6-リボルバーの銃士-
朝投稿です。初の味方陣営の主要キャラが登場します。
昨夜、俺とソフィは【幻霧の森】で遭難した。そこでゴブリンやトロールと戦って野宿をしたのだ。
そして俺たちは次の日、すなわち今日の朝から森を抜けるために歩き続けている。昨日よりも幻霧という感じは減ったもののまだまだ鬱蒼と木が茂っており気を抜けば再び遭難しそうだ。
そんなことを考えていた俺の視界に外の光が飛び込んできた。
「あ!見て!外だよ!」
「おぉ!やっとだな!」
俺たちは二人そろってダッシュして外の光を目指した。そして茂みを飛び越えて外へ出る。
そこには久しぶりの街道とその先に広がる海峡に架かった橋のような綺麗な町があった。あれが【サンセルム】の町だろう。俺たちは顔を見合わせるとサンセルムに向かって一直線にダッシュした。
俺たちはサンセルムの町に足を踏み入れた。そして、その綺麗な街並みに感嘆して俺は呟いた。
「ここがサンセルム…綺麗だな…」
「海峡に橋を作ったんだけど他の町との距離が遠くてね。冒険者とか旅人が困るからいっそここを町にしようってなったらしいよ」
「へぇ。…じゃあこの下は海なのか?」
「そう。元々はみんな崖にある階段で下まで降りて船で渡ってたらしいんだけど危険な水棲モンスターが出現して渡れなくなったんだって。それでこの町ができたってわけ」
「そんな経緯があったんだな…」
ソフィの解説を聞きながら俺たちは町を歩いた。町の端っこから下を見ると確かに海がある。この下を船が通るのだろうなと考えてから、下には凶悪な水棲モンスターが出現するんだと今言われたばかりだと思い出す。
俺たちは軽く昼食をとる為にレストランを探した。俺はあるレストランを見つけて入ってみる。
「港町っぽいのに魚料理店は全然ないんだな」
俺がそう言うとソフィは呆れたように言った。
「ちょっと…さっき水棲モンスターのせいで船が通れないって言ったでしょ?」
「あ、そうだった」
二度も全く同じ話題で納得してレストランのテーブルに座る。俺とソフィは二人共鶏肉料理を注文する。俺たちはこの後の予定などを何も決めていなかったので話し合うことにした。
幻霧の森を出てからの予定はサンセルムに行くことしか決めていなかったのだ。帝国と戦いに行くことや賞金首モンスターを倒して金を稼ぐという選択肢もある。
「ソフィ、この後はどうする?」
俺が彼女に聞いてみるとソフィは俺の方を向いて言った。
「情報をちょっともらったんだけどこの近くに帝国の砦があるんだって。そこを潰すのがいいかなって」
「そうだな。ひとまずはそこに行こう」
俺たちがそう言うと隣のテーブルに座っていた一人の客が俺たちの方を向いて言った。
「あんたらも帝国と戦ってるのか?」
俺に話しかけてきたのは黒いガンマンベストにレザーパンツ、腰のホルスターには大きめのリボルバー銃、ベルトには予備の銃弾を装填した銃士だった。
恐らく俺と同じくらいの年だろう。ダークブラウンの髪を持つ青年だ。俺は彼に向かって答えた。
「ああ。まあそんなところだ」
俺がそう言うと彼はある提案を持ちかけてきた。
「オレも今夜その基砦に行く予定だったんだけどさ。よかったらあんたらも来ない?」
俺とソフィは目を合わせて同時に頷いた。帝国の基地のような場所に行くのには人出が多いに越したことはないだろう。俺は彼に向けて言った。
「その話乗ったぜ。俺は黒羽夜瑛斗だ。よろしくな」
「オレはバート・グリーディス。よろしく、エイト」
「あ、私はソフィリア・エルレイン。よろしくね」
