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勇者は、後のマツリ!  作者: くるす
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第四話‐③




『とりあえずマツリは回復薬を合成して作りなさい!作って、作って、作りまくって……少しでもお金になる様にしておくのよ!!』

『私はとりあえずマルサにお金になる仕事がないか聞いてくる。何、依頼掲示板を使わなくても金になる仕事はあるって事よ。マツリはとりあえず作りまくりなさい。いいわね!?』


宿屋に戻ってからリリィは私を部屋に放り込むと早口で言い放ち、再び宿屋の外へと出て行ってしまった。……作戦会議はどうしんたんだ、作戦会議は……。


「…とりあえず、言われた通りやるか。」


私には合成して回復薬を作る事しか出来ない。けど作った回復薬全てが売れるのかと聞かれたら、売れる!とハッキリと言えない。何せまだ私は作った回復薬を売る術を知らない。

そんな状態で果たして明日の朝までに三百万という大金を用意する事が出来るのか……。リリィもレベルが低いから一晩で大金が貰える様な仕事を貰えるとは限らないし……。

……仲間が欲しいと強気でいるけれど、現実的に考えても今回の仲間集めは無茶苦茶だ。今回は諦めるしか……、


ピカッ!!


「ん?」


何度も合成をしていると今までと違い、一際大きく光り輝いた。

いつもなら白い光がぼわっと出てくるだけなのに……今目の前で起こっている現象は七色の光が手の中で放っている。


「な、何…!?」


いつもと違う現象に驚く中、光が段々と治まっていく。そして手の平にあるのは回復薬……と思ったが、いつもと様子が違う。

いくつも作った回復薬は緑色の液体が入った物だが……今あるのは深い青色の液体が入った物だった。瓶の形もいつもの形ではなく、複雑な彫模様が入って変化している様に見える。


「…なんだか分からないけど別の物を合成した感じかな……?……にしても、綺麗だなぁ。」


部屋の照明でキラキラと輝く青色の液体は、まるで宝石を溶かした様な美しさがある。横に動かすと海の波の様にゆらりゆらりと揺れ、それがまた幻想的で綺麗だ。

しかも心なしか…今まで作っていた回復薬より高そうに見える。


「とりあえず、これが何なのかリリィが帰って来てから聞いてみますか。…さて、まだまだ作るぞ~!!」


それからリリィが帰ってくる一時間の間、回復薬の合成をしていたけれど……青い液体が入った不思議な物を作り出す事は出来なかった。

そして、その青い液体が入った不思議な物は仕事が見つからなかったのかゲッソリとした面持ちで顔色を青くしているリリィに衝撃を与える物となる。




●●●


「う、うぎゃああああああああ!!!!」

「わあああ!!び、びっくりした!いきなり大声で叫ばないでよ!心臓が飛び出るかと思った…!」

「ちょ、ちょっと!!マツリ!!ここここここれ!本当にマツリが合成した物なの!?回復薬作ってたんじゃないの!?!」


女子では有り得ない叫び声をあげたリリィは、信じられないと言わんばかりに目を見開きながら私に詰め寄ってきた。手には私が合成した、あの青い液体が入った不思議な物がある。


「回復薬を合成してたよ?けど一回だけ、いつもと違う感じがして……そしたらこれが出来たの。」

「……凄い。凄すぎる……こんなの奇跡としか言いようがない。」

「ねぇ、それ何なの?その後も回復薬を合成してたけど一度も同じ物作れなかったし……回復薬、じゃないの?」

「回復薬よ。けど…これは只の回復薬じゃないの。」

「只の回復薬じゃない?」


それは一体どういう事だろうか。更に謎が深まる私に対してリリィは怪しげに「ふふふ」と笑みを浮かべた。


「最高…最高よ。まさかこれが作り出されるなんて……私達はついてる!いや、これはマツリが強運なんだと示しているんだわ…!!流石勇者!!」

「え?」

「…これはね、普通に考えても今のマツリのレベルじゃ作り出せないレアアイテムなの。少なくてもレベル85以上じゃないと作り出せない代物よ。いや、レベル85以上あっても中々作り出せる代物じゃないわ!」

「それは……え?でも私商人だって知ったの昨日だったし、絶対レベル85とかじゃないよ?なんでそんなレアアイテムが作れるの?」

「ごく稀…かなり確立は低いけど、レベルが低いのに何千分の…いや、何万分の一の確率で高レアアイテムを合成出来る事があるのよ。そして……これが高レアアイテムである『エレクシール』なのよ!!」

「え『エレクシール』…?」


この青い液体が入った不思議な物が…エレクシールという名前でレアアイテムって事?…ていうかエレクシールって何なのだ。

初めて聞く単語に首を傾げている私に対してリリィは得意げに笑みを浮かべた。


「瀕死状態からの体力全回復、身体異常や精神汚染等の状態異常の治癒、それだけじゃなくて状態異常予防をしてくれる回復薬界の王様!!」

「か、回復薬界の王様…!」

「ちなみこれ、レアアイテムなだけあって最低でも……これ位します。」


そう言いながらリリィは手の平を開いて私に見せてきた。…えーっと……?


