2-新たな旅路-
一話と同日に投稿します。第二話です。
今回は初期装備イベントです。
俺ー黒羽夜瑛斗ーは勢いよく目を覚ました。なんせ怖かったのだ。先ほどまでの異世界での夢のような時間が本当に幻想であることが。朝目覚めたらそこは日本なのではないかと。そう思って俺は目を覚ました。
だがそこは、昨日の夜眠りについたソフィリアの家そのものだった。時刻は午前六時半。そろそろ彼女も目覚めている頃だろうか。そう思って俺はベッドから出た。
昨日、俺は何者かに導かれてこの異世界へと召喚された。
ギルドに入って、俺の膨大な魔力が判明したところまでは良かったのだが、俺の魔術許容度が低く強力な魔術は使えないという悲惨な出来事が起こった。
そして剣士として街をうろつき、宿を探していたが王国の騎士たちに勘違いで包囲されたところをソフィリアに助けてもらった。そして彼女の保護下という名目で旅に同行することになった。
これが俺の初日の簡単なあらすじである。いろいろありすぎて頭が混乱している。だが、この世界が幻想ではないことは確かなようだ。
俺が一階へと降りると、既にソフィリアがキッチンで朝食を作っているところだった。降りてきた俺に気づいたソフィリアは俺に微笑みかけて言う。
「おはようエイト。よく眠れた?」
「おはよう。おかげさまでな」
俺はテーブルの昨日も座った席に腰かけた。そして改めてソフィリアを見る。純白のロングの美しい髪。頭髪と同じ色の透き通った眼。
身長172cmの俺と大きな差はないほど女子にしては背が高めでスタイルもいい。165cmぐらいだろうか。それに年も俺と同じくらいの15~17だろう。そして性格も優しい。料理も上手だ。
完璧と言っていいほどの女子である。まさに異世界転生モノのラノベにいそうだ。
俺は洗面所に行って顔を洗った。ついでに自分の顔を見てみる。元の世界にいた頃の俺と何ら変わらない。黒髪黒眼の普通な高校生だ。この俺がこれからこの世界でどのように成長していくのかは想像もつかない。
だが今は目の前のことに集中したい。なんせ俺はゲームのような壮大な旅に同行することになっているのだ。彼女に保護してもらい、足手まといになるのだけは絶対に嫌だ。その為にも腕を磨かなければ。
俺がテーブルに戻ると丁度ソフィリアが料理を運び終えたところだった。
「あ、エイト。ご飯できたよ」
「ああ。悪いな」
俺とソフィリアは正に北欧と言ったパンとサラダという朝食を食べた。再び美味しい食事を平らげた俺に、ソフィリアは紙と羽ペンを差し出して言う。
「そういえばさ、クレハヤエイトって極東の文字でどう書くの?」
俺は貰った羽ペンを持った。漢字で書いて大丈夫かと思うが「極東の文字で」と言われたので漢字で書くしか無かろう。俺は貰った紙に「黒羽夜 瑛斗」の文字を書いた。予想通り、それを見たソフィリアは首を傾げる。
「難しいね…。これってもしかして【漢字】ってやつかな」
「お、よく知ってるな。そう、これは漢字だ」
「昔聞いたことがあってね。極東の近辺で使われる文字だって。そういえばたまにいる侍とかもこんな文字を使ってたね」
俺は彼女の言葉の中に少し懐かしいような(まだ二日と経っていないが)言葉を見つけたので聞いてみた。
「ソフィリア、この世界…いや、この国にも侍があるのか?」
「まあね。ジョブクラスのうちの一つよ。数は百人ちょいだろうけど」
俺はそこで、まだ彼女のジョブクラスを知らなかったことに気づいて聞いてみることにした。
「そういえばソフィリアのジョブクラスは?」
「私?私はフェンサーだよ。見たところ君は剣士だよね?剣士よりも手数で攻めるタイプで武器適性はレイピアがS。私は威力よりも手数で攻めたいから」
「へぇ…」
するとソフィリアは、俺に向かって不思議そうな顔で言った。