俺は彼ーバートーと握手を交わした。
♢♦♢♦
そしてポーションなどのアイテムを買い替えているとすぐに夜になった。俺も剣を今までの【ミスリルソード】から【アイアンソード】に買い替えた。筋力要求値もDからCになり少し重たくなるがこれぐらいがちょうど手に馴染む。攻撃力も45から135になる。
ダガーも数本買うと別次元に格納した。トロールを倒してレベルも15になっていたがスキルポイントはまだ貯めておく。バートも銃弾を補充していた。
「よし、じゃあ行くか」
「おう。了解」
俺たちはその帝国の砦へと向かった。俺はその基地を見た途端少し唖然とする。どんな国と戦争するんだよと思う程頑丈そうな砦がそこにはあった。俺たちは現在遠くの物陰から偵察している。
「ここからは二手に分かれよう。多分エイトは白兵戦が得意だろ?だから君とソフィリアさんは最初は潜入して中に入ったら暴れてくれて構わない。オレは砦の中心部に行って司令部を破壊する」
「ああ、了解」
バートは俺たちのジョブやステータスからこの戦術を考えたのだろう。ちなみにバートは筋力C+、耐久力C+、敏捷性B+、器用さA+、魔力Cというものだった。
ステータス的にはあまり高くはないが、彼の銃撃スキルとSAがそのステータスを補っている。銃撃熟練度B670、SA隠蔽、遠視などで潜入や銃撃の能力は凄まじいものだ。
俺はハイドしたまま見張り兵に近づくと、ワープで一気に距離を詰めて一撃で相手を仕留めた。それと同時に後ろにいる二人を手招きしてこちらに呼ぶ。
俺たちは砦に突入し、敵がいないのを確認しながら進んだ。だが俺とバートの予想通り、砦を進むと魔法による障壁が張られていた。このままでは進むことは出来ない。
「まあ大体こういう結界は…、」
「ボタンを撃てば消滅する…だろ?」
俺がそう言うとバートはすぐさま銃を取り出し、恐らくは帝国兵にしか開けられないよう設定されてあるスイッチを強引に撃ち壊した。それと同時に障壁は消滅するが、警報のサイレンが鳴り響く。
ここからは帝国兵との戦いになる。ここまでは予想していたことだ。バートの実力でも見せてもらおうか。
「来たわ!」
ソフィが奥の方を指さして言う。バートは先ほどまで持っていた銃を再び構えると、先程とは違う銃弾を装填して、三発、帝国兵の集団へ向けて放った。
そして次の瞬間、たった三発の銃弾は、10人以上いた帝国兵全てを一気に撃ち倒した。榴弾のような範囲攻撃でもなかった。それならば…、
「今の…跳弾か?」
「その通り。この銃弾の性質を生かして敵の体と壁に反射させて撃ち込んだ。麻痺弾ではあるけどね」
跳弾。壁などの障害物に当たると跳ね返る銃弾だ。強力で便利な技だが、それをこうも精密に使って帝国兵を殲滅するとは恐るべし射撃能力だ。
ここからは予定通りにするだけ。俺たちはただ暴れればいい。バートとはここで別れる。
「健闘を祈るよ」
「そっちもな」
「気を付けてね」
俺たちは二手に分かれると砦の中を進んだ。俺たちが兵士を殲滅する。そして警備が薄くなったところにバートが侵入して指令部を破壊する。それが作戦だ。
俺とソフィは砦の迎撃地点らしき開けた場所に出た。その瞬間帝国兵たちが俺に気付いたらしく、近くの騎士が俺に向かって言う。
「貴様ら!何者だ!」
俺は向かって来る騎士たちに向けて走った。そして一番手前の騎士に【スティンガースラスト】を放つと次の騎士を二連続剣技【ツインクロウ】で屠る。
帝国騎士たちは一斉に向かって来ることはなく、フォーメーションを作って俺を迎え撃つ。前にタンクを配置し、横から遊撃兵が攻撃する。そして遠くから魔術兵や銃兵が攻撃するというものだろうが俺に銃弾や魔法は飛んでこない。
