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(七) 針路変更

(七) 針路変更

 


 課長の部屋に入ったゴードン船長は

 険しい表情をしていた。


「課長、宇宙警察に通報をお願いします」


「えっ?」

 突然のことにセリーヌは驚いた様子で船長を見た。


「船体の亀裂を見てきましたが、内側から外側に向かって

 破裂するようにして出来ていました。

 内部からの破壊とみていいでしょう」


「しかしBALは隕石の衝突だと言っていましたが」


「隕石やデブリであればレーダーで感知できます。

 操船を任せていたBALも自分で判断して

 回避行動をとったはずです」


「……」


「おそらく爆発物が仕掛けられた可能性があります」


「そんな」

 課長は俯いた。


「誰が仕掛けたのかは分かりません。

 エルザの死も事故ではないでしょう。

 爆発によりゴーレムが倒れて、

 その下敷きになったと考えられます」


「他殺だと言いたいのですね?」


「あくまで私の推測です。確証はありません。

 やはり警察を呼び、事件性の有無について

 調べてもらうのが良いでしょう」


「分かりました、私が通報します。

 警察の捜査が終わるまで、皆さん睡眠カプセルに

 入らず自室で待機していて下さい。

 あと、不急不要の外出はできるだけ避けるように」


「了解しました」


 課長はデスクのパソコンに向かって話しかけた。

 船内のパソコンはすべてBALと繋がっているのだ。


「BAL、広域レーダーでスキャン。この宙域に警察はいる?」


「本船から9500万キロ、木星重力圏の外縁部に

 宇宙警察の巡視船ムサマサ号が停泊しています」


「合流できそう?」


「はい、最短ルートで百七十時間(一週間)

 あれば合流できます」


「では航路変更、木星へ向かって」


「了解しました、セリーヌ・ロッソ課長。

 針路、X196、Y201、Z128に修正。

 これより本船は木星付近を航行中の巡視船

 ムラマサ号と合流します」


 課長とBALのやりとりが終わったあと、

 船長は一礼して課長室を出た。

 食堂に行き、ヒロシ、アキオ、ミレイの三人を

 船内放送で呼び出した。


 全員がテーブルに付くと、船長は咳払いをしてから

 口を開いた。


「課長と話をしてきた。宇宙警察に通報するそうだ。

 進路を変更し、木星付近にいる警察の巡視船と

 合流することになった。

 それまで一週間ほどかかるが、その間、各員は

 冷凍カプセルには入らず、自室で待機するように」


 冷凍睡眠中に誰かに襲われる可能性がある……

 船長はそう言いたかったが、不安を煽るのは良くないと考え、

 言葉を飲み込んだ。


 一同はみな暗い顔をしている。


「退屈かもしないが、なるべく部屋から出ずに過ごして欲しい。

 とはいっても強制はしない。ずっと閉じこもっていては精神が

 まいってしまうからな。それに食事も摂らなければならん」


「船長、爆弾を仕掛けた犯人は?」


 突然ミレイが小声で言った。彼女もヒロシやアキオから

 破損部の状況を聞かされたようだ。不安そうな表情で

 船長を見つめている。


「これは事件ではない……事故だ。

 根拠のない憶測はやめてもらいたい」


 船長は目を閉じ、腕組みをしながら言った。

 船員同士で互いに疑惑の目を向け合うことは精神衛生上

 好ましくない。不用な猜疑から諍いが生じ、第二、第三の

 殺人が起こる可能性もある。


「とにかく警察が来るまでおとなしくしていろ。

 なに、あと一週間の辛抱だ……出来るな?」


 三人の船員はみな沈黙したままだった。

 食堂に不穏な空気が漂う。

 

「もう事故は起こしたくない。皆、十分に注意して

 過ごして欲しい。以上だ」


 こうしてミーティングは終わり、四人はそれぞれ

 自室に戻った。

 

 貨物船カシナート号は舷側にあるサイドブースターを

 何度か吹かして船首を木星のほうへ向けながら、

 緩やかに出力を上げて加速していった。


 船長は窓の外に広がる漆黒の宇宙を見ながら、

 自身の背筋が冷えてゆくのを感じた。

 静寂の闇のなかを進むカシナート号……灰色の葉巻のような

 この貨物船のなかを、いま大鎌を持った黒衣の死神が徘徊している。

 船長はそんな妄想をしていた。

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