10-もう一人の転生者-
もうすぐ重大な戦い。というかこの話でその相手が登場。その前に、瑛斗の先輩ともいえる人物の登場です。
俺たちとティアが共に氷神と戦ってから、もう既に二か月半の日々が流れていた。その間もいつも通り賞金首モンスターを倒しながら旅を続け、神霊獣とも対峙した。そして手に入れた神霊獣の力は【獅子王レグルス】、【巨獣ベヒモス】、そして十二神の一角【刀神スサノオ】のものだった。
俺はスサノオから直々に剣術を習うことができ、片手剣熟練度もA830まで上達し、二刀流もA810までになった。スサノオの扱う【踏み込みの型】や新たなAAも多数習得した。
俺たちのレベルも著しく上昇し、俺は44、ソフィは43とついに俺のレベルもソフィを追い越した。それは彼女曰く、前衛や十二神との戦いで危険な役割をたくさん担っているかららしい。
そして俺たちはとある町の宿屋の中で休息を取っていた。俺はソフィに次の方針を相談する。
「ソフィ、次はどうする?」
「次?うーんとね…。」
そこまで言ったところでソフィの言葉が止まった。驚いたように目を見開いている。
「ソフィ?何かあったか?」
「っ…!!」
「どうした…?」
俺がそう言った直後ソフィは頭を抱えて倒れこんだ。相当痛そうだ。尋常ではない様子に俺も焦る。
「ソフィ!?無事か?どうした!?」
俺がそう言ってもソフィは頭を抱えたまま呻いている。だがその直後やっと普段の状態に戻って荒い息をしながらも勢いよく体を起こす。俺は彼女の体を起こしてやる。
「何かあったか?普通じゃなさそうだが。」
俺がそう聞くとソフィは頭を抱えたまま荒い息をして言った。
「今頭の中に…何者かからの念話があった。私たちを呼んでる…。でもこれは…まさかね。」
♢♦♢♦
ということがあって俺たちはその念話で招待された(呼ばれた)場所から最も近いエルメアの町に来ている。ソフィはここらの酒場や情報屋で神霊獣の情報を集めてくるらしいので俺は今アイテムの買い出しや武器の購入などを任されている。
俺はポーションや各種状態異常用の薬などを買って【別次元格納】にて収納した。
それよりこの前のソフィが気がかりだ。今までどんなに強大な神霊獣からの念話でも顔色一つ変えずに簡単にこなしていたソフィがあそこまで苦しむとは。
それほど高い魔力の持ち主だろうか。それとも何か邪悪な魔力を持っているものなのだろうか。
あの様子を見せられてはかなり心配になる。何かが起こる前兆なのだろうか?そしてソフィはその念話の相手を分かっているのだろうか?
俺はそう考えながらも新しく買った武器を格納する。すると、俺の後ろから声が響いた。
「失礼…もしかすると、君は向こうの者か?」
【向こうの者】という言葉を理解するのに少し時間がかかった。そしてその言葉を理解したとき思わず息を飲む。
「あんたも向こうの人なのか…?」
俺に話しかけてきた185cmぐらいの長身の男は、褐色の肌に紺色の髪を持つ20代後半と見られる男だった。彼は俺に向かって頷いた。
「まあな。俺以外の向こうの人間は初めてだ。俺は霧宮武蔵。」
「俺は黒羽夜瑛斗だ。何で俺が向こうの人って分かったんだ?」
「いや、向こうの世界の人物はやはり雰囲気が違う。世界が違うわけだからな。話すにはこちらの世界の人々が多すぎる。別の場所に行こう。」
俺たちはこの町の中央部にある展望台の最上階へと向かった。そして改めて彼ー武蔵ーを見る。腰には少し大きめで片手剣とダガーの境目とでも言うべき剣が二本装備されていた。
彼も二刀流なのだろうか。黒い軽装のジャケットにレザーパンツ。そして同じような色のマントのようなものを羽織っている。体は鍛えられており、この世界で長らく戦ってきたことがよくわかる。
彼は俺に向かって問いかけた。
「君は何故こちらに?」
俺は元の世界にいた最後の日のことを思い出す。そしてあの何者かとの会話を…。
「俺は…元の世界に退屈しきっていた。…もっと刺激のある世界に行きたかったんだ…。こんな理由さ。」
俺がそう言うと彼は苦笑した。
