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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第六話‐①



「ようこそ、勇者諸君。ここが俺達の住むエルフの谷…ピネーだ。」

「……す、凄い…。」


ジークの紹介を他所に、私は目の前に広がる景色に思わず呟いてしまう。

奥深い谷の間に流れる川を舟で上り、降りたと思ったらそこから岩肌見える山道を階段で登り、そこから更に長時間慣れない道を歩き、そしてその先にあったのは……人が住む家がいくつもある集落…いや、村だった。

今まで見てきた村や街と違い、建っている家等は一件一件が密集している訳ではなく等間隔に点々とある程度だ。建物の屋根の先端には三角の形をした旗の様なものが谷から吹く風で煽られ、そしてそれは電線の様に離れた隣の家と家を繋いでいる。

離れている様で繋がっている……そんな印象のある場所だ。

遠く離れた場所には大きな風車らしき建物も見える。風車は谷から吹きあがる風でゆったりと動いており、それがいくつも見える。『風人の谷』と言われる所以が分かった気がした。


「どうだ?初めてのピネーは、」

「凄い…としか言いようがない。なんだか民族的で何ていうだろうか…とにかく凄い!」

「マツリは語彙力がないな~。」

「にしても本当にこんな所に住んでるなんて思いもしなかったわ……。ま、空気はいいわね。空気は。」

「魔術師殿は手厳しいな。ま、いいだろう。じゃあ早速で悪いがこれから……、」

「おい、あれジークじゃないか…!?」

「本当だ!ジークだ!!」


どこからともなく聞こえる声に呼ばれた本人を含め私達は声のした方へと視線を移した。視線の先にいたのは荷物を担いで驚いた様な表情を浮かべる男性二人組。二人共ジークと同様、耳が長い。…という事はこの二人もエルフって事か。

男性二人の声にジークは「あー」と面倒くさそうに苦笑すると二人に向かって片手をあげた。


「よう。」

「よう…じゃねぇぞ!おい!皆!ジークが帰ってきたぞ!!」

「俺、シフォン呼んでくる!!」

「なんだって!?ジークが戻ってきたって!?」

「あら!本当じゃない!!」

「………あー……、」


男性二人を中心に騒ぎ始める。騒ぎに気付いたのか家らしき建物や物陰からわらわらと耳の長いエルフ達が老若男女問わず出てきては、私達…というよりジークの周りに集まり始める。

騒ぎの中心にいるジークは収拾の付け方が分からないのか片手をあげたまま固まっている。私とクロトは騒ぎに巻き込まれたくなくて一歩、二歩とジークから離れる中、リリィはそんな中楽しそうにジークに近づいていた事に私は離れてから気付いた。


「ねぇ、アンタ何かしたの?めちゃくちゃ注目されてるじゃない。実は極悪人なの?」

「おま…なんでそんなに目キラキラしてるんだ?そんな『最高に楽しいです!』みたいな顔、俺初めて見たんだけど……、」

「だって最高に楽しいんだもの。胡散臭いと思っていた奴が本当に胡散臭いとか……一体どんな事したの?気になる!教えなさい!!」

「…良い趣味してるなぁ……いい感じに頭のネジ一本抜けてる。」


明るく楽しそうに迫るリリィにジークが頬を引き攣らせている中、騒ぎはどんどん大きくなり……気づけば二人を取り囲む様にしてエルフの人達が集まっていた。小さな所だと思っていたけど……こんなに人がいたなんて……。


「ていうか…大丈夫なのかな。あんなに集まって……、」

「………。」


私の呟きにクロトは返事をしない。けれど表情から察して関わりたくないと言いたげだ。…それは私も同じだ。あんな騒ぎの中、飛び込みたくない。

私とクロトは離れた場所から集まった人達に質問攻めされているジーク達に注目した。


「ちゃんと食べてたの?少し痩せたんじゃない?」

「確かここを出てどれぐらいだ?」

「一週間…いや、二週間以上だ。」

「外界近くまで行くとか言っていたが……怪我はないかい?外界の魔物は凶暴だって聞いた事があるよ…。」

「勇者を迎えに行くって言ったきりだったもんな!で?本当に勇者連れてきたのかよ!?」


集まった人達から飛び交う声と言葉。飛び交う質問にジークは応えたいのだろうが口を開こうとする度に別の言葉が重なり、応える事が出来ない。離れた場所から見ている私でも分かる位面倒な事が起きている。

