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第二十四話 目標と出発。

【五日後、ダイルの家】


 ふー、疲れたー。

 ……それも今日で終わりだけどな。

 店長の奥さんのぎっくり腰が治って、明日から店に復帰出来るからな。

 

 明日、俺はこの町を立つ。

 ……店長はずっと働いて欲しいと言ってくれたがそれは出来ないよな。

 俺は魔界騎士だからな。


 ……ダイルの酒場で働くのは楽しかった。

 店長と、レンドと、忙しいけどお客さんの笑顔に囲まれてる毎日は充実してた。

 疲れて家に帰ると店長の奥さんか出迎えくれて、それから毎日寝るまでレンドと駄弁って。


 ……本当に、本当に楽しい毎日だった。

 出来ればずっと居たいと思ってしまうほどに。


 ……でも、でも俺が人間を退治して裏切り者を捕まえないとレンドが、店長が、奥さんが、お客さん達の誰かが人間によって殺されるかも……ラピスさんみたいに……。


 そんなのはダメだよな。

 俺はラピスさんに誓ったからな。

 ……俺は魔界騎士のキットだからな。


「……キット寝たー?」


 レンド、寝てなかったのか?


「……まだ起きてるよ」


「そっか……明日から……キットはこの町に居ないんだよね」


「……俺はもともと短期で働く約束だったからな。旅費さえ少し貯まったら、また魔界騎士の任務に戻らないと。……レンド、ありがとう。レンドと一緒に働けて楽しかった」


 ……本当にありがとうレンド。

 レンドが……レンドが友達になってくれて嬉しかった。


「こちらこそ、ありがとうだよー。ねぇキット……頼みが有るんだけど良い?」


「頼みって?」


 レンドが俺に頼み事ってなんだろ?


「キット……オイラをキットの旅に同行させて欲しいんだよ。ダメかな?」


 レンドが俺と一緒に旅を!?

 ……嬉しけど……もし人間との戦いでレンドが殺されたら……。

 ……レンドの固有スキルは『不死』だと言ってた。

 俺の『不死身』と違って『不死』は頭部を破壊されると……死ぬ。


「ダメだレンド。魔界騎士の任務には死が常に付き纏う。レンドを……友達を危険にしたくない」


「……ありがとう、オイラを友達と言ってくれて。ありがとう、オイラの事を心配してくれて。キットは優しいよね」


 ……違う、俺は優しくなんかない。

 俺は怖いだけだ。


 ラピスさんの時みたいにレンドが死ぬのを見たくないだけだ。

 俺は自分が傷付きたくないだけだ。

 俺は……臆病者だ。


「でも大丈夫だよ、オイラは自称モンクだし、ミノタウロスゾンビだから『不死』だしね。簡単には死なないよ」


 ……でも、もし、もしかしたら、万が一にも。


「キットー、オイラの実力疑ってるの? 失礼しちゃうよー」


 だって友達なんだよ。

 レンドは俺の友達なんだよ。


 ……そもそもなんで?


「……なんでレンドは俺の旅に同行したいの?」


「……なんだろね。……折角出来た友達ともっと一緒に居たいのも理由だよ。もともとオイラも修行の旅に戻りたいと思ってたからってのも理由だよ。……でもね」


 そう言うとレンドは深く息を吐いた。


「でもね、一番の理由はオイラの人生にやっと目標が出来たって事だよ」


「目標?」


 レンドの目標ってなんだ?


「オイラね、ただ体を鍛えるのが好きだからモンクになったんよ。修行の旅を続けてるのも鍛えて、ただ強くなりたいからだよ。大した理由も目標も無くね」


 ……俺には絶対出来ないな。

 ただ体を鍛え続けると無理だよ。


「でも、キットの旅に同行してキットを手助けしたら、それは魔界のみんなを守った事になるんだよね。……オイラの目標は……『友達と、魔界のみんなを助けられる、強いモンクになりたい』それが出来たら、オイラが今まで体を鍛えきたことも無駄じゃ無かったって事なると思うんよ。オイラの力が誰かを守る為に使えたら、それこそがモンクとして一人前になった証だと思うんよ。だから、オイラをキットの仲間にして欲しいんよ。ダメかな?」


 ……レンドは本当に凄いな。

 俺はただ流されて魔界騎士になった。

 最初は赤の他人の為には戦いたくないと思ってた。

 ……ラピスさんを失ってやっと俺は誰かを守る為の戦いが出来るようになった。


 レンドが……ちょっと羨ましいかな。

 レンドはカッコいいな、純粋で真面目でどこまでも真っ直ぐで。

 ……レンドと一緒に旅をしたら俺もレンドみたいになれるのかな。


 レンドの決意は固そうだ。

 なら……一緒に行こう。


「レンド……俺もレンドと一緒に旅に旅をしたい。レンドの純粋さと真っ直ぐな所を俺も学びたい。だから俺と一緒に旅をしてくれるか?」


「……ありがとうキット。これからもよろしくね! 」


「こちらこそよろしくレンド! 」


 二人で強くなれば良いんだよな。

 二人でならどんな敵にも負けないよな。


 ……まだラピスさんが死んだ時の記憶は頭に過ぎるけど……レンドとなら。

 この、素敵な友達とならどんな困難でも乗り越えられる……そんな気がする。


【次の日】


「そうかのぉ、レンド君も行ってしまうのかのぉ」


「坊や達が居なくなると寂しくなるねぇ」


「店長、女将さん、ごめんなさいだよー」


 ……店長と奥さんが少し悲しそうにしてる。

 レンドも少し涙を目に浮かべてるな。

 ……何だか俺まで……。


「これは二人の給料じゃぁ、少しオマケしたからのぉ。二人とも店は心配せんでぇ元気に旅をしなよぉ」


「坊や達、近くに来たら顔見せなよ」


 ……短い間だったけど本当に楽しかった。

 ……レンドがアイコンタクトしてるな。

 なら、


「「はい、短い間でしたがありがとうございました! 」」


 俺たちの声は綺麗にハモった。

 ちゃんと店長達に感謝の気持ちは伝わったかな?

 ……いや、絶対伝わったよな。

 だろ? 友達レンド


 オマケ


 『ボンド』


 セントラル地方頭部に位置する町。

 巨大な工場と工場の従業員相手の店で栄えた町。

 

 この町の商店街にある『ダイルの酒場』はうまい酒と料理が自慢の人気店だ。

 人気メニューは真心を込めて作るオムライス。

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