「五十…?」

「桁が違います~。…聞いて驚きなさい。………五百万よ。」

「ヒッ…!?」


予想以上の金額に喉の奥が引っ込んだ。ご、ごごご五百万…!?こ、これが…!?!こんな小さな瓶に入った液体が……!?!

私が合成で出した…こ、こここここの回復薬が五百万!?


「そ、そんな…確かに高そうだなとは思ったけど……ほ、本当にそうなの!?リリィ!!」

「こんな状況下で嘘つく訳ないでしょ!?いい?このエレクシールは原材料がまず入手が困難な上に扱いも難しくて、レベルの高い商人や『薬師』での合成や配合でも中々作り出せる事が出来ないの。けど効能が凄いから欲しい人は欲しいの。だから設定された金額は普通に高いのよ。」

「そ、そんな凄い物を私が……運よく作ったって事だよね……。」

「流石勇者様~。マツリの強運に感謝するしかないわ!こ、れ、で……指定された金額クリア!強い仲間も手に入る上にお釣りまで来るんだから!こんな最高なシチュエーション、誰が予想してた!?ええ!?」

「ちょ…は、はしゃぎ過ぎだよ…。」

「はしゃぎたくなるわよ!!…ふふふふふふ。奴等の悔し気な顔を見るのが今から楽しみだわ……。そうと分かれば高値で取引してくれそうな商人を探してくるわ!」

「え!?で、でも外も暗いよ…!?」

「夜の方が高値で取引してくれる商人が多いのよ。あ、失くすと怖いからマツリがエレクシール持ってて。」

「リ、リリィ!?」


「先に休んでていいから!」と吐き捨てる様に私に告げるとリリィは勢いよく部屋から出ていった。さっきまで騒がしかった部屋が一気に静かになった。…まるで嵐みたいだ。


「……ふぅ。」


張り詰めていた緊張が解けて、ベッドに身体を沈めた。手にはエレクシール。…これがあればクロトさんが出した条件を満たせれて、仲間に出来る。その上お釣りまでくるのだ。これで一安心……なんだけど、


「…本当にこんな形で仲間にしていいものなのか。」


クロトさんは金さえ用意出来れば構わないみたいな事を言っていたけど……なんだか胸がモヤモヤする。

お金を用意して、仲間になって、一緒に魔王を封印する為に旅をして……クロトさんは本当にそれでいいと思うのだろうか。仕事だからと割り切っていくのだろうか。

……でも、それって……楽しいものなの?嬉しいものなの?……幸せな事なの?


「……嬉しい訳ないよね。だってこの旅だって……楽しいものじゃ、ない…のに……。」


重くなる瞼と押し寄せてくる眠気。

歪む視界に私は抵抗する事が出来ず、そのまま途切れ途切れになっていた意識を飛ばした。




●●●

賑わう酒場。昼と違い夜の方が更に盛り上がりを見せている。

そんな中、依頼掲示板にある一枚の依頼表を手に取るとそれを見ていたのか酒場の主人が近づいてきた。


「それに行くのか?クロト。」

「……あぁ。」

「悪い事は言わねぇ、それだけは止めときな。いくら魔物狩りで有名なアンタでもソイツは無理だ。」


酒場の主人が言う『ソイツ』の正体は依頼表に書かれた魔物の事だろう。


『魔物討伐依頼。場所はアステリ郊外にある森。魔物『レイデックス』討伐してほしい。報酬額は…』


「その魔物は最近この辺にきた奴で夜行性で人より目がきく。おまけに凶暴で、レベルの高い職業の奴等が何度も挑んでくるが……結果は失敗に終わってる。中にはそれで命を失った奴もいる…。」

「………。」

「確かに報酬額はいい。下手したらこの依頼の中で一番だ。だが…あまりにも危険だ、危険過ぎる。良い事なんてない。やめときな。」

「……別に構わない。」


持っていた依頼表を押し付ける様に酒場の主人に渡すとそのまま賑わう酒場の中を通り抜け、外に出て行く。

去って行こうとするその背中に酒場の主人はそれ以上は何も言えず、押し付けられた年季の入った依頼表に視線を移した。


「…これをまた掲示板に戻す…なんて事にならなきゃいいんだがな。」


主人の小さな呟きは酒場の賑わいですぐに掻き消されてしまう。主人は小さく溜め息をつくと依頼表を身に着けているエプロンのポケットに入れこんだ。










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