そしてその中にはリリィもいて、助ける所か「で!?何したの!?」と目をキラキラと輝かせてる。ジークの言う通り、リリィの頭はネジ一本飛んでいると思う。

そんな収拾がつかず、騒ぎがどんどん大きくなっていた時だった。一際大きい声が響き渡った。


「兄さん!!」

「!」


響き渡る高い少女の声。その声に騒がしかった声がピタリと止んだ。

私を含め誰もが声のした方に視線を移すとそこには一人の耳の長いエルフの少女が立っていた。

翡翠色の長い髪を左右で三つ編みにして結び、小柄な身体の割りには大きな胸。小さな顔には不釣り合いな大きな丸眼鏡があり、その奥にはジークと同じ深い青色の瞳がある。

私やリリィより気持ち年下の様に見える少女は走ってきたのか呼吸は荒く、額には汗が出ている。

突然現れた少女の登場に一同が茫然とする中、一番早く動いたのは……騒ぎの中心にいたジークだった。


「どうしたんだ、シフォン。そんなに慌てて……そんなにお兄ちゃんに会いたかったか?」

「「お兄ちゃん?」」


私とリリィの声が重なる。お兄ちゃんって……ジークの事?という事はあの女の子はジークの妹っていう事?…顔は似ていないけど…確かに雰囲気は似ていて兄妹と言われてもおかしくはな…、


「兄さんの……、」

「!!…シ、シフォン!落ち着け!!」

「おい!皆、ジークから離れろ!!危ないぞ!!」

「え!?」


突然ジークを始め、周りにいた人達が顔を青くして慌て始める。ジークを中心にして取り巻く様にして集まっていた人達は一斉にジークから離れ、物陰に隠れてしまった。

私もジークの近くにいるリリィも突然の事に何が起こっているか分からず動けないままでいると足元を風がすり抜けていくのに気付いた。


「な、何…?」


足元だけに感じていた風がどんどんと強くなっていく。強くなり、ジークと対峙する様に立つ少女に向かって集まっていく。集まっていく風は竜巻の様に少女の周りで集まり、そしてそれは少女の頭上へと移動して、一つの大きな球になる。

初めて見る光景と圧巻される迫力に開いた口を塞げずにいると隣にいたクロトが黒いマントを広げて私の前に覆った。目の前が暗くなり、何も見えなくなった…その瞬間だった。


「兄さんの…兄さんの………馬鹿ーーーー!!!」

「シ、シフォン!?……う、うわああああああ!!」

「きゃああああああああ!!!」

「な、何!?何が起こっ……ふぁあああああ!?」


少女の叫ぶ様な声。そして突然、ゴォオオオという轟音と共に身体全体が強風で襲われる。あまりの強風に私はクロトにしがみついて変な叫び声をあげてしまった。

クロトのマントに覆われて詳しい状況は分からないけれど……轟音と共に聞こえたジークとリリィの叫び声が嫌という程耳に残っている。つまり…二人の身に何か起こったという事だ。

しばらくして轟音が治まり、身体に感じていた風圧がなくなったのに気づくと私の視界を遮っていたクロトのマントがゆっくりと払われた。そして目の前に広がる光景に私は目を見開いた。


「こ、これは……!?」


息を乱し膝から崩れる様に座る少女、いつの間に杖を出したのか杖の先端を地面に突き刺してはそれを支えに座り込む身なりがボロボロのリリィ。そして何か直撃したのか地面に大の字になって倒れている身なりがボロボロのジーク。

……こ、これは……予想だけど少女が作っていた風の塊がジーク目掛けて投げられた、という事だろうか。そしてリリィは近くにいて巻き込まれた…という事だろうか。

………お、恐ろしい。リリィには申し訳ないけど、巻き込まれなくて助かった…。


「…クロト、ありがとう。助かったよ。」

「…あぁ。」

「『あぁ』…じゃないわよ……そんなにクールに決め込んでるなら私も助けなさいよ…!!」

「リリィ!無事だったんだね!良かった…。」

「…良くないわよ……最悪よ……!!」


杖を使ってフラフラと立ち上がるリリィに私は駆け寄ると鞄から回復薬を取り出して渡した。リリィはフラフラになりながらも「ありがと」と小さく言うとそれを口にした。その間に私はボロボロで汚れたリリィの服を手で叩いて落とす。木の枝や葉が沢山落ちた。