「…そうか。…俺とは少し違うな…。この世界は楽しいか?」
「…ああ。最高だ。」
俺が答えると、彼はまたしても苦笑して言った。
「やはり俺とは反対だな…。俺は君とは違う状況で召喚されたからな…。」
「…え…。」
俺がその続きを聞く前に彼は話し始めた。
「俺の場合は望んでもいない召喚だったよ。…一方的にな。」
「…。」
俺はかける言葉もなく沈黙した。俺は自分で別の世界で新たな人生を送りたいと考えていたところでの異世界召喚だった。俺的に最高だ。だが彼は望んでもいない召喚だったという。それに拒否権もなかったらしい。
そして俺は、今度は自分から問いかける。
「…何でアンタはそれでも戦うんだ?」
俺がそう聞くと彼は遠くを見ながら言った。
「自分がここに来た意味を見つけるため…いや、ここに来た理由を無理やり作る為だな…。」
「…そんなことで…。」
俺がそう言うと彼は微笑して言った。
「まあ答えが得られなかったわけではないさ…。どうだ?一つ手合わせでもするか?」
「…ああ。」
俺は彼の挑戦を受けて立つと、彼に続いて下へと降りた。
俺も最近、思っていることがある。俺は確かに新しい可能性を求めてこの世界に来た。「だが、それだけで良いのか?ただそれだけが俺がここに来た理由なのか?」と俺は自分に問いかける。だがその度、帰ってくるのは同じセリフ。「それ以外に何があるんだ?自分の欲を満たすために来た世界だ。」と。
だからこそ彼が考えているものを知りたいと思った。俺よりも早くこの世界に来た男。だが俺のように欲を満たすためでも、ましてや自分で願って来たのでもない彼は、なぜ今もここで生きているのか。
俺たちは町の中央広場で10mの距離を開けて対峙した。俺は二刀の片手剣を、彼は双剣を構えた。
「いつでもいいぞ…。」
「じゃあ…行くぞ…。」
俺は脱力してダッシュの一歩目を踏み込む。それと同時に重心を前にかけて加速。一瞬で彼の目の前に行く。スサノオから習った技【踏み込みの型】。彼の顔にも驚きが浮かぶ。俺はそのまま二刀で攻撃する。だが俺の連撃は彼の双剣に阻まれる。
「なかなか速いな。いい動きだ。」
彼はそう言うと俺の連撃を超える速度で双剣を振るう。俺もどうにか防戦する。そして彼の双剣での攻撃と俺の剣がぶつかり合って鍔迫り合いになる。数秒間の均衡の後、俺たちは双方ともに弾かれて後退する。俺はすぐさま彼に向かってダッシュする。
「セアアッ!」
俺は突き技【アクセルスラスト】を放った。だが彼は体を傾けて、片手の剣で俺の突きを受け流す。そしてもう片方の剣で俺を攻撃。俺ももう一方の腕で彼の攻撃をガード。
そして突き出した右手を引き戻すと斬り上げを放った。彼も双剣をクロスさせてガードする。俺は左手を上から振り下ろした。だがそれもガードされ、彼は右手の剣を右から左へ斬り払った。俺は剣を縦に持ってガードしたが次の攻撃が俺の腕を浅く斬り裂く。やはり彼は強い。
「…いい反応速度だな。だが武器のスペックが違う。」
そう言うと彼は両手を交差させた状態から両方の剣を内側から外側へと斬り払った。俺も剣をクロスさせてガードするがその強さに吹き飛ばされる。俺はどうにか体勢を立て直した。そして再び彼に向かっていく。
「うおおおぉぉ!」
俺は【クロスブレイク】を放った。だが彼の全く同じような技で相殺してくる。そして俺の斬り下ろしを先程のように剣で軌道を逸らして受け流すと俺の腹に全力の回し蹴りを放った。それだけで俺は吹き飛ばされて建物の壁に衝突する。
彼は納刀して俺の方に向かって来た。
「まだやるなら付き合うが?」
「…いや、俺の負けだ。」
俺は彼の手を借りて起き上がる。彼は俺を見て真剣な表情で言った。
「…瑛斗、君は迷っているようだ。次に会った時までに探せ。…ここに来て今最もしたいこと…そして目的は何か…それが分かったらまた相手をしよう。達者でな。」
「…ああ。」
そう言うと彼は立ち去って行った。俺のこの世界で本当にしたいこと、そしてこの世界に来た目的は何か。俺はそれを手に入れることができるのだろうか?
