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黒白の王と闇夜の剣  作者: 獅猫
第一章 ー真夜中の幻想ー
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7-料理の腕は如何ほどか?-

今回はサイドストーリー的な日常回です。戦闘はゼロ。息抜き的な感じにでもと思っています。

俺とソフィがたどり着いたのは、【秘境】とも呼ばれる集落【紅葉もみじの里】だった。ソフィが偶然入手した情報からその存在を知り、それが近くにあると知った俺たちはそこに向かったのだ。


滝や渓流が流れ、美しい紅葉などの木々の群れを掻き分け、山の中腹辺りにたどり着いたとき、その里は俺たちの前に姿を現した。


日本らしい紅葉の里で、モンスターをハンティングする某有名ハンティングアクションゲームの3rdに出て来る、温泉が有名なあの里に似ている気がした。


俺たちはその里の人たちに盛大に歓迎され、美味しい料理までごちそうになってしまった。その料理は今までの街では食べられないような美味しさだったのだ。


その夜、俺たちは宿屋に帰った。あの料理を食べた後、何故かソフィはなまら張り切っているように見えたが、その理由はすぐに分かった。


隣のベッドで眠るソフィが日記を書いているのを、正確には日記の内容を楽しそうに喋りながら記していくソフィの声を聴いてしまった。


「今日は紅葉の里の人たちに歓迎されて、おいしいご馳走でおもてなしまでしてもらった。あの料理を食べた後のエイト、幸せそうだったなぁ…。やっぱり私も久しぶりに料理とか練習したほうが良いのかな…でも長らく作ってないし…、よし、決めた。やっぱり作ろう。ここら辺ならいい食材もあるかも…」


そういうことだったのか。俺が美味しそうに料理を食べるのを見て、自分もあんな料理を作れるようになりたいと思ったのだろう。健気だ。それに純粋だ。その料理が楽しみになってくる。


翌日、俺はソフィにバレないように、置手紙を残してこっそりと部屋を出た。置手紙には、「すぐに戻る。料理器具の準備だけしといてくれ。俺も楽しみにしとくから」とだけ書いておいた。


「…よし、釣り具の準備も良し…」


俺はどこかの街にいた釣り人に聞いたのだ。とある山にはとても巨大なサーモンがおり、幻の鮭とも呼ばれているらしい。そしてその場所とやらが…、


「確かこの里の辺りのはずなんだよな…」


そう、この紅葉の里の付近の渓流にそのサーモンが出現するらしいのだ。俺は元々釣りが好きだったし、元の世界でも結構していたほうなので、今の筋力とこの世界で手に入れた高級釣り竿ならば釣りあげることが出来ると思ったのだ。


「(アイツのためにも頑張ってみるか…!)」


俺は張り切って、早朝の里から出て行った。単独行動クエスト【皇帝サーモンを釣り上げろ!】開始である。



♢♦♢♦



俺は、鬱蒼うっそうと、しかし神秘的に生い茂る紅葉の木々の間を歩いた。流れる川の音に注意しながら進む。途中途中で野生動物に襲われたりもしたが、軽く剣で威嚇したら大抵の動物は逃げていった。


そして俺は、やがて渓流を発見した。まさに【渓流釣り】という雰囲気の美しい渓流である。俺はその川に沿って北上した。


聞いた話では、その皇帝サーモンがいるのはこの渓流の最上流、最も上に位置する場所らしい。すなわち、この川を辿れば辿り着くことが出来るのだ。


そして俺が川に沿って北上し続け、実に一時間近くが経過した。水が叩きつけられるような音がする。もう皇帝サーモンの生息地が近いのは確かだが、何の音だろうか。


俺は気になって、小走りで木々の間を抜けた。するとそこには、流れ落ちる大きな水の柱があった。


「…滝だ…!綺麗だな…」


そこには、ため池のような広い場所に降り注ぐ巨大な滝があった。恐らくここが最も上。ここのため池のどこかに皇帝サーモンがいるのだろう。


「…とりあえず真ん中あたりに投げるか…」


そう思った俺は、特製の餌を装備して釣り針を投下した。さて、ここからが釣りの醍醐味でもある【辛抱】の時間だ。どれほど耐えられるだろうか…、


…と思っていた俺だったが。


「うおぉっ!もう掛かったのか!?」


そう、馬鹿みたいに重たい何かが引っ掛かったのである。グイグイと引かれている。間違いない、魚だ。それも恐らく皇帝サーモンだ。


俺は釣りゲーの経験を一気に思い出した。ラインテンションやロッドの向け方。それを全てここで発揮する。


「うおおおぉぉぉぉ!!」


俺は、戦闘の時よりも気合のこもった咆哮を上げ、皇帝サーモンに挑んだ。



♢♦♢♦



「ちょっとエイト!置手紙なんて置いてどこ行ってたの!?」

「悪い悪い、ちょっと野暮やぼ用でさ」


心配そうな顔、そして怒りが入り混じっている顔のソフィに詰め寄られ、俺はたじろいだ。俺が弁明しようとしても、彼女の形相はそれを許さない。


「…何で、どこに、何をしに?」

「ま、まあさ、とりあえずはこれを見てくれよ」


そう言うと俺は、別次元に格納しておいた皇帝サーモンを出現させた。まだ新鮮だ。あの後、30分程の決戦の末、こいつを釣り上げたのだ。おかげで腕はもう動きそうにない。


皇帝サーモンを見たソフィの目が、怒りから驚きに変わる。


「こんな大きな鮭!もしかしてSランクの食材?」

「確かそう。ソフィが張り切ってるみたいだったから釣って来たんだ」

「エイト…そんなこと…」

「だからさ、ソフィの腕前、見せてくれよ。楽しみにしてたから」


俺がなだめるようにそう言うと、ソフィは少しだけ口元を緩めた後、万年の笑みになって言った。


「任せてよね!」



♢♦♢♦



「えっと…鮭だからエイトが教えてくれた【ホイル焼き】?…ってのを作ってみたけど…どうかな?」

「おぉ!完璧じゃん!これぞ俺の国で見て来たやつだよ!」


俺が喜んでそういうのを見てか、ソフィは嬉しそうに微笑んだ。


俺がリクエストしたのはホイル焼きだった。


元々好きな料理でもあった。だが、この世界にはアルミホイルが無いのでそういうのを作れなかったのだ。だがそれを、ホイルと同じような効果を持ちそうな植物で代用し、作り上げたのである。


俺は運ばれてきた鮭を、我慢しきれずに勢いよく食べた。そして再びソフィの方を向いて笑顔で言う。


「美味い!ソフィの料理スキルもだいぶ高いじゃないか」

「えへへ…そうかな…」


俺はそのまま鮭を食べ進めていく。普段は外食などがほとんどなのでこういう料理がたまにあると嬉しいものだ。俺はそう思い、彼女に提案した。


「これからもさ、たまにソフィの手料理とか作ってくれよ。美味いからさ」

「…うん!良いよ!期待してなさいよね?」


後に聞いた話だが、これがソフィが料理修行を本格的に始めたきっかけだったらしい。この後も俺は、定期的に彼女の手料理を食べられるようになったのだった。


次回はかなり大事な戦闘回。強大な相手が登場します。

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