第2話:なるほど、そういう設定か
魔法使いは言った。
「ご主人様、このときをお待ち申し上げておりました。すでに媒体は完成いたしております。まもなく儀式を行います。」
ん?いきなりでよく分からないな。
媒体?儀式?なんのことだろうか。
俺が疑問に思っていると、後ろにあった入り口から、大きな黒い羽を生やし、全身が真っ黒な鱗に覆われたドラゴンが姿を現した。
ドラゴンの背中には、なにやら頑丈そうな鎧が乗せられていた。
魔法使いが再度口を開いた。
「こちらが媒体となります。ご主人様にふさわしい、様々な装飾と効果を兼ね備えております。」そう言って、魔法使いはドラゴンが持ってきた鎧を指した。
この魔法使いの発言を皮切りに、残り五体の守護者も次々と姿を現した。
銀のしっぽを生やし、赤黒い角と鮮やかな青色の胴体を持つ悪魔。
金色に輝く光輪と純白の翼を持つ、絵に描いたような天使。
黒に近い灰色のボディに、いくつかの金色のラインが描かれた、しずく型のスライム。
黒と緑を織り交ぜたような体表で、全長50メートルほどの大蛇。
狐の特徴とオオカミの特徴を併せ持った、灰色の獣、フェンリル。
みるからに全員強そうだ。こうしてそろったところを見ていると実に圧巻である。
そんなことを思っているうちに、いつの間にか例の“儀式”とやらが始まっていた。七体の守護者が俺の周りを取り囲み、なにやら呪文を唱えている。
そして急に、魂が浮くような感覚がした。
・・・俺は、ゆっくりと起き上がった。ダンジョンコアは、丸い水晶のようなものであり、起き上がる、などという行動はできない。そもそも生き物ではないし。
ではなぜ俺は起き上がることができたのか。それは、俺が鎧になったからである。先ほどドラゴンが運んできたあの鎧。俺はそれに乗り移ったらしいのである。
どういうわけか、声を出すこともできた。
そういえば、言語もなぜか完全に理解できた。神様が自動翻訳でもつけてくれたのだろうか。
まあそんなことより、現状の把握が先だ。俺はおもむろに口を開いた。鎧だから実際に開いた訳では無いが。
「守護者たちよ、現在の状況を教えてくれ。」
我ながら、迫力のある声だと思った。鎧から出る声は、少し機械チックで、そして低く、よく響き渡るのである。
この問いに答えたのは魔法使いだ。
「はい。我々は、ご主人様の命令に従い、このダンジョン内で過ごしておりました。一ヶ月したら媒体に移してくれ、とおっしゃったので、儀式を実行させていただきました。」
ふむふむ。そういう設定になっているわけか。
「みたところ食料などはないようだが、大丈夫だったのか?」
「食料なら十分でしたよ。ご主人様が毎日、食事を出してくれたではありませんか。それだけで無く、たくさんの力を与えてくださいました。我々は、心から感謝いたしております。」
なるほど。ゲームで食料を与え続けたことや、魔物を倒してレベルを上げた事は、こういう設定につながっているわけか。“力”というのが、あのゲームで言う経験値のことだろう。
「それならいい。ところで、俺は少々記憶を喪失している部分があるようだ。このダンジョンや外の世界についておしえてくれないか。」
前から俺はこの世界に存在していたことになっているようだが、実際にはなにも知らないので、こうして情報を得ておく必要があるだろう。
「わかりました。それでは説明させていただくことにいたします。」
魔法使いの説明で分かったことをまとめてみる。
7体の守護者達は、一ヶ月前に生み出された。ご主人様(俺)の命令により、決してこのダンジョンの外には出るなと言われたので、その言いつけを守っていた。また、このダンジョンの存在を、この世界から隠蔽していた。といっても、存在を分かり辛くする程度だが。
ダンジョンは地下に広がっていて、全部で8つの階層から出来ている。階層一つごとに階層主がいて、1~7階層までを7体の守護者達がそれぞれ担当している。そして現在いるのが第8階層である。
「・・・というわけなので、我々も外の世界については詳しく知らないのです。」
「だいたい理解した。ご苦労だった。」
「いえ、もったいなきお言葉。」
そういって、魔法使いとその他の守護者も一斉に頭を下げてくる。なんなんだろう、この絶対的な忠誠は。嫌々従っているようにも見えない。むしろ、俺に仕えることを最上の喜びとしているようにさえ見える。俺はそんなに慕われるようなことをしたのだろうか。
気になって聞いてみた。
「私たちは、ご主人様のくださった力のおかげで、最上位種まで進化を遂げる事が出来ました。我々を生み、育ててくださった。全てはご主人様のおかげです。ご主人様に心からお仕えすることに、これ以上の理由は必要ございません。」
・・・うん。なんというか、あのゲームを頑張って良かったよ。これならこの異世界でも十分やっていけそうだ。ただ、警戒すべきなのは他の転生者だな。もしかしたら俺と同じように、あのゲームをやりこんだ奴がいるかもしれない。油断すれば痛い目に合う、これはどこの世界でも共通なはずだ。
どんなに強くても調子に乗らず、楽しい異世界ライフをおくるのだ。