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黒白の王と闇夜の剣  作者: 獅猫
第一章 ー真夜中の幻想ー
17/91

17-決闘する雄-

今回は再び戦闘回です。

温泉郷ミカグラを出て、俺たちはベルガナの港町に到着した。海に面しているのは分かっていたが、こうも面白い構造をしているとは思わなかった。


ファンタジーな港町と言うべきか、後ろの方にある家程どんどん立地が高くなっている。俺たちが来た町の最後方は町の中で最も高い場所で、町全体を後ろから一望できる。全ての家がレンガ屋根で、その景色はかなり美しい。


「船が出るっていう港はどこに?」

「えっとね、確か向こうの方向にまっすぐだと思う。」


ここからは長い船旅になるだろう。なんせここから王都エスタナルまでは船で数日もかかるらしい。船酔いしないか心配になる。


道中で必需品の買い出しをしてから、俺たち三人は船着き場へと向かった。正直王都に行く人はあまり多くないと考えていたのだが、思ったよりも混雑している。だがその50人ほどの人々はみな、背に武器を背負って高ランクそうな防具を装備している。


こんなにも王都への客は多いのだろうか。俺が気になって辺りを見回すと、いつの間にかソフィとフェリアが近くにいた屈強そうな戦士に話しかけていた。


「すみません。皆さんこんなに大人数でどうされたんですか?」


話しかけられた身長190程もありそうな大斧使いに聞くと、彼は振り向いた後二人を見下ろしてきさくに答えた。


「ああ、今から隣の大陸まで賞金首の討伐に行くんだ。これはその遠征部隊だよ。この町の船を総動員するほどの巨大部隊さ。」

「へぇ…こんなに大人数で。」

「賞金1000万の古龍だからな。隣の国の首都が一つ壊滅したって話さ。」


その男は深刻そうな顔で言ったが、すぐに笑顔になって俺たちに聞かせた。


「でも大丈夫だ。英雄ジークフリード様がおられるからな。」

「ジークフリード…?」

「ほら。あそこの鎧を着た剣士様だ。アースガルズでも一二を争う強さの持ち主なんだぜ。」


彼はある一点を指差しながら言った。そこには黒い鎧を着て、同色のマフラーを見に付けた男がいた。身長172の俺と比べると十数センチは差がありそうだ。あまりゴツくはないが、しっかりと筋肉がついて引き締まっている。


俺が彼の方を見ていると、隣にいたフェリアが声をかけてきた。


「ねぇ…さっきこの町の船を総動員するとか言ってなかった?」

「言ってたな。世界樹に行く船も無いってことになるのかな?」


するとソフィがある船を指差して言う。


「でもあの大きいやつにならこの人数の大半は乗れるんじゃない?」

「あー…確かにな。」


ソフィが指差していたのは一際大きな海賊船のようなものだった。俺は再び先程の戦士に話しかける。


「なぁ、今って王都への船も無いのか?」

「そうだな。王都への船に乗りてぇなら一か月ぐらい待ってくれねぇか?」

『い、一か月!?』


俺たち三人の声が美しいほど見事に重なった。

そんな俺たちの様子を見て、少し不思議そうな顔をしていた戦士だったが、すぐに困った顔になって言う。


「危険な奴だからなぁ…。船旅に拠点設営、そして討伐は工程を踏んで何度も戦闘を繰り返して追い詰める必要がある。そのぐらいかかるだろうな。」

「そんな…。」


俺は落ち込んだ様子の二人とは逆に、ある人物の元を目指して歩き始めた。この状況でその相手とはもちろん…、


「アンタがジークフリードさんかな?」


後ろから声を掛けられたジークフリードは俺の方を向き、小賢しいとばかりに睨みつけた。それでも俺は引き下がらず、彼の方を向き続ける。


「何だお前は?遠征隊に小僧がいるとは聞いていないが?迷子なら親の元に帰りな。」


彼がそう言うと、彼の周りにいた戦士たちが一斉に笑い出す。俺は態度を崩さずにジークフリードに言った。


「俺は遠征隊に参加するつもりはちっともない。一つ交渉をしに来たんだ。」

「交渉?ほう、何だ?」


少し首を傾げて言うジークフリードに、俺は王都行きの船と見られる中型運搬船の方を向いて言った。


「アンタらが占領してる王都への船、使わせてもらえないかな?」

「悪いな。なんせ遠征部隊が多いもんでな。船が足りん。」


俺はジークフリードの後ろにある大きな船を指差して言った。


「コレには何人乗るんだ?この船にならここにいる人たちの大半を乗せることだってできるだろ?」

「10人だ。我が船は俺とその盟友たちしか乗ることが許されない特別な船だ。この世界最強である俺の船にただの戦士たちを乗せるだと?笑わせるな。」

「他の奴らをここに乗せるつもりはない…そう言うことか?」

「まあそういうことだな。」


明らかに見下した態度で言うジークフリード。奴は仲間のことをなんとも思っていない。強くないものは差別する。それが俺は気に入らなかった。強き者こそ弱き者を導くべきだ。


