第二十一話 後悔しない行動。
………………………………………はっ!
『俺』は………確かガイウと………確か『凶戦士』とかいうスキルが………ガイウを倒した……んだよな?
ポタ、ポタ。
いつの間に……雨が?
……ラピスさん!!
そうだラピスさんがラピスさんがラピスさんが!!!
…………………ラピスさん何で?
何で冷たいんですか?
何で動いてくれないのですか?
何で笑ってくれないのですか?
何で俺を見てくれないのですか?
何で……死んでしまったのですか?
……分かってる、俺が弱ったからだ。
俺がラピスさんを守れるほど強かったら。
俺がガイウをすぐに倒していたら。
俺が『凶戦士』を最初から使えてたら。
……何が魔界騎士だ!
何が魔王の息子だ!
何が『不死身』だ!
何が『凶戦士』だ!
女性一人守れなくて何になるんだ!
……あぁこれが『死』。
俺には無いもの。
でもラピスさんには『死』がある。
そんな事分かってたのに。
いや、分かってるつもりだった。
分かってたらラピスさんをそもそも連れてこなければ良かったんだ。
俺は『不死身』だから『死』に鈍感になってたんだ。
俺が……馬鹿だから……ラピスさんは……死ん……だん……だ。
視界がユラユラ揺れる。
耳になんの音も届かない。
頭がグラグラする。
体に力が入らない。
胸が……心が……痛い。
「う゛っ、う゛ぁ゛ーーーーー!!! 」
俺は……ただ大雨の中、泣き喚い……た。
【一時間後】
「グスッ、グスッ」
……どれだけ時間が過ぎたのか。
……どれだけ泣いていたんだ俺は。
……いつの間にか雨は止んでた。
……あっ!?
「スケルトンのお兄ちゃん、泣いてるの?」
「スケルトンのお兄ちゃん、ラピスお姉ちゃんは寝てるの?」
ラピスさんの……弟……と……妹。
……ごめん、ごめんごめんごめんごめん……。
「お兄ちゃん苦しいよ!」
「お兄ちゃんどうしたの?」
俺は……二人を思わず抱きしめた。
何で抱きしめたか自分でも分からない。
「ごめん、ごめんよ。俺はラピスさんを守れなかった。俺は、お姉ちゃんを助けられなかった。俺は、俺は俺は……」
……俺は二人の大切なお姉ちゃんを死なせてしまった。
空の雨は止んでたが、俺の目からは豪雨が降り続いた。
【一週間後】
「シャー!」
……来いよグリーンアナコンダ。
「……【疾風乱舞】」
「シャッ!? ……シ……ャ……」
……一撃で終わりか、もはやグリーンアナコンダでは訓練にもならないな。
……あの後ラピスさんの兄弟をジュエの村に送り、次の日に村を出た。
……あの幼い二人には俺が持ってた有り金を全部渡してきた。
村長さんにはそんな事しなくていい、ラピスさんが死んだのは人間とラピスさん自身の責任と言われた。
……それでも無理矢理金は渡した。
そんな事であの二人に罪滅ぼしが出来るとは思わないが。
少しでも今後の生活の足しになったら。
……村長さんが言っていたがラピスさんの両親は去年、魔獣に襲われて亡くなったらしい。
本当に俺は……俺は……馬鹿……だ。
……それから俺は森でひたすら魔獣と戦い続けた。
寝ることも休息も食事もせずに、ずっと戦っていた。
不思議と眠気も空腹も疲労も感じなかった。
戦って戦って戦いまくった。
……戦ってる間はラピスさんの事を考えなくて済むからな。
戦いの中で新しいスキルの事を考えてた……ラピスさんの事を考えない為に。
『疾風乱舞』は強力だが、腕の負担がデカイから使い過ぎはできない。
使いすぎると腕が砕けそうになるからな。
ただし威力はかなりある。
使いどころさえ間違えなければ強力な決め手になるな。
『凶戦士』はあれ以来一度も使えてない。
何度も試したがダメだった。
おそらくだが俺の怒りが限界を超える事で自動的に発動するスキルなんだろう。
このスキルは発動中は強力な身体能力を得るが代わりに魔法が使えなくなる。
また性格が変わるのも特徴だ。
見かけも変わるらしいが俺自身では確認出来てない。
また『凶戦士』の時は相棒は二メートルほどのバスターソードみたいに変化する。
剣が変化するのもおかしな話だが。
もともと、素材に俺の骨が使われてるからそれが理由だろう。
俺が変化したから相棒も変化したのだろう。
『凶戦士』の時の記憶は一応は覚えてる。
が、まるで前世のテレビ番組を見てたみたいな、自分の記憶って感じがしない。
あれが俺自身だと自分でも思えないな。
総じてこの『凶戦士』は使いにくいスキルだな。
だが、とても強力なスキルだ。
……もし、もし最初から『凶戦士』が使えてたらラピスさんを………。
……次の魔獣を探そう。
魔獣と戦って気を紛らわそう。
……相棒、心配してくれるのか?