「そういえば…エイトはなんでそんなに高い魔力なのに剣士なの?」
「あー…」
俺は少々の時間黙った末、自分の内臓魔力の話、魔術許容量の話などを話して聞かせた。するとソフィリアの顔が引き吊って苦々しく言った。
「それは…ヒドイ魔力形質ね」
「まあ幸いなのは片手剣と二刀流の武器適性がSだったことだよ。これがなけりゃただの一般人だ」
「二刀流がSってのは珍しいね。地味に初めてかも」
「願わくば大魔法ぶっ放したかったよ…」
雑談はそこまでにして、俺とソフィリアは旅の準備をするために街へと繰り出した。商店区に来ると、正に異世界と言う感じの防具や武器が大量に売られている。俺の眼はその全てにくぎ付けになった。
「君は武器をどうするつもりなの?」
「んー…無難に片手剣だな」
俺はそう言うと片手直剣を二本手に取った。それを再び不思議そうな顔でソフィリアが見つめる。
「何で二本買うの?」
「まあ一応な。俺の二刀適性も高いみたいだし…二刀を使うときが来るかもしれないだろ?」
「あぁ、それね。でも二刀は相当難しいって聞くけどね」
「まあどうにかするさ」
俺はその二本の剣を購入した。そして鞘を腰に吊って剣を装備する。俺たちは次に防具店へ向かった。こうやって武器や防具を選んでいる時が最も楽しくて興奮する時かもしれない。
「君はどんな防具が好み?」
「防御力は確かに欲しいけど動きにくそうなのもちょっとな」
「軽装派か。…剣士ならジャケット系かな?」
そして俺は黒いジャケットを購入した。さすがは王都製というだけあって思ったよりしっかりしており、防御力もなかなか高そうだ。シャツ、ズボン、ブーツ、手袋もこの世界仕様に買い替える。財布はすっからかんになったがこれで防具一式と武器を揃えることができた。
これで一気に異世界に来た感じが増す。俺の姿を見たソフィリアが言った。
「黒い装備ってアサシンっぽいけど君が着るとなんだか様になってるね」
「そうか?まあそうかもな」
俺たちは次にポーション類や地図などを購入した。これでもうほとんど旅の準備はできたようなものだ。そんな俺に、ソフィリアが声をかける。
「そういえばさエイト。君ってまだ初期スキルポイント持ってるでしょ?」
「ん?ああ。そういえば少しだけ」
「それで簡単なものは獲得できるから獲得しときなよ」
そう言われて俺は自分のステータスカードを見る。残りスキルポイントは5。片手剣と二刀流のスキルはまだ熟練度が足りないため獲得できない。そのためサポートスキルか簡易魔法しか獲得できるスキルはない。
「(サポートスキルは隠蔽、敵感知、暗視。簡易魔法はヒール、各種攻撃魔法、空間転移。…空間転移?)」
俺はある一つのスキルが気になってソフィリアに聞いてみた。
「なあ、この【空間転移・小】って魔法なんだ?」
「それは名前の通りだよ。短い距離だけどワープできる魔法。でも結構魔力使うくせにあんまり長い距離のワープはできないから使い勝手悪いのよね」
「へぇ…。連続転移は?」
「可能。だから無限の魔力を持つ人が使えば空も飛べるはず」
ということは俺の魔力ならある程度の浮遊はできるワケだ。俺はその魔法に興味がわいて、そのスキル名のところをタッチした。すると俺の目の前にウィンドウが出現した。『【空間転移・小】獲得しますか? Yes・No』と書いてあるウィンドウのYesのところをタッチする。その瞬間体内に、というか脳内にこの魔法の使い方がインプットされる。すごく簡単だ。
「それにしたんだ。まあ君が使えば結構便利かもだけど…」
「まあさ、魔法がほとんど使えないんだから俺だけのスタイルってのを作りたいんだ」
「じゃあ私はその完成系が見れることを祈ろうかな。君の魔力量なら世界に一つだけの能力構成になるかもしれないし…、そうなれば多分異名が付いてくるね」
