(八) 謎
(八) 謎
ベットに寝転び、鉄板むき出しの天井を見つめながら
俺は思案していた。
なぜエルザさんは殺されたのだろうか?
殺害の動機が全く分からない。
もしかして金銭目的かな?
なにしろ貨物室には金銀財宝、お宝の山があるわけだし、
誰だって独り占めしたくなるだろう。
そうなると他の人たちはみんな邪魔者だ。
みんな殺してこの船を乗っ取り、お宝を業者に横流しすれば、
一生遊んで暮らせるだけの大金が手に入る……よな?
ということは、まだ殺人は続くかもしれない。
最後の一人になるまで。
なにそれ怖い。自分で考えておいてなんだけどマジ怖い。
早く犯人を見つけないと……でも一体誰なんだろう?
まったく見当が付かないよ。
そうだ、エルザさんの部屋に行ってみよう。
何か手がかりが掴めるかもしれない。
推理小説が好きな俺は探偵ごっこをすることにした。
あまりウロウロするなと船長に言われてたけど、構うものか!
廊下に出て、すぐ隣にあるエルザさんの部屋のドアに手をかけた。
施錠されておらず、すんなりと中に入れた。
バーベル、ダンベルなどが所狭しと置いてあった。
毎日鍛えていたようだ。あれだけの肉体美を維持するには
並々ならぬ苦労があったのだろう。
備え付けの棚を調べたが、あるのは日用品だけ。大したものは無い。
クローゼットには作業服と私服、タンスの引き出しには生地が
スケスケのきわどい下着が数点……見てはいけないモノを見て
しまった。慌てて引き出しを閉めた。
し、下着になんかぜんぜん興味ないんだからね。
ベットを見る……とくに変わったところはない。
シーツや布団はキチンと整えられていた。意外と几帳面なのかも。
枕の下に何かないかな? 持ち上げてみたが何もない。
枕からエルザさんの匂いがして思わず興奮してしまった。
匂いフェチな俺ヘンタイ、最低。
掛け布団と敷き布団をめくってみた……黒光りする物体が目に飛び
込んできた。
「おいおい、マジかよ」
俺は思わず声を出してしまった。拳銃だった。
手に持ってみる……ずっしりと重い。
オモチャなんかじゃない、間違いなく本物の銃だ。
ベレッタ社のオートマチック拳銃M999。
軍、警察、諜報機関などで広く使われているものだ。
以前ハワイへ旅行したんだけど、そんときに現地の射撃場で
試し撃ちしたことがあったのでよく知っていた。
弾倉を抜き出す……弾は入っていた。
九ミリ弾が十発、キチンと装填されている。
エルザさんはアメリカ人。彼女の国では拳銃の所持は合法だし
携行していても別におかしくはない。
でもこの採掘の仕事にはまったく必要のないシロモノだ。
なぜこんなものを? 護身用として持っていた?
そんなわけない……なにしろあの体格、あの筋肉だ。
武器など無くても十分に自分の身を守れるだろう。
じゃあ、銃を持たなければならないような、なにか特別な
理由でもあったのかな? うーん……まあいいや。
とにかくコイツは貰っておくとしよう。
俺はこれから起こるであろう殺人に備えて、拳銃を作業ズボンの
サイドポケットにしまった。実に心強い護身用アイテムだ。
人を撃ったことなんてないし、撃つ度胸も無いけど、
威嚇や抑止力にはなるからね。
殺人事件を未然に防ぐことができるかもしれない。
次にベットの下をのぞいた。
ん? なんだろう? ベットと床の隙間になにかあるぞ?
俺は床に腹這いになって手を伸ばし、掴んで引っ張り出した。
ノートパソコンだった。
カーキ色の頑丈そうなボディ……防塵防滴、耐衝撃仕様の
もので、一見して軍の支給品だと分かった。
エルザさん私物じゃなさそう。
どの部屋にも事務用デスクがあり、備え付けのデスクトップ
パソコンが設置されている。なのでノートパソコンなんて
持ち込む必要はないのに……
エルザさん、なぜこんなものを持ってたんだろう?
