表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宝石探し。

作者: 言詠 紅華

 ふわりふわりと、灰色に染まる空から舞うは、小さな白き粉雪。

 地には降り積もった雪が、白銀の世界を描いている。

 時刻は午後、雪のせいで陽は出ていないが、それでも世界は白く輝いていた。


 白に染まった、常緑針葉樹が並ぶ森。

 その中を、ニット帽にマフラー、コート、手袋、そしてブーツと、防寒対策を万全にした少女が歩いている。

 手には、首から下げている一眼レフカメラが収まっていた。


 さく、さく。


 雪で覆われた山道に、彼女の足跡が残る。

 ふと、彼女は途中で足を止め、木々の上部を見上げた。

 その瞳は、真剣に何かを探しているようである。


 バサバサ……


 どこからともなく聴こえる羽音。

 それを聴いた彼女の瞳が、そちらへ動く。

 その視線の先には、一羽のシロフクロウがいた。


 針葉樹に留まる、もふもふした白い鳥。

 シロフクロウを瞳に収めた彼女の表情(かお)は、嬉しそうに輝いている。

 そして、手にしていたカメラを構えた。


 カシャッ


 一枚の写真に収められたシロフクロウ。

 しっかりと撮れているかを確認している彼女の顔は、僅かに綻んでいた。


「ふふっ、可愛い」


 そのシロフクロウを撮るまでにも、数多くの写真を撮っていたらしい。

 カメラに映し出される写真は、彼女がボタンを操作する度に、次から次へと変わっていく。


 様々な角度から映されているシロフクロウ。

 毛玉のようにまるまっている小さな鳥、シマエナガ。

 それらの鳥が羽ばたく姿。

 鳥だけでなく、雪の上を歩くキタキツネの姿や、植物の様子も映されていた。


 割合は圧倒的にシロフクロウが多い。

 彼女はフクロウが一番好きなのだろうか。


 それらの写真を幸せそうに眺めている彼女が、何かの気配を察知する。

 刹那、真剣な表情で、気配がした方向をじっと見つめた。


 木の陰から姿を表したのは、一匹のキツネ。

 ふわふわとした毛並みは雪のように白く、景色に溶け込んでいる。

 くりくりとした黒い瞳が何とも可愛らしい。

 シャッターチャンスを逃すまいと、素早くカメラを構えてシャッターを切る。

 満足のいく写真が撮れたのか、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 静寂に包まれた白の世界。

 耳を澄ませば、聴こえてくるのは自然の音色と、様々な野生動物が奏でる生活の音色。


 さく、さく。


 彼女は再び歩き出す。

 のびのびと暮らす動物や植物の姿を、記憶に刻むために。

 そして彼女は記録していく。

 自分が見たもの、好きだと思ったもの、感動したものの記憶を、何時(いつ)でも呼び起こせるように。


 良くも悪くも、平凡な日々が続くのが日常だ。

 しかし、その中にこそ、平凡な日々を「素敵な日々」に変えるものがある。



 ──あなたは、素敵な毎日を過ごせていますか?



 彼女の心の中で響くのは、ある人からの問いかけの言葉。

 彼女はその問いに、自信を持って、はっきりと一言。



「はい、とっても素敵な毎日です!」



 きらりきらりと、灰色に染まる空から覗くは、暖かな橙色の陽光(ひかり)

 地には降り積もった雪が、陽光を反射して、宝石のように虹色に輝いている。

 その輝きに、気付く者と気付かない者。

 彼女はもちろん前者だ。


 カシャッ


 また一つ、彼女の日常の記憶が追加された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