第五十話 ヒュドラってデカすぎね?
【一週間後】
あちぃ。
まさか荒野を抜けたら砂漠に入るとわな。
暑さで気が変になりそうだ。
「もー! 行けども行けども砂ばっかりじゃない。 何時になったら次の町に着くのよ!!」
「おぶってやってるんだから耳元で吠えるな!」
ルフレは早々にバテて俺が背負って運んでる。
なのにコイツは俺の背中で文句垂れてる。
……この場に落としてやろうかな。
「二人ともー、ケンカはやめなよー」
「そうよ、ケンカしても体力の無駄なだけよ」
確かにそうだな。
ただでさえ暑さでバテてるのにルフレと言い争いして体力を浪費するのはアホくさい。
最初はルフレの『氷結呪文』で体を冷やしながら移動してたかがルフレの魔力の消費が激しい為にそれはやめた。
……が、やっぱり暑い。
まじでキツイわぁ砂漠。
「……うん、うん、そうなんだ……ありがとう。みんな〜サボテンさんがアッチに大きな洞窟があるって〜」
ナイス、カナ。
よっしゃ、コレで涼めるぞ。
【三十分後】
……俺達の前には明らかに自然に出来たとは思えない巨大な洞窟がたたずむ。
「なぁレンド、この洞窟って……」
「間違いなく魔獣の巣だねー、しかも超巨大な」
ですよねー。
あちこちに牙で付けたであろう傷がある時点でそうじゃないかと思ったがやっぱりな。
……俺の勘違いであってほしかったがな。
「この辺りで巨大で洞窟に巣を作る魔獣って言うと……ヒュドラかな?」
ミキが自分セーラー服の胸元をヒラヒラと引っ張って涼みながら言う。
どうでもいいがレンドがガン見してるぞ?
本当どうでもいいな。
「ヒュドラの巣ならひょっとしたら卵があるかも。ヒュドラの卵は超高級食材なのよ!」
さっきまで人の背中でヘバッてたルフレが今は目をキラキラして言い放った。
……嫌な予感がするぞ。
「まさかルフレ、その卵を取りに行こうとか言うつもりじゃあないよな?」
「あったりまえよ! ヒュドラの卵で作ったケーキはアタシの大好物よ!」
「知るかボケー!」
「まぁまぁ。どのみちオイラ達は金欠だからヒュドラの卵を手に入れて換金したら大分旅が楽になるよー。もし卵が無かったらすぐに引き返そうよ」
「確かにそうだけど……」
レンドの言い分も一理有るがどうせ戦闘狂のレンドはヒュドラと戦いたいんだろ?
その証拠にレンドは握りこぶしを作ってる。
……せめてその闘志を隠すぐらいしろよ。
ルフレとレンドを止める為の援護を頼もうと俺はミキに話しかけようとした……
「ふへへへ、ヒュドラの卵のケーキ」
……ダメだった。
ミキはヨダレを垂らしながらまだ見ぬケーキに思いをはせてた。
「ふぇ〜、暗いところはこわいけど、でもケーキのためにガンバるよ〜」
カナ怖いなら無理するな。
そもそも卵が手に入るかは分からんのだぞ?
……コレで一対四か。
仕方ない、諦めて進むか。
はぁ。
【二十分後】
……デカすぎね?
今、目の前に無数の頭を持つ巨大な大蛇がドーンとその存在感抜群の巨体をとぐろを巻いて寝てる。
頭一つ一つが俺よりデカイとか何かのギャグかよ。
あえてもう一度言おう、デカすぎね?
俺はヒュドラを起こさない為にジェスチャーで逃げる指示をだす。
流石に全員同意してくれて俺達は速やかにでも静かに後退し始める。
だがその時、
「ハッ、ハッ……」
カナー!!!
まさかこのタイミングでクシャミする気か!?
頼む、頼むから我慢してくれ。
だが俺の祈りは届かず……
「ハックチュン!」
カナの可愛らしいクシャミが洞窟内を反響して響き渡った。
恐る恐るヒュドラの方を見ると……
「「「「ジァッジァッ、ジァーー!!!」」」
やっぱりヒュドラが起きたーー!!!