……相棒、ありがとうよ。
「キャー!」
「こないでー!」
あの声は!? 近いな!
「『速度強化呪文』!」
急げ俺!
……ハァッハァッハァッ。
……いた!!
やっぱりラピスさんの弟と妹!
何でこんな所に!?
あれは『ブラックアナコンダ』!
あいつはグリーンアナコンダよりデカくて凶暴なグリーンアナコンダの亜種!
昨日、戦って苦戦したからよく覚えてる。
まずい! 子供達を狙ってるのか!
「『炎呪文』!」
こっちを見ろ!
お前の相手は俺がしてやる!
だから、その子達に手を出すな!
「ジャー!」
よし、俺を標的にしたな。
……昨日戦った時に覚えたぞ、お前らブラックアナコンダは口の中は表面に比べて弱いんだろ?
体表は分厚い鱗に守られてるが体内には鱗が無いからな。
「ジャーーーッ!」
大口開けて俺に噛み付こうとしてるがそれは悪手だぞ?
「文字通り喰らいやがれ! 『炎呪文』!」
「ジャージャー!?」
口の中から燃えるのは辛いだろ?
……トドメを刺すか
「『疾風斬り』!」
あっさり死んだな。
弱点を知っていたら大した敵ではないな。
「「うぇーん、スケルトンのお兄ちゃーん!」」
「大丈夫か!?」
……良かった怪我はないようだ。
本当に、本当に良かった。
「二人とも何でこんな所に?」
「あのね、お兄ちゃんにお礼いいにきた」
「うん、お礼いいにきたの」
……お礼に?
……俺に?
……俺は……ラピスさんを……守れなかったん……だぞ?
「……俺は、お礼言われても……俺は、お姉ちゃんを守れなかったんだよ」
「でもでもボクたちを助けてくれたよ、お兄ちゃん」
「お姉ちゃんいつもいってたよ、助けてもらったらお礼いいなさいって」
……俺は、俺は……
「お姉ちゃんいつもいってたよ、こうかいしないこうどうしなさいって」
「お姉ちゃんあの時もいってたよ。お兄ちゃん一人がいたい思いしたらこうかいする、だから助けにいくって」
……ラピスさんが。
ラピスさんは俺を助けに。
「だからボクたちもきたの」
「お礼いわないとこうかいするから」
……俺は……。
「「スケルトンのお兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」」
俺は助けられたのか?
ラピスさんは助けられなかったが、この二人は助けられたのかな?
なら俺は……俺は……
「……ありがとう……無事で……本当に良かった……」
「「うん!」」
……俺は魔界騎士の役目を果たせたのかな。
【一時間後】
よし、二人はジュエの村に送り届けた。
さぁ、行くぞ次の町に!
……まだ、まだラピスさんを死なせた痛みは完全には消えないが、あの二人のおかげで前に進めるようになった。
多分、このまま後ろ向きなままだと後悔するよな。
後悔しない行動をするのが正しいんですよね、ラピスさん?
なら俺は前に進みます。
俺は魔界騎士として戦います。
人間による悲劇を少しでも減らす為に。
それがラピスさんに捧げるせめてもの手向けだと思うから。
ラピスさん、俺も後悔しない行動すると誓います。




