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黒白の王と闇夜の剣  作者: 獅猫
第一章 ー真夜中の幻想ー
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5-幻霧の森-

ジャンジャン行きます。メチャクチャ不定期です。今回は今後の彼らの信頼関係上、避けては通れない話です。

俺たちが旅を始めてから、早一か月が経過した。現実世界で言えばもうすでに八月になっている頃だろう。俺たちは前の町を出て、森を超えた先にある【サンセルム】という町へと向かっていた。


そこは海峡に造られた町ですごく良い町らしくとても楽しみにしていたのだが、その前に危機に直面した。


「うぅ…。方向はあってたはずなのに…」

「まあRPGの定番だよな」


そう。俺たちは森の中で道に迷ったのだ。その森の名前が【幻霧げんむの森】という時点で薄々予想はしていたのだ。先ほどから何度も同じような道を辿っている。


まあRPGイベントの定番だ。…方向音痴のソフィリアではなく俺がしっかりと道を確認すれば簡単に抜けれたのかもしれないが。


「もう日が暮れるよね…」

「そうだな…」


さっさとここを抜け出さないとこの森がソフィリアの大嫌いな【うす気味悪い場所】へと変貌してしまう。だがこの調子ではここで野宿になりそうだ。どんどんソフィリアの怯え度がアップしている。


「仕方ないな。今日はここらで野宿だ」

「こんな暗いところで!?無理よ!」

「じゃあ暗い森の中歩くのとここで我慢して明日少しでも明るくなってから歩くのどっちがいい?」

「う…後で」


「決まりだな。」と呟いてから少しだけソフィリアのお荷物も入っている【別次元格納】スキルの格納庫からキャンプセットを取り出す。

テント、火を焚くための薪などなどを地面に置いていく。俺は若干慣れつつあるテントの組み立てを手際よく済ませてソフィリアに指示した。


「ソフィリア、火出してくれ」

彼女は手から小さな火球を放つ。すると薪に火が移って周囲が明るくなる。そしてここからが問題だ。


「じゃ、俺は晩飯を狩りに行ってくるから」


俺がそう言うとソフィリアは予想通りの反応をした。


「ちょ、狩り!?私はおなか減ってないし大丈夫だから行かなくてもいいよ!」

「お前は大丈夫でも俺がダメだ。火もあるんだから大丈夫だろ?」

「ダメ!こんな暗いところで一人にしないで!」

「大丈夫、絶対帰ってくるって。いいか?絶対にここから動くなよ?」


俺がそう言うとソフィリアは渋々頷いた。

「じゃ、料理の準備しとけよな」


そう言うと俺はキャンプ地を離れて狩りに出た。ここらに出るモンスターのレベルは8~9前後。現在レベル14の俺の敵ではない。この森のボスモンスターにでも会わない限り大丈夫だろう。


そう考えて俺は薄暗い森の中を進んだ。すると奥から三匹の狼が出てくる。この時内心「またお前か!」と思ったものだ。この前も散々戦った白狼。


「セイッ!」

俺は飛び掛かってくる白狼に片手剣AAアーツアビリティ【ツインクロウ】を放つ。左から右、右から左へと放たれる俺の剣が白狼の体を屠った。残りの二匹も攻撃を弾いてからの反撃であっさりと倒した。

「手応え無いな…」


俺はそう呟くと白狼の肉を採取した。そして狩りを再開する。すると前方から二匹の小さな子鬼が現れる。【フォレストゴブリン】だ。だがこの森にそんなものがいるのか?


ゴブリンは高い知能と狡猾さを持つ厄介な相手だ。俺はてっきりこの森にいるのは草食動物と肉食の白狼などだけだと思っていた。


「ニンゲン!ココニ何ノ用ダ!?」

俺はそう喚くゴブリンに言った。

「悪い。お前たちに危害を加えるつもりはない」


俺がそう言っても聞かずにゴブリンは襲い掛かって来た。俺は二本の剣で二体のゴブリンを軽く吹き飛ばして倒す。するとその先に三匹同じようなゴブリンがいるのが見える。その三匹は一斉に騒いだ。