何故なら全ての後衛兵をソフィが片付けてくれているからだ。俺は前衛のタンクと遊撃兵を的確に倒していく。
「ソフィ!頑張れ!俺もあと少しで終わる!」
「うん!」
バラバラに配置されている後衛兵を倒すのならワープで地形を無効化できる俺が適任かと思うが、投擲やレイピアよりも一撃が強い片手剣と二刀流を持つ俺の方が1対複数の戦いでは有利なのだ。ソフィリアの攻撃はヒットアンドアウェイなのでどうしても敵数が多いと圧倒的不利に陥ってしまう。
「セアアッ!」
俺はもう残り少なくなった帝国兵を薙ぎ払いで一斉に倒す。もう数もほとんど残っていないだろう。
「今頃あいつはどうやってるかな…」
彼がそう思った瞬間、砦の二階から人影が飛び降りてきた。それはまさしくバートだった。そして俺たちに言う。
「この砦…【四天王】がいやがった…!」
「四天王が…!?」
俺はソフィリアに気になったことを聞いてみた。
「こんな時に悪いけど四天王って?」
「帝国の四大准将。【二大将軍】と並んで帝国でも特に強い奴らよ。」
「解説どうも…。じゃあ迎撃しないとな。」
俺がそう言うと先程バートが飛び降りてきた場所から別の人影が飛び降りてきた。重たそうな両手剣を持ち、バトルジャケットを装備した厳つい男だ。これが帝国の准将。
「おやおや…侵入者がいると思ってみれば…まさかエルゼンダルクの【白の巫女】までもがいやがったか」
「…【四天王】の一角、ゴルテア…」
「よく知ってたなぁ…。ここで貴様を討てば俺の評価もうなぎ登りだ。大人しく俺の名誉の餌になってもらうぜぇ…」
そう言うとゴルテアは両手剣を構えた。俺も剣を構えて奴の攻撃に備える。ソフィもレイピアを構えた。
「バート、こいつを倒す。手を貸しな」
「もちろん…。共闘だな」
「なんだ?三人か?いいぜ、まとめて殺してやるよ」
そう言うとゴルテアは俺に向かって来た。真上から振り下ろされる奴の両手剣を斬り上げで受け止める。とても重たい。だが受け止めることができないほどでもない。俺は再び振り下ろされる両手剣を今度は逆の手での斬り上げで受け止めた。
「…ほう。小僧ごときが俺の剣を受け止めるとは」
「…大したことないな…帝国の准将ってのも…」
俺が挑発的に言うとゴルテアの顔が怒りに歪んだ。強烈な一撃を放つべく両手剣を振りかぶる。
「黙れ!貴様など木っ端微塵にしてくれる!」
そしてゴルテアは両手剣を振り下ろした。俺は微笑し「あとはまかせる」と小声で言うと俺は後方にワープした。それと完全に同期したタイミングでソフィが両手剣が空振ったままのゴルテアにレイピアを突き出した。
そのレイピアは確かにゴルテアの腕を屠り、ソフィリアの繊細で正確な連続剣技がゴルテアの体に傷をつける。そしてバートが銃で奴の胸辺りを三発撃ち抜く。
だがゴルテアはそんなもの効かないというような素振りで立ち上がった。確かに体には傷がある。だが奴にはダメージを与えられていないようだ。
俺は何度も振り下ろされるゴルテアの攻撃を弾き続ける。ソフィとバートも的確な攻撃を放つがやはり奴にはダメージが通らない。奴の耐久力のステータスはいくらなのだろうか。
「バート!物理がダメなら範囲攻撃を試せ!」
「了解…!」
俺はバートにそう言うと、無理やりに敵の剣を弾いて相手の体勢を崩した。すぐさま隣のソフィを抱きかかえて後方へワープ。俺は、ワープする直前、相手に置き土産をあげてきた。
「ハッ!無意味なことを!」
