつく女という表情を見せた。ちょっと調子に乗りすぎたと、菜花は慌てて視線をそらした。すると急に胸がムカムカして――。


「吐きそう」

「えっ、こんなところでやめてくれ。ほ、ほら」

「うっさぁーい、大丈夫だって。それよりも聞いて。たっかいブランドの服、靴、カバン。そんなもの持ってない女でも、女なの。休日はぐうたらして、マンガ読んで、ゲーム三昧。そんな女がいてもいいよね。短いスカートも苦手。化粧だってうまくない。それをさ、わざわざ蔑まなくても。踏み台にしなくても……。この惨めな気持ち、縁結びの神様なら理解できるよね」

「さっぱりわからん」

「うそ、わからないの? 自分らしく生きてなにが悪い! って話。あーもう、今日の合コンは最悪だった!! ……やっぱり、吐く」

 

 頭のてっぺんから、急激にさあっと血の気が引く。同時に、腹の底から気持ち悪さがぐんとせりあがって止まらない。


「待て、待て、待て。これを使え」


 コンビニのレジ袋を押しつけられたが、目の前が真っ暗に。テレビを消したときみたいだと、ぼんやりとした意識の中で笑った。そしてそこからの記憶がない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