俺は語気を強めて言った。


「…アンタ、さっき『世界最強の俺の船には奴らを乗せられない』って言ったよな。…それなら、俺がお前を倒して世界最強の座から引きずり下ろす。それで俺がお前に勝ったら王都への船を譲れ。」

「…ほう。面白い。貴様が勝てるとは思わんが。受けて立とう。」



♢♦♢♦



瑛斗は両手に神具である剣を出現させると、右足を引いて構えた。相対するジークフリードも神具クラスと見られる両手剣を引き抜くと、後ろに引いて鋭い構えを取る。


瑛斗の持つ二本の剣を見て、彼がただ者ではないと思ったのか、ジークフリードは今までよりもいっそう集中しているように見える。双方から凄まじい殺気が走る。


二人が対峙している場所であるこの広場にも、いつの間にか人だかりができている。やはりジークフリードの名は有名、それに挑戦する無謀な剣士の負け様を見てやろうとでも思っているのだろう。


なんせ周囲にいる人々は「ジークフリードだ!」「あの人が竜殺しの英雄…!」などと言い、心底興奮している。しかし中には「双剣の坊主も頑張れよ!」という声も聞こえる。


確かにジークフリードの名は有名だ。基本ハーフエルフの里にしかいなかったエルフェリアでもその名を知っている。国を苦しめたドラゴンを対峙した大英雄だ。その強さは確かにこのアースガルズでも最強クラスだろう。


だがエルフェリアは、瑛斗が負けるとは考えられなかった。この数回の戦いで見て分かった。瑛斗もソフィリアも尋常じゃない程強い。そして瑛斗の剣術はもうこの世界でも最高峰だろう。恐らく元の世界ミッドガルズでも。


「一応確認するが、どんなルールかな?」

「勿論どちらかの勝ちが確定するまでだ。身体への攻撃もアリ。魔法はナシの剣術勝負。」


それを聞いて瑛斗は不敵に笑った。


「てことは本気で斬りにかかって良いんだな?」

「俺と戦うのに本気以外何が有り得る?…笑わせるな。」

「…へぇ。面白いね。…じゃあ行くぜ…!」


そして一瞬の間の後、ジークフリードが目にも止まらぬ速さで動いた。気合と共に両手剣を振り下ろした。瑛斗もそれを右手の剣で相殺する。その瞬間、その場にいた全員が顔を覆う程の衝撃が発生した。


ジークフリードの剣を弾いた瑛斗は、右から左へと斬り払う。ジークフリードも反対側から両手剣で弾き返す。


「凄い衝撃…。」


隣にいたソフィリアもそう呟く。一撃と一撃なら重さで勝る両手剣が有利なはずだが、少し長めの片手剣を扱う瑛斗も全然劣らない。


「…うおおっ!」

「…ふんっ!」


二人は同時に反対方向から剣戟を放った。またもや双方の剣はお互いに相殺され、凄まじい衝撃が走る。それでも彼らは攻撃を止めず、今度は瑛斗の斬り下ろしをジークフリードが斬り上げで受け止める。


双方共に攻撃的な戦いだ。視認困難な速さの剣を同格の剣戟で相殺していく。


ここらにいる庶民の人々にとってはもう異次元の戦いだろう。だがそれでも声援や野次を飛ばし続けている。まるで闘技大会の様だ。


彼らは次の三撃目、四撃目、五撃目…と次々に攻撃を繰り出すがお互いの剣がそれを受け止め、弾いていく。


「凄い攻防だね…。」

「お互いの剣戟がヒットしない…。」


すると瑛斗は、踊るように不規則なリズムでの連続剣技を放った。【ブレイドダンシング】だ。だがその剣戟をもジークフリードは受け止める。


「フン、甘いな。」


全ての剣戟を受け流したジークフリードは、今度は自分の剣を振りかざす。上と下から目にも止まらぬ速さでドラゴンの噛みつきのような攻撃が繰り出される。【ドラグファング】。彼専用のAA。瑛斗も胸付近に浅く切り傷を負う。


「セアアッ!」

「ハアアッ!」


今度は双方同時に剣を振り下ろした。全く同じ軌道で繰り出された二つの剣は弾かれずに鍔迫り合いが始まる。さすがにこれはジークフリードが有利かと思われたが、瑛斗も両手の剣で対抗する。


数秒間の拮抗の後、二人共同時に後方に跳んだ。瑛斗が剣を構えなおして再び突撃しようとしたその時、ジークフリードの背中からドラゴンのような翼が生えた。ここにいるギャラリー全員が驚いた声を上げる。