「侵入者ダ!」

「トロール様ニシラセロ!」


そして三匹のゴブリンは一目散に逃げだした。別に食材になるわけでもないのでほたっておく。この森にゴブリンがいるのは驚きだったが、俺は構わず狩りを続けた。



♢♦♢♦



その頃、ソフィリアは瑛斗の帰りを言われた通り待っていた。もう三十分ほど経つが帰って来ない。それほどこの森には食材となる生物がいないのだろうか。それとも彼の身に何かあったのだろうか。


「…怖いなぁ」

ソフィリアはそう呟いた。これだけでこんなに怯えているなら元々一人での旅などできなかったかもしれない。今更ながら瑛斗に感謝する。成り行きで一緒に旅をしているがこれはこれで楽しい。


彼は新人の剣士ながら驚くような上達ぶりを見せ、既に片手剣熟練度はCで420。二刀流熟練度もCで350というものだ。先に戦いを学んでいたソフィリアもレイピア熟練度がBで510。魔術スキルはCで420というものなので彼の上達の速さが伺える。


彼は戦闘慣れしたような回避と剣術、そして観察眼と順応力でいつもソフィリアを助けてくれる。剣術なら既にもうソフィリアを超えているだろう。最近は彼に頼ることも多くなってきている。


「早く帰ってきてよ…」

無意識のうちに彼女はそう呟いていた。元々暗いところは苦手だったが最近は普段から瑛斗と共にいることもあってか更にさみしく感じられてくる。彼女は瑛斗を探すべく森の中を見回した。


その瞬間、彼女は森の茂みの向こうに人影を見つけた。黒髪、黒いジャケットに二本の剣を持って、腰にはダガーを携えている。その顔は向こうを向いていて見えないがあれは間違いなく彼の姿だ。彼女は思わず名前を呼んだ。


「エイト!」


ソフィリアがそう呼んでも彼は振り返らない。そしてソフィリアに背を向けたまま歩き出した。彼女は無我夢中で彼を追いかけた。彼は歩いているだけのはずなのに中々追いつけない。

「待ってよ!エイト!」


ソフィリアは彼を追いかけ続けた。だが途中で彼の姿を見失ってしまう。「このまま彼がどこかに行ったらどうしよう。」と考えてそのまま彼を必死に追いかける。だがどれだけ走っても彼は見当たらない。彼女の中に焦りが生じる。


そして彼女はついに森の茂みを抜けた。そこは一つの洞窟の前で、その洞窟には松明が設置されている。何者かが住んでいる形跡がある。彼女は用心しながらも前に進んだ。


「イタゾ!囲メ!」

「…誰!?」


彼女が辺りを見ると、金切り声で喚くゴブリンが槍を持ってソフィリアを包囲している。その数は…15。いくらゴブリンとはいえこの数を一人で全て倒すのは難しい。

「ニンゲンメ!我ラガ森ニ立チ入ルトハ!」

「…こいつらは…ハイフォレストゴブリン!」


ハイフォレストゴブリン。フォレストゴブリンの上位種で変身能力を持つ。恐らくこいつらの罠だ。先程の瑛斗はこいつらか。


そう思ったのも束の間。洞窟の奥から謎の声が響いた。

「捕らえた人族はどこだ…?」

「トロール様!ココニ捕ラエテイマス!」


すると洞窟の中から身長3mはあろうかという鬼のような巨体の生物が現れる。その巨大な人型の姿は確か森巨人トロール。森に入るときに最も気を付けなければいけない。危険なモンスターだ。手には巨大な棍棒こんぼうを持っている。


「ニンゲンが迷い込むなど珍しい…。ゴブリンたちよ…今宵は宴にしようではないか…」

トロールがそう言うとゴブリンたちが一斉に喚きだす。どうやらソフィリアを食すつもりらしい。

「簡単にはやられないわよ!」

「下等な人間ごときが…。貴様がどう戦えばこのトロール様に勝てるというのだ…?」

「人間は非力だけどね、戦術と魔法ってものがあるの。あんまり舐めないほうがいいよ」


ソフィリアがそう言うとトロールは棍棒を振って言った。

「もうよい…ゴブリンたちよ…下等な人族を捕らえよ…!」


トロールがそう叫ぶとゴブリンは喚きながら槍を構えた。この数を相手には逃げ出すことはできない。一撃で状況を打開するような技や範囲技を持っていないソフィリアでは生き残れる可能性も薄い。だが最後まで足掻いてやる。