その時、後ろの方から元気のよい声が響いた。
「おーい!エイト!」
「ソフィ、お帰り。」
丁度帰って来たソフィは俺の腕にある浅い切り傷を見るや言った。
「どうしたのこの傷、何かあったの?」
「いや、少し手合わせしてただけだ。大丈夫。気にすんな。」
「大丈夫じゃないわよ!待って、手当てするから。」
そう言うとソフィは俺の腕を掴んだ。そして手当てを始める。
「(…あ…私今…手繋いでるかも。)」
そう自分で言って自身の手を見る。彼の前腕の傷を手当てするために左手で彼の手を握っている。以前はこんなことで動揺したりしなかったが、今は少し照れくさい。最近こういう感情を持つことが増えた。それも彼限定だ。どうにかそんな思考を断ち切って手当てを続けた。だがどうしても顔が熱い。
「はい。手当終わったよ。」
「ああ、ありがとう。」
「べ、別にいいわよこれぐらい。」
そう言うとソフィは俺の腕を離した。先程からソフィは少し顔が赤い気がする。だが俺はそれには触れずに話を本題に移す。
「今から行く場所…分かったか?」
「…うん。恐らく今までで最も大きな試練。君も準備できた?」
従来のRPGならここで大事な戦いの前の準備ができたかの確認画面が出るだろう。「準備できましたか?はい・いいえ」という選択肢が出るはずだ。俺は二つの内前者を選ぶべく頷いて言った。
「ああ、万全だ。行こうぜ。」
「そうね。」
そして俺たちは町を出たのだった。
「今から向かってるのも神霊獣のところか?」
俺がそう聞くとソフィはこちらを向いて言った。
「うん。それも今までとは格が違うかも。」
「…近づいても大丈夫なのか?」
俺はこの前宿屋で急に苦しみだしたときのことを思い出して言う。ソフィもそれを思い出して答えた。
「…多分ね。私の魔力をはるかに上回る力だったから。」
「…そうか。…どんなやつか見当はついてるのか?」
俺がそう聞くとソフィは苦笑して言った。
「検討付けるも何も…つけようがないというか…。ただまあ伝承によると、【始原と終焉】を司ってて、世界の終焉を見届ける役目と新たな世界を生み出す役割がある…だったかな。」
「うわ…スケールどんだけだよ…。」
「ま、まあ神霊獣の中でも最も知性に溢れてるから殺されたりはしない…そう思うなぁ…。」
「…ああ。覚悟しとく…。」
俺たちがそんな話をしながら歩いていると、とある一つの祭壇に辿り着いた。恐らくここが目的地だろう。俺はソフィに向かって頷くと彼女も頷き返す。そして彼女は祭壇に向かった。そして魔力を集中させる。
「この世の始原と終焉を知る万物の王よ!その姿をここに現し、汝の力を巫女に与えたまえ!」
ソフィがそう言った一瞬後、凄まじい魔力の放出を感じる。魔力値だけは膨大な俺の何倍あろうかという程の魔力が解放されて周囲の景色、いや、世界そのものが歪む。
俺たちが目を開けたその時には、もうそこは元の場所ではなかった。巨大な城だ。それも大きな一室。その円形の部屋は、直径100m近くありそうだ。天井も途方もなく高い。黒と白を基調に創られた美しい城だ。そして俺は視線を前に向ける。
「…!こいつは…!」
俺が見たものは全長30m程はあろうかという巨大な漆黒のドラゴンだった。腕も長く、人型に近い体系をした黒いドラゴン。その黒龍はのどから腹部以外は黒い甲殻に覆われており、頭には角も生えている。そして大きな翼。だがその眼にだけは賢者のような知性が宿っている。
前に聞いたはずだ。神霊獣の王。全てを統べる究極の存在。その名は…
「…【黒龍バハムート】…。」
次回は黒龍戦、今までで最大の戦いです。ご期待あれ。