「異名?」
俺は少し中二心を煽られるような感じがしてソフィリアに聞き返した。
「ほら、私で言う【白の巫女】みたいなものよ。君の知ってる有名な人とかでもいない?」
俺はそう言われて元の世界のことを思い出す。そういえばと言う風にいろんな異名を持つ人々が思い浮かんだ。こちらの世界でも、というかこちらの世界の方が異名や二つ名は多そうだ。
「そういえば次はどこに?」
「王宮に旅立ちのあいさつをしに行かないとね。無断で出ていくとか家出と一緒だから」
「そういうことね。じゃあさっさと行こうぜ」
俺たちは北側にそびえる巨大な城へ向けて歩き始めた。
♢♦♢♦
俺とソフィリアは巨大な二枚扉の前に到着した。厳粛な雰囲気が扉からもその奥からも漂う。まあまず間違いなくここが玉座の間だろう。大きな二枚扉の方を向いてからソフィリアが言った。
「じゃあ開けようか。エイトはそっちの扉をお願い」
「おう。了解」
俺は右、ソフィリアは左の扉を押し開けた。重々しい音を立てて扉が開く。そして中の様子が明らかになる。
赤い絨毯がまっすぐ敷かれ、その先には豪華な玉座とそれに座る高貴な人物。これがエルゼンダルク国王。確か名を【ガレウス・ロード・エルゼンダルク三世】。
ソフィリアが跪いたので俺も同じように頭を下げる。
「白の巫女ソフィリア・エルレイン。旅立ちのご挨拶に参りました」
「そうか。もう旅立ちであったか」
「明日の朝を予定しております」
「うむ。して…、」
すると国王は俺の方を向いた。そしてソフィリアに向けて問う。
「ソフィリアよ。この者は何者だね?」
彼女に俺の名前を名乗らせるのは少し気が引けたので俺は自ら口を開く。
「自分は黒羽夜瑛斗。ソフィリアの旅に同行させてもらうことになっています」
「そうか。同行する者がいるのならば心強い。ではエイトよ。白の巫女を頼んだぞ」
「はい」
すると再び国王は目線をソフィリアに移した。
「ソフィリアよ、くれぐれも気をつけよ。最近は帝国の動きも活性化しておる。奴らが襲ってくる可能性も十二分にある」
「承知しております」
「そんな状況において彼がおるのは非常に心強い。ソフィリアよ、大変なこともあるだろうが、大変な時こそ仲間を信じなさい。私が言えるのはこれだけだ。健闘を祈る」
「「はい」」
俺たちは揃えてそう言うと一礼して玉座の間を後にした。王宮を出た頃にはもう夕方前になっており、俺たちはソフィリアの家に帰ったのであった。そしてその日の夜、俺は旅立ちへの期待を胸に抱きながら眠りについた。その頃にはもう、昨日感じたような不安や恐怖は消え去っていた。
翌日の朝。俺たちは街の城門の前に来ていた。王国騎士達も見送りに来ている。あの俺を帝国のスパイだと言って追い詰めたあの騎士も見送りに来ているが俺の姿を見て苦々しい表情を浮かべる。だがほとんどの騎士たちは敬礼をして白の巫女ことソフィリアの旅立ちを見送っている。
「騎士達よ。私は必ずや旅を成功させ、経験を積んで帰ってきます。それまでの間、国は任せます。…では、行ってきます」
王国騎士達全員に向けてそう言うと、ソフィリアは騎士たちに背中を向けて歩き出した。俺もそれについていくように歩き出す。俺は何も知らないこの世界で旅に出るという無謀極まりないこの状況でも、輝くような希望に満ちていた。
「(俺の新しい人生…新しい物語の始まりだ…)」
こうして、俺とソフィリアの旅もとい俺の第二の人生は始まった。
自分の中で、一話と二話セットで事実上の一話、という感じがあったので同じ日に投稿しました。不慣れですが今回も楽しんでもらえたなら何よりです。
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