「来なさい…!」


ソフィリアは覚悟を決めてそう言った。すると一匹のゴブリンが飛び掛かって来た。ソフィリアは武器を構える。だがそのゴブリンの攻撃はソフィリアに当たることなく終わった。ゴブリンの体に大きめのダガーが突き刺さってゴブリンは地面に落ちた。唖然とするゴブリンたちを飛来するダガーや剣が次々と襲う。


「何奴だ…!?」

「…おい下等な鬼ども…あんまり俺の相棒に手出ししたら全員まとめて斬り殺すぞ…!」


そう言った参入者ー瑛斗ーの眼には今まで見たこともないような殺気が宿っていた。



♢♦♢♦



俺はかつてないほど激昂していた。キャンプ地に帰ってきてみたらソフィリアの姿がなく、追跡してみればここからだいぶ離れた広場にいるではないか。そして逃げ出した先程のゴブリンもそこにいる。


これはソフィリアが危機に瀕しているのではないかと直感で感じ取った俺はその場所に向かって全力で走った。ただただ間に合ってくれと願った。


そして彼女が巨大な怪物トロールとゴブリンに囲まれて襲われているのを見たときは本気で奴らを八つ裂きにしようかと思ったほどだ。…実際にそうするかもしれないが。


「ソフィリア、無事か!?」

「エイト!」


俺はゴブリンを飛び越えてソフィリアの隣に並んだ。

「話は後だ!こいつらを片付けるぞ!」

「…うん!」


俺はゴブリンの群れに突撃して二本の剣で三体のゴブリンを同時に斬り裂いた。そして襲い掛かってくるゴブリンを二連続剣技【ツインクロウ】で屠る。残りは8匹。これぐらいの数であればソフィリアなら簡単に倒してくれるだろう。俺はトロールの元に向かった。


「お前が親玉か…?」

「そうだ…。貴様のようなニンゲンが一人増えたところで何ができる…?」

「お前を斬る。それだけだ。それに、それだけできれば十分だ」


俺はワープでトロールの目の前に向かって剣を突き刺す。そして上から振り下ろされる棍棒を受け止めて弾き返す。そして高くジャンプして奴の胸辺りを【クロスブレイク】で斬り裂く。


トロールは尚も棍棒で攻撃してくるのでワープして奴の背後に行きそれを回避する。ソフィリアの話では常人の魔力だとこのくらいの数ワープすれば魔力が尽きてしまうらしいのだが俺はまだ九割ほど魔力を残している。


「セアアッ!」

俺は奴の背中を二本の剣で同時に斬り裂いた。奴が後ろからの衝撃でノックバックする。

「人間ごときが小癪な真似を…!」


そう言うとトロールは棍棒を振り下ろした。俺は真上にワープして奴の振動での攻撃を回避した。そして二本のダガーを投げて奴の眼を潰す。俺は着地してからトロールの方へ向かい再び真上にジャンプすると剣を引いた。すると剣が俺の魔力を帯びる。


「うおおおぉぉぉ!」


俺はクロスブレイクのように空中で奴の胸をX印に斬り裂いた。そしてさらに今度は十字架のような縦の十字を描く様に同じ個所を斬り裂く。


最後にその交差地点に魔力を込めた強力な突きを放つ。溜まったSPスキルポイントを消費して獲得した強力な片手剣&二刀流AAアーツアビリティ【ザ・アルタイル】。


「人間ごときが…!この俺様を…!」


俺は剣を奴の胸から引き抜くと地面に着地した。トロールはみにく断末魔だんまつまを上げてその場に倒れた。今の闘いで少し魔力を消費したようだが問題ないだろう。親玉であるトロールのしかばねを見たゴブリンたちが一目散に逃げていく。


俺は駆け寄って来たソフィリアに抱き着かれた。彼女はそのまま嗚咽おえつを漏らす。

「…このままエイトが帰って来ないかと思った…あのゴブリンたちに殺されると思うと…すごく怖かった」

俺は彼女の頭を撫でながら言った。

「悪かったな…。もう大丈夫だ。俺はどこにも行かない。心配するな」

「…うん…」

俺はその姿勢のまま泣き続けるソフィリアの頭を撫で続けていたのだった。


今回もお疲れさまでした。

一つ言っておきますと、瑛斗の魔術許容度は今度上がることはありません(笑)。残念ですが、一生魔導士にはなれないです。

次回もよろしくお願いします。


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