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第四十九話 二人っきりで。

【次の日の夜】


 ふぁ〜あ〜あ〜。

 眠いな。


 俺は今、夜の見張り中。

 つっても、もう少しでミキと見張りを交代だけど。

 あとちょっとで寝れるからそれまで我慢だ。


「ふぅー」


 ん? ルフレがテントから溜息吐きながら出てきたぞ?


「ルフレ、まだ寝てなかったんか?」


「……ちょっとね、考え事してたのよ」


「ふーん、まぁなんだ。その考え事ってのを良かったら聞かせろよ」


 ルフレは少し考えると俺と少し離れた位置に座った。

 ルフレはいつものセーラー服ではなくパジャマ姿で少し新鮮に感じた。


 俺はさっきまで自分が飲んでたお茶と同じものをコップに注ぎルフレに黙って渡した。

 ルフレも黙って受け取ると一口飲む。


「にっがーい、何よこれ!? 超苦いじゃない!」


「眠気覚まし用だかな」


 普通より濃く煮出して苦味を増したその名もズバリ『苦茶』。

 夜間の見張りの必須品だよ。

 ルフレは苦さで顔を歪めたまま俺を睨みながら言い放つ。


「先に言いなさいよ! でもおかげで頭が少し落ち着いたわ」


「わりぃわりぃ。で、何を考えてたんだ?」


「あーねぇ、大したことじゃないわよ。ただ人間達が使ってた魔法について少し気になったから考えてたの。でも結局分からなくて一息入れようとしてたのよ」


「人間の魔法?」


 確かに人間が使う魔法は魔界のと違うが、それって呪文が違うだけじゃね?

 ゆうほど違いがあるのか?


「そう、人間の魔法。なんて言ったら良いのかしらね……人間の使う魔法って色々おかしいのよね」


 色々ねぇ。

 そんなに変なのか?

 俺はそこまで気にならなかったけどな。


「少し話が変わるけど、ねぇアンタって魔法は得意な方?」


「何だよ急に。……俺はな、魔法は苦手だよ」


「やっぱりね、だと思ったわ。だってアンタって『炎呪文フレイム』と『速度強化呪文アクセル』しか使わないもんね♪」


「喧嘩売ってるんか!?」


 売るなら買うぞコラァ!

 俺に魔法の才能がないなんて俺自身が一番分かっとるわ!


「ゴメンゴメン、ただの確認よ。……なら当たり前だけど得意な人の魔法と苦手な人の魔法の威力は違うのは分かるわよね?」


「そりゃな」


 例えば俺の魔法はルフレやカナより劣る。

 ましてやエルやサージョさんに比べたら月とスッポンかそれ以下だ……自分で考えて悲しくなってきたぞ。


「当然同じ人が使う魔法でも元気な時と疲れてる時では威力は違うのも分かるよね」


「……さっきから何言ってるんだ?」


 全く意味がわからんぞ。

 なに当たり前な事を言ってるんだ?


「……その当然、当たり前の常識が人間の魔法には当てはまらないのよ」


「はぁ?」


 思わずマヌケな声を出してしまった。

 だって今ルフレが言ったことは子供でも知ってるような魔界では常識的な事だから。


「……少し遠目だったけど魔道士のジジィが剣士の男と同じ『下位閃光呪文レーザー』を使ったのを見たのよ。……そして、その威力が剣士のと全く同じだったのもこの目で見たわ」


 おいおい、マジかよ。

 ルフレは固有スキル『鳥目』があるから多少距離があっても物がハッキリ見える。

 ルフレが見たって事はまず見間違いではないな。

 でも、


「それおかしくね? 明らかにベテランって感じの魔道士と、剣と魔法両方使う若い剣士の威力が同じだなんてよ」


 例えるなら魚とカエルの泳ぐスピードが同じって言われるくらいおかしいぞ。


 魔法は鍛錬を積めば積むだけ威力を増す。

 なのに本職のベテラン魔法使いと剣と魔法両方やってる若いの威力が同じになるはずが無い。


 いや仮にどちらも魔法使いだとしても個人差は必ず出るから全く同じになるってのは確かに変だ。


「そうよ、おかしいのよ!

 それだけじゃないわ。アタシ達が戦った女の魔道士が魔法を連発したんだけど、どう見ても魔法の威力が最初から最後まで威力が落ちてないのよ」


「何!? いやそれは女の魔力の総量が多いだけじゃね?」


 魔力の総量が多ければ連発しても威力を一定に保てる。

 かなり高い技術と魔力の多さがあれば不可能じゃないぞ。


「それはないわ。あの女は魔法を連発し過ぎて魔力切れになったもの。でも魔力切れになる直前まで魔法の威力は落ちなかったわ」


「マジかよ!?」


 マジでおかしいぞ。

 魔力切れになるまで打てば普通は途中でへばるだろ。


 全力で走ってぶっ倒れる直前までスピード落ちないと言われてるのと同じ位変だぞ。


「あくまで仮定だけど人間の魔法はアタシ達魔族の魔法とは根本的に違うのかもね。ひょっとしたら呪文の構成、魔力の練り方までも違うのかも、いやそもそも人間達の魔法って本当に魔法なの?……」


 ルフレはボソボソと考察を続けてるが俺の頭ではついていけない


 ……やっぱコイツって頭いいよな。

 自分で「エリート魔道士の卵よ!」って言い切るだけあるわ。


「おーいキット、交代の時間よ」


 てな事を考えてたらミキが声をかけてきた。

 いつの間にか交代の時間になってたか。


「もうそんな時間なの? キット悪いかったわね、アタシの話を聞いてもらって」


「いや、いいぞ。俺は暇潰しになったし。じゃあミキ、あとまかしたわ」


「ホイホイ、おやすみキット」


 俺はルフレとミキに軽く手を振ってから自分の寝袋がある場所まで歩く。


「で、ルフレぇ〜。キットと二人っきりで何を話してたのかなぁ?」


「べつに。大したことじゃないわよ」


「ほぉー、私には言えない話か。いつの間に二人は秘密を共有するに仲になったのよ? はっ! まさか既にルフレは経験済みなのか?」


「はっ倒すわよ!」


 後ろでルフレ達がギャーギャー騒いでるが俺は眠気がピークに達して耳に入ってこない。

 だがルフレよ、お前は慣れない夜更かししてると寝坊するぞ?


 そんな事を寝袋に入りながら考えてたら俺はいつの間にか意識を手放してた。


 余談だが翌日ルフレは案の定寝坊したことを追記しとこう。


 オマケ


 『苦茶』


 その名の通り非常に苦いお茶。苦味とカフェインが強い為にキット達は夜の見張りの眠気覚ましによく飲む。

 非常に苦いがビタミンが多く含まれており健康には良い。


 キットは苦茶が好物で普段からよく飲む。

キット曰く、「この苦味がクセになる」とのこと。

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