グレネード。俺は相手の眼前に軽くそれを浮かせて投げた。ゴルテアはすぐさまそれを剣をバットのように使って打ち返そうとする。だがそれより早く、そのグレネードは爆発した。
「一瞬遅かったな、筋肉ダルマさん」
そう、バートが俺の意図を汲み、グレネードを精密射撃で撃ち抜いたのだ。ゴルテアはそれに巻き込まれた。突入の前に貰ったものがこんな風に役に立つとは。
それでもゴルテアは煙の中から姿を現し、俺の方へ向かって来る。
「しぶとい雑魚どもだな。さっさと消えろォ!」
俺は再び振り下ろされたゴルテアの両手剣を今度はワープで回避する。そして真後ろから【スティンガースラスト】を放つ。俺の剣尖は奴の体を貫いた。初めて奴が痛そうな素振りを見せるが致命傷にはならない。
「鬱陶しい…消えろ!」
そう言うとゴルテアは斬り上げで俺の二本の剣を全て弾き飛ばした。あいにく今は変えの剣を持っていない。このままゴルテアの攻撃を喰らえば恐らく死ぬ。
俺は振り下ろされるゴルテアの刃を前にして、魔力を集中させた。そして強固なイメージを、手で握った感触を、その形状を思い浮かべる。長さも重さも俺好みの片手剣。
「失せろォォ!」
ゴルテアの致死の刃が迫る中、俺の両手に今までの剣とは違う剣が出現した。長さも重さも俺好みの漆黒の剣だ。俺はその剣で奴の攻撃をガードした。そして鍔迫り合いになる中大きい声で叫ぶ。
「ソフィ!バート!」
そしてソフィが敵の背後から氷の刃を雨を降らせた。バートの銃撃は敵の心臓辺りを貫く。そして俺は右手の剣を引いた。そして全力で突き出す。【スティンガースラスト】。
すると、バートが俺の剣に銃弾を命中させた。俺の剣は微かに振動する。前の世界で聞いたことがある。剣は振動で切れ味を増す。そして銃弾を刀身に命中させることで切れ味を向上させる武器【銃剣ーガンブレイドー】。俺の剣にも同じ現象が起きていた。
「おおおぉぉぉ!」
俺はそのまま右手の剣を突き出した。今までよりも繊細かつ鋭利な刃が簡単にゴルテアの皮膚を斬り裂いて体を貫いた。そしてゴルテアは血を吐いて断末魔なく倒れた。俺の手に出現した漆黒の剣はもう消えていた。
♢♦♢♦
俺たちは昨日も食事をとった店で再び食事をしていた。ただ前と違うのはバートも同じテーブルにいるということだ。バートは俺に向けて言った。
「あんたらは次どこに行くんだい?」
「俺たちか?…どうしようかな。ゾナっていう村辺りかな」
「そうそう!ゾナの村には賞金首モンスターの依頼がたくさんあるんだって!」
「…というワケで次はゾナだな」
俺たちがそう言うとバートは席を立ちながら言った。
「そっか。じゃあ別の方向だな」
「もう行くのか?」
「まあね。オレも金稼がないとなぁ…」
俺は店を出ていこうとするバートに向かって言った。
「また会おうぜ、次に会うときはお前が飯奢れよな」
「ああ、またいつか。飯も奢ってもらってありがとな、エイト」
彼はそう言うと店を出て行った。俺たちは食事を続ける。俺の手に突如出現した剣。あれが何だったのかはまだ分からない。
俺の別次元空間にある物でもないしどこかから呼び出したものでもない。どちらかと言えば即座に創り出したかのような感覚。それに魔力を使った感じはほとんど無い。
アレはいったい何だったのか。俺の魔力と許容度にも何らかの関係があるのかもしれない。俺はそう考えながら残っていた食事を食べた。
ここ数話で感じ取っているかもしれませんが、ここからは戦闘が多くなります。かなり。
ですが次回は戦闘無し(?)の日常ストーリーの予定です。