「早く逃げろー!」
俺は力の限り声を荒らげる。
俺達は全力で洞窟の出口を目指して逃げた!
【十分後】
「まずいよー、追いつかれそうだよー」
レンドの言うとおりヒュドラがどんどん迫ってくる。
ヤバイな。
「ごめんなさ〜い、カナが、カナが〜」
「謝ってる暇があったら死ぬ気で飛びなさいカナ!」
カナが泣きながら謝ってるのをルフレが叱りつけてる。
「ヤバッ! ヒュドラに追いつかれるわよ!!」
ミキの声を聞いて必死に前を向いて走ってた俺達は一斉に振り返る。
するとそこには…………
「「「「「シャーー!!」」」」」
「「「「「ジャー!!」」」」」
無数の頭を持つ巨大な蛇が俺達に今にも襲いかからんとその鋭い牙を光らせてた。
あークソッタレ。
やっぱあの時に全力でルフレ達を止めとけばよかった!
って後悔してる場合じゃねぇ!
「キット! 前やったみたいにアタシ達を抱えて『逃走』しなさいよ!」
「無茶言うなよルフレ! こんな全力で逃げながらお前は俺に『攻撃強化呪文』をかけられるんかよ!」
「無理に決まってるでしょ!」
「ハッキリ言うな! そもそも洞窟の外は砂漠だ、砂に足を取られて『逃走』でもスピードがだせねぇよ!」
俺が砂漠ではスピード落ちるのは昨日までに分かってるだろうが!
「はぁ、はぁ。ほん、と、ごめん、な、さ、い、はぁ、はぁ」
ヤバイ、カナがバテてきたか。
ルフレも飛ぶスピードが落ちかけてる。
……このまま逃げ切るのは無理だよな。
なら、
「ちょっと! キット、レンド何立ち止まってるの!?」
ミキが凄く驚いてる。
だがこれしか手段がないんだよ。
「てかレンドもやるのか?」
「当然だよー、オイラはヒュドラと戦いたかったんだからねー。ただミキたちが居るからミキたちの為に安全のために渋々逃げたんだよー」
やっぱ戦いたかったんかよ。
相変わらずの戦闘好きだな。
ヒュドラはいきなり立ち止まった俺達を怪しんでかこっちを睨みながら警戒してるな。
良かった、これで何とかルフレ達を逃がせそうだ。
「アンタ達何する気なのよ!?」
「ルフレ達は逃げろ。逃げる時間は俺達が稼ぐ」
「キットく〜ん、レンドく〜ん!」
「カナ心配するな、俺達は『不死身』と『不死』だから大丈夫だ」
「なら私も残るわ、私だってゾンビよ」
「ダメだよーミキ、こうゆうのは男の仕事だよー」
まだ残ろうとした三人は悔しそうな顔をしたが、直ぐにまた洞窟の出口を目指して進みだした。
三人とも頭は良いから全員が無事に逃げるのは無理なのは分かってくれたんだろう。
これで心置きなく戦える。
「レンドは『不死』なんだから頭部だけは守り抜けよ」
俺はレンドに笑いながら言う。
レンドも笑いながら俺に返す。
「もちろん。で、目標はどうするキット?」
「そうだな、奴の頭一つ位は潰したいな」
「えー少ないよー。オイラ達なら三つはいけるよー」
「なら間を取って二つで」
俺達は軽口を叩きながらも闘志を燃やす。
どうせ負けて元々、思いっきりやってやる。
「じゃあいくよーキットー!!」
「メンドイけど、やってやるぜ!!」
「「「「「ジャーッッ!」」」」」
俺達は全力でヒュドラに向かってく。
そいや久し振りに「メンドイ」って言ったな俺。
ま、今は気にしてられないか。
オマケ
『ヒュドラ』
無数の頭を持つ巨大な竜。キットも勘違いしたが翼も手足も無いためによく蛇に間違われる。
その牙には猛毒があり非常に危険。
頭部は潰してもまた生えてくるために倒すには胴体の心臓を攻撃する必要がある。
ヒュドラの卵は弾力があり、そのままでも甘いためにコレでケーキを作るとふわふわで上品な甘さのケーキになる。




