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(五) 宴会

(五) 宴会


 六人が食堂に集まり、宴会が始まった。

 ワイン、ウィスキー、ビール、チーズ、クラッカー、

 柿ピーぐらいしかなかったけど、それでもこうやって

 みんなでワイワイやってると楽しい。

 AIのBALが陽気なBGMを掛けてくれた。

 キカイのクセに気が利いている。


 オカマ船長はメイド服を着ていた。

 なぜそんな服を持ってるんだ。

 そいつもお店から失敬してきたのか。

 ミレイはすぐその隣に座ってワインを飲みながら、

 メイド船長となにやら談笑している。

 このふたり、意外とウマが合うのかもしれない。


 アキオは、酔いが回ったエルザに絡まれていた。


「アキオォ、カノジョとは上手くイッてンのかー?」


「ええ、まあボチボチです……」


「オトコはもっとガツガツしてないとダメだぞー

 ほかのヤツに寝取られちまうぞー」


「は、はあ」


「アタシがおまえを本物のオトコにしてやろうか?」


 エルザの手がアキオの股間に伸びていく。


「ちょ、ちょっとエルザさん……あっ、アッー!」


 酒乱のサキュバスに翻弄されるアキオ。かわいそうに。

 あとで部屋に拉致されて陵辱調教されちゃうんだろうな。

 

 課長はワイングラスを片手に壁際に立っていた。

 グラスを弄ぶだけで、まったく口を付けていない。


「課長、具合でも悪いんですか?」


「私、お酒ダメなの」


「じゃあ、何かほかの飲み物でも?」


「いえ、いいわ……ねえ、ヒロシくん」


「はい?」


「ヒロシくんはゴーレムの操縦、上手いよね」


「ええ、まあ」


「鉱脈を見つけるのも得意みたいだし」


 そうなんだ。どういうわけか俺は鉱物と縁がある。

 地脈とか龍脈とか……なんだかオカルトみたいだけど、

 そういう神秘的なものを感じるチカラが確かにあるんだ。

 もしかして俺のご先祖サマは風水士? あるいは陰陽師の

 末裔かも……なーんて、そんなわけねえから。


「だからね、この航海が終わったあとも、また採掘の仕事を

 お願いしたいの」


「えっ?」


 俺は戸惑った。どうやら雇用期間を延長してくれるようだが、

 俺の働きぶり評価してくれたうえでの申し出なのか? 

 あるいはもっと別の意図があるのか? 判然としない。


「べっ、べつに、ずっと一緒にいて欲しいだなんて一言も

 言ってないんだからね!」


 いや言ってるし……(汗)

 つか、なんて分かりやすいんだ、この人。


「分かりました。課長がそうおっしゃるなら、引き続き

 この仕事を請け負わせて頂きます」


 ぶっちゃけ嬉しい。

 こんなキレイな人と一緒に仕事できる俺シアワセ。

 採掘の仕事って、いろいろと危険なことは多いけど、

 給料も待遇もイイし、文句ナシだ。


「ホント? ありがとう。さっそく本社の人事に伝えてくるわ」


 そう言って課長は小走りでパタパタと食堂を出て行った。

 後ろ姿を見送る。いい腰つきをしている。

 

「ホモ漫画じゃないもん!」


 突然、ミレイの声がした。かなり酔っているようだ。

 隣にいる艦長を淀んだ目でにらみつけている。

 あまり感情を表に出さない彼女にしては珍しい。

 つか、いったい何の話をしているんだ。


「私が描いてるのはBLだから!」


 BLって、ボーイズラブのことか?

 それはすごいな。つか腐女子だったのかミレイ。

 しかも漫画を描いてるのか……同人作家?


「なによ、たいして違わないじゃない」


「一緒にしないで、艦長みたいなマッチョとか描けないし」


「でも同性愛の漫画でしょ?」


「私が描いてるキャラはもっとスマートでクール」


「ふーん、で、どんな話? どんな人が出てくるの?」


「ふたりの走り屋が首都高でバトルして負けたほうが掘られる」


 ミレイは俺とアキオを交互に見ながら、邪悪な笑みを浮かべた。

 もしかして俺たちをモデルにしたBL漫画を描いているのか?


「ちなみにクルマの中で愛を確かめ合う」

 ミレイはボソリと付け加えた。もういい、勘弁してくれ。


 艦長は、まあイヤラシイわねと言いがながらビールをあおった。


「ホモはいかんぞー ホモはー」


 酔ったエルザがミレイの背中に抱きついた。


「非生産的だろー」


「ホモは文化だから」


「セイブツのセツリに反しているだろー」


「雌雄同体の生物、同性で生殖する生物も存在する」


「ミレイは、いつも理屈っぽいなー

 そんなんじゃオトコにモテないぞー」


「大きなお世話」


「おっぱい小さいなー」

 

 突然、エルザがミレイの胸を揉んだ。


「やめて」


「いいじゃねえか、減るモンじゃねーし」


 中年のオッサンみたいなことを言いながら、

 エルザは愛撫の手をミレイの下半身へと伸ばしていった。


「い、いやっ!」


「ここかー? ここがええのんかー?」


「さわらないで、アッー!」


 しばらくふたりがジャレあっているのを見ていたら、

 アキオが声をかけてきた。


「あれ? 課長は?」


「さっき部屋に戻って行ったけど」


「そうか、忙しそうで大変だな」


「俺、さっき課長に言われたんだ、またこの仕事をして欲しいって」


「ホントか? 良かったなヒロシ」

 アキオが俺の背中を叩いた。


「まあ、正社員じゃないけどね」


「羨ましいよ、あんな美人に気に入られて」


「アキオのカノジョだって美人じゃないか」


 コイツにはレイナというファッションモデルの恋人がいる。

 2989年式の日産GTーRを手足のように操る凄腕の走り屋で、

 俺たちとは旧知の間柄だ。 


「いや、レイナはカノジョっていうか、ライバルかな」


 赤面しながらアキオは答えた。

 まあコイツのライバルはレイナじゃない。もちろん俺でもない。

 そうアイツだ、湾岸の黒い怪鳥……ポルシェターボに乗る、

 あの天才外科医。


「東京に帰ったら、またブラックバードと戦うのか? アキオ?」


「ああ、彼は僕との再戦に向けて今も走り込んでいるハズだ」


 突然エルザがやってきてアキオを肩に担ぎ上げた。


「ちょ、ちょっとエルザさん?」

 ジタバタするが、彼女の怪力にあらがうことができない。


「アキオー! アタシがおまえを一人前の男にしてやんよー」


「や、やめてくださいッ」


「これからアタシの部屋で特訓だ!」


「ヒロシ、助けてくれ!」


「アキオ、お達者でー」


 淫魔サキュバスに拉致されるアキオ。

 気の毒に……生きて帰ってこいよー。


 こうして宴が終わった。

 各自、酔いを醒ますために部屋に戻っていった。


 俺も自室に戻り、シャワーを浴びて冷水を一口飲んでから

 ベットに寝ころぶ。 

 

 このあと六人の乗員は、医務室にある冷凍睡眠カプセルに

 入ることになる。

 そして二ヶ月の冬眠……起きたら月に到着だ。

 一週間、共に仕事をしてきた仲間たちとも、これでお別れである。

 みんな良い人だっただけに、ちょっと寂しいかな。


 なかなか酔いが醒めず、意識が朦朧とする。

 天井がぐるぐる回っている。

 そして俺はしばしの眠りに落ちていった。

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