ペット?いいえ、相棒です
視界がゆ~らゆ~らと揺れる。
「クッピッピ♪」
揺れに合わせてご機嫌に口ずさむと、楽しい気分が盛り上がるんだ。
「フェリシア、XXXXだねぇ」
真上から幼げな高い声が降ってくる。
何を言っているのか言葉はわかんないけど、ご機嫌だねとか、楽しそうだねとか、そんな事を言ってるんだと思う。
「クピーィ」
もっちろ~ん! とばかりにワタシは返事を返した。
ワタシは声の主が首から下げている袋の中に入ってて、袋の口元からちょっこり頭と前足を出して外を眺めているところ。そう、ワタシとワタシを連れている彼は、木の実や獲物を探して森の中を彷徨っているんだよ。歩きに合わせてゆらゆら揺れるのがとても楽しい。
ご機嫌にさえずってるだけがワタシの仕事ではないよ。
耳を澄ませて危険な生き物がいないか警戒したり、辺りの匂いを嗅いで何かないか探しているんだからね。
犬とは違うから、さほど鼻は効かないけど、人に比べればとっても鼻がよく効く。大きなお耳は言うまでもなく断然良い。
さあこれでワタシの種族が何か気づいたかな。そう、大きなお耳がチャームポイントのうさぎなのです。
この大きくてとても良いお耳で、危険な生き物が近づいていたら相棒に警告してコソコソ逃げる。小さい生き物なら案内して相棒に狩ってもらう。小さなうさぎだけど、結構有能だと思ってます! (キリッ)
うん? なんだか甘酸っぱい香りがするような?
気のせいだろうかとヒクヒクと鼻を利かせると、ハッキリ甘い香りを感じた。
「ピピピッ」
止まってと小さく鳴く。
こうやって鳴くと最近は立ち止まってくれる。
言葉は通じない(ワタシは鳴いているだけだから通じるわけない)けど、今みたいに森に何度も一緒に出掛けてきて、なんとなく止まって欲しいのだというのが通じるようになったんだ。
なにせ相棒だからね。飼い主とペットじゃないからね。以心伝心てやつだよ。
どうしたの? とばかりにぷくぷくした紅葉のお手々が袋から顔を出す私の頭を撫でた。
もうっ、集中できないじゃない、なんて思いながらも特に反応せずに匂いの元を探る。
ヒクヒク
ん、右斜め前方の方角っぽい。
「ピギュ」
「こっち? XXXXX」
ワタシの鳴き声に合わせて彼は何か言いながら右斜め前方に向かって歩き出した。
いくつかの単語はわかるけど、殆どの言葉は理解できていない。でもおそらく何があるのだとか獲物を見つけたのだとか、そんな事を言ってるんだと思ってる。
ちなみに顔や手で方向を指示しなくても、ワタシの鳴き方でどっち方面に行くのかわかってくれるのは、ここ数か月の成果。
歩き出して少しすると香しい匂いの元が見えてきた。
「あ、ブティ」
うれしそうな声を上げて彼はタタタと駆け寄る。
走っているのに首からぶら下がっているワタシはそれほど大きく揺れないので目を回すということはない。気遣って動いてくれているんだ。
彼が駆け寄ったそこには、大人の背より高いくらいの木に実った、ブドウみたいな果物が生っていた。
美味しそう! 涎があふれてくる!!
今すぐ食べたくて、ワタシは無意識のうちに袋の中で足をバタバタさせていた。
「待ってフェリシア」
袋の上から宥める様に撫でられて、恥ずかしながらワタシは我に返りました。
食欲に我を忘れてしまうなんて、理性あるうさぎとしてなんという失態!
恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたい。……袋の中に隠れるところだろうけど、目の前のブドウもどきから目を離すことができない。
ああ、己の本能が憎い……ブドウもどきが憎い……憎たらしいほど美味しそう……美味しそうなブドウもどきはワタシの胃袋に成敗してやる!
ジッとブドウもどきを睨みつけていると、ワタシが入った袋を背中側に回して彼は気にのぼりはじめた。
彼の身長は1メートルほどの、4・5歳と思しきお子様。
木に生っている実に手が届くはずもなく、こうして木に登って採るしかない。
こんな子供を一人で危険な森に出して、親はどうしているんだって思うでしょう?
ワタシの知る限り、最初の頃はパパさんと一緒に森に入っていたけど、なんか気づいたら一人で入ってよしという許可を貰ったみたい。
みたいというのは、言葉がわかんなかったからなんだけど、雰囲気的にたぶんそうなのかなって感じだった。
ふっふっふ、ワタシと一緒ならいいよって感じでお許しを貰ったんだよ! 凄いでしょう!?
ワタシの危険な生き物レーダーは優秀なんですよ! 帰巣本能も優秀で迷子知らずですよ! とってもお得でしょう?