4-アサシンの魔の手-
一時間経っての再びの投稿。再び戦闘回。
今回の敵は今後、最後まで彼のライバルとなる謎のキャラです。
とある日の夕方、俺たちは次の町「トゥラナ」にたどり着いた。今までの町の中で(エルゼンダルク王都を除く)最も多きい。
もう空も赤くなり、日が暮れそうなので俺たちは夕飯を食べるべくどこかのレストランに行くことにした。
巨狼を倒して得た10万はソフィリアのご厚意で7万ほど貰い、俺が持つ金もこれで7万5千円となった。正確にはこの世界のお金の単位は「ゴルド」なので、俺は今7万5千ゴルド所持しているということになる。だんだんこの世界にも慣れてきたようだ。
最近は戦いにも慣れてソフィリアの足を引っ張ることはない。武器適性Sのおかげか俺の剣はしっかりと手に馴染む。
「そういえばさ、君の片手剣スキルの熟練度どのくらいになった?」
「えっと…今は210でD。Cまであと90だな」
「だいぶ上がったね。武器適性が高いと熟練度も溜まりやすくなるしね」
武器の熟練度は他のスキルとは違い、自身がどれだけその武器を扱ったかによって上昇する。300からはC。500からD。750からはAで最高の1000はSだ。その熟練度によって習得可能なアビリティも増えていく。
このアビリティにはAAと呼ばれる【アーツアビリティ】とSAと呼ばれる【サポートアビリティ】の二種類がある。【アーツアビリティ】は技など、【サポートアビリティ】は耐性や常時発動型のサポート系などが当てはまる。
武器の熟練度で習得可能になるのはAAの方だ。だがそのAAを獲得する場合にはSPが必要になる。
「レベルも上がったみたいだし、スキルポイント使ってアビリティ習得してみたら?」
「それもそうだな」
俺は再び自分のステータスカードを見た。現在レベルは9。HPは950。MPは5500(これを見るたびに本当に悲しい気分になる)。そして溜まったスキルポイントは16。これならAAの一つや二つほど獲得できそうだ。
俺は習得可能アビリティ欄を見た。片手剣AA【スティンガースラスト】消費2。同じく【旋輪斬】消費3。【ツインクロウ】消費6。片手剣&二刀流AA【クロスブレイク】消費10。二つは獲得できる。
「うーん…。迷うなぁ…」
「まあ急ぐことないよ。今貯めておくっていう方法もあるし」
「んー…確かに…」
俺はそう呟くとスキルを選ぶのは後回しにしてカードをしまった。そして再びレストランを探すために歩き始める。そして俺たちは少し大きめの広場に出てくる。食事に向かう人々で広場は賑わっている。俺たちはその広場の一角にあるレストランに向かった。だが俺はその途中で嫌な気配を感じる。そしてそこで立ち止まって辺りを見てみる。
「…どうしたの?」
「…いや、何でもない…」
俺がそう言った時、その広場のどこかから悲鳴が聞こえた。
「きゃああああ!」
「…ッ!」
俺とソフィリアは同時に走り出した。ただ事ではない。走るスピードを上げ、そのまま声が聞こえた場所へ向かう。
そこでは一人の騎士が背中から血を流して倒れていた。その背中には大きめのダガーが刺さっている。
俺が見たものは建物の上に恐るべき身体能力で登っていく黒いローブのアサシンの姿だった。俺も奴を追って二回連続のワープで屋根の上まで上がる。
俺は屋根の上を飛びながら逃走するアサシンを追いかけた。だがその敏捷度になかなか追いつけない。敏捷性Aの俺でも追いつけないということは最低でも敏捷性A+以上だろう。
俺は両腰に付けているダガーをその敵に向かって投げた。そのアサシンが反対側を向いて走りながらダガーで俺の武器を弾き落とした。俺はすかさずワープしてアサシンの前に出現して剣を突き出した。だがアサシンはそれを避けて逃げていった。
そして屋根の上から飛び降りる。俺はそこにもう一本のダガーを投げる。それはアサシンの背中を浅く切り裂いた。だがアサシンは、それを気にも留めずそのまま逃走した。
