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第12話:信じて良かった

 安全は保証する・・・か。



 俺は頭をフル回転させる。成功する可能性、失敗する可能性。罠である可能性。その場合のこちらの被害。なんと返すのが正解だ?


 冷静な思考の中に、今までの苦労が混ざり込む。ここ2,3年で、俺の見た目は老けたと思う。白髪も急増した。家族のためとはいえ、自分が早死にしては意味が無い。賭けるとしたら今じゃないのか?

 それにこちらがすることは、家族の場所を教える、ただそれだけだ。成功すればそれでよし。失敗しても、逃げ切ることが出来れば問題ない。最悪なのは、とらえられて、俺とのつながりがばれることだ。いや、その場合でも一応大丈夫か。俺がいなくなると困ると分かっているからこそ、人質をとっているわけであり、間違っても俺を処刑したりすることは出来ないはずだ。それでもあいつらが何をしでかすかはわからない。ばれないに越したことはないのだが。

 まあしかし、やってみる価値はある。あとはこの二人の腕前がどれほどのものなのかということだけだ。俺は覚悟を決め、先ほどの紙の裏に、場所を記す。そして震える手で鎧の男に手渡した。


 鎧の男は静かに1度うなずき、エンジュとともに立ち去っていった。



額から滝の様に汗がにじみ出る。何をやっているんだ俺は。会ったばかりの相手に何を期待しているというのか。それも、強いといっても所詮はBランクだ。王宮にはその位の強さの者がごろごろいる。賭けるにしてももっといいときがあっただろうに・・・。


 それでも俺は思う。もしもう一度あの場面に戻せたとしても、俺は紙を渡していただろうと。それがなぜなのかは分からない。論理的に説明がつかない行動をとるとは・・・おれも年だな。


 そんなことを考えて、ギルドの席に座り続けていた。20分ほど経っただろうか。そろそろ仕事の続きに戻ろうと、席を立とうとした。

 すると、鎧の男が戻ってきた。どうしたのだろうと、少し不安になりながら思う。鎧の男はいった。

「クロードさん、少し一緒に来てもらえますか?」


そう言って、そのまま背を向けて歩いて行った。有無を言わさぬものいいだったが、あの男が意味も無くそのような事をするはずも無い。来れば分かる、とでも言いたげな様子だった。もちろん表情などはまったくわからないが。


 鎧の男に連れられて、気付けば人気のない薄暗い場所に来ていた。

「そろそろいいか・・・。」

そんなつぶやきと同時に、何者かが突然出現した。

驚いている暇も無かった。なぜなら、次の瞬間、何かに吸い込まれるような感覚がして、気付いたら、まったくしらない場所に居たのだから。


 あり得ない、とは思うが、でもそう考えるしかない。もしかしてこれは・・・転移魔法?

おとぎ話の中ではたびたび出てくる魔法である。もし実在するのなら、それはゴールド級の魔法。ゴールド級の魔法を使える者は、現在確認されていない。いないはずだ。


 何者なんだ・・・?

ここに来て、自分の勘が正しかったと知る。漂う強者の香り。何かがあるという推測。だがそのようなものが実在することに関しての恐怖もある。や、まだ実在すると確定しているわけではないが。


1度にいろんな事が起こりすぎて、しばらくは混乱が収まらなかった。だがそれは、次の瞬間に終わりを告げる。


「パパ?」



忘れもしない。愛してやまない娘の声。全ての思考を辞め、振り返る。一週間に1度会えればいい方だった。その家族が、後ろに居た。全員そろって。


 何が起きたのかは分からない。それでもこれだけは理解できた。奇跡がおきたということ。


 しばらくの間、鎧の男がいるのも忘れ、4人家族で抱き合っていた。妻と5歳の息子、4歳の娘。俺にとって最も大切な者達である。



 

やっと落ち着いたので、家族そろって、鎧の男にお礼を言った。まだまだ疑問が尽きないが、この男が家族を無事に救出してくれたという事実は変わらない。


 

 それから、鎧の男はたくさんのことを説明してくれた。ここがセブンスというダンジョンの第2層であること。地下なのに地上のように感じられる理由。様々な種族が一緒に生活しているということ。


 すぐに理解出来た訳では無い。他の種族や魔物と一緒に暮らしてもらうといわれたときは、不安でいっぱいだった。でもそれは杞憂であったと知る。そこで暮らす者たちの、生き生きとした笑顔を見て。



 しかし疑問はある。あからさまに王国の敵となる行為をして大丈夫なのかということである。そうまでして俺を助けてくれた理由が分からないのだ。


鎧の男は答えた。


「私は王国のことを見捨てることにしました。それに当たり、有能な人材や、こちらの味方になってくれる人達をどんどんこちらに移そうと考えています。あなたはそれの第一号というわけです。まあ正確には第4号ですね。到着した順にするなら。」


「見捨てる原因となったのはやはりナードルですか?」


「それはきっかけに過ぎません。私のルートでさまざまな情報を集めていましたが、王族や貴族達にはいつも呆れてました。その中には当然、優秀なあなたの情報もありましたよ。人質のこともね。」


「最初から全て知っていたということですか・・・。」


「まあ、そうなりますね。だからこそ、安心してください。私は王族の戦力もだいたい把握しています。その上で言いましょう。あなた方を含む、セブンスの全ての者達の安全を、私が保証します。」



俺はこれを聞いたとき、長年の疲れが一気に押し寄せ、涙となってあふれ出た。俺は賭けに勝ったのだ。

これからは家族とずっと一緒にいられる。もう何も迷うことなど無い。


さあ、新しい生活に乗り出そう。

鎧の男――リュウ――に最大級の感謝を添えて。


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