第三十三話 なんでいるんだよ!
「キット、どうしたんだよー」
「何でもない」
俺達は学園を出て、そのままフェアリーのカナさんを探す為に町の外にいる。
今までと同じ、人間を探して倒してカナさんを救出する、それだけだ。
「何でもないわけないよー、キット。何でそんなに怒ってるの?」
「何でも無いって言ってるだろ!」
……なのに何で俺はこんなに苛ついてるんだ。
「キット!?」
「……ごめんレンド、本当に何でも無いから。大きな声出して、ごめんな」
「…………キット。本当に辛いなら言ってよ」
何で俺はレンドに怒鳴ったりしたんだ。
レンドは俺の友達なのに。
「キットー、ここが人間が目撃された場所?」
いつの間にか目的地に着いたか。
……頭を切り替えよう。
今はカナさんを助けることに集中するんだ。
「そうだよレンド」
ここは町の外壁のすぐ近くか。
すぐ側にある壁を俺は見上げた。
「……なあレンド、この壁の裏側って町のどの辺になるんだ?」
「ちょっと待って、えーっと。ここは確か、町の広場の近くだよー」
やっぱり。
「……レンド」
「キットもオイラと同じ事を考えてるの?」
「ああ、間違いなくここから人間は壁を越えてカナさんを誘拐したんだ」
「ならこの辺を徹底的に調べようよキット」
絶対にカナさんを見つける、俺はそう心で誓ってレンドと周辺を調べだした。
……必ず見つけて人間を倒すからな。
【一時間後】
ビッグタランチュラめ、捜査の邪魔すんな。
俺は毒を飛ばそうとしたビッグタランチュラに『炎呪文』を放ちビッグタランチュラを倒した。
さっきから魔獣が邪魔で全然捜査が進まない。
チクショ、ムカつく。
……苛ついてる場合じゃないな、早く手掛かりを探さないと。
「キットー、ちょっとこっち来てー」
レンドが呼んでる、何か見つけたのか?
俺はレンドの声がする方に走って向かった。
「レンド、何かあったか?」
「うん、これ見てよー」
……何かの種かな?
この辺りは荒野だが別に草が生えてない訳ではない。
普通に草や花は生えてるから珍しいものじゃない。
「これがどうしんだレンド?」
「地面をよく見てよ、一定の間隔でこの種が落ちてるんだよ」
確かに、ある程度の間隔で同じ種が地面に落ちてる。
これはまるで……
「道しるべだ!」
「そう、多分カナちゃんがワザと落としていったんだね」
「カナさんは草花の採取が趣味って言ってたよな?」
「そうだよ、だからカナちゃんが持ってた植物の種を落として手掛かりを残してくれたんだ」
ならこの種を辿っていけばカナさんがいる!
「行こうレンド!」
「うん、絶対カナちゃんを助けよう!」
ん? 何かあっちの岩陰で何か動いた気がする。
「なぁレンド、あっちで何か動かなかったか?」
「魔獣じゃないの? それより早く行こうよ」
そうだな、今はカナさんを助けるのが優先だ。
魔獣の相手をしてる場合じゃない。
【一時間後】
見つけた!
俺達は素早く近くにあった大きな岩に隠れた。
「キット、あれが人間?」
レンドが小声で話し掛けてきた。
そう言えばレンドは人間を見るのは初めてだったな。
「……そうだよ。あれが俺達の敵、人間だ」
人間は小高い丘の上で野営の準備してるな。
人間の数は……四人か。
一人が鳥籠? を持ってる。
中には茶色の髪をツインテールにしたフェアリーの子がいる。
カナさんだ!
ミキさん達と同じセーラー服を着てるから間違いない。
「キット、あの籠にカナちゃんが」
「俺も確認したよ」
他に魔族は囚われてないな。
「どうするキット? このまま力づくでカナちゃんを取り返す?」
「それは危険だよ、カナさんに怪我をさせる可能性があるし」
もしかしたら怪我だけで済まないかも、それは絶対駄目だ。
「レンド、これに魔力を流して持っていて」
「これは?」
俺はレンドに翻訳クリスタルを渡して使い方を説明した。
俺も兜に仕込んだクリスタルに魔力を流す。
レンドは横でクリスタルに魔力を流すのに苦労してるな。
「これで人間達の言葉がわかるよ」
俺達は静かに人間達の会話に耳を傾けた。
「しっかし魔物が町を作ってるとはなぁ。魔界っておっかない所だ」
青いマントをした男が言った。
この男は剣を背中に持ってるから剣士か?
「本当、びっくりしたわ。魔物って以外に知性があるのね」
青い長い帽子を被った女がそう応える。
こいつは魔道……いや人間界では魔法使いだったか。
「ひっひっひ、だがお陰で簡単にこの妖精の魔物を捕まえられたんじゃ。魔物の町に感謝せんとな」
こいつは白い髭を蓄えた老人か。
カナさんの入った籠を見ながらニタニタ笑ってる
「……はらへった」
最後は重そうな鎧を着込んだ戦士? の男。
こいつは頭悪そうだ。
「お前は食欲だけかよ! まぁ確かに戦闘しなくて済んだのは楽っちゃ楽だったがよ」
「……あのバカみたいに高い壁をよじ登るのは楽じゃなかったわ。わたしはもう登りたくないよ」
「なんじゃ、ワシより若い癖に情けない。嫌だと言っても明日またのぼるんじゃぞ。明日も魔物捕まえるんじゃ」
「はらへった、飯はまだ?」
……なんか纏まりのないチームだな。
その時、人間の後ろの岩から何かが飛び出した。
「アンタたち、カナを返しなさいよ!」
「あわわわ、不味いよルフレ」
「平気よミカ。あんなアホ骸骨に頼らなくったってアタシ達だけで人間なんかケチョンケチョンよ!」
なっ、チビガキとミカさんだと!?
「あやー、不味い事になったねキット」
レンドの言うとおりだ。
非常にメンドイことになったぞ。
まさかあの時に見た影は魔獣じゃなくてチビガキ達だったのか!?
「なんだ、この魔物は?」
当然、人間にはチビガキが言ってる事は分からない。
チビガキ達は翻訳クリスタルを持ってないんだな。
「ひっひっひ、丁度良い。こいつらをひっ捕まえるんじゃ」
「ねぇ、捕まえたら明日は壁上りしなくていいの? だったらやるけど」
「はらへったのに……」
チッ、仕方ない。
「レンド!」
「わかってるよキット!」
俺達は勢い良く飛び出す。
チクショ、なんでこんな事に。
なんで上手くいかないんだよ。
オマケ
町の塀は数十メートルから数百メートルある。
さらに朝昼夜の三回、兵士による見回りがある。
人間達か兵士に見つからずに塀をよじ登れたのはかなり運が良かったといえる。