「クソッ…逃げたか…」
俺はそう呟いて武器をしまうとトゥラナの町に帰って来た。元の広場で待機していたソフィリアと合流する。俺を見るや彼女は不安そうな表情を浮かべる。そして俺の方に駆け寄って来た。
「エイト!あの暗殺者は?」
「…逃げた。それよりあの騎士はどうなった?」
「…亡くなったよ。心臓を貫かれてた」
「…そうか」
俺はその亡くなった騎士を思って目を閉じた。そしてあたりにいる人々に向かって言った。
「さっきここらにいた人、あの暗殺者とかを見た人とかがいたら俺たちに教えてほしい」
俺がそう言うと後ろのほうにいた何人かが俺たちの方に向かって来る。俺は数人の人々に聞いた。
「あんたら、何か見たのか?」
俺がそう聞くとその三人のうちの一人が手を上げて言う。
「あの暗殺者は…なんだかまるで…影から出てきたかのように現れてあの人を後ろから刺したんです」
「影から出てくるように…あの人はどんな人だったんだ?」
俺がそう言うと隣のソフィリアが言う。
「彼は王国騎士のハインツさんよ。任務でこの町に来てたみたい。結構王国騎士の中でも上のほうに位置する人だったんだって」
「王国騎士…じゃああいつは王国騎士に何らかの恨みがある…もしくは敵対する奴らってことか?」
「…もしかして…帝国?」
「そういえば…帝国って何なんだ?」
「エルゼンダルクと敵対している国。正式名称は【グラウス帝国】。エルゼンダルク以上の軍事力を誇る軍事国家。魔法の力を主に使うエルゼンダルクに対して帝国は兵器とかみたいな機械とかを主に使ってる」
「へぇ…。国が違うだけでもだいぶ違うんだな」
俺は再び話題を元に戻した。そして残る二人に言う。
「他に何か気付いたことはあるか?」
俺がそう聞くと右側の人が言った。
「俺が見ても奴は元々どこにもいなかった。そこの空気から現れるようにして出て来たんだ」
「うーん…やっぱり話を聞いても急に現れたみたいね」
「そんなスキルがあるのか?」
俺がそう聞くとソフィリアは首を傾げた。
「そんなスキル聞いたことがないね。…アサシンスキルとか特殊SAぐらいしか」
「…そうか。奴の顔なんかはフードと仮面で見えなかったはずだ。みんな、呼び止めて悪かったな」
俺は情報収集に付き合ってもらった人々にそう言ってソフィリアに向き直った。
「まあ今日はもう帰ろう。敵の痕跡とか手掛かりを探すのにも夜じゃあ都合が悪いだろ」
「うん。そうね」
俺たちは宿屋に帰ろうとした。だがそこで夕食を食べてなかったことを思い出して一応レストランで食事をとる。そして俺たちは宿屋に帰った。
…だが、そして次の朝、俺は新聞を見てすごく驚いた。
『王国騎士、次々と殺される。』
その内容は各地に派遣していた王国騎士達総勢5人が殺害されたというものだった。全員が黒いフードのアサシンに殺され、全員が影の様に出てくる暗殺者に殺されたというものだった。俺は起きてきたソフィリアに向けて深刻な顔で言った。
「ソフィリア、これはもう一刻を争う事態かもしれない。奴らをどうしても見つける必要がある」
「え?どうしたの?」
そう言うソフィリアに向けて俺は今朝の新聞を見せた。それを見たソフィリアも俺と全く同じ反応をする。
「これは…まずいね」
「早く解決しないとな。…何か見つける必要はないか?」
「今日も情報収集をしてみよう」
そのソフィリアの提案で、俺たちは町中を歩いた。昨日の広場で聞き込み調査を行うが有力な情報は何も得られない。俺は再び屋根の上に行き、敵の向かった方向を見る。俺のダガーで切り裂かれた奴の血痕が伸びているが、途中で途切れておりどこに向かったかはわからない。
他にもいろいろなことを調べたが何の情報も得られなかった。そして俺たちは再び宿屋に帰る。
「…何か打開策はないかな…」