「…ハァ……ったく何なのよ。いきなり現れたかと思ったら上級の魔法使ってきやがって……!ちょっと、アンタ!!一体どういうつもりよ!?」

「リリィ…!?」


回復薬を飲み終えたリリィは空になった瓶を投げ捨てると座り込んでいる少女に勢いよく詰め寄る。今にも殴り掛かりそうな勢いに私も慌ててリリィの後を追った。


「ハァ、ハァ……えっと…貴方達は……?」

「『貴方達は……?』じゃないのよ!何見境なしに魔法使ってくれちゃってるの!?おかげで見なさい!?客人である私はボロボロよ!!」

「ひぅ…!す、すみません……!」

「すみませんで済む問題じゃないのよ!?一歩間違ってたらどうなっていたか……!!」

「…そこまでにしてやってくれ。全部俺が悪いんだ。」

「ジーク…!」


声がして振り返るとそこには先程まで倒れていたジークが倒れていた背を上げていた。身なりはボロボロで痛そうに顔を歪めているが無事みたいだ。

私は急いで鞄から回復薬を取り出すとジークに駆け寄り、それを手渡した。


「ありがとな、マツリ。流石は勇者だな。」

「勇者は関係ないと思うけど……、」

「勇者…?今、兄さん……なんて…、」


受け取った回復薬を口に含むジークに対して少女は茫然とした面持ちで私達を見つめていた。それは物陰に隠れていた人達も同じらしく、目を丸くして私やジークに視線を向けていた。

それが少し不気味で一瞬胸騒ぎがしたけれど、視線を向けられたジークは平気なのか「あぁ、そうだ」と呟きながらニヤリと笑みを浮かべた。

そして突然立ち上がったかと思ったら私の肩に手を置き、大きく口を開いた。


「ここにいるのはマツリ!この世界を救う為に現れた、我らが勇者様だ!!」

「「!!!」」

「え!?な、何、突然……!」

「「ゆ、勇者様…!!」」

「え!?!」


ジークの言葉に驚くのも束の間、少女を始め物陰に隠れていた人達が一斉に私に向かってきた。そして皆、座り込んだと思ったら両手を合わせ縋って祈る様に私を見上げた。


「貴方様が勇者様なのですね…!お会いしたかった!!」

「まさかこんなに幼気な少女だとは思いもしませんでしたが……確かに魔力が人とは違う。」

「特別な力を感じますわ…!」

「風が導いてくれたのだ!なんと神々しい…!」

「えっと、あの……、」


羨望的な眼差しと執拗に浴びせてくる言葉達。言葉を返そうにも何といえば言いか、どう対処すればいいのか分からない。


「ジ、ジーク…た、助け……、」


助けを求める様に肩に手を置いたままのジークを見上げた。ジークならきっと場を上手く収めてくれるかも……期待しながら見上げた。

その瞬間、背筋が凍った。


「……糞が…。」


にこやかな表情を浮かべていたジークからは想像出来ない程冷たく、恐ろしいと思う程怒りに満ちた顔。汚物を見る様な眼差しで集まる人達を見ていたジークに私は見ていけないものを見てしまった様な気がして、視線を逸らした。

怖かった。純粋に、恐怖を感じた。


「ちょっと、ちょっと!そんなにマツリに詰め寄って……困ってるでしょ!?離れなさい!」

「リリィ…。」

「アンタもいつまでマツリに引っ付いてるのよ!離れて!」

「おっと。悪い、悪い。」


リリィが近づき、無理やり私とジークの間に入って離してくれた。さっきまで感じていた恐怖が少しだけなくなり、安心した。…さっきのは気のせいだったのかな…?


「ありがとう、リリィ。」

「ん?どういたしまして?」

「…さて、こうして宣言通り勇者を連れてきた。これで『儀式』は取り止めだ!シフォン、長の所に行って俺達が来た事を伝えてくれないか。俺はマツリ達を連れて谷を回ってから長の所に向かう。」

