第11話:王宮にて クロードの苦労
―――王宮にて―――
①クロードのいらだち
俺は、大きくため息をついた。王宮にいる、バカな権力者たちがため息の原因である。
特に、3バカトリオには、怒りを通り越して呆れの感情が大きい。
1,国王:目先のことしか考えない。優先順位がデタラメ。自分の安全や利益については、過剰なほどに死守する。経済や他国の情勢などの大きな流れを把握する力がまるでない。
2,ナードル・デデ・ルイス:女に目が無い。後先考えずにその場の感情だけで行動する。
3,騎士団長:完全な脳筋。命令されたことをなんの工夫もせずにそのままこなす。家柄の関係で団長になってしまったが、そのせいで騎士団の殉職者の数が今までの2倍以上になった。単純な実力だけはあるからそれがまた鬱陶しい。
さて、今日もこいつらがやらかしたことの後始末を始めますか。
ふむふむ・・・
なに!?
ナードル、さすがにこれはまずいんじゃないか?
俺は各地に優秀な情報部隊を派遣しているのだが、そのひとりが得た情報で、こういうものがあった。
絶世の美女という噂の、エンジュという冒険者にナードルがちょっかいをかけたというものだ。女に目が無いナードルも、さすがに自重してくれると信じていた俺がバカだった。
冒険者というのは、その場所に籍を固定している訳では無いので、他の町や他の国にも自由に移動して活動することが出来る。つまり、冒険者の反感を買ったら、この国を出て行ってしまう可能性があるのである。しかもエンジュといえば、リュウという鎧の男と共に活躍しているBランク冒険者ではないか。聞けば、異例の速さでBランクまで辿り着いたという。
そんな冒険者を失ったら、国としては大損害である。
すでに家を持っている人なら、出て行ってしまう可能性は低いといえる。しかし、この二人組が宿に泊まっていることは確認済みである。家族の情報なども今のところ不明で、謎めいた部分が多い冒険者でもある。
だからこそ、手放したくない。役に立つにせよ、脅威となるにせよ、目の届くところにいてほしいというのは普通の思考だろう。
それだけではない。エンジュという美女は、他の冒険者たちにも人気が高いと聞く。そんな人を私利私欲のために連れて行こうとしたとなれば、冒険者全般を敵に回すことになりかねない。その敵意が、ナードルのみに働けばまだいい。しかし、恨みの対象となるのは貴族や王族などの全般だ。
そんなことになったら国の崩壊の危機である。
とりあえず、今日はこれの解決が最重要事項であると判断した。そうとなればすぐに行動だ。身支度を整え、贈り物を準備し、馬車に乗り込む。目指すは、その二人組の行きつけの冒険者ギルドである。
ギルドに入ると、対象の二人組はすぐに分かった。エンジュの美しさは想像を遙かに上回っていた。一瞬、これならナードルが暴走しても仕方ないか、と思ってしまうほどだ。いけないいけない。私は謝罪しにきたのだから。
すぐさま、真剣な顔つきに切り替える。そして身なりの最終チェックをし、その二人組の座る席に向かって歩いて行った。
「お初にお目にかかります。私はクロード・ロイ・アルトと申します。少々お時間いただいてもよろしいでしょうか?」
普通、貴族がこんなにへりくだることはまずない。それも冒険者などという身分の者に対して。しかし、こうするのがてっとり早いということはすでに知っている。後始末には慣れているのだ。
突然話しかけられて二人は少し驚いた様だったが、一緒のテーブルに座ることを快諾してくれた。
「早速ですが本題に入らせていただきます。先日、ナードルという貴族がやってきませんでしたか?どうやらあなた方に不快な思いをさせたらしいということを聞いたので、こうしてお詫びに参ったという次第です。」
この発言に、二人はさらに驚いている様だった。俺が貴族であるということは、身なりなどからうすうす感づいていたのだろう。だからこそ、こんなに素直に謝られたことを驚いているに違いない。
鎧の男こちらを向き、そして言った。
「失礼ですが・・・、クロードさんは貴族ではないのですか?」
「ええ、王宮に務めております。」
「これはこれは。知らなかったとはいえ、先ほどまでのご無礼をお許しください。」
鎧の男は、俺が貴族であると確定した瞬間、頭を下げて謝ってきた。俺はとても安心した。話の通じる冒険者であったことに。これならすんなり解決出来そうである。
俺はすかさずいった。
「いえ、頭を上げてください。誤りにきたのはこちらですから。」
「そのことなのですが・・・、どうして本人で無くあなたが誤りにきたのですか?なんとなく予想はついていますが・・・。」
「おそらくご想像の通りだと思います。なにとぞ、気を悪くせず、これからもここで冒険者として活躍していただきたいのです。」
「あなたは苦労人ですね。そんなにまでしてこの王国のために尽くす理由は何ですか?」
この問いには少し困った。実を言えば、何度この国を出たいと思ったかは数え切れない。しかし、俺には家族がいる。そして、王族の者達の近くに置かれている。簡単に言うと、やんわりとした人質のようなものだった。家族の暮らしと安全のためにも、俺は国を出ることは出来ない。そうとなれば、国が崩壊することも阻止しなければならない。俺が頑張る理由はその一点に尽きる。
だが、知り合って間もない奴に、それも他の人が周りにいる時に、事実を言うのはバカのすることだ。
「貴族として、国の利益を考えるのは当然のことです。」
俺は無難な答えをした。
だがそれに対して返ってきた言葉は、思わず目を見開くような一言だった。それは俺以外の誰にも聞こえないような、小さな声である。
「人質ですか。」
俺は完全に不意を突かれた。だがすぐに冷静さを取り戻した。そして何かを言おうとしたが、その前に、鎧の男が手を出してきた。
渡されたのは、紙切れである。俺はそれをそのままポケットにしまうフリをしながら、書かれた文字を読みとった。
『場所を教えてくれれば、救出する。あなたの安全も保証する。』