「うーん…どうにかできるSAがあるかも知れない」
そう言われた俺は自分のステータスカードを見る。その中のSAの欄を見る。隠蔽、敵感知、自動回復、追跡。俺はその追跡というスキルの説明を見た。『一週間以内に自分が接触した相手の居場所を追跡することができる(接触と言うのは会話・戦闘なども含まれる)。消費SP4。』
「…!これだ!」
俺はそう言うとそのスキルの名前をタッチする。すると俺の前に長方形のウィンドウが出現する。『【追跡スキル】獲得しますか? Yes・No』そう書いてあるウィンドウのYesのところをタッチする。その瞬間頭のなかにスキルの発動方法が流れ込んでくる。
「よし。行こう、ソフィリア」
俺たちは昨日の事件のせいで人通りがほとんどなくなったトゥラナの町を歩いた。俺の地図に記された追跡スキルの印では、既に消えた廃村にこの前の暗殺者はいるようだ。俺はその廃村の場所を確認して再び歩き始めた。もうすでに日が暮れている。
「急ごう。今日も奴らが暗殺に動くかもしれない」
「そうね。急ごう」
俺たちはダッシュでその廃村へ向かった。
♢♦♢♦
俺たちがたどり着いたのはもうだれも住んでいないような(というか実際そうなのだが)廃村だった。奴らの反応は廃村の一角にある大きな聖堂からだ。俺たちはいつ襲われてもいいようにと武器を抜いていった。
「ソフィリア、準備いいか?」
「うん。私はいつでも」
俺たちは用心しながら聖堂の扉を開けた。中にはなにもおらずとても静かだった。俺たちは用心しながらも聖堂の中を進んだ。その途端に聖堂の四方八方から、まるで影から出てくるように大勢のアサシンが出現した。
「来るぞ!」
「うん!」
俺たちは剣を構えてアサシンを迎え撃った。俺は正面から向かって来るアサシンの洗練されたダガーでの攻撃を剣で弾く。そして相手の胸辺りに昨日獲得しておいた片手剣AA【スティンガースラスト】を放つ。敵は俺の自分でも驚くような速さの突きに貫かれた。
元の世界でやっていたゲームでも従来アサシンは身軽さ一極のステータスだ。筋力、耐久力、HPは限りなく低い。俺に貫かれたアサシンはそのまま倒れたが二階から数人のアサシンが同時に飛び降りてくる。
俺は両手に何もない空間からダガーを二本ずつ出現させると相手に向かって投げた。これも最初の頃に面白そうだと思って獲得したSA【別次元格納】。武器などの所持品を別次元に収納し、好きな時に呼び出したり収納したりできるという便利なスキルだ。
次元空間の容量は使用者の魔力によって決まるようで、俺の場合かなりの量の所持品を格納できる。練習した【投擲】用のダガーを数十本ほど格納しているため投げても別次元にあるダガーがなくならない限り何本でもダガーを出現させることができる。
そしてその俺のダガーはアサシンたちの胸に的確に刺さった。落下してくるアサシンにトドメを刺す。そして新手のアサシンが四方から襲い掛かってくるので俺は身を屈めて回避する。
そこから二本の剣で周囲のアサシンを全員なぎ倒した。かなり独特な俺流スタイルだが案外強いかもしれない。
アサシンもあらかた片付いたと思ったその時、聖堂の二階の窓に何者かが立っていることに気が付いた。他のアサシンとは違って黒い装甲付きの軽装とフーデッドケープを身に着けている。そしてその者は背中の禍々しい大鎌を持って俺の方向に二階から飛び降りた。
俺は振り下ろされる鎌を二刀をクロスしてガードした。アサシンが使うにしては有り得ない程重たいその鎌の重たさで俺の膝も曲がる。俺はどうにかその鎌を弾き返すと後ろに跳んで相手と距離をとった。
「お前…何者だ…?」
「今から死ぬ奴に教えてやる名前は持ってねぇな…」
そう言うと謎の男は凄まじい速さでこちらに向かってきた。