「あれは!?」

「ドラゴンの翼!?」

そのまま凄まじい速度で飛翔して突撃し、瑛斗に斬撃を見舞う。瑛斗もどうにか対応しようとするが、そのスピードに反応しきれず肩の辺りを斬り裂かれた。


もう一度ジークフリードは凄まじいスピードで向かって来た。だが瑛斗もさすがの反応速度と修正力で今度は攻撃を受け止めた。


「何だその翼は…?」

「かつて竜を倒したときに得た力だ。貴様らは未だに飛べぬ生物だ。上にいるものほど高位の存在。地を這うお前達とは格が違う。」


その言葉を聞いた瑛斗は、何故か不敵な笑みを浮かべた。


そしてジークフリードが再び瑛斗に突撃した。だが瑛斗は隣の建物の屋根の上までジャンプして上がる。再びジークフリードが向かって来るのでワープで回避する。


瑛斗のワープ魔法だが、移動距離もかなり長く、何より空中にワープした場合、数秒間その場に滞空することが出来る。これでジークフリードを翻弄して勝つつもりだろう。


ー瑛斗の魔力が尽きるか、その前に彼が奴を討つかー


「朽ちろォ!」

勢いよく向かって来るジークフリードの攻撃を再びワープで回避し、繰り出される追撃を双剣で弾いていく。相手が放つ斬り下ろしを後ろへのワープで回避すると、そこからジークフリードに突きを放つ。


瑛斗が放った剣を受け流し、ジークフリードは斬り上げを放った。瑛斗はそれをガードするも少し体勢を崩す。だが彼はその勢いに逆らわずに空中でバク宙しながら出現させた剣を足場に着地した。


彼はワープを繰り返して相手について行きながら、相手の剣戟をどんどん弾く。ベーシックな翼での空中戦を行うジークフリードと、変則的でトリッキーな空中戦を行う瑛斗。


「久しぶりに面白い奴に出会えたものだ…!」

ジークフリードは突然瑛斗の真上に飛翔し、全力の斬り下ろしを放った。瑛斗も双剣をクロスさせてガードする。


「…ッ!」

瑛斗の剣が美しい輝きを帯び、それを勢いよく突き出した。【マグナムスラスト】。ジークフリードはその神速の突きまでガードし、大剣に赤い輝きを宿らせた。先程も放った【ドラグファング】。

「(これは縦だけの技だ…。それなら…!)」


絶体絶命の刃が瑛斗に迫る。だが彼は体を傾けてギリギリのところでそれを回避した。そして再び双剣を構える。


「うおおおぉぉぉぉ!」

彼は双剣での連続攻撃を開始した。二本の剣がジークフリードに襲い掛かる。彼もどうにか対応しようとしているが瑛斗の剣戟の速さに体を斬り裂かれていく。


瑛斗の剣がジークフリードの体に迫った。そんな状況にも関わらずジークフリードは剣を振り上げた。竜の体をも砕く一撃【ドラグブレイク】。瑛斗の攻撃を受けるのならこちらも絶技で迎え撃つという判断だろう。


「消えろおぉ!!!」


ジークフリードは咆哮しながら両手剣を振り下ろした。だがその剣は空を切り、瑛斗には命中しない。ジークフリードが、彼がいないことに気付いたその時、ジークフリードの真上から声が響いた。


「お前の真上…頂いたぜ…!」

「小癪な…!」


瑛斗は双剣に深紅の輝きを宿し、相手の真上からAA【ブラッディ・クロス】を放った。ジークフリードも剣でガードするが、それはすぐに弾かれて瑛斗の剣が凄まじい衝撃と共にジークフリードの体を斬り裂いた。そしてエイトは真上から二本の剣を同時に振り下ろす。


「これで終わりだよ…!」

「くそおおぉぉぉ…!」


彼の放った剣はジークフリードに命中し、ジークフリードはそのまま地面に向かって吹き飛ばされ、広場の地面に勢いよくぶつかった。瑛斗も同時に落下してくるがこちらは綺麗に着地する。彼は剣を消滅させた。もう勝負は決している。


状況を飲み込み始めたのか、周囲のギャラリーは歓声を上げ始めた。唯一ジークフリードの仲間たちだけが悔しそうな顔で瑛斗を見ていた。


出会うまで名前すら聞いたことのなかった剣士がこの世界最強の男とも言われるジークフリードを打倒したのだ。この青年は一体何者なのか。


仲間のプリーストに回復してもらったジークフリードは、瑛斗の方を向いて納刀しながら言った。

「お前のようなものがいるとはな。一体どこの英雄だ?」


そう聞かれた瑛斗は困ったような顔で笑って答えた。

「英雄なんかじゃないよ。ただのミッドガルズの旅人さ。」

「ミッドガルズ…。俺も知らんことが多いな。」


そこで瑛斗は本題に入る。

「王都への船、出してもらえるか?」


ジークフリードは完敗だ、という風に笑って言った。

「ああ、いいさ。好きにすると良い。仲間は俺の船に乗せよう。だが俺はいつか再びお前の前に現れる。それまで誰にも負けるなよ。」

「望むところだ。約束する。」

俺たちは固い握手をし、いつかの再戦を誓い合った。そんな俺たちに向かって周囲からは温かい拍手が送られた。俺が戦う理由がもう一つ増えたようだ。


今回登場したジークフリード。実は、僕にキャラクター原案を多数下さっているワタナベ氏のお気に入りキャラでして。もっと登場させたいと思うんですが…(笑)。

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