なんだかすごいモノを発見をしてしまった。
そのあと、机の引き出しや簡易キッチン、ユニットバスのなかも
調べてみたが、気になるようなものは発見できなかった。
まあいい、とにかく収穫はあった。
眷獣ベレッタM999と、軍用ノートPC。
とくにノートパソコンのほうは、たぶんワケありの品物だ。
なにか重大な秘密が隠されてるに違いない。
俺は押収物を大事に抱えてコソコソと自室に戻った。
部屋のドアの電磁ロックをきっちりと掛けてからノートPCを
起動してみた。OSが立ち上がり、すんなりとデスクトップ画面が
出てしまった。パスワードロックぐらい掛ければいいのに、
ホント不用心だなぁ。
デスクトップ画面には、Webブラウザ、メールソフト、ワープロや
表計算、GPS、戦術データリンク用ツールなどのアイコンが並んで
いたが、その中に一つだけ気になるアイコンがあった。
「h_ai_xa26483_copy(1).doc」
という名前の文書ファイルだ。なんだろう、すごく気になる。
見てもいいよね? 見ちゃうよ? ごめんねエルザさん。
俺は、おそるおそるダブルクリックしてみた。
ワープロソフトが立ち上がりドキュメントファイルを読み込む……
図表や数式、グラフなどがたくさん入った文章が出てきた。
科学論文だろうか? 約五十ページほどの大きなファイルだ。
「Research of Hybrid Artifical Intelligence System」
表題にはそう書かれていた。人工知能に関する研究論文のようだ。
もしかして極秘扱いのスゴい資料なのかな?
ドキドキしながらページを読み進めていく。
サルの脳細胞と電子回路が複雑に絡み合った図がいくつも出てきた。
顕微鏡写真もある。樹形図のような神経細胞と、無機質で幾何学的な
電子回路が接合された奇妙な写真だった。
生物の脳と電子回路を融合させたハイブリット脳?
まあ、こういう研究自体は、すでに医大や医療機関などで頻繁に
行われているし、ニュースでも報道されているので無知な俺でも
知っていた。
要するに認知症になった老人の脳にAIを埋め込むってハナシだ。
しかしまだ実用化はされてない。ネズミやサルを使った動物実験を
繰り返しているようなレベルで、まだまだ研究中の段階だ。
それに、どこかの宗教団体が、自然の摂理に反してるとか神への冒涜だ
とか言って大規模な反対デモを起こして大騒ぎになってたし。
ま、いろいろ問題があるよね。実用化へのハードルは高いだろう。
ぶっちゃけ無理かもしれない。
それにしてもエルザさん、何故こんなファイルを?
医者や生物学者ならともかく、元軍人の彼女にはおよそ似つかわしく
ないものだ。元軍人という肩書きは嘘だったのかな?
もしかして実はどこかの諜報員だったとか?
いや、そんなわけないか……考えすぎだな俺。
他に怪しげなファイルは無いか検索してみた。
するとニュースサイトの記事をまるまるコピーしたものがいくつも
発見された。政治、経済、スポーツや格闘技など様々なジャンルの
ものが保存されていたが、なかでも半導体開発の大手「マダルト社」
の記事と、貴金属の取引相場に関する記事が特に多かった。
ハイブリットAI、マダルト社、貴金属……いくつかの事柄が、
一本の線で繋がりそうな気がする。
この事件、いろいろと裏がありそうだ。
ノートパソコンを閉じた。目が疲れた。
なんだか眠くなってきたし、ちょっと一休みしよう。
シャワーを浴びて、歯を磨いてからベットに寝ころんだ。
仮眠をとったら、またいろいろと調べなければならない。
宇宙警察と合流するまで一週間、いつ襲われるか分からない。
殺人犯は今も船内にいる。なんとしても見つ出して、ロープで
ぐるぐる巻きにして営倉にブチ込んでやる。
警察と合流するまで待ってるなんて無理。
そんな悠長なこと言ってたら、たぶんまた死人が出る。
次の殺人が起こるまえに、犯人を特定しないと。
まあいい、とにかく今は少し寝ておこう。脳ミソを休めよう。
考えるのはそれからだ。俺は目を閉じた。
瞼の裏で、課長、船長、アキオ、ミレイの顔が浮かんで消えた。
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