第8話:猫人の思い
―――セブンスにて―――
①猫人の想い
私の名前はミオ。猫人族の14歳だ。私は、自分は不幸だと思っていた。生まれた時から奴隷として育てられ、家事の仕方などについて教わってきた。唯一マシだった事と言えば、最初の主人が女性であったことと、私に料理の才能があったことくらいか。
町の料理人にも負けないほどの腕前があったため、主人にそこそこ大事にしてもらえた。他の奴隷の話を聞く中で、自分の扱いはとてもマシなほうであると実感できたのである。だが、大きな不幸が訪れる。私の料理の腕をうらやましがった貴族が、私の主人を犯罪者に仕立て上げ、私の所有権を奪い去ったのである。
その貴族の、奴隷への扱いが最悪であることは噂で聞いていた。私は、馬車でその貴族の屋敷に連れて行かれるところだった。その道中、幸か不幸か、盗賊に襲われた。これは、逃げ出すチャンスかもしれない、そんなことを一瞬でも考えた自分がバカらしかった。その盗賊は、有名な“黒サソリ”だったのだ。元冒険者たちがメンバーに複数いて、王国の騎士達もうかつに手を出すことが出来ないほど巨大な組織である。
残虐無比で有名な黒サソリから、生きて逃れられるとは到底思えない。ああ、つまらない人生だったなあ。私は最後にそう思った。
だが私の人生は終わらなかった。私に救いの手をさしのべた神様がいたからである。その名はリュウ様。全身を立派な鎧につつみ、絶世の美女を侍らせた偉大なる存在。私はリュウ様に、残りの生涯を捧げると決めた。
現在私は、リュウ様のお作りになられたセブンスという豪邸に住み、そして働いている。豪邸という表現が本当にふさわしいのか、私には分からない。私の住むそこは、地下2階なのである。しかし、暗いイメージとは真逆で、理想郷といって差し支えないほどの、明るくて楽しい空間がそこには広がっている。エンジュ様という、リュウ様の右腕のようなお方が、疑似太陽というものをお作りになられたのだ。これにより、地下2階であるはずの巨大なこの空間は、まるで地上のようである。それだけで無い。天気や気温まで、自由自在なのである。
リュウ様が第2層と呼ぶそこには、装備を作るための工場や、実験場、農作物を育てるための畑や果樹円などがある。
私の仕事は、料理である。仕事自体は今までと変わらない。しかし、私の幸福感は以前と比べものにならない。
ここには、たくさんのゴブリンの他に、蛇の魔物やスライム、狐人など、様々な種族が暮らしている。普通なら、縄張り争いや勢力争いが頻発するはずだ。だがここではまるで違っていた。
みんなが平等に、楽しそうに笑い、手を取り合って生活している。私が料理を振る舞うと、それはそれはうれしそうに、お礼を言ってくれる。協力して仕事を行い、それぞれが自分の特技をいかせるような環境が整えられているのだ。
リュウ様いわく、この町は最近出来たばっかりだという。こんなことがあり得るのだろうか。いや、リュウ様なら可能なのだろう。
リュウ様に救ってもらったとき、神様だと私は思った。しかしそれはあくまで、私の中での神様、という意味だったのだ。しかし、リュウ様にお仕えする守護者様方や、その眷属様方を見ていて思ったのだ。文字通り本当に神様かもしれないと。
私は、世の中の情勢についてそこまで詳しくはないのだが、ここの方たちに勝てるような生物は地上にはいないと思う。そんな強大な力を持っているのにも関わらず、それを驕らず、不要な暴力を振るうことは一切しない。そればかりか、リュウ様はこんなにも多くの生き物を幸せにしている。これが神様以外のなんだというのか。
それだけではない。リュウ様は、定期的にこの第2層の町を見学にいらっしゃるのだ。その目的は、町をより良いものに変えるため。もう十分過ぎるほど幸せであり、リュウ様に感謝していない者などここには皆無だろう。それでもまだ私たちのために動いてくれるリュウ様に、より一層の忠誠を誓った。
リュウ様は、みんなが生きていてくれるだけでメリットがあるとおっしゃっていたが、本当にそうなのだろうか。私がリュウ様に恩返しできる事の量と、リュウ様からいただいた幸せは、まるで釣り合っていないと思う。リュウ様に、私はいったい何をかえせばいいのだろうか。私の出来ることを模索しつつ、これからも精一杯働いていきたいと思う。