奴は狂戦士のごとく大鎌を振り回す。剣で生半可なガードをすれば剣が弾き返されるだろうと思いどうにか回避を続ける。先程の攻撃で解ったが、奴の大鎌は異常なまで重たいだろう。
恐らく【神具】クラスの武器。俺では持ち上げることすらできない。それを奴は軽々と扱っている。だが様子を見るに相手はまだ本気ではない。
俺はどうにか回避を続けたが、途中で絶対に回避不可能の攻撃が俺に迫った。ワープも間に合わないと判断した俺は二刀で受け止める。そこから鍔迫り合いに移行するが俺はじりじりと押される。
そして俺の剣は弾かれて奴の鎌が無防備な俺に迫る。俺は魔力を集中させて後方にワープした。奴の鎌は空を切り、さすがの相手にも驚きの表情を浮かべる。
「へぇ。お前面白い戦い方するんだな」
「…ッ!」
俺は奴に一太刀浴びせるべく相手の懐まで潜り込んだ。そして剣で攻撃を行う。だがそれは奴の大鎌に弾かれた。しかし俺はそれより一瞬早いタイミングで左手を突き出していた。それは奴の胸辺りを貫いた。だが奴は大して苦しそうな素振りを見せない。
「(こいつ…強い…)」
息を荒くする俺を見た奴は苦笑しながら言った。
「もう終わりか?じゃあ殺してやるよ。覚悟しな。」
俺は再び剣を構えた。奴は大鎌に闇属性と見られる魔力を溜める。恐らくは強力な斬り下ろしが来る。俺はそう予感した。
「消えな…」
そう言うと奴は大鎌を振り下ろそうとした。その時俺は心の中で呟いた。
「(今しかない…!)」
俺は振り下ろされる鎌に向かって直進した。相手も驚愕の表情を浮かべた。だがそれはすぐに残忍な笑みに変わる。奴の攻撃が当たる直前。俺は魔力を集中させてワープした。
重たい鎌を振り下ろしたのと大技を放った反動で硬直する相手に向かって残っていたスキルポイントで獲得したもう一つのAAを放つ。片手剣&二刀流AA【クロスブレイク】。
俺はまず右手で斜めに切り裂き、すぐ後に左手で☓印になるように奴の胸を切り裂いた。そして【スティンガースラスト】で奴の胸を貫く。
俺は相手の胸から剣を引き抜くと、血を吐く奴から離れた。苦しでいて、しかし楽しんでいるような様子で相手は俺に言った。
「クソが…俺がここまでやられるとはな。なかなかやるじゃねえか…。お前気に入ったぜ…。俺はバラム。【闇の死神】という二つ名で呼ばれている。お前は?」
「俺は黒羽夜瑛斗。剣士だ」
「エイト…か。じゃあな…また会おうぜ…」
奴はそう言い残すと闇に溶け込むように消え去った。俺が戦闘を終えると後ろから他のアサシン共の相手をしてくれていたのであろうソフィリアが駆け足で向かって来る。
「エイト!大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「さっきのあいつは…?」
「逃げたよ…何者かは分からない。ただ相当強い。それにまたいつかどこかで会うかもしれないな」
俺は最後に奴が放った「また会おうぜ…。」という言葉が頭に残っていた。それはどこか俺とバラムと言う名の奴を因縁づけるようで不気味でもあった。
そして自分の名前を晒すことは致命傷でもある暗殺者である奴が自分の名を口にした。次は殺しに来るだろう。そしてどちらかが死ぬ。今のままではそれは俺だ。そうならないためにも俺はもっと強くならないといけない。
「…とりあえず帰ろう」
「…ええ」
そして強くなると同時に、俺はソフィリアを守らなければならない。俺はこの世界に召喚された初日に彼女に助けられた。そして今もこうして共に旅をしている。彼女に助けてもらってこのお礼はいつか必ずしなければいけない。そう考えながら俺たちは町へと戻った。
どうだったでしょうか?
次もできる限り早く投稿したいものです。ある程度書き溜めているので。
ちなみにこの作品の一部のキャラの原案を出してくれているワタナベ氏ですが、彼の作るキャラは皆個性的で面白いです。まだ出て来るのは先なんですが…。早くそこまで行きたいなぁ…。