「分かったわ。」


シフォンと呼ばれた少女は立ち上がると足早にどこかへと行ってしまった。それを見送ったのを確認するとジークは続けて口を開いた。


「さぁ、お前達も解散、解散!魔術師殿の言う通り、集まられると勇者様も困るだろ。解散ー!」

「わ、分かったよ。」

「また長からの話聞かせろよー!」


ジークの言葉に集まっていた人達がばらばらと去って行く。一際騒がしかったのが治まり、私と隣に立つリリィはホッと安堵の息をついた。


「さて、言った通りピネーを案内しよう。そしてその後は長の所に来てもらう。」

「長って…?」

「俺達の一番偉い人で化け物みたいな皺くちゃ爺さ。…悪いな、余所者が来たら報告するのが義務なんだ。嫌かもしれないが付き合ってもらうぜ。」

「わ、分かった。」

「よし、じゃあ行くか。」


私の返事にジークは笑みを浮かべる。さっき見た怒りに満ちた表情とは正反対だ。…だからこそ、少しばかり怖い。この笑顔も実は嘘なのではないかと…そんな事を思ってしまうからだ。

そんな私の気持ちを他所にジークは先頭に立って、私達を連れてピネーの中を歩き出した。




●●●


「あそこが店で、あそこも店。そして、あそこも店だな。この辺は大体店だな。」

「……もっと分かりやすく説明してくんない?いくらなんでも適当過ぎでしょ。」


等間隔ではあるものの立ち並ぶ建物に指をさしながら説明するジークにリリィはげんなりとした表情で私も思った事を言ってくれた。そんなリリィにジークは何も感じていないのか、はたまた分かっていないのか首を傾げた。


「ん?分かりにくい所なんてあったか?店は店だろ。」

「それはそうだけど…!もっとこう…あるでしょ!?」

「お店はお店でも、どんなお店なのか知りたいんだよ。」

「あぁ、そういう事か。ならあの店は食べ物を扱っていて、あっちは狩りで使う道具を扱っている。後は……あまり行かないから分からん。」

「「………。」」


ハハハと笑うジークに私とリリィは返す言葉が見つからず、只々茫然と笑うジークを見つめた。…言葉にしなくてもきっとリリィは私と同じ事を思っている筈だ。

…この男、適当過ぎる…!!


「期待に応える回答が出来なくて悪いな。如何せん俺はあまり店で買い物はしないからな。買い物は専ら妹に任せてる。」

「妹…っていうとさっきの子?」

「あぁ。この谷の魔法使いにして谷で一番の魔力の使い手だ。頭も良くて、器量もいい。まぁ、怒らせると痛い目にあうが…俺には勿体ない位出来た妹だ。」

「へぇ…。」


妹について語るジークの横顔は私が見る限り、とても穏やかだ。大事で、大切で、妹思いなのがジークの表情から伝わってくる。


「妹さんの事、大事にしているんだね。」

「勿論だ。俺にはもう、アイツしか家族はいないからな。」

「え、」

「母さんは妹を産んですぐに身体を弱めて、そのまま死んだ。父さんは俺が七つ、妹が五つの時に事故で死んだ。」

「そ、そんな……ごめんなさい。変に反応しちゃって…。」

「なんでマツリが謝る。俺から話した事だし、もう気にする程の年齢でもない。まぁ、その分、妹が大事なんだ。伝わったか?」

「うん。それは…勿論。」

「なら良かった。…そうそう、『アレ』の説明をしないとな。この谷にいる以上、知ってもらわないと。」

「『アレ』?」


話を切り替える様にジークはある場所に指をさした。指さした方に視線を向けるとそこには風でゆっくりと羽根を回す風車があった。

小高い岩肌に立つ風車。人が住む場所より少し離れた場所に立つ風車はその大きな羽根を回して動いている。そしてそれは一つだけじゃなく、いくつも存在している。


「このピネーには欠かせない動力の一つだ。谷にある川や滝から水を引き上げたり、作物を粉で引いたり、必要な道具を作る為の動力にしたり……ここで生活する上で必要なものだ。」

「風がよく吹くピネーならではね。他の所であんなもの、中々見ないもの。」

「そうなのか?なら堂々と「これがピネー名物だ!」と自慢出来るな。良い事を聞いた。」


リリィの言葉に笑顔で上機嫌になるジーク。リリィの謎の自信もそうだけれど、ジークの底抜けの明るさも常人から見たら異常だ。純粋に凄いと思う。

にしても……風車がここで生活する上で動力になっているなんて……それも凄い。リリィに言われて初めて気づいたけれど、確かにここにいる間風が止むという事はない。つまり風車はずっと動き続けているという事だ。

風が止まない、なんて場所…私がいた世界では存在するだろうか。風車だけで生活の基盤を作るなんて事もあっただろうか。……考えれば考える程疑問も出てくる。そしてそれは同時にここの世界が私のいる世界とかけ離れている事を突き付けられる。

そういった事は何度も経験している筈なのに……まだ慣れない。慣れない、という事は心の底では「夢かもしれない」と思っているだけで、まだこの世界の事も勇者の事も、目の前で起こっている事も完全に受け入れようとしていないのかもしれない。

…なんて中途半端なんだろうか、私は……。


「…よし、そろそろ長の所に行くか。妹がマツリ達の事を全て話終えたらしい。」

「終えたらしい…って、まさかそれが噂の『共鳴』?」

「あぁ。便利なもんだろ?エルフ同士なら交信出来る。しかも血縁関係が深ければ深い程、交信距離が延びる。この谷の端から端までなら妹と交信可能だ。」

「す、凄い…!」

「ハハハ。俺達にとっては当たり前の事なのにこうも驚かれるのは、なんだか新鮮で面白いな。でも、まぁ…これも万能ではないんだ。加齢と共に共鳴する力は弱まるし、交信する距離も短くなる。現に長寿である長は歳で殆ど交信出来ないしな。」

「だから妹さんは直接長の所に話に行ったんだね。」

「そういう事。さて、行くか。長と妹が待ってるからな。」


そう言うとジークは再び歩き出す。私達もそれに続く様にして再び歩き出した。

等間隔に並んでいた建物の数が徐々に少なくなり、代わりに生えている木の本数が増えていく道中。道の突き当りに来るとジークは片方の道を曲がった。

私達も続いてジークが進んだ方向に曲がろうとした。その瞬間だった。


「ッ……!!」


ゾクゾクッとした冷たい感覚が背中を撫でた。寒気、いや悪寒に似た感覚が襲い掛かり、私は動かしていた足を止めた。


「マツリ?どうしたの?」

「…今、何か……。」


ビュウ、と言葉を遮る様に強い風が全身の通り抜ける様にして流れる。反射的に風が吹いてきた方に視線を向けると、その先にあったのは私達が行こうとしていた道とは逆の道だった。

その道の先は続いてはいるものの、すぐに崖になっていて、その先からは紐と木で作られた吊り橋になっている。吊り橋の先は霧が掛かっていて見えないけれど……高い場所にあるせいか風で揺れ動いているのが見て分かる。


「あれは…、」

「あぁ、あの吊り橋か。あれは向こうの谷を繋ぐ吊り橋で、その先には森が広がってる。俺達が狩りをするのもその森だ。だから、まぁ…結構な数の魔物がいる。」

「笑顔で言う事じゃないでしょうが…!」

「ちなみにあの森の先にマツリ達が行こうとしている遺跡…『風の遺跡』がある。まぁ、覚えておいてくれ。」

「えぇ…あんな高い所渡れっていうの…!?あんなボロボロで今にでも壊れそうな橋を…!?!」

「失敬だな。見栄えは確かにボロボロだが、まじないはしてあるし壊れた事も一度もない。まぁ、数回に一回は板が抜ける事があるけどな。」

「ボロボロじゃない!!」

「………。」


ジークとリリィのやり取りが聞こえてくる。けれど内容が頭に入ってこない。それもこれもきっと……吊り橋から目が離せないからだろう。

ドクン、ドクン…と心臓の音が大きく跳ねている。腹の底から何かが湧き上がってくる様な気持ちの悪さと嫌悪感。

初めて見る景色なのに、何故こんなに気分が悪いのだろうか。何故…こんなにも恐怖を感じているのだろうか。


「…長の所はこの先か。」

「ん?あぁ、そうだぜ。」

「…クロト…?」


クロトの言葉にジークは返すとクロトは先を立って歩き出した。ずっと最後尾にいたクロトの行動にジークは「急かすねぇ」と独り言を呟くとクロトの後を追う様に歩きだした。

…気のせいかな?一瞬私の方を見ていた様な気が……。


「変な奴ね。まぁ、いいわ。私達も行きましょ、マツリ。」

「う、うん。」


リリィに促され私も歩き出す。不思議な事に、道を進むにつれて先程まで感じていた気持ち悪さが徐々に軽くなっていった様な気がした。

進むにつれて木々が増えていく。まるで森の中に入っていく様な景色に私は先を歩くジーク達の後を歩いていく。そして、先程まで感じていた気持ち悪さが完全に感じられなくなった頃に私達は目的地である長の所へと辿り着いた。









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