第5話:一ヶ月後
~1ヶ月後~
転生してから一ヶ月ほどが経過した。
守護者とその眷属達はとても優秀で、俺の予想を遙かに上回る成果を上げていた。だんだんとこの世界の情報が集まってきて、ダンジョンも強化されていった。
現在の俺たちの勢力や状況を表示してみよう。
俺(鎧バージョン)
鎧に俺の意識を移したもの、それが今の俺である。鎧に、守護者たちが様々な効果を付与してくれたらしく、俺は結構強い。冒険者としても十分やっていけた。だが、はっきり言って、守護者達には勝てる気がしない。守護者達より遙かに弱い主人とは・・・?(泣)
だが、メリットもある。あくまでこの鎧は俺の媒体であり、もし破壊されても俺は無事なのである。またあとで他の媒体に意識を移してもらえばいいのだ。つまり俺はダンジョンコアさえ破壊されなければ不死身といえるのである。
マジョール
マジョールが使える魔法をみせてもらったのだが、はっきり言ってチートだった。まず、全ての魔法を無詠唱で放てる。そして、プラチナ級の魔法をいとも簡単に発動出来るのである。魔法には階級がある。コモン級、レア級、ブロンズ級、シルバー級、ゴールド級、プラチナ級に分かれている。もちろんプラチナ級は最大の階級である。優秀な冒険者でさえ、1分間の詠唱をおこなってやっとシルバー級の魔法が放てる程度である。ゴールド級に至っては、この世界で使える者がいるのかもあやしい。ほとんどおとぎ話のような存在となっている。
強力なのはマジョールだけでは無い。マジョールには三体の上級眷属がいる。
アイン、ツヴァイ、ドライとそれぞれ名付けてやった。この三体も相当に強力である。少なくとも俺は勝てない。守護者の眷属にさえ勝てない俺・・・少し悲しい。だが、ここは前向きに、“頼もしい”と思うことにしよう。
イザベル
順調に、アイテムの研究を進めてくれている。アイテムにも階級があり、それは魔法の階級と同じ分類がされている。例えばブロンズ級のアイテムを使用すると、ブロンズ級の魔法と同等の威力を出せるということである。この世界のアイテムのほとんどはコモン級であり、たまにレア級、国家の財宝レベルになるとシルバー級もあるらしい。これ以上の情報はまだ手に入っていない。
アイテムは、通常型、永続型、誘発型の三種類の型に分けることが出来る。
・通常型は、所有者が発動タイミングを決めてつかう。
・永続型は、発動するしないに関係なく、常に効果を発揮し続けているアイテムの事である。
・誘発型は、特定の条件がそろったときに、勝手に発動するタイプのアイテムである。
イザベルのおかげで様々な仕組みが分かってきた。今後も活躍を期待する。
エンジュ
冒険者として一緒に活動している。エンジュも人化できるのだが、天使というだけあり、非の打ち所のない美しい顔と、完璧といって差し支えない優美なボディを兼ね備えている。俺と一緒に冒険できるのがうれしくて仕方がないようで、とびきりの笑顔を向けてくれる。俺が人間だった頃なら、確実に落ちていると思う。
ただ、人間への見下し方がえげつなく、虫けら程度にしか思っていない。そこは、だんだん直させていこうと思う。見下された相手がかわいそうだから、という理由では無くて、エンジュに油断してほしくないことと、良い部分は学んでほしいという思惑があるからである。
まあそれはひとまず置いておくとして、天使の回復アイテムは素晴らしい。エンジュの眷属である、10体のプチ天使たちが回復アイテム作成にあたっている。
冒険者の活動をしている時、盗賊に襲われて死にかけている猫人族の獣人に出会った。盗賊を適当に追い払い、その猫人を助けたのだが、あまりにもひどい状態だった。手足は半分無くなり、首や頭からも血を流していた。人間ならとっくに死んでいるだろうが、獣人は体が丈夫なので死ななかったのである。そこで役に立ったのが、 天使達が作った体力回復ポーションである。飲んでもかけても効果がある。
それをひと瓶振りかけただけで、手足が復活し、血液が作られ、欠乏していた栄養が補充された。ついでに汚れなども全て無くなって綺麗になった。俺もさすがに驚きを隠せず、30秒ほど一言もしゃべらず固まってしまった。驚いたのはその猫人も同じようで、しばらく呆然とした後、しきりに感謝された。今、その猫人は俺たちの仲間となり、俺たちのダンジョン、セブンスで働いてくれている。
ブローク
情報収集を任せている。ドラゴンは、いにしえの時代から人間と関わりを持っており、人間たちの扱いには慣れていた。これも、情報収集に向いている理由の一つである。
分かったこと。まず、この世界には大きく分けて4つの国がある。
・ランバル王国:4つの中で一番大きな国土と人口を誇る王国である。俺たちのダンジョンがあるのもこの王国である。
・剣聖帝国:名前の通り、剣の腕前で多くが決まる実力主義の帝国である。ここでは義務教育として剣術を教えているらしい。
・アラスク連合:王国や帝国から逃れてきた人間や、亜人や獣人など、様々な種族が一緒に暮らしている。比較的平和で、差別なども少ない。軍事力という面では一番弱く、王国や帝国のいいなりになってしまうこともしばしばある。
・セイルズ商業国:物品や貨幣の流通が著しい商業国。他の国よりも技術が発展している。この国も差別などは少ない。家柄にとらわれず、才能の部分を評価するシステムで、適材適所をモットーに掲げている。
次に冒険者。
冒険者のランクは低い方から、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSまである。
SSランクはダブル、SSSランクはトリプルなどと呼ばれ、限られたごく一部の者
だけがこのランクまでたどりつける。
Sランク以上の冒険者は、15人ほど。その中でも警戒すべきなのは、SSSランクのガーネット・ルル・シャースという狼人。パーティーを組まず、ソロで活動している事から、孤高のウルフと呼ばれている。
パーティーとして有名なのは、ブラックローズ、極進会、シルバーウルフなどである。ブラックローズとは一度だけ一緒に仕事をしたので面識がある。
次に、他の転生者について。どういう訳か、まったくそれらしい情報が出てこない。俺が立てた仮説は、地球の人類が転生したのは、それぞれ違う世界なのではないかということである。世界がそんなにたくさんあるのかという疑問もあるが、神様というのが実在したのだから、あり得ないことではない。だが、警戒するに越したことはないので、他の転生者もこの世界にいるという前提で、セブンスを強化していきたいと思う。
スノーグ
スノーグは、一体の上級眷属と、多数の蛇の眷属を従えている。上級眷属であるアークレプタイルは、人化も可能で、知能も高い。スノーグは人化が出来ず、言語も話せないので、このアークレプタイルには通訳も務めてもらっている。レプターと名付けてある。人化しているときの見た目は、やる気なさげな少女という表現が似合うだろう。語尾にいつも、「・・・・・・」がついているようなしゃべり方をする。
スノーグは、全ての蛇たちに命令を下すことができる。まさに蛇の王者といえる。その完全な指揮のもと、ダンジョンの拡張が順調に進んでいる。蛇たちが地中を掘り進め、邪魔になった土などは、大食いなスライム達が吸収してくれる。スライム達の便利さは計り知れない。レベルが上がれば、吸収した物を保存することも可能になる。大容量のアイテムBOXとして使用できるのだ。
蛇たちの活躍も馬鹿にはできない。ここら一帯は相当堅い岩石で出来ているはずなのだが、それを異常な速度で掘り進めていくのである。さらに、守護者総括であるマジョールの指示のもと、頑丈な設計となるように掘り進めている。細かい指示もすんなりとこなす事が出来るのだ。
スノーグ達の活躍により、第1から第7階層までの全てが、それぞれ2倍ほどの大きさになっている。
また、俺たちに協力的な魔物達は、連れてきて味方にしている。冒険者にやられて怪我しているところを助けたり、こちらの強さを理解して配下になったりと、パターンは様々である。だが、強制的に連れてくることはしていない。そういう行動が崩壊の源となることは、前世でもよく知っている通りである。
階層を広げた事により、魔物達の収容も余裕が出てきている。ゴブリン王を含む、大量のゴブリン達がまとめて味方になるというイベントがあって、そのときは多少窮屈していたが、現在では第2層をゴブリン達の住処として与えてある。
第2層の階層主はブロークである。ブロークの眷属は、上級眷属であるドラゴニュート三体だけなので、スペース的にも最適である。また、情報収集のため、各地に出回っていることが多いことも理由のひとつである。
これからもセブンスの拡張と魔物の充実化を続けてもらうとしよう。
メータイル
メータイルの上級眷属として、キングクリアスライムとキングメタルスライムとキングチェンジスライムがいる。この三体はそれぞれ、クリアスライム、メタルスライム、チェンジスライムを30体ほど使役している。同じ種族のスライム達は、互いに意思疎通が可能である。それも、もはや一つの頭脳で動いているのではないかと思うほどの連携が可能である。
メータイルだけは、これら約100匹のスライム全てと意思疎通ができ、全ての行動の最終決定権はメータイルが所持している。
◎クリアスライムは、名前の通り、透明なスライムであり、発見するのは困難である。戦闘力はそれほど高くないが、高い素早さを持つことや、映像記憶のスキルを所持していることから、偵察に向いている。実際、4カ国全てにクリアスライムを送り込んであり、様々な情報を入手することが出来た。
◎メタルスライムは、状態異常無効、精神支配無効、物理ダメージ大幅軽減、魔法ダメージ大幅軽減などの耐性を一通り備えており、防御に特化したスライムである。身体の変形が自由自在なことも特徴の一つである。これを生かし、マジョールの協力を得て、最強の防具が完成した。メタルスライムで全身を覆うという、ただそれだけである。しかしそれがどれだけ強いのかはもう分かるだろう。ちなみに、防具に加工したといっても、それに使用したメタルスライムは死んでいない。スライムに休息は必要ないので、眠っているときの見張り役も果たしてくれる。さらに、マジョールの魔法により、【不壊】、【耐熱】、【断熱】、【空調完備】、【軽量化】、【HP自動回復】、【MP自動回復】などの効果が施されている。
今のところこの防具は7つ作ってある。装備しているのはもちろん、7体の守護者達だ。俺は、もともと鎧なので余り必要ないのだ。ただの媒体なので、正直、死んでも問題がないのである。
この防具の見た目と言えば、色は黒一色。その守護者たちの体型に合わせて、効率の良いデザインになっている。形は、武器屋で売っているような、軽さを重視した装備と似ている。この世界にも四季はあるが、この防具は年がら年中つけていて問題ない。その理由はマジョールが付与した、【空調完備】によるものである。最適な環境を自動で整えてくれる。
正直、これほどの装備の存在が知られたら戦争が起きかねないので、これらの機能が決してばれないように心がける必要がある。
◎チェンジスライムは、変身を得意とする。一度見た物に化ける事が可能である。やってもらったが、じっくりと観察しても違いが分からないほどだった。さらに、さわり心地までほとんど再現されていた。これは様々な場面で使えそうである。今のところは、セブンスにて雑用を務めてもらっている。
フェンリー
フェンリーは、1体の上級眷属と、10体の狐人を従えている。上級眷属の種族名は妖狐。大量の魔力を所持しており、1000年を越える寿命がある。これらの眷属達は全員、人化が可能である。魔物捕獲のサポートや、アイテム収集の時以外は、セブンスにてメイド役をしてもらっている。
メイド服を作った素材も、フェンリーたちが集めてきたアイテムから為っている。フェンリー達はとても優秀で、短い時間で大量のアイテムを集めてくる。アイテムは基本的には、魔物を倒してはぎ取るか、他のダンジョンで発生する宝箱から入手出来る。だが、魔力が充満している森林などでは、自然にアイテムが発生することがある。フェンリー達はそういったアイテムを的確に集めてくるのである。これらは、イザベルの実験や、セブンスの強化の材料として用いられている。
このように、セブンスは日々成長しているのだ。守護者達の今後の活躍にも期待している。慢心することなく